毎日俺を殺しに来る女に飯を食わせる配信で稼いでます   作:枩葉松

17 / 31
第17話 この変態めーっ!

 

 フライフェイスさんと二人きり。

 特に会話はなく、ただ店の前の道を通り過ぎて行く人々を眺める。

 

 ……にしても、この人も殺し屋ってマジか。

 俺が知らないだけで、意外とありふれた職業だったりするのかな。普通に求人票出してたりして。

 

「どうシタ、こっちを見て。何か聞きタイことでもアルのか?」

 

 俺の視線に気づいたのか、彼女は首を傾げた。

 

「い、いや……殺し屋ってハクさん以外にもいるんだなぁって。中々見られるものじゃないですから」

「職業が同じなダケで、アレとワタシではまったく別物ダゾ」

「別物って……?」

「アノ女は、殺し屋として極上の部類。巨大企業や諜報機関からも仕事がクル……と聞く。大抵の殺し屋は、あいつの足元ニモ及ばない」

 

 一瞬映画の設定の話かと思ったが、フライフェイスさんの口調は真剣そのものだった。

 俺に冗談を言う意味もないため、本当の話なのだろう。

 

「……ハクさんって、すごい殺し屋なんですね」

「そうだな。絶対に不可能ダト言われた仕事を、いくつもやり遂げてキタ。人の形をシタ死神だ」

「し、死神……」

「だからコソ、妙だ」

 

 フライフェイスさんは腕を組み、ふむと息を漏らした。

 

「なぜお前のような、何の変哲もナイ一般人を殺ス仕事が回ってきた。あれは一人で、反政府軍や麻薬カルテルを潰した女ダゾ。理解がデキない」

「俺の抹殺を依頼した人が、ハクさんの腕を見込んで指名したんじゃないですか? ハクさんが所属する組織も、依頼人が社会的に地位のある人で断れなかったとか」

「可能性はアルが、だとしたらもっとおかしい」

「何がです?」

「お前はマダ、こうして生きている。依頼人がハクを指名するほど確実な死を求めているナラ、この状況は耐えられないハズ」

「た、確かに……」

「追加の刺客を送る素振りもナイ。ハクがネットで顔出しシテ、ターゲットと仲良くシテいることを咎めもしない。これは絶対に、何かがおかシイ」

 

 俺に何か秘密があるのかと、彼女はまじまじとこちらを見る。

 期待してくれているところ申し訳ないが、俺の手元にあるのは借金くらいで、他には草の根を分けて探したって何も出てこないだろう。

 

「……まあ気になることは沢山ありますが、今みたいな生活がずっと続くなら、俺はそれで構いません」

「儲かルシ、殺されもシナイからな」

「そ、それもありますが……ハクさんと一緒にいるの、楽しいですし」

 

 チャンネルが盛り上がって、懐が温まるのは純粋に嬉しい。

 だが、それと同じくらい……いやそれ以上に、今の俺にとって彼女との時間は掛け替えのないものだ。

 

「温かいご飯を食べて、いっぱい笑って、商店街の人たちからも愛されて……あの人には、そういう人生を送って欲しいと思っています。暴力なんて、ハクさんには似合わないですよ」

「似合わないか……フッ、勝手なコトを言う。アレがどれだけケダモノか知らないクセに」

「フライフェイスさんだって、ハクさんがどれだけポンコツか知りませんよね。あの人、自分に唐揚げって名前を付けようとしたんですよ。俺の手のひらにハクって書いて、これで私のもの! とか言ったり……」

 

 何だそれは、と彼女は小さく笑った。

 俺も手のひらに書かれた下手くそなカタカナを思い出し、くすりと鼻を鳴らす。

 

「ハクさんの人生に暗い部分があるのはわかりましたが、俺は何の力もない普通の一般人なので、基本的には自分に都合のいい部分だけを見ます。友達なので、精一杯の幸せを願います。それくらいしか、できることがないので」

「……そうやって割り切レテいる時点で、普通ではナイと思うが。ただ、何となくわかった」

「何がです?」

「アイツがお前といる理由だ。殺し屋と理解された上で、お前のようにサッパリと接してくれたら、ハクも気分がイイだろうな」

「そういうものですかね」

 

 俺はただ、身の程をわきまえているだけだ。

 自分の器に入りきらないことはしない、世間の大半を占める退屈な大人。……だが、それが結果的にハクさんのためになっているのなら、退屈なのも悪くないかもしれない。

 

「お待たせしましたー! さあどうぞ、ハクさん! 伊波さんにお披露目しちゃってください!」

「……えっ、いや。やっぱいいよ。こういう服……似合わない気がしてきたし……」

「何言ってるんですか! もう超絶ウルトラ似合いまくりですから! 胸張っちゃってください!」

 

 猫宮さんに背中を押されながら、ハクさんが店から出てきた。

 いつものスーツはそこになく、着ていたのは青と黒のワンピース。そもそものビジュアルも相まって、本当に妖精が出てきたような衝撃に俺は息を飲む。

 

「か、可愛い……」

 

 無意識のうちにそう呟いてしまい、あっと口を覆った。

 そのおかげか、不安そうにしていたハクさんは表情を崩し、「えへへ」と俺の脇腹を小突く。

 

「伊波、また鼻の下伸ばしたー。この変態めーっ!」

「の、伸ばしてませんって。勝手に決めないでください……!」

「そう? じゃあもう見ちゃダメ。ネットの皆に自慢するから」

「えっ……いや、それは……」

「なに? どうしたの?」 

「……鼻の下伸ばしてたので、俺にもちゃんと見せてください」

「ふっふーん。仕方ないなぁ、伊波はっ!」

 

 脅迫には抗えず懇願すると、ハクさんはニッと白い歯を覗かせて、バレエダンサーのようにその場で一回転した。

 

 ……うん、可愛い。

 文句なしにそう思う。

 

 その姿を見て、商店街の人たちも集まってきた。

 可愛い可愛いと大勢から褒められ、ハクさんもご満悦だ。

 

「もしかシタら……」

 

 フライフェイスさんが、チヤホヤとされるハクさんを見ながら呟いた。

 

「アイツには、ココでの生活がお似合いナノかも知れないな」

 

 能面のせいで表情はわからないが、俺には何となく彼女が笑っているような気がした。

 俺は頷いて、再びハクさんに視線を戻した。……あっ、また餌付けされてる。しょうがないな、まったく。

 

「――だ、誰かっ! そのひと捕まえて!!」

 

 突然、女性の声が響いた。

 声の方へ目をやると、女性が地面に尻餅をついており、若い男がバッグを手に走り去っていく。

 

 ひったくりだ、と俺が理解した瞬間――。

 もみくちゃにされていたハクさんが、引き絞られた弓矢のように飛び出した。

 

 銀色の髪をなびかせ疾走する様は、さながら狼のよう。

 人間離れした速度で距離を詰め、ひったくり犯の首根っこを掴む。

 

「このっ、離せ……!」

 

 男はポケットからカッターを取り出し、ハクさんを切りつけようと振りかざした。

 彼女はその腕を掴み、目にも止まらぬ速度でカッターを奪うと、流れるように刃を男の首元に押し当てる。

 

 ハクさんの目は、動けば殺すと告げていた。

 あまりの恐怖で男の膝は笑い、ついに気を失ってその場に倒れる。

 

「「「……」」」

 

 この場の全員が、ハクさんを見ていた。

 

 異物を見る目。

 冷たい沈黙。

 

 これはまずい――そう思った俺は、堪らず「ハクさんっ!」と叫ぶ。

 

「やっば!? マジちょーヤバいですね、今の!! ハクさんすごーい!!」

 

 俺の声を遮り、猫宮さんが彼女に駆け寄った。

 それを見て他の人たちも、「ハクちゃんお手柄だなぁ!」「すごいよハクちゃん!」と再び彼女を揉みくちゃにする。

 

「はぁー……よ、よかった……」

 

 危ない空気が漂っていたが、猫宮さんのおかげでどうにかなった。

 俺は再び笑顔を振り撒くハクさんを眺めながら、額ににじむ汗を拭った。

 

「ハクちゃん偉いねぇ。うちのこれ、持って行きな」

「これも食べてよ。さっき作ったばっかの出来立てだから!」

「こいつも持って行ってくれ。また今度感想聞かせてくれよ」

「皆ありがとう! いただきまーす!」

 

 怒涛の勢いで餌付けされるハクさん。

 やはり貰ってばかりでは悪いので、貰った数だけ買い物をする。

 

 すっかり軽くなってしまった財布と、パンパンに膨れたマイバッグ。

 相反する二つを手に、俺は小さくため息をついた。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 帰宅後。

 

 当初はハクさんに料理を教える配信をするつもりだったが、予定外の出費で大量の食品を持ち帰ることになってしまった。中には日持ちしないものもあるため、これらを片付けなければならない。

 

「エプロン買ったところ悪いですが、料理は明日でもいいですか? 今日は色々貰い物や買った物を食べちゃいたいので」

「全然いいよ。配信はするの?」

「うーん。やるって昨日から告知しちゃったので、あれこれ食べながらゆるっと雑談しましょうか」

「いいじゃん、楽しそう! 私も皆とまたお喋りしたいし!」

 

 マイバッグの中身をせっせとテーブルに並べるハクさん。

 そんな彼女を横目に、俺は配信の準備に取り掛かった。

 

 




 伊波キッチンがカップルチャンネル扱いされている、ということで、実際にYouTubeでカップルチャンネルを調べてみると、想像以上に数字を取っていて(登録者数十万人規模がゴロゴロいる)驚きました。ああいうキラキラインターネットライフ、ちょっと憧れます。

【評価】
【感想】
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。