毎日俺を殺しに来る女に飯を食わせる配信で稼いでます   作:枩葉松

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第6話 無駄な殺生をしないため!

 

 チャンネル登録者10万人。

 

 しかもページを更新するたびに、ぐんぐんと数字が伸びてゆく。

 こんな現象、今まで一度もなかった。

 

「あー……なるほど、そういうことか……」

 

 原因を調べてみると、どうやら有志が昨晩の配信を切り抜き、YouTubeやSNSに流したらしい。

 

 特に俺とハクさんの掛け合いや、彼女が唐揚げを食べた時のリアクションをまとめたショート動画は、既に100万回再生を突破していた。

 

 それに連動して、彼女が満点のリアクションを見せた唐揚げを自分も食べてみたいと、唐揚げのレシピ動画の再生数が驚くほど伸びていた。他の動画も満遍なく伸びており、ハクさんがいかにすごいか実感する。……こういうの見ると、芸人とか役者が飯食ってリアクションする番組ってちゃんと意味あるんだな。

 

「やっば、Twitterのトレンドにもなってる……」

 

 可愛すぎる外国人、としてネット民たちから大絶賛を受けるハクさん。

 殺し屋として大丈夫なのか疑問だが、まあ、俺が気にしても仕方がない。

 

「ちょっと燃えてるな。そりゃそうかー」

 

 ネット民たちは、俺が注目を引きたくてひと芝居うったと勘違いしており、配信中に通報をするよう言ったことについて反応していた。

 

 そんなことを配信に載せて、本当に誰かが通報したら警察に迷惑がかかるだろ――とまあ、至極真っ当な指摘。

 ただあの時の俺は、本気で通報してもらうことを望んでいたので、その声を素直に飲み込むことができない。

 

 また、そういった筋の通った理性的な声とは別に、俺への頭の悪そうな誹謗中傷も確認できた。ハクさんの容姿がいいから、隣にいる俺に嫉妬してしまったのだろう。

 

 アンチたちは俺が少しでも傷つくのを願っているのかもしれないが、残念ながら悪口陰口の類でダメージを負うほど脆くはない。念願叶って始めた店がトラックに潰され強盗に荒らされ火事で灰になった時のことに比べたら、大概のことは笑って流せる。

 

「……そういえば、結局あのアンチはどこいったんだ?」

 

 ハクさんを俺に差し向けたと思しき、ずっと粘着してきていたあいつ。

 思い返すと、彼女が家に来て以降、コメント欄に現れていない。

 

 殺し屋を雇って、それで満足したのだろうか。

 ってか、現代日本で殺し屋と繋がれるってどんな人間なんだ? 少なくとも、一般人じゃないよな。

 

 このあたり、今夜彼女に詳しく聞いてみよう。

 

「うぉ、スパチャやば。こんなに貰ってたのか……」

 

 スパチャ、いわゆる投げ銭システム。

 普段なら一回の配信で最高でも数千円程度だが、昨晩は約30万円。

 

 すごいな。俺のひと月分の稼ぎより多いぞ。

 

「……登録者も再生数も伸びてるし、このままいったらすぐに借金返せるんじゃ?」

 

 独り言ちて、首を横に振った。

 

 配信していたことを話した時、ハクさんは仕事だから仕方ないと許してくれたが、別に配信に出たいとは言っていない。

 このスパチャも登録者も、一夜限りのボーナス。

 世界中に顔を晒すメリットなど彼女にはないわけだし、もう出すべきではないだろう。

 

「甘いのがいいって言ってたよなー。何がいいかな」

 

 昨晩でわかったことだが、あの人は相当食べる方だ。一キロくらいあった唐揚げを一人で八割以上食べて、その上で三合あった白米をほぼ平らげたのだから。

 

 甘いものを作るにしても、半端な量では満足しないだろう。

 

「……よし、これでいこう」

 

 戸棚からこれまで書き溜めたレシピを引っ張り出してパラパラとめくり、ちょうど良さそうなものを発見した。

 

 そうと決まれば、早速買い物に行かなければ。

 冷蔵庫に食材が詰まっていればしばらくは命乞いが成功しそうなので、余分に色々と買い溜めておこう。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「こんばんは、ハクさん」

「……こ、こんばんは」

 

 午後七時過ぎ。

 昨日と同じ時間に、彼女は我が家にやって来た。

 

 服装も昨日と同じ。ビジッとした高そうなスーツ。

 だがその表情は、昨日と違いどこか気まずそうだった。

 

「どうしました? 具合でも悪いんですか?」

「ターゲットの家に入るのに、こんなに温かく出迎えられた経験なくて。私、これでいいのかなって思っちゃって……」

「別にいいんじゃないですか。今日はご飯を食べに来たわけですし。無駄な殺生をしないため、ですもんね」

「……そ、そっか。そうだよねっ。無駄な殺生をしないため! つまりこれも仕事のうちだし!」

「ですねー」

 

 ちょろいなー、この人。

 しかし、ネット民たちが熱狂するのも頷ける。コロコロと笑うハクさんは本当に可愛い。

 

「んじゃ、早速作って――」

「あれ? 今日は配信しないの?」

 

 キッチンに昨日あった配信機材がないことに気づき、俺の言葉を遮って首を傾げた。

 

「してもいいんですか? 実は昨日から一気に視聴者増えて、ハクさんのこと、色んなひとが見ることになりますよ?」

「あー、そっか。でもまぁ、私も仕事しに来てるわけだから、伊波も自分の仕事したらいいんじゃないかな?」

「……本気で言ってます? そっちの仕事がやりにくくなっても知りませんよ?」

「へーきへーき。そうなったら、いくらでもやりようあるから」

 

 やりよう、というのがどういう意味なのかはわからないが、怖いので掘り下げはしなかった。

 

 ……てか、いいのか。配信しても。

 俺としても、正直その方が助かる。借金などいつまでも抱えていたくない。

 

「お言葉に甘えて配信しますけど、視聴者たちの前ではハクさんのことを留学中の友達として紹介しますね」

「と、友達!?」

「えぇ、はい。押しかけてきた殺し屋って説明しても、誰も理解できないと思うので。……何かまずかったですか?」

「……私、友達いないから。そ、そっか、伊波が友達か。えへへっ」

 

 嬉しそうにニヤつくハクさん。

 見惚れてこっちまで頬が溶けそうになり、俺はそれを誤魔化すため配信の準備に取り掛かった。

 

 ……そういえば、俺も友達って高校以来できたことなかったな。相手が殺し屋ってのがアレだけど、まあ、ハクさんならいいか。

 

「じゃあ、配信始めます」

「うんっ!」

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