ラドリーっていいよね   作:縮退回路

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2. ラドリーを通常召喚(ラドリーいないじゃないですか)

 

 

「おはよう陽向くん。……って、どうしたの?」

「……ども。あ、いや、なんでもないんですけど」

「けど?」

「なんでもない、です」

 

 

 翌日。

 疲れた顔でため息なんてわかりやすいアピールをしてしまったから滝谷先輩がすぐ声を掛けてくれたけれど、流石に相談できない。

 

 なんたって昨日の夜起きたことは、夢でもなんでもなかったから──

 

 

 

 

 

「──てひっ?」

 

 光りと共に目の前へ現れたドラゴンメイド・ラドリーは朝になっても家にいた。

 そしてこれは夢や幻なんかじゃなくて、現実のものと受け入れるしかないんだと直感した。

 疲れてるから早く寝て、朝起きて最初に見た光景が溜め込んでいた洗濯物どころかスーツ類まで全部びちゃびちゃになって散らかっている状態だったのならもう受け入れる他無い。

 

 思わず目を背けた先、台所も水浸し。

 

 ラドリーという名前はランドリーメイドというメイドの役職に由来しており、それは洗濯を専門とするメイドの部門……らしい。

 遊戯王wikiにそう書いてあった。あの集合知が言うんだから間違いない。

 

 てなもんで召喚されたはいいけど放置された見習いランドリーメイドのラドリーさんは、とりあえず自分の仕事をしようとしたらしく。

 しかし現代知識を持ち合わせていないのか、はたまた他に理由があったのか、洗濯機は使用しなかったらしく。

 その結果が台所に置いてあった普通の石鹸を使って洗濯、したはいいけど干すところは知らず──という具合らしい。

 

「くぅ?」

 

 この和ロリメイド、果たしてそもそも日本語が通じるのか?

 そういう疑問はなんと、口頭で指示を出せば頷き実践してみるという行動で納得させてくれた。

 ありがとう、せめて言葉が通じてくれて。

 

(しかし……)

 

 おっちょこちょいでまだまだ教育が必要な見習いメイド、というのは抱いていたイメージ通り。

 けど、「てひっ」や「くぅーん?」みたいな鳴き声のような発言しかないのは一体なんなんだろう。

 まるでマスターデュエルのメイトがそのままやってきたみたいな、声はあるけど台詞はない的な振る舞いだ。

 

 

「おはようございます!」

「おはようエルマ。今日は早いんだね」

「ふふ、早く仕事を終わらせてとあるお店に並びたいからな!」

「またご飯のことだ」

 

 上井さんが元気に食事についてを小林さんへ語っているがそれどころじゃない。

 きっと今もまだ家にラドリーがいる。

 一応出掛ける前に色々言い聞かせたから大丈夫だとは思うけど、うぅーん……。

 

「む」

 

 おいしそうな匂いを発する紙袋を携えた上井さんが揚げ物を口にしながらこちらを見ている。

 な、なんだろう。面白い人だし別に苦手って訳じゃないんだけど、距離が近いというか、その……デカいから近付かれると目のやり場に困るというか……。

 

「……ううん?」

 

 あの、なにか?

 

「気にしないでくれ。これは私の仕事だ」

 

 そういって上井さんはどこかへ行ってしまう。

 時折あの人はよくわからない。やけに頭がいいと思ったら凡ミスや思い込みで周りを振り回したり、食べ物への執着で暴走したり。

 仕事、と言っていたし仕事のことなんだろうけど。

 

「気にしなくていいと思うよ。エルマなら悪いようにはしないだろうし」

「はぁ……」

「きっとほら、前に陽向くんが教えた近所のお店のことで頭が一杯なんだ」

 

 微妙な空気となれば小林さんの助け船だ。自分のPCから目を離すことなくさりげなく大丈夫だと言ってくれた。内容はちょっと食いしん坊キャラでひどいけど。

 でもお悩みランキングでいえば意味深なだけの上井さんは下位に収まる。

 会社を出て帰宅するまでの半日、ラドリーは大丈夫かなっていうのが一番だ。

 

 私用のスマホは家に置いてあり、今手元にあるのは会社支給の携帯電話。

 ラドリーにはスマホからこの携帯電話への連絡の仕方と、何かあればまず電話をするよう教えてある。

 だから大丈夫な……んだけど、なんだかなぁ……。

 

 

「あーもぅ、仕方ない。滝谷くん」

「おっけ」

 

 

 小林さんが伸びて、滝谷先輩の名前を呼んだ。

 すると先輩は振り向くことなく謎の了承をして、

 

「……」

「……」

 

 お互い仕事へ没頭した。

 いつもならもっと緩く、と言ったらあれだけどある程度余裕を持っているのになんだか双方真剣だ。

 どうも俺に仕事を教えてる余裕はないくらい取り組んでいる。メイン教育係の上井さんはいないし、これはどうしたもんか。

 

 横槍で邪魔するのも悪いし、自分でできる範囲の仕事だけしておこう。一通り教えてもらっているとはいえ、ちょっとこの職場は特殊な所があって勝手にあれこれやろうとしない方がいいのだ。

 故に陰キャが生きる術として手に入れた能力がとても役立つタイミングである。

 どういう能力化というと、その名も余計なことはしない。やる気だけで動かない。

 

 監修がないまま複雑な仕事へ手をつけるのは事故の元なので、自分にできるくらい簡単だけど手間がかかるので誰も率先して手をつけたがらない所を探して拾っていく。

 しばらくの無言。

 手は動かしてるし気まずいということはないんだけど、頼りになる先輩三人衆の誰からも話しかけられないというのは珍しく少し寂しかった。いや話しかけられてもうまく返せないんだけど……。

 あ、上井さんはどこかにいったきり帰って来ません。大丈夫なのかな。

 

 

 

 

 

 そうこうして日は傾き空はオレンジ。ようやく終わった。

 特段急ぐ内容のものはなかったけれど、一区切りとするまではやりたい精神で定時をオーバーしてしまっていた。

 この会社で定時越えは珍しいことではない。珍しいことであって欲しいんだけどさ。

 

 退社して道へ出てため息ひとつ。

 頭をプライベートへ切り替え、そういえばラドリーはどうなったんだろうと思案する。

 電話のひとつも寄越さなかったってことは大丈夫だったのかな?

 家から出るなとも伝えてあるし、寝てたりするのかな。わからないしはよ帰ろう。

 

「おつかれさん」

「あ、小林先輩。お疲れさまです」

「みんな終わったみたいだね」

 

 滝谷先輩もいた。

 先輩二人に左右を固められる。

 

「えと、なにかありました?」

「行くぞ滝谷くん」

「というわけだから」

「え、え?」

 

 何も分からず背中を押され、駅とは反対方向へ連れていかれる。

 

「あ、あの?」

「飲みに行こうって話だよ。陽向くん、そろそろストレスも貯まってるだろうし」

「それは……」

 

 小林さんの言葉に、しまったと思った。ラドリーの悩みをそう取られてしまったのか。

 悲しいことに否定する言葉も、この飲みニケーションを回避する方法を俺は知らない。

 知ってたら陰キャしてない。

 

 くそぅ。

 一刻も早く家をメチャクチャにしているであろうラドリーを確保しなきゃなのに……!

 

「小林さんが酔ってるところだけでも見ていきなよ」

「え?」

 

 滝谷先輩、それは一体……?

 

「そういえばエルマは?」

「どうしても食べに行きたいところがあるってさ。ほら、前に陽向くんが言ってたとこ」

「ああ、やっぱり」

 

 うちの近所にあるお店か。朝に小林さんがいった通りにそれしか頭にないんだ……。

 上井さんの家は知らないけど、食のためなら距離は関係ないのかな?

 食い意地はってるしあり得そうで怖い。

 滝谷さんがどうして酔っているところだけでも見ていきなと発言したのかは分からないまま、居酒屋っぽい居酒屋へ連れていかれるのだった。

 

 

 

 

 光は闇に弱く、陽の言葉に陰は言葉を失う。

 悲しいことにこれがリアル世界の定めだ。弱点4倍はだてじゃない。

 ラドリーのことは気掛かりだけど、本来あり得た残業の時間だと思えば問題ない。

 問題ない、けど。

 

「んじゃあとりあえず、おつかれー」

「お疲れさま」

「……ぉつかれさまです」

「先頼んじゃおうか。陽向くんはお酒飲める?」

 

 弱いやつをちびちびとなら。

 成人したてなとこもあり、そも体質がそうなのかあまりお酒に強くはない。

 先輩二人はどうなんだろう──

 

 

「──からぁ、トールはオプション付けすぎだっていつもいってんのに! 余計なもん増やしすぎなの!」

「いいや! 小林殿はあのギャップも認めるべきでヤンス! 近年は遊戯王にもドラゴンメイドというカードが現れ一般的にも人と龍の二つの道が捻って交わる螺旋道でヤンスよ!?」

「あたしはただただ普通のメイドが欲しいっつってんの! それはそれとして!」

「……」

 

 

 ……か、帰りてぇ……。

 え、なにこの空間。あの、先輩方?

 キャラが、小林さんはクールだったのが一転してメイドが云々言ってるし滝谷先輩は謎の典型的なオタクくんになってるし、というか典型的なオタクでも語尾にヤンスつけるのはパワプロでしか見たことないよ。

 

 なにこれ。

 なにこの空間。

 これを見せられて俺はどうしたらいいの?

 なんで入店から経った15分足らずでこうなってるの?

 

「じごくだ……」

「陽向殿!」

「は、はい!」

「言ってやるでヤンスよ!」

「なにを!?」

「君の隠しているポテンシャルを!」

 

 意味が重なってるよ先輩……。

 はぁ、終電までに帰れるかなぁこれ。

 絡まれながらお酒をちびちび。

 どうもこの暴走した二人を見る限り、なんと驚くことに隠れオタクらしかった。

 

 小林さんはメイドを芯に据えたコアな方向、滝谷先輩は普通に俺と一緒の住みかな感じに。

 なるほど。きっと詳しいことは分からずも俺の趣味趣向自体はバレていたらしい。

 らしいというか、挙動から隠しきれないオタクオーラを感じ取られてしまってるよなぁ。クソ雑魚陰キャオーラが分かりやすいだろうし。

 あるいは、もしかしたら知らず知らずのうちに探りを入れられていたのかも知れない。

 

「俺は……」

 

 ……知ってるさ。

 本当は、世の中やさしいんだってこと。

 

 女キャラを使うのはキモいとか、かわいいものが好きなんて、とか……。そういうからかいは幼いんだから気にする必要ないんだって、もうとっくに気がついてるんだよ。

 多感な時期に色々言われて否定されて味方がいないって状況を経験があるやつは分かるだろ? ハブられないために無理くり好きでもない言いたくもないこと言って、それでも孤立してダメで。

 そんでオタク趣味は隠さなきゃいけないって思考が残ったまま、会話の仕方も分かんないままどうにもできず大人になっちまったって。

 

「俺は……!」

 

 小林さんも滝谷先輩も、取り繕うことなく場を選んでさらけ出した。

 もちろん通常の社会人生活でそういう趣味を言えってことでなく、こういうストレス発散の場だからこの二人は切り替えて爆発させている。

 

 今が、踏み出す時じゃないのか?

 二人は俺のために、場を整えてくれたんじゃないのか?

 

 ……。

 …………。

 冷静に考えたらただの酔った勢いで絡まれてるだけだしそんな深いこと無いような気がするけど、でも!

 

 陽向氏長兄誠吾、今参らん!

 

 

「ドラゴンメイド・ラドリーが好きです!!」

 

 

 

「……くぅ?」

 

 

 

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