ラドリーっていいよね   作:縮退回路

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4. ラドリーを通常召喚(やっとトールの出番ですね!)

 

 

「……」

 

 居酒屋で飲んだ翌日。

 気がついたら自室で寝ていた俺は、昨日の記憶が一切──。

 いや、一部覚えてるな。

 少し酔った勢いで色々話して、上井さんがきたとこまでは覚えてるんだけど……?

 

「……なんだっけ」

 

 そこ以降が綺麗に消えてる。

 まるで魔法にかけられたみたいだ。

 実際には酒で潰れただけだろうけど。

 

「ラドリー……は、いないか」

 

 寝起きに水を飲みながら部屋をくるっとまわってみてもラドリーの姿はない。

 机の上に並べられたままの遊戯王カードは普通の物。つまり、あのなぜか現実に召喚されてしまったラドリーは結局疲れた末の幻覚かなんかだったんだろう。

 その証拠に水浸しの箇所や洗濯物は綺麗に……。

 

 綺麗に? うぅーん、俺がやったにしては綺麗すぎるな。

 

「スマホも壊れて──」

 

 ──なんでスマホが壊れてるかなんか気にしたんだ?

 なんか酒で忘れたついでに他の記憶も飛んでるような……。

 

 

 

「んん?」

 

 

 

 スマホを弄りながら電車で通勤、仕事が終わったら帰る。

 普通の生活。そんな普通の生活なのに、何かが引っ掛かる。

 

 何か、そう。

 大事ななにか。

 

 

「こんにちは」

「こんにち、わ……?」

「?」

 

 

 道で挨拶されたので、反射的に挨拶で返す。

 さらに反射的に顔も向ければメイドがいた。

 

「んー……。まぁ、いっか」

 

 頭のカチューシャからヘンな角を生やした金髪のメイドはなんでもないと誤魔化し去ってしまう。

 あのコスプレ感。見覚えがある気がする。

 やっぱり何かを忘れてる気がしてならない。

 

(何を忘れてるんだ?)

 

 まっすぐ家へ帰る気にもなれず、ふらふらと歩いて土手へと辿り着いた。

 

  ──ばしゃばしゃ

 

 飲み過ぎて忘れる、にしては引っ掛かりすぎる。

 上井さんが来て、滝谷先輩が誰かを呼んで、それから、それから……メイド?

 さっきすれ違ったメイドが頭をちらつく。

 

 ──ばしゃばしゃ

 

 メイドがやった? なにを? 上井さんとの言い合い?

 記憶が抜けてると言う他ない。

 でもスマホは壊れてないし、家にラドリーはいない。

 

「……ラドリー?」

 

 ──ぱしゃ。

 

 自分で言って、自分で驚く。

 どうしてドラゴンメイドのラドリーをここまで──

 

 

「──ひゅええええええ!」

「んぐぶぅッ!?」

 

 な、なんだ!?

 なんか物凄いびちゃびちゃしたものが突っ込んできたぞ!?

 攻撃力500くらいの!

 

「うぅ……」

「まさか、おまえ……」

 

 前髪だけが水色の、青い髪の毛。

 そこに乗っかった、角と耳。

 そして和服とメイド服を合わせたような格好。

 

「ラドリー、か?」

「てひっ」

 

 手にしているのは濡れた俺のシャツだ。

 それを持って突撃してきたのだから、ものすごい水属性(びしゃびしゃ)が伝わってくる。

 枯れ葉やらゴミやらが沢山ついていて、きっとさっきからしていた音と合わせるに川で洗っていたらしい。

 どうしてここに、とか、どうして川で、とか色々聞きたい。

 

「思い出したよラドリー。それに、上井さん」

『気付いてたか』

 

 胸元でぐずるラドリーを抱き止めながら名前を呼んでみれば、川から怪物が現れる。

 怪物、というより海獣かな。リヴァイアサンのような巨大で美しい水属性、ドラゴン族。

 ラドリーと一緒だね。

 でっか……。

 

『もう少し驚くと思ったのだが』

「正直、名前を呼んで出てくるとは思いませんでした」

『本当か?』

「はい」

 

 全部思い出した。

 あの夜、居酒屋には上井さんの他に件のメイドもやってきていた。曰く彼女らはこことは別世界で生まれ育ったドラゴンなのだという。

 分からないことの多いラドリーについてを分かる範囲で説明したところ、上井さんは色々と教えてくれた。

 

 俺がプログラミングの練習で脳内にまとめていたのは、偶然にも召喚魔法としてしっかりと動作する呪文の形式だったのだという。

 向こうの世界の常識は詳しく分からないが、基本的に召喚で呼び出したモノに対する責任や権利は呼び出した側にあるらしい。

 それは当然、今回のように偶然でも呼び出した場合も適応されるのだとか。

 

 突然魔法だのなんだと言われて混乱していたが、それでも俺はなんとか話を飲み込んだ。

 飲み込んだ上で、問いに答えた。

 

 

『それで、どうするのだ?』

「くぅ?」

「どうするって……」

『無論、その幼竜をだ』

 

 

 事故とはいえラドリーの所有権は召喚した俺にあるのでそれぞれは手出しできない。武力に訴えることはできるらしいけど。

 しかし俺は偶然呼び出しただけ。権利はあれど扱いが分からない状態。

 なので上井さんはイレギュラーな事態なのだし、権利を放棄するつもりならば条件付きで引き取ろうと申し出てくれた。

 

 

 その条件とは──記憶を消すこと。

 

 

 本来ありえない状況なのだから、このことは忘れて日常へ戻るがいいということだ。

 ついでに魔法封じをすることで同じ事故も防ぎ、この世界に生きる一般人としてこれからも生きられるのだという。

 

 俺はそれに対し、了承した。

 

 どんな理由があったとしても、子供を泣かせるような自分が許せなかった。

 兄として、大人として、絶対にあってはならぬと心に決めた紳士の誓いを守れなかった自身を恥じ、申し訳ないながらも正義の使者を強調し安心させてくれた上井さんへ託した。

 だが……。

 

「また、子供を泣かせてしまった……」

「くぅー?」

 

 ラドリーがどう思ってシャツを握り締めていたのか、川で洗おうとしていたのか、その辺りは分からない。

 ただ一つ、召喚した俺をラドリーは選んでいる。

 子供を泣かした、俺を。

 

『その子はずっと君を探していた。少し目を離した隙に家を抜け出されてしまったよ』

「──千里眼や結界も使えるのに、ですか?」

 

 

 このままラドリーを受け入れていいのかという葛藤の最中、近くの橋からメイドが現れた。

 昨日の居酒屋に来ていて、さっきすれ違ったメイドのトールさんだ。混沌勢? とかいうヤバめな名前の勢力所属らしい。

 調和だか混沌だかの派閥は分からないけど、基本的にこの二人(ドラゴンだから二匹?)は敵対している関係にあったはず。こうして再三鉢合わせるの大丈夫なのかな。

 

 

「あなたはいつも回りくどいんですよ。こんなの茶番ですよ茶番」

『トール。しかしなぁ』

 

 表情は分からないけど、上井さんはトールさんの言葉に圧され気味だ。

 茶番と言われて図星なら、本当はラドリーの事を俺へ託したいのだろうか?

 目の前でくるくる回って胸を張りつつ謎にドヤ顔を見せてくるラドリーを取り合えず離さないようにしつつ、二人のやり取りを静観する。

 たぶん巻き込まれたら死ぬから。俺人間だから。

 

「いいですかー。この人間はこのドラゴンが嫌いで手放したい」

 

 いや嫌いって訳じゃ!

 

「エルマもめんどくさくて手放したい」

『そういう訳じゃないぞ!?』

 

 わざとラドリーを野に放ってオレと引き合うのを川で待っていたというのは、狙いとしては子を親元へ返し受け入れさせたいとかそういうのに違いない。

 俺だって後ろ暗さが無ければできうる限りは尽くすつもりだけど、初手からあんなゴミムーブをかました手前──

 

 

 

「──つまり、消せば済む話じゃないですか」

 

 

 

 は?

 

「そこで混沌を司るトールの出番ってわけですよ」

 

 笑顔のメイドがとんでもない事を言い放ち、こちらを向いた。

 

『おいトール!』

「安心してくださいねー、すぐですから」

 

 メイドは笑顔でそう語ると光り輝き、見るからにドラゴンと言える容姿へと変わった。

 そして、その大きな口に光を溜め始める。

 

 

「んゆぅ?」

 

 

 ラドリーが首を傾げた瞬間、光が解き放たれ──

 

 

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