ラドリーっていいよね 作:縮退回路
あの緑色のドラゴンらしいドラゴンの姿へと変貌したトールさんが光を口元へ溜めて、明らかな爆殺攻撃を解き放とうという瞬間。
まったく状況を理解している様子の無いラドリーを手繰り寄せつつ、遊戯王のめんどくさいルールである「対象に取る」云々を考えていた。
効果の対象にならないってテキストがあるから無敵だと思ったら効果であっさり破壊されたり、なんでかなって調べたら対象を取らないから耐性を貫通するみたいな意味わかんないこと書かれてたりするあれ。
個人的に腑に落ちる解釈ができるまで時間が掛かった。
というか、実際にカードの処理を人力でしてみればそういうことかってなった。
(あの日、ラドリーと共に置いた一枚)
例を出そう。《ドラゴンメイドのお片付け》という罠カードだ。
この罠カードには“自分フィールドのドラゴン族モンスター1体と相手のフィールド・墓地のカード1枚を対象として発動できる”と書いてあって、そのまま読んだ通り伏せてある罠カードを発動し引っくり返す前に対象のカードを選択するって順番っぽいのだ。
そしてこの、ここにある“対象として”の部分が分かりにくくめんどくさい躓きポイントなわけ。
デジタルで全部を自動処理してくれるマスターデュエルだけに甘えていたら分かりにくいもんである。
(今日、山札を持ってきたんだ)
このまま光に飲み込まれたら、ラドリーは消える。ついでに俺も。
ラドリーを、また見捨てることになる。
(何の気なしにラドリーを召喚できたんだ)
鞄から飛び出したカード達が並ぶ。
なんかもう明らかに時間が伸びてるというか光り過ぎて飲み込まれてるというか手遅れ感あるし、なんだったらそもそも魔法封印されてるんじゃないのかっていう疑問はあるけど、でも!
子供を助ける為になら立ち上がる! それが俺、陽向誠吾の誓い!
「ドラゴンメイド・ラドリーとトールを対象に効果発動!」
『お?』
「《ドラゴンメイドのお片付け》の効果により、対象を手札に戻す!」
ひとりでに伏せられた罠カードが立ち上がり、宣言通りに効果が発動! 発動できたということは、トールさんは対象に取れている!
見た目がずんぐりむっくりしてて混沌が云々とか言ってて破壊耐性ありそうな相手でも、対象に取って効果を発動し、破壊を伴わない方法でならフィールドから引き剥がせる!
バウンス!
『あれ、ちょっ、小林さあぁぁぁぁ…………!』
トールさんはなぜか小林さんの名前を叫びつつどこかへ、ラドリーは首を傾げたまま光に包まれ手札へ戻ってきた。
追撃はない。バトルフェイズをやり過ごせた、のかな……?
『と、トールを送還した!?』
上井さんがひどく動揺しながら俺とトールさんのいた所を交互にみている。
けど、元の居場所へ帰ってもらっただけなので墓地へ行った訳じゃない。また相手ターンになればフィールドへ戻ってくるだろう。
でもそういう妨害カードだし、そしてなにより発動を終えて墓地へ収まった《ドラゴンメイドのお片付け》はここからが本領である。今はそこどうだっていいんだけどね。
「おかえり、ラドリー」
なんにせよ脅威は去っている。
召喚したラドリーはいなくなった。
これで、全部終わりだ。
「ありがとう上井さん。こうなるのを分かっていて、ですよね」
『え。あ、ああ、うん……。そう、だ!』
とても歯切れが悪いし結構イレギュラーだったっぽいなぁ。
でもトールさんだってガチの攻撃と見せかけて全然撃ってこなかったし、どこまでが演技なのかは分からずとも助けてくれたことに間違いはないだろう。
それにしてもリアル遊戯王なんておっかない。今回もなんとなくでできちゃったけど、このよく分からない魔法チックなものが本当にちゃんと動作するのかどうかも賭けだった。
もうこれっきりにしておきたいな。
……リアルラドリーを、愛でられないのは心残りだけど……。
「あの幼竜はどうしたのだ?」
人間状態へ戻った上井さんがやってきて俺の手元を覗き込む。
ちょ、近い近い近い。でかいでかいでかい。
「ああ、その絵に封じたのか。結構エグいぞそれ」
「え」
えぐいんですか、これ。
俺にはただ普通のカードに戻っただけに見えるんですけど。
「意識を保ったまま壁に埋められるようなものだと聞くぞ? 送還したように見えたがトールも──」
お、俺はラドリーを、また……?
……陽向氏長兄誠吾、この命をもって……。
「その顔で私の武器に手を伸ばすなぁ! また出せばよいだろう、出せば!」
ラドリーをまた世に解き放つのは、いやいや封印したままなのもだめだ!
トールさんのターンは終わって俺のターン、ドロー。
引いたのは《神龍の聖刻印》。うん……どうでもいいや。
「ラドリーを通常召喚!」
「ふんふん……ふい!」
空中になんか置けちゃったカードが光ると、目の前にラドリーが召喚される。
デュエル開始時の左右確認もしているし服装も綺麗に整っているし、なんならかわいい。
ついでにラドリーの固有効果によりデッキトップが三枚墓地へ流れていった。デッキをちゃんと考えないと墓地へ送られてもどうしようもないカードばかり流しちゃうこういう所がラドリーの良いとこなのよな。
だからドラゴンメイドよりも他のテーマに出張してからが本番とか言われてる。
「くぅ? くう!」
「おお、無事だ。ちなみに最初にその束から一枚引いたのは?」
「ルールです」
「それも必要な手順なの……か……?」
上井さんは遊戯王を知らないので戸惑い気味だけど、それはさておきラドリーだ。
カードに封印したとか意識がとか聞いて動揺して焦ってまた召喚してしまったけど、これって再召喚だよな?
服が綺麗になってるし記憶を引き継いでない別個体ってことない?
アニメだと喋るやついるらしいけど、そこのへんどうなってるんだろう。どうなの?
「ラドリー……」
「ん!」
呼べば返事をして、くるっと回っていつものドヤ顔。
相変わらず喋らない。喋らないから分からない。
でも、俺に対する懐き具合? みたいなのは変わってなさそう。
「トールはどうなったのだ?」
「え、さぁ……」
あの人(ドラゴン?)ってそもそもカードじゃないから、手札に相応する場に戻っていっただけだと思う。
例えば家とか、メイドだし仕えてる主人とか。
「小林さんの所か!」
叫ぶが早いか、上井さんが文字通り飛んでいった。
さっきトールさんも飛んでたし、デフォで飛べるのいいなぁ。俺もなんか装備魔法で便利な能力得られないかなぁ。
ま、詳しく考えるのはあとにしておこう。
「帰ろうか、ラドリー」
「くぅ!」
言葉は通じるし、手を差し出せばきゅっと握ってくれるんだ。
ひとり暮らしの所へ急に謎のコスプレ少女が現れるのは不審なことこの上ないけど、守るって決めたからには覚悟決めて何とかして行こう。
陽向氏長兄誠吾、兄としての務めを果たさん!
「デッキ弄ってもっと強くしとかないとな。なんかこういう非日常が近くにあるなら巻き込まれそうだし……」
「くーん……?」
トールさんはそもそもの意図からしてあっさり返させてもらえたけど、こんなノリでバトルに巻き込まれたりしないとも限らないし言えない。なんか向こうの世界(異世界?)はやばいらしいし。
襲ってきた相手が効果を受け付けないだとか、破壊に耐性があるだとか、そういうのあるかも知れない。
見ただけでテキストを確認できるって訳じゃないし、そもそも相手はカードじゃないし、幅広く対応できるようデッキを改良した方がいい。
このストラクチャーデッキ、ドラゴンメイド・トゥ・オーダー素のままだと弱いや趣味を通り越して観賞用だ。
マスターデュエル側で作ったデッキのカードを集めて置いておくのがいいのかも。
「あ」
もしかしたら滝谷先輩とか俺が遊戯王やってるって聞いてデッキ用意してくれるかもだし、そしたら一緒に遊べ──
「……滝谷先輩消し飛んだりしないよね……?」
「きゅっ!」
カードゲームで遊んでたら殺してしまいました、なんて本当にデュエルの世界じゃん。
いやまぁ決闘っていうくらいだし命の一つや二つ賭けるべきなんだろうけどさ。