ラドリーっていいよね 作:縮退回路
6. ラドリートラップ(もっと褒めてください!)
「ふんふーん」
「頑張ってるなー」
風呂場に桶を置き、洗濯板とシャツを渡す。
するとラドリーは目を輝かせながらじゃぶじゃぶと洗い始めるのだ。
初日に洗濯機を使おうとした様子が無かったから試してみたんだけど、どうやら古い物の方が理解を示すらしい。
どうしてなのかは分からないし、相変わらず喋る様子がないので本人の知識量も分からない。
ただこれでなんかうまいこと成り立ってるから良しの精神。
陽向誠吾、性格、クソ雑魚アバウト陰キャ。
「袖浸ってるぞー」
「くぅ? ひゃっ!」
長い自身の袖が桶に入ってしまっていたので指摘すると、大げさに驚いて石鹸水をまき散らした。
何でそうなるん? って疑問に思うけどしょうがない。だってラドリーだもん。
びしゃびしゃになった床をふさふさの尻尾でモップ掛けしていくからなんかもう凄いね。
かわいいから眺めてたけどだんだん楽しくなってきた。すごいねこの子。
やっぱラドリーは最高や。
「きゅっ!」
ところでこの落ち葉はどこから出てきたんだろう。
──と、こんな風にラドリーとの生活は順調だ。
上井さんが預かっている時に常識的な部分(といっても食事排泄等の自身に起きる生理現象について)を教えてくれていたようで、無知シチュ的なちょっとえちえちなことになる訳でもなくひやひやしながらも落ち着いた感じとなっている。
ありがとう上井さん。マジでありがとう。ロリコンではあるが手を出したい訳でない
俺はよくても向こうが後々に嫌に思ったとかになったら大変だし。
喋れない分からないをいい事に触ってきた、とかねぇ……。
「くぅ?」
「ん。誰だろ」
かき集めたラドリー産の落ち葉を嗅ぎながら栞にでもしようかと思っていた所、唐突にインターホンが鳴った。
誰だろう。こんな休日昼間に誰だろう。
はいはーい。
「あ、小林先輩」
「こんにちは陽向くん」
「ども、こんちは……」
え、え。なんで小林先輩?
ええ? まさか今日って出勤だった? 休日だけど?
処刑?
「ほらこれ、ちっちゃい子が増えたって聞いたから」
がさりと紙袋を渡され、見えるに中身はどうやら衣類らしい。
「野郎じゃ買いにくいでしょこういうの」
「あ、ありがてぇです……!」
それは本当にありがたい。
ラドリーの為とはいえ、成人男性が女児の服や下着を山盛り買い込むのは流石に無理で困っていた所なんだ。
通販で頼もうにも男ものとサイズ表記が違ったりするからとか、そもそもラドリーのサイズが分からないとか色々で中々買えなかったんだよぅ。
なんで先輩がラドリーのサイズ知ってるのか分からないけど。
「おーいラドリー」
「くぅー?」
呼べばやってきたラドリーと一緒に頭を下げ……ないなラドリー。きょとんとして小林先輩を見てる。
《ドラゴンメイドのお見送り》でナサリーに礼をさせられてるってシーンの再現かな?
待てよ、つまり俺はドラゴンメイド・ナサリーの可能性が……?
「いいって。トールが面倒かけたみたいだしあと居酒屋でも」
「面倒だなんて、こっちもどこか飛ばしちゃったみたいだからその」
「ああ、あれ──」
っていうかこれあれか? もしかして、上がって話しましょうとかするべき場面か?
引っ越してきたばっかりだからまだそんなに物ないし大丈夫だろうとはいえ、一応小林先輩は女ぞ?
「玄関で立ち話もなんだし上がっていい?」
先輩まずいですよ!
「コバヤシまだー?」
「カンナちゃんも喋りたいだろうし」
どなた様……って、なんやこの可愛い子!
謎の民族衣装がかわいいね! ……って、なんやこのむっちむちの足!
むちむち過ぎて大根ところか大きなカブよ。
「?」
「陽向くん?」
あ、いや、違うんですよ。
決して人んちの子に見惚れていたとかじゃなくて。
「ああ、カンナちゃんもドラゴンだよ」
「びりびりー」「くー」
え、この子もドラゴン? ラドリーやトールさんと一緒の?
あ……ああー。そうなんだ。
てっきり小林先輩の子供なんてって思っちゃった。
「えと、とりあえずどうぞ」
「おじゃましまーす」
多分先輩はラドリーの服を持ってくるついでに、ドラゴンや異世界関連についてを教えてくれようとしていたんだろう。
それをなんのもてなしもなく玄関で立ち話させようとは、俺の察し能力とか会話能力がゴミかすうんち過ぎて辛い。所詮こうして脳内やSNSで饒舌なだけの陰キャよ……。
「うわ、これその子……ラドリーちゃんだっけ。がやったの?」
「洗濯は好きみたいなんですけど、他の事については全然みたいで」
「大変だねぇ」
あ、陰キャしぐさ出ちゃった。質問に対してまずはいかいいえで答えないタイプの。
「ラドリー、私知らないドラゴン」
「トールも知らないらしいし、てかそもそも幼いみたいだしまだ勢力に所属してないんじゃない?」
「おー。私と一緒だ」
ちなみに今の室内は大変取っ散らかっている。
ラドリーが中途半端に引っくり返した洗濯籠や洗剤に浸ったままのシャツ、ワックスがけされた床。
「滑るので気を付けてください」とは伝えてあるけど、万が一転んで恥かかせたらこの場で切腹するしかない。
誰か床のぬるぬる取る方法知りません?
「よっと」
「ジュースならありますけど、飲みます?」
「のむー」「うん、じゃあよろしく」
冷蔵庫からペットボトルを出して振り返ったら、ラドリーが立っていた。
なぜか、大皿を両手で持って。
ドヤ顔で。
「……コップ出してもらっていい?」
「くぅ……」
間違っていたと気が付いてしゅんとしてしまった。
いいんだいいんだ。客人を歓迎しようと自主的に動いてるのえらい!
「エルマが言うに水関連のドラゴンらしいよ」
「私より強い?」
「相性がポケモンと一緒ならカンナちゃんの圧勝」
「おー」
褒めたら表情は変わり笑顔で頭を突き出してきたけど、撫でたい気持ちをぐっとこらえる。
もう堪えすぎてくらくらする。かわいいラドリー。撫でまわしたい。でも俺は紳士だから。
「戻りました」
「おかえりー」
ラドリーがテーブルへコップを並べ、ジュースを注ぐ。
よしよし。普通の対応だ。普通なのかな。わかんね。
だって友達の家で遊ぶことなかったから……。
あ、そだ。衣類のお礼ちゃんと言わなきゃ。
「改めて、洋服ありがとうございます」
「じゃあ改めて、どういたしまして」
「くぅ?」
置いた紙袋にラドリーが興味を示し、取り出していく。
ずいぶん沢山、結構値が張りそうだ。少なくとも遊戯王でこの量のカード集めたら破産する。
最近のカードゲームってガチデッキ作ろうと思えば思うほど値がかさんでいくからなー。
いや、マスターデュエルでも同じことは言えるんだけどさ。
「にしても、この子ってどこから来たの?」
「どこからって……」
……カードから?
ラドリーを召喚した時についてをかいつまんで先輩へ説明する。
といってもやっぱり、遊戯王のルールに乗っ取って行動したらその通り現実でも動くってだけしか言えないんだけど。
「うーん。分かんない事が多いかぁ」
「はい。えっと、先輩はドラゴンというか異世界関連に詳しそうですけど」
「ん? まぁだいたいトールのせいだね」
「トール様のあくまー」
なにそれ。
「酒の勢いで絡んだらあれよあれよという間に巻き込まれてるってだけ。そんで巻き込まれてる内に色々覚えちゃったってだけだよ」
「先輩酒癖悪いですもんね……」
「そこは自覚してる、んだけどなー」
「コバヤシ酒飲むとめんどくさい」
なんか先輩って優しいけど硬いってイメージあったけど、こうしてオフで話してみると親しみやすい。
滝谷先輩も職場じゃオタク本性を抑えてるし、やっぱり社会人ってちゃんと切り替えられる人が強いんだなぁ。
「あ、ラドリー!」
「くぅ!」
ちょいちょいちょい、目を離した隙にラドリーが愛用の洗濯板で貰った服洗おうとしてる!
ラドリーに洗わせてるのは犠牲にしていい俺の服達だから、まだ着られるようなのはヤメテー!
「なんかこっち来たばっかりのドラゴンとその保護者を傍から見るの新鮮だなー」
「トール様もこんな感じだった?」
「そうだよー。服洗うっつって食ってたし舐めてた」
「私もやっていい?」
「ヤメテー」