(改訂前)尊大不遜系貴族悪役による凌辱ゲーの壊し方 作:全自動髭剃り
プロローグ。あるいは、とある異世界でのデート話
† 9月10日、共和国首都。視点:ベリアル・ナイトフォール。
正午の陽光が黒煉瓦の建物を照らし、石畳には路面列車の影が揺れる。
パン屋の軒先からは焼き立ての香りが広がり、工房では魔鉱石を精錬するハンマーの音が響く。
一歩裏路地に入れば、古びた建物が肩を寄せ合い、闇取引の囁きが交わされる。
雑踏に紛れる密輸商人、影を走る情報屋。
不穏な静謐に支えられながらも、強かに発展の喧騒を奏でているのが共和国首都の特徴だ。
「なぁ、お嬢さん。いいもの持ってるみたいじゃねえか」
「俺たちにも見せてくれよ、なぁ?」
だけど流石に人相の悪い男数人が女の子を囲っている、なんていうのが常態化するほどの治安の悪さはない。
伝統ある警察組織、騎士団がこの国の治安維持をしているのだ。
何かの勘違いの可能性もあるだろう。
白昼堂々とした恐喝現場を、少し離れたところで観察する。
「お主らは……」
「俺たちのことなんてどうでもいいだろ? それより、その鞄の中身に興味があるなァ」
3人ほどの男に囲まれて詰め寄られている女の子がいた。
男たちの服装こそはそこらの善良な市民とは変わらないものの、表情を見ればすぐにわかる程には悪人の人相だ。軽薄そうなガラガラ声を威嚇に使っている。
女の子の方といえば……。
「……この鞄の中身かの?」
褐色のローブに、土色のフードを被っている。小柄で童顔ながらも、どこか貫禄を感じるような雰囲気だ。
深紫色の長く癖のついた髪と、ぼやけた山吹色の瞳に神秘性を感じてしまう。
そして腕に抱えている鞄。
「うんうん、よくわかってるじゃねえか、お嬢ちゃん」
「俺たちが優しく言ってるうちに渡しとけよ?」
厳重に錠が二つついている、革製のアタッシュケース。
……おそらくだけど、何か貴重なものが入っているに違いない。
「なぜお主らに渡さねばらなんのだ?」
「チッ! なぜもクソもねェんだよ、ゴラァ!」
「さっさと渡せつってんだろうが!!」
っと、静観しすぎだ。
「はァ……」
心を落ち着かせるために、大きく息を吐く。
実はといえば、体の奥底から湧き出るウズウズとした欲求を押さえつけるのに必死だった。
何の欲求……?
俺にもわからない。けど、少なくとも事態をこのまま放置してはいけないとだけはわかる。
握り慣れた装飾用の直剣を、鞘から抜き取る。
いつか、飾りがついただけのナマクラだと呼ばれていたものだ。
だけど、振れて斬れれば問題ない。
俺は迷いなく声を上げた。
「哀れな牝餓鬼を恫喝とはな!(ちょっと!)」
残念ながら俺の口から飛び出た言葉は、俺の意思とは全然違うものとなった。
一斉にこちらに振り向く男たちと少女の顔を見ながら、心の中でため息が出る。
「近頃の追い剥ぎどもは、品性も矜持もない下劣で卑怯な腰抜けばかりのようだな(女の子が困っているでしょ!)」
この世界に転生して以降、俺が抱え続けている問題。
それは……。
「あ? 誰だてめえ?」
「痛い目に遭いたくなかったら部外者はとっとと消えろ?」
「痛い目だと? 貴様らの骨髄を捻り上げても同じことが言えるか、楽しみだな(そういうわけにはいかないな)」
「なんだと!?」
俺の言葉が必ず尊大不遜で罵倒口調となってしまうことだった。
「牝餓鬼! 貴様如き雑魚はさっさとこの場から失せろ!(この場は任せて、君は早く逃げて!)」
「なっ!?」
例外はほぼない。
目の前の紫色の髪の少女相手に話しかけても同じだ。
「これよりここを
ため息ですら物騒極まりない言葉になってしまうし、
「貴様らを血祭りにあげてやる(……)」
黙っていたって、この口は喋り続けるのだ。
それでも、まだマシといえばまだマシだ。
言語の自由どころか、時たま体の自由も奪われることもあるのだから。
「この野郎、正義漢ぶりやがって!」
罵りくる追い剥ぎその1。正義漢ぶってるか? 仮にも正義側にいるなら、鏖殺とか、血祭りとか、骨髄捻りあげとかは言わないと思うんだ。
なんなら哀れで雑魚な牝餓鬼呼ばわりされた緑目の紫髪少女もこちらを睨んできている。
……というか、若干女の子の方が怖い。
チンピラどもはなんとなく実力がわかるのだが、フードの少女からはどことなく強者感がするというか。
一人称が「妾」なんていうロリっ娘が弱いってなんか解釈不一致だろ?
とりあえず触らぬ神に祟りなしというし、チンピラどもを相手していくことにしよう。
「人間の生き血を啜るのは久方ぶりだ。貴様らの臓器を一つずつ生きたまま握りつぶしてやるから楽しみにしておけ(喧嘩しようってわけじゃないから、ここは引き下がってくれないか?)」
「……おい、こいつ気が狂ってるぞ」
「ククッ……。ははッ! いいじゃねえか。てめえのことは気に入った。俺たちが獲物を奪い合うこともねえだろ?」
俺から出た言葉があまりにも猟奇的すぎたせいなのか、男どもから俺も悪党の一員だと思われたようだ。
流石に少女相手にカツアゲを敢行するやつだと思われるのは心外だが。……まあ、無理もないか。下手するとどっちが悪党かわからないレベルだし。
「そこな餓鬼の持てる程度の財を欲すると思われるだけでも不快なものだ。いかにも下賎な盗人どもらしい浅慮さよな?(あんたたちと一緒にするな)」
「何言ってんだ、この野郎!? ヒーロー気取ってんじゃねえぞ!」
「へー。……俺たちに楯突くことが何を意味するかわかってんのか?」
先ほど俺に歩み寄ろうとした男が、静かな怒りを声に蓄えながら聞いてきた。雰囲気からして、彼がリーダーなのだろうか。
わかっていたことだが、穏便に済ませるのはもう無理だろう。
隙を見つけて逃げるようにと、少女に伝わるかどうかもわからない目配せをすると、
「貴様らが苦しみもがきながら絶望に屈する様を見るのが俺の楽しみだ。せいぜい楽に逝けることを神とやらにでも祈っておくんだな(わからねえな!)」
一歩を踏み込む!
多勢に無勢。不意打ち上等。
未だにこちらに威嚇を続けようとする男たちに、問答無用で肉薄する。
俺の行動に面食らったのか、一瞬たじろいでしまう男の顎を直剣の刀身で殴りつける。
とはいえ、いくら有言実行が素晴らしいことだからといって、ここをガチで殺戮の現場にしたいわけではない。
なので、男たちを無力化することに注力する。
「ぐ……っ!」
倒れ込む仲間を見て、慌てて駆け寄ろうとする男。
追い剥ぎをやっている割には仲間思いのようだ。
対して、リーダー格の男はどこからか取り出したちょっとした長さの警棒を手にしていた。
そして彼は大声で、
「舐めてんじゃねえぞ!!」
咆哮すると、こちらに飛び込んできた。
力任せに振り下ろされる金属製の棒だったが、
「鈍いな!(遅い!)」
日々の鍛錬で培った動体視力のおかげなのか、それともここがゲームの世界だったおかげなのか。
まるで止まっているように見える警棒をひらりと避けるのは簡単だった。
空いている左手で振り下ろされた警棒を握る男の手をひねるように振り払うと、たまらず警棒を取り落としてしまう男。
その胸元に向かって全力で――、
「――ッ!!」
踏みつけるようにして蹴り飛ばす。
足からくる感触は人体の柔らかさというよりも、おそらく服の下に何かのプレート状のものを入れていたであろう、固いものだった。
大きすぎる怪我にならないように加減はしたのだが、これで実力差を感じて引いてくれれば俺としては嬉しい限りだ。
いつの間にか少女のいなくなっているし、ここに長く留まる理由もない。
最後に倒れた仲間に駆け寄っている男に声をかけておく。
「泣きべそをかいて惨めに逃げるか、惨たらしくここで殺されるかを選ばせてやる(これ以上はもういいだろう?)」
「ば、化け物めが……!」
恨めしい視線。
残念ながら追い剥ぎに対して同情をしてやるほどには聖人君子ではないので、俺も少女と同じくこの場を離れることにしよう。
そう思って踵を返した瞬間、
「おい! お前ら、そこで何をしている!」
紺色のプロテクターを身につけた男が、魔導銃を片手にこちらに呼びかけてきた。
†同時刻。視点:アメリア
「全く! どこに行ったの!」
苛立ちのあまりに声が出てしまいました。
首都ホテルで一度別れを告げた私の婚約者ベリアルは、約束の時間をとうに過ぎたというのに、予約したレストランに姿を現しません。
彼のことだから、また何かトラブルに巻き込まれてしまったのか、……それとも引き起こしたのか。
どちらにしても、私との約束を故意に破ったりしない律儀な人だということは知っているので、探しに行くことにしました。
首都繁華街で迷い込みやすそうな路地を探し回っていると、
「貴様も血祭りにあげてやろうか?」
そんな人を人と思わないような尊大不遜で傍若無人な声を上げる男の子。
流れるような金色の髪と、エメラルドグリーンの瞳が特徴な、悪人相だというのを加味してもかなり整った容姿の彼は、直剣を片手にプロテクターを着けた旅装束の男と対峙していました。
……プロテクターの色や形からするに、お母さんが雇っている警備員の方だというのがわかります。
「なっ!? この二人はお前の仕業か!?」
意識朦朧としながら倒れている男と、それを介抱している男。さらに少し離れた場所には壁に叩きつけられるようにして座り込んでいる男。
……ピンピンと元気そうに立っているのが、どこからどうみても悪党面の男の子なものだから、現場証拠だけでも彼が犯人だと結論づけられそうな状況でした。
「確認しないとわからぬのか、愚図?」
そして未だに悪い方向へと話を進ませ続けようとするその男の子こそ、
「ベリアル! 何をしてるの!?」
私の婚約者、ベリアル・ナイトフォールです。
ベリアルは私の姿に気づくと、若干狼狽えたように驚くと、
「……!? お前か……」
「お前か、じゃないでしょ!」
苛立ちを隠さずに、ベリアルの方に歩き出す私。
だけど、
「アメリアお嬢様! 危険です!」
警備員の方が制止してきました。
……さすがはお母さんが雇っているだけあって、私の顔も知っていたのでしょう。けど、
「大丈夫です。この人は私の婚約者ですから」
説明を入れて、私はベリアルの詰め寄りました。
「約束の時間から30分も経ってる! なんでこんなところで喧嘩騒ぎを起こしてるの!?」
「……それは……」
口篭るベリアル。
……少しはバツが悪い様子。
「はぁ……」
いつもと変わらないような様子にため息をつきながら、警備員の方に事情を説明します。
運が良かったことにお母さんの雇っている人だったので私の方で誤魔化しはついたのですが、そうじゃなかったらどうするつもりだったのか。
私と警備員の方の話し合いの間、道の端で所在なさげにしょんぼりしているベリアル。とはいえ、普段通りの殺意マシマシな仏頂面。
そんな性格の荒い子犬みたいな状態のベリアルに声をかけます。
「もう行きますよ!」
「え?」
エスコートも何もしてくれないから、その手を私から握りました。
「デートの続き」
少しだけ驚いているような男の子を、
「楽しみましょ」
強引にでも引っ張っていきます。
少しだけ残念な。……それでいてちょっとだけ心地いいような。
この気持ちがなんなのか。まだ私にはわかりません。
だからこそ私たちが進み続けないといけないのでしょう。
――それが私たちの関係性なのだから。
ベリアルくんに難易度設定をしてあげてください!
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イージー(爽快感溢れる無双ゲー)
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ノーマル(王道ファンタジー)
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ハード(1ライフで死にゲー)
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ナイトメア(未知の領域)