(改訂前)尊大不遜系貴族悪役による凌辱ゲーの壊し方 作:全自動髭剃り
コンコンと木製のドアを叩く。
もはやこの仕事には慣れたもので、お馴染みの名前を口にした。
「ベリアル様、サフィナです」
「……」
見慣れてしまった扉の向こうの声を待つ。
ドアの向こうから息を呑み、そして一息つく声が聞こえてくる。
私と対面することに対して何かしらの覚悟を決めているのか……。そんな様子だけど、一体ただのメイド相手にわざわざ何を構える必要があるのだろう。
「入れ」
許可が降りたので、ガチャリと扉を開いて部屋の中に進む。
机の上に広げられた書籍を見るに、金髪の少年は今まさに勉強中であったようだ。同僚の間でベリアル様が図書室に入って本を取る姿がもっぱら噂になっていたのだが、その真相を見ることができた気分。
……本を盗んで質屋に売り飛ばしているとか、春画を漁るようになったとか、そう言った噂しか流れはしなかったが、本のタイトルは「オルディア共和国全史」という、少なくとも春画ではないものだった。
「失礼します」
「……」
贅沢品たちが全て片付けられてすっきりとした部屋。
つい先日までは、映画劇などでもよく敵役に配置される、タチの悪い成金といえばなレベルの悪趣味の部屋だったのだが、心機一転したのか贅沢品全般を私に処分させたのはベリアル様本人であった。
……掃除の邪魔だったし、ありがたかったといえばありがたかったが。
「処分を任された品々ですが」
「それがどうした?」
「売却して得られたお金はどうすればいいでしょうか?」
チャリンとした音が響く。
売却額はなかなかのもので、一気に重たくなってしまった財布を取り出した。
このまま着服でもしようかと思っていたのだけど、無駄な叱責をもらう方が面倒だと思ったので報告することにした。
「……俺が出した命令は処分だ。それらを燃やそうが売ろうが俺には関係ない」
「関係ない、ですか……?」
「ああ。お前が持っている売却金を含めて、俺の預かり知らないものだ。それとも何か、貴様はその程度の小金を気にしなければならないほど俺が困窮している貧民だと言いたいのか?」
ということはこのお金は私のものになったというわけだ。
元々劇場での問題もあって、お金には困っていたので、ちょうどよかった。
何ここを出ることになった際の路銀にでもなるだろう。
「それで、用事はそれだけか?」
「いえ」
「なんだ? はやく言え」
「ルーカス様から書斎に行くように伝言をいただいています」
「……父上が?」
驚いたかのようにこちらを振り向くベリアル。
顔面の凶悪さだけでいえば超一流の悪役俳優をも凌駕しそうなものだ。流石に慣れ始めてはきているが。
私のことを「秘密があるからこそ輝く美少女」と評した上で、「凌辱」云々を独言ていたので、警戒は外すつもりはない。とはいえ、彼に何かできるとは思わないが。
「はい。火急の用ではないので、時間は指定されていませんでしたが」
「……ふん、そうか。それで、なんの用事かは言っていたか?」
「いえ、聞いていません」
私の返答に対して鼻を鳴らすと、ベリアルは私に退出するように告げた。
その言葉に従い部屋を出ようとしたところで、
「待て」
そんな言葉を投げかけられた。
何か仕事でも振られるのかと思って立ち止まり、振り返る。
実はベリアル様の専属メイドとしての立場を与えられてからずっとほとんど仕事のない状態だった。何せその主な職務内容である、彼の身辺の世話について、ベリアル様自身がほぼ一人で完結させているものだから、命令でも与えられないと手持ち無沙汰だったのだ。
彼は炊事洗濯全てを一人で勝手に終わらせるから、仕事をしている雰囲気を出すためにもベリアルのそばに控えようとしていたところ、「目障りだから消えろ」と言われたのもあって、基本的に自室で暇しながら給金をもらっていたので、若干の罪悪感を抱いていた。
「はい」
さて、なんの仕事がもらえるのかと思っていると、
「……お前は一体、何者なんだ?」
と、聞かれた。
なんのことを話しているのだろうか。
彼の専属のメイドであることを聞かれている……? わけではなさそうだけど……。
では、私の本来の姿について? だけどそれは、
何にせよ、私に答えられる返答は残念ながら一つしか持ち合わせていない。
――それはベリアル様が一番知っているのではないですか?
†
「今日の午後より5日の間、ここを留守にする。問題が発生した場合はダリウスに決定させる」
”俺”の父親であるルーカスから伝えられたのはそんな短い一言だった。
書斎で何やら深刻そうな顔で書類を片付けている合間、俺の顔ひとつ見ずに淡々と感情の起伏すらない抑揚で声を出していた。
ルーカスはダリウスを自身の後継者として教育しているというのもあって、この留守番もその延長線のようなものなのだろう。
年齢的にも、庶子であることからも、俺がナイトフォール家を継ぐことは、ダリウスに何かが起きない限りはそうそうあり得ないことなので、そういった後継として受けなければならない教育を受けずに済んでいることも、俺がかなり自由に屋敷で過ごせている理由だったりする。
いずれは成人でもすれば追い出される立場になるだろうが。
特に用事もなかった俺はそのまま部屋から退出することになった。
普段ならばそのまま外にでも出かけて魔獣を狩りに行くか、それとも鍛錬室にでも行って汗を流すところだったのだが……。
「なんだか億劫だなぁ……」
ため息をつきながら家の廊下を歩いていく。
向かう先は玄関でもなければ鍛錬室でもない。
時刻は昼を少しすぎた頃で、すでに俺を除いたこの屋敷にいる人たちも食事を終えた頃なので、普段なら炊事場にでも出かけて適当に何か物色でもしていたのだが、大して腹が減っているわけでもないので行くことも無い。
「首都にでも遊びに、……いや。…………はぁ……」
自室に戻ってゴロゴロでもしていよう。
そもそもの話だ。柄にもなかったって話だよ。
俺の前世だって1ヶ月もの間ストイックに働き詰たことはなかった。
「やる気がでねぇ……」
そりゃあ定期試験の前は数日徹夜を覚悟して勉強したことくらいはあるが、まあ徹夜でどうにかしようって話が出ている時点でお察しのように、勤勉とはかけ離れた人生を送っていた。
そんな奴が1ヶ月も頑張れただけで奇跡だろう。
「……はぁ」
止まらないため息に辟易していると、
「こんにちは、ベリアル様!」
と、明るい声が聞こえた。
振り向くと、いつの間にか俺の後ろにいたのはアズーリ。
スカイブルーの長い髪の艶が目立つ俺の元専属メイド。同じ青系でも比較的白く淡いツインテールのサフィナの先輩にあたるメイドだ。
「ふん、お前か」
「ええ、最近すっかりご無沙汰してしまいましたが、ベリアル様の専属メイドのアズーリです!」
「? サフィナがその役目を引き継いだと聞いていたが?」
「名目上は! ですが、私はいつまでもベリアル様の専属ですから!」
……嬉しいような嬉しくないような。
年頃の女の子にそんなことを言われれば並人ならころっと落ちてしまうのだろうが、残念ながら目の前の女はそんなやわな存在じゃない。
それにお世辞もいいところだ。この屋敷で”俺”に関わりたがる奴なんていない。……いや、一人くらいは例外がいるが、少なくともアズーリが積極的に俺に関わりたがる理由は見当たらない。
彼女の精神衛生のためにも、たまたま見かけたから挨拶をしないといけなかったであろうアズーリの前から離れるためにも、自室に向かう歩みを早めたのだが……。
「……何か用か?」
俺もすぐ後ろからずっとする足音に耐えきれず尋ねることにした。
「ベリアル様のお側に仕えるのが私の仕事ですから!」
「仕える、だと?」
「はい! 最近は少し忙しかったのでサフィナにお願いしていたのですが、ようやく少し時間の余裕ができましたから!」
忙しい、か。
あくまでアメリア経由で聞いた話でしかないが、どうやらアズーリは最近ダリウスのもとで働くことが多くなっていたらしい。
どうもアメリアはそのことについて何か思うところがあるといった雰囲気だったのだが……。
「ダリウスの手駒になったらしいじゃないか?」
「? ……あー、確かに言われればダリウスと関わることが増えていましたね。ですがご安心ください! このアズーリ、ベリアル様一筋なことには変わりありませんよ!」
「ふん。大した忠誠心だな」
「はい! 何があろうとも、それだけは変わりません!」
原作でもアズーリはベリアルと生死を共にしていたのだ。だが残念ながらその理由については何もわからない。
ただ、その感情が俺ではなく、“ベリアル”だった誰かに向けられている感情だということだけははっきりとしている。少なくとも、今の俺は彼女の好意や忠誠心といったものを受け取っていい立場にないことだけは間違いない。
「……目障りだ。疾く失せろ」(どこかに行ってくれ)
沸々と湧き上がる苛立ちのまま口にした言葉だったが、口に出してから後悔してしまう。
……俺も発したかった言葉ではなかったものの、けどその言葉は俺の本心を映し出す鏡のようで。その事実に対してもさらに胸につっかえているモヤモヤが広がるばかりで。
舌打ちをして、その場から逃げるように走り出そうとして――
「その言葉――」
――バシッと手を握られてしまう。
ここから逃さんとばかりに、その万力のような握力で固められてしまった。
「――サフィナにも使ってましたね」
「え?」
不気味なほどに柔らかく朗らかな笑顔のアズーリ。
スッと冷たくなる背筋。
「……お前に何の関係が!」
一瞬振り解いて逃げ出そうとも思ったが、……彼女に俺が勝てるはずもない。
「……」
「俺が下僕にどのような態度を取るかはお前の関与するところではないだろう!」
精一杯の抵抗として、俺は尤もらしい言い訳を並び立てるしかなかった。
後輩であるメイドに俺が何かをして、先輩たち彼女が黙っているわけもないだろう。だが、“俺”の専属メイドなんて仕事をさせればどうなるかなんて想定できない方が悪いだろ!
「…………」
「それとも! メイドの分際で俺に何か言いたいのか!」
「………………」
エメラルドグリーンの瞳はずっと俺の目を離してくれず。
八つ当たりのような言葉を叫び回る、癇癪を起こした子供のような俺の態度にも気に留めた様子はなく。
「……………………」
ただただ静かに俺が落ち着くまで見守っている様子のアズーリ。
…………。
そんな雰囲気に呑まれてしまって、俺も沈黙してしまう。
それがどれほど続いたのかはわからない。ただただお互い、微笑みと仏頂面で相対するだけの時間が過ぎていき。
焦りから半ば諦めに近い感情に移行した俺に、アズーリは静かに話し始めた。
「落ち着きました?」
「……ああ」
未だ少し上がった息で答える。
そんな俺の言葉に対してアズーリはようやく掴んだ手を離してくれた。
そして、
「久しぶりに手合わせしませんか?」
変わらず笑顔で誘われた。
「もちろん、殺し合いはなしで」
☆日付☆
大陸暦911年9月20日
何度か書き直してみたはいいものの、どうしても納得のいく形にならず、やっと何か掴めそうになったので少しずつ放出していきます! また、今回は前後に分けての投稿になります!
もしもこの作品を楽しんでいただけたら、評価・感想を残していただけたら、次話を書くモチベーションになります! よろしくお願いします!
サフィナ編の事件が終わった後にベリアル君にご褒美をあげる予定ですが、何がいいでしょう?
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王道にアメリアとのデート!
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ヒロインを一人追加! ハーレムルートへ!
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来たる苦難のためにもレベルアップ!
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ご褒美などもってのほか!