(改訂前)尊大不遜系貴族悪役による凌辱ゲーの壊し方 作:全自動髭剃り
「ぐっ!!」
レイピアの振り下ろしを直剣でどうにかして抑える。
質量の違うはずの二つの衝突、なぜか守っている側の俺の方が膝をつきそうになってしまう。
「おおー! この一撃にも耐えられるようになったのですね!」
「その程度の攻撃など児戯に等しいわ!」(少しは手加減してくれッ!!)
「では、これは!」
そしてやってきたのは目で追うのがやっとなレベルの連撃ッ!
だがその攻撃パターンはすでに知っている。
タイミングを合わせて体を翻す!
同時に直剣でレイピアの剣筋をずらしていく。
「……、さすがですね!」
「貴様程度の攻撃など止まっているに等しい!」(たまたまですよ……!)
「でしたらもっと――!」
「かかってこい!」(って、待て待て待て!!)
なんでだよ! おいこの口そろそろ止まりやがれ!!
こっから先は殺し合いだぞ! アズーリも殺し合いはなしとかっていってただろ! 約束を守ってくれよ!!
「は――ッ!!」
見えたのは一閃。
剣筋などではなく、まさに光そのもの。
耳の隣に破裂音にも似た斬撃音が聞こえたと思った時には、すでにそこにはレイピアの突きが通った後で。
「はい、お疲れ様でした!」
澄んだ笑顔でジャージ姿のアズーリが微笑みかけてきていた。
絶技を放った直後というのに、何もなかったかの如くレイピアをしまうアズーリ。
そんな彼女は今、鍛錬室のそばにある更衣室でわずか10秒ほどで着替えてきたジャージ姿だ。どういう技術か甚だ謎である。
「さすがベリアル様、たった1ヶ月でこれほど実力を上げてしまわれるとは」
そうおだてるように話すアズーリ。
……手加減されてなかったらと思うとヒヤヒヤする。
少し上がった息を整えていると、
「ベリアル様」
「なんだ?」
「いい息抜きになりましたか?」
そんなことを語りかけてきた。
え?
……。もしも俺の口調が強制的に変わっていなければ、そんな間の抜けた声をあげていただろう。
そんな俺の様子に気づいてか、アズーリは続けた。
「こう見えてもかなり目敏い方なんですよ、私。随分とらしくない雰囲気でいらしたので、声をかけさせていただきました」
「……」
「流石に私の慧眼をもってしてもその理由については分かりませんけどね!」
誇らしく語るアズーリ。慧眼を自称するのはどうかとは思うが。
「確かに何か目標を持って生きるのは素晴らしいことのように見えます。そのためにがむしゃらに努力する姿はまさに理想のように思えるでしょう」
手を胸に当てながら、アズーリは語る。
その言葉は穏やかな口調にはどこかほのかな悲しみが感じられて……。
「でも、時には休息も必要でしょう。どうかご自身のことを追い詰めないようにしてください」
「そんなことなど……」
「ベリアル様が思い詰めることは、
俺の言葉を遮るようにして話したアズーリは、俺に軽く一礼して更衣室に向かった。
そして一人鍛錬室に取り残される。
いつも”俺”のために一歩後ろに控えながら指示を聞いてくれる、そんないつものメイドらしいアズーリ姿とは打って変わって、かなりグイグイとくるような態度だっただけに、少しばかり面を食らってしまった。
それに、……俺が自分自身を追い詰めている、なんてのは自覚などなかった。というか、そんな感覚はいまだにない。
思い詰めるほどの問題を抱えているなんてこともない。
まあ、確かにアメリアとの婚約は目下の問題であることには変わりないが、少なくとも解決の主導権は俺にはない。この婚約はアメリアのものであり、アメリアのためのものだ。
「じゃあ、一体俺は何に対して思い詰めてるんだ?」
……。
…………。
………………。
答えは出ない。
「アズーリの勘違いだろう」
そもそもだ。
俺はベリアルであって、”ベリアル”ではない。アズーリとの付き合いなど1ヶ月しかないただ憑依しただけの人格だ。アズーリが知っている”ベリアル”とは根本からして違う。
この会話イベント、ゲームであれば何かしらのきっかけにでもなったのだろう。けど、それはアズーリと”ベリアル”のものだ。俺とは関係がない。
「……、たったの1ヶ月で何が分かり合えるってんだよ」
どこかから絞り出すような声で独言る。
「俺みたいな”悪役”に付き合う義理もねえってのに」
ベリアルの皮を被っただけの贋作、それも薄っぺらい悪役など……。
俺が”ベリアル”じゃないと告げれば、アズーリもすぐに俺なんか見限るに違いない。
「チッ……。やってられるかよ」
吐き捨てるように言い終え、気分も乗らなかったので、自室に戻ることにした。
予定通りゴロゴロしよう。
そう思って鍛錬室の扉に手をかけようとしたが、その直前にバタンと開かれてしまった。
扉の向こうには浅葱色の髪が特徴の、小柄なメイドが大きな目を見開きながら俺を見ていた。
彼女――サフィナは息を吸うと、
「こんにちは、ベリアル様」
「……ああ、貴様か」(……ああ、貴様か)
鍛錬室に何か用だったのだろうか。
……どこか心にあるモヤモヤが晴れないまま、変わらない口調で返事する。
「何の用だ」
適当に話を聞いてすぐさまにでも退散しようとした俺だったが、サフィナの口から語られたのは意外な言葉だった。
「本日付でベリアル様の専属メイドの任を外れました」
「……、…………。え?」
「当主代行のダリウス様の命令です」
午後から家を留守にすると、確かルーカスは言っていた。
そして、問題が起きた際にはダリウスが対応すると。
……当主代行というのは初耳なのだが。
「ふん。それだけか?」
「いえ」
ダリウスが俺をよく思っていないことは何となく察してはいたが、どうやら俺に専属のメイドがいることも気に食わなかったのかもしれない。
まあ、将来のない穀潰しにわざわざ専属なんてのは反感を買っても仕方ないだろう。
「アメリア様は実家に戻るように命令なされたのち、ダリウス様はベリアル様への給仕を禁止されました」
「アメリアに……?」
俺への給仕なんてのは禁止されたところで、今まで好き勝手に料理して食べていた俺にとっては痛くも痒くもないが……。
アメリアを屋敷から追い出したのは何の風の吹き回しなんだ……?
「そして、ベリアル様はこれより5日間、自室以外の場所を出歩いてはならないと命令を下しました」
そう淡々と告げるサフィナ。
……、つまりは軟禁状態だ。兵糧攻め付きの。
おいおい、冗談じゃねえぞ。
やりたい放題にも程ってものが……。
「ダリウス様からの通達は以上です」
「従えるわけねえだろ!」
「……抵抗された場合は力づくで屋敷から追い出せということも命令されています」
「……」
思わず絶句してしまう。
……今まで屋敷に無事いられたのはルーカスのおかげだった。
父として最低限の融通は利かせてくれたってところで、屋敷の主人が変われば、……俺に対する義理がなくなれば、こういうことになったのか。
「ならば追い出されるまでもない。自ら屋敷から出て行ってやる」
「……」
「数日間、世話になったな」
アズーリとの立ち合いで使っていた直剣を腰に差し、そのまま出ることにする。
ドアの近くで直立しているサフィナとすれ違い、そのまま玄関に向かおうとしたのだが、
「アメリア様を――」
「――?」
その直前、サフィナは静かに語りかけてきた。
「アメリア様を追いかけてあげてください」
「? アメリアを?」
「ベリアル様が鍛錬室で『たったの1ヶ月で何が分かり合えるってんだよ』とこぼしていたときに、ここから走り去ってしまわれました」
淡々とした口調だったが、なぜかその言葉に殴られてしまったような衝撃を受けてしまった。
「……チッ!」
そしてそのまま駆け出した。
何で俺が追いかけないといけないのか。
追いついたところで何を語り掛ければいいのか。
なぜこんなにも焦ってしまっているのか。
アズーリに言われて脳裏にこびりついてしまったモヤモヤも。
心のどこかでずっと続く慢性的な苛立ちも。
とりあえず今のところは捨て置いていいとまで思えた理由も。
とりあえずアメリアに会えば何か変わると、変われるんじゃないかと思って走った。
だが。
俺が玄関にたどり着いた頃には、列車駅に向かう馬車が発ってしまっていた。
†
ナイトフォール領であるラバル。
ナイトフォール家の屋敷から少し離れた街の中心、様々な商業施設に教会やハンターギルドなどが立ち並ぶ場所。
日も暮れ、魔導灯が光り始めているころ。
無一文で屋敷を飛び出したせいで、アメリアを追いかけるための路銀すらまともになかった俺は、列車に乗るためのお金を魔獣狩りで稼ぐことになった。
半日もあればチケット代くらいは稼げたわけなのだが、列車の運行時間をすっかり失念していたせいで、今日1日はラバルで寝ることになってしまったのだ。
まだまだ列車自体も黎明期。深夜どころか、夕方発車の便すら数がほとんどなかったのは少し驚いたものだ。
そして駆け込んだのはハンターギルドから紹介された宿屋。
まだまだ若いからだとはいえ、数度魔石を持ち込んで換金するくらいには顔馴染みだったこともあって、安くて安全そうな場所を紹介してもらえたのだった。
その宿屋には定食屋もあって、いい時間を見計らって、割り当てられた個室からレストランに向かうと、これがまた繁盛していること。
宿泊客のみならず、事務職終わりらしきスーツ姿の団体もいれば、はしゃぐ子供と賑やかに話す家族連れ、狩りの帰りのハンターたちや、果てにはいつの日か見た傭兵軍と同じ紺色のプロテクターを身に纏った団体さんまでいる。
啜っているスープの味が薄く感じるほどには濃すぎる雰囲気だ。
「……ありえん繁盛の仕方してやがるな」
「お前もそう思うか」
と、声をかけられた。
数種類の料理が乗ったトレーをテーブルに置き、どがっと向かいの椅子に座り込んだのは、燃えるような赤い髪が目立つ少女だった。
紺色のシスター服に、実践向きのプロテクターをつけている。
えーと、修道女なのかハンターなのか。
色白の肌に包容力のある雰囲気と、ところどころプロテクターに傷をつけているガサツな雰囲気が内部抗争しているような人だ。
「ったく、傭兵どもが白昼堂々のさばりやがって。……っと、相席失礼すんぞ」
そう言うと、彼女は骨付き肉を頬張り始めた。
「……」
その豪快すぎる食いっぷりで修道女はないな。新手のコスプレイヤーか何かだろう。
そう決めつけ、俺は自分の料理に集中することにした。
そして俺の倍近くの食事を平らげた彼女は、まだ食べ終えていない俺に話しかけた。
「飯の時くらい辛気臭ぇ面すんじゃねえよ」
「……?」
「テメエのために食われる食材も浮かばれねえじゃねえか」
はぁとため息をつくと、彼女はまっすぐ俺の目を見ながら話しかけた。
「こう見えても司祭やら聖女やらをやってんだ。告解でも懺悔でも聞いてやるぜ」
次話から一気にベリアル君の難易度が上がる予定です! ダリウス君が扉を開けちゃいました……。
いつも感想、誤字訂正、本当にありがとうございます! もしもこの作品を楽しんでいただけたら、評価・感想を残していただけると、次話を書くモチベーションになります! よろしくお願いします!
サフィナ編の事件が終わった後にベリアル君にご褒美をあげる予定ですが、何がいいでしょう?
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王道にアメリアとのデート!
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ヒロインを一人追加! ハーレムルートへ!
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来たる苦難のためにもレベルアップ!
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ご褒美などもってのほか!