(改訂前)尊大不遜系貴族悪役による凌辱ゲーの壊し方 作:全自動髭剃り
アメリア① 最悪の婚約の幕開け
†2ヶ月前。視点:ベリアル。
「ハ――ッッ!!」
息苦しさから大きく空気を吸い上げる――。
徐々に明瞭になる視界。
俺は、赤が基調の派手なカーペットに膝をついている……。
立ちあがろうと足に力を入れてみるが――、
「…………ッ!」
自由に動かない。
体はまるで石膏で固められたかのように動かず、口も糸で縫い止められたように開かない。関節という関節が錆びついた鎖で縛られているかのような、そんな違和感が全身を支配していた。
……呼吸とかは問題ないけど、…………意識的に体を動かそうとしても、びくともしない。
一体何が起きてるんだ?
軽くパニックになりそうな心を、努めて冷静に保つ。
深呼吸でもしたいものだが、……やはりうまく行かない。
ギーっと、蝶番の金属が擦れる音。
部屋に堂々と構える重厚な扉がゆっくりと開かれ……。
「……」
鈍い眼光を放つ男が姿を現した。
その男については……、なぜかよく知っている。
デジャヴとかそういう既視感レベルものではなく、もっと鮮明な……。
男の名は……ルーカス・ナイトフォール。伯爵家ナイトフォール家の当主……のはず。
「ベリアル」
低く淡白な響き。そして威圧的に感じる声が部屋に響き渡る。
ルーカスの言葉に応じて、”俺”の体は勝手に立ち上がる。
「紹介する。彼女はアメリア・クレイトン、お前の婚約者だ」
感情のこもっていない冷淡な声。
ルーカスが指差す先に振り向く。俺の背後には一人の少女が立っていた。おそらく彼女こそ、ルーカスの言うアメリアだろうか。
艶やかな黒髪が目立つ彼女は、小さく頭を下げて微笑を浮かべたが、……その唇はわずかに震え、指先もぎゅっと握りしめられていた。
山吹色の瞳の奥には、隠しきれない恐怖と警戒の色が見て取れる。
桃色の和服――着物を身につけている。この洋館にはあまり似合わない服装なのだが……、晴れ着としては適切だろうか。
“俺”は彼女に視線を向けたが、次の瞬間には再び床を見つめた。
「なぜ、私が?」
絞り出すような声をあげた”俺”の問いかけに、ルーカスは事務的で感情のこもっていない表情で答える。
「ナイトフォール家がこの婚姻によって得られる利益は計り知れない。お前にはそのための駒となってもらう」
混乱していながらも、恐らくこれは政略結婚の類だろうということだけは理解できた。
だからと言っていきなりこんな場面に引き摺り出された理由も、意味もわからない。
今すぐにでも何が起きているんだと叫びたかったが……、体は全く動かせない。
そんな俺の肩に、アメリアと呼ばれた少女はそっと手を置いた。
「お会いできて嬉しいです、ベリアル様」
彼女の優しい声に、“俺”は初めて彼女の顔をしっかりと見た。
くりんとした大きく意志が強そうな琥珀の瞳。光沢を放つ流れるような長い黒髪が、彼女の存在感を際立たせていた。
アニメの世界からそのまま登場! 和装系美少女! というキャッチコピーがぴったり似合う。
……しかしとてつもない美少女だなぁ。顔だけじゃなく、少年かと見紛うほど慎ましくもスラリとしたモデル体型も含めて。
……あれ? 心なしか開き切った瞳孔の奥に怒りの焔が見えた気が…………。
「アメリア……クレイトン!」
変な妄想をしていた俺とは違って、まるで親の仇のように、“俺”は喉の奥底から声を出す。
煮えたぎる”俺”の怒りは相当なもので、アメリアに睨みつけるだけで体が少しずつ熱くなっていくように感じられた。
どうやら“俺”はたいそう彼女が気に入らないらしい。
あれ? なんでだ?
こんな可愛い女の子なんて、山を越え海を越えても見つからないだろうに……。それが婚約者になるってんなら願ったり叶ったりじゃないか?
そんな“俺”の態度に対して、アメリアは再びまるで喜の能面みたいな笑顔を向けてきた。
……それ、本当に笑顔なの?
「二人で少し話すといい。……互いを知る必要があるだろう」
そう言って、ルーカスは部屋を後にした。
ルーカスの去った応接室には、静寂が訪れていた。
先ほどまで近くにいたアメリアはスッと俺から離れて、数歩ほどの距離から薄い目でこちらを観察している。
部屋にはもう一人、水色の髪をした、これまたスタイル抜群なメイド服を着た美少女がいる。
柔らかい笑顔で、ルーカスが出て行った扉の隣で控えていた。
っと……。
今までうんともすんともしなかった体のバランスが崩れかかって、軽く力を入れて立ち直す。
いつの間にか自由に動かせる体。
首を傾げながら手を握ってみる。
開いて閉じて、開いて閉じて。
問題ないようだ。
次は声を出してみよう。
(んー! んー!!)
残念ながら何も声が出ない。喋る自由はないようだ。
次に応接室にある鏡を見てみることにした。
そこには、ある意味見慣れた顔があった。
肩まで長く伸ばした金髪の下、100点中80点があるんじゃないかってくらいのイケメンの素材を、最悪の人相で20点くらいにまで引き下げられた仏頂面の小悪党。
俺の知識に照らし合わせる限り。
アダルト向けゲーム、「Last Hope」という学園モノ凌辱抜きゲーに登場する男の顔があった。
残念なことに、主人公ではない。さらにはおそらくDEAD ENDまっしぐらなキャラクター。
「え」
という声が漏れた。
あれ? 自由に喋れる? と思って適当に「あいうえお」でも声を出そうと思ったがうまくいかない……。
なにか喋れる条件みたいなのがあるのかな……?
でも体の自由があるのは大きい。いざとなればボディランゲージでなんとかしよう。もしかしたら手話でどうにかなるかも知れないし。
というわけで、
「……」
先ほどから俺のことを目で追う蔑み目線マシーンを化していた婚約者(仮)の女の子アメリアに向かう。
アメリア・クレイトン、アメリア・クレイトン、アメリア・クレイトン……。
頑張って名前を思い出そうとするが……、うーん。残念ながら俺の脳内メモリにはうっすらとしか存在しない。クレイトン商会という場所と関係のありそうな名前だが……。
少なくともメインヒロインに彼女の名前はなかったはずだ。
いずれにせよ、何がどうなっているのか分かってない状態だというのを伝えて、なんでもいいから助けてもらわないと!
なんだか見てる感じ、アメリアさんは“俺”にかなり悪い印象を持っているようだし、言葉柔らかく……。そうだな、こんにちは、初めましてと挨拶から入ろう!
「貴様如きがナイトフォール家に嫁げるとはな」(こんにちは)
…………。
ん?
「賎民上がりの土豪の小娘が、運だけは良かったようだな」(はじめまして)
あれれ?
ベリアルくん、何言ってんの???
俺が伝えようとする意思に反して、初っ端から色々とカマす“俺”。
「ベリアル様のご厚意、感謝してもしきれません」
対してアメリアさんは鈴のような声で話し、丁寧に頭を下げてきた。
その表情には見覚えがあるぞ!
前世で彼氏の二股がバレた時、学校にマジで包丁を持ってきた生徒副会長さんだ。ちなみに彼氏が会長で、二股相手は副会長の妹。
いやいや! ここで諦めてはいられない。
今度はもっと意思を強く持って、はっきりとした言葉で伝えよう!
「感謝している暇があったら、浴場で身でも清めておけ!」(元気ですかー!?)
うーん、だめだ。ア◯トニオ猪木パワーも無力だった。
口調が終わってるとかじゃなくて、会話に俺の自由意志が介在しない。
シャワーを浴びて欲しいなんか一ミクロンも思ってないのにこんな言葉が出てるし。……てか、“俺”はなんでアメリアさんにシャワーを浴びさせようとしてるんだよ。別に臭ってなかったぞ。
いや、どちらかっつーと、女の子っぽい柑橘系の……。
「……はい。わかりました」
あー、もうアメリアさんがフルメタル・ジャケットでマシンガンをぶっ放してる米兵みたいな笑顔をしてるじゃん。その笑顔、戦地でしかできないって普通。
……けど、臭うって言われてそこまでガン決まった顔する? 女の子にとってはデリケートすぎる話題だったってことかなぁ……。
え、えーと。とりあえず、なんとか取り繕わないと……。
「分かったらさっさと行け!」(違うんです!!)
取り繕おうとした俺の言葉は1ミクロンも出てこず、アメリアに対して命令する”俺”。
うん。もう諦めよう。
ベリアルくんが言うをことを聞いてくれません。
まるで地雷原に向かうがの如く歩みで部屋から退散するアメリアさん。
なんかその姿を見ると俺まで胃がキリキリとしてくる……。
はぁ……。
夢なら覚めて欲しいのだが……。
そう思いつつ、この部屋に残ったメイドさんのところへと向かう。
短いポニーテールにまとめた水色の髪、溶岩のように輝く真紅の瞳。抜群のスタイルをメイド服に包んでいる。
俺も“俺”も見たことのある、絶世の美少女メイド。名前は確か……アズーリ。
アメリアと続いてまるで創作の世界から飛び出した存在の前まで歩き、口を開ける。
「何ぼーっと突っ立ってる(こんにちは)」
「失礼いたしました! 何をしましょうか!」
俺の乱暴が言葉遣いに対して、花咲くような笑顔で返答するアズーリ。
ずっとブチギレてる生徒指導部長の先生みたいな表情の”俺”に、爪の垢を煎じて飲ませたいくらいに愛嬌たっぷりだ。
やはりというべきか、まともなコミュニケーションは難しいようだ。
「部屋に戻るぞ(あいうえお)」
「ではこちらへ!」
奇を衒って変なことを喋ってみようとしたが、無理だった。
……前途多難な未来に嘆息しつつ、彼女について行くことになったのだった。
“俺”の自室に戻る道中、状況を整理することにした。
“俺”はベリアル・ナイトフォール。
憑依なのか、転生なのかはわからないが、俺が今、彼の体の主導権を握っている。……言葉の自由はないが。
そして俺の前を歩く少女。
アズーリ・ヴェール。
「Last Hope」――今後略称のLHと呼ぶが、そのゲームの中で最も有名な登場人物。
アズーリの登場するシーンはネットミームとして世間を席巻したのだ。彼女が登場するルートをプレイしたことがない俺でも知っているほどである。
その内容とは、とある闘技場。
LHの主人公との一騎打ちの結果、力尽きて息絶えた少年。
決闘を見守っていたアズーリが観客席から歩いてきて、物言わぬ死体にしゃがみ込み、
――遂にやりましたね。あなたの人生に幸あれ。そして、さようなら。
というセリフののち、少年の亡骸と接吻をして、主人公の目の前で大破裂するもの。
それはもうものすごいグロテスクさで、飛び散った肉片を顔にうけた主人公が絶望と恐怖の表情をし、そこで原作LHとは関係のないテンポのいい曲が流れるという動画ミームである。
とある火星の王が止まらないミームと並んで、実況動画のキャラ死亡シーンとかで使われる。
そして何を隠そう、主人公と死闘を繰り広げたのちに殺害された人こそ、ベリアルくんである。
とはいえ、……残念ながらそのルートは未プレイなので、どういった経緯のどういう場面なのかについてはわからない。
かろうじて、おそらくアズーリはベリアルを非常に慕っていたのだろう、ということくらいなら察することはできるが……。
無駄に長い廊下を歩き、着いたのが自室前。
ベリアルくんに憑依した俺なのだが、どうやら“俺”であるベリアルくんの知識とかもかなり自然に混ざっていているようだ。
オルディア共和国の首都郊外にある旧ナイトフォール伯爵領ラバルだとか、そういった知識については問題なく分かる。……前世の俺のままだったら、流石にいちゲームの地名など思い出せるはずもなかったからな。
「さっさと失せろ」(ふぅ)
息を吐くようにして暴言を吐く”俺”。
一息つこうとしただけなんだけど……。
何が楽しいのかわからないが、軽快なステップで廊下を戻っていくアズーリ。
その後ろ姿に申し訳ない気分になりながら、俺は自室の部屋を開けた。
趣味の悪い目立つ赤や金の装飾だらけの家具が並べられ、意匠がこられている絵画や彫刻があちらこちらにこれでもかと飾り付けてあるうるさい部屋。
こんなところに住んでいる神経が理解できないレベルの酷さだったが、それらを見なかったことにして、やたらとふわふわな天蓋つきベッドに飛び込む。
もう疲れた。
このまま寝てしまえば、目が覚めたら日本だ。
そう願って目を閉じた。
─── SYSTEM LOG ───
『Last Hope』Version 1.00
ジャンル: 異世界凌辱RPG
プレイヤー: ベリアル・ナイトフォール
現在ルート: 共通1
─── GAME START ───
ベリアルくんに難易度設定をしてあげてください!
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イージー(爽快感溢れる無双ゲー)
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ノーマル(王道ファンタジー)
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ハード(1ライフで死にゲー)
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ナイトメア(未知の領域)