(改訂前)尊大不遜系貴族悪役による凌辱ゲーの壊し方   作:全自動髭剃り

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5-6000程度が読みやすいと思ってそれくらいを目指しているの書くのですが、気づけば1万手前……。けど、1万は超えなかった!


少年編 アメリア③

 

 友情、努力、勝利。

 それは王道。

 数え切れぬ主人公たちが踏襲してきた物語の金字塔。

 俺もそれに惹かれ続けた一人で、これまでに数え切れないほどの少年たちの英雄譚に夢を馳せてきたのだ。

 

 だけど、

 

「邪魔だ」

 

 屋敷で働いているメイドさんに対して勝手に発された先ほどの言葉だけでわかるだろう。

 ベリアルに友情は無理だ。

 壊滅的だと言ってもいい。

 

 例えば、だ。少々使い古されすぎているシチュエーションを想定しよう。

 通学路の曲がり角、パンを咥えて走る女の子とぶつかってしまう、なんて幾多の主人公たちが経験したシチュエーション。ベリアルをそこに置き換えてみよう。

 

「きゃっ! ご、ごめんなさい! 大丈夫ですか?」

「走る際にはもっと注意を払え。貴様のような愚か者が他者に迷惑をかけるなど、断じて許さん」

「あ、え……? あ、ご、ごめんなさい」

 

 とかいう運命のときめきどころか、変人と出会ったので早く逃げようという雰囲気になるだろう。

 ゆえに、俺に友情は無理だ。

 

「おはようございます」

 

 例えば、今廊下ですれ違ってるアメリアが丁寧に立ち止まりながら、会釈をしつつ挨拶をしてくれたのだけど、

 

「陰鬱な顔をして廊下を歩くな。俺の婚約者である貴様のような者が周囲の雰囲気を悪くすることなど、断じて許さん」(アメリアさんもおはよう!)

 

 などと返答するものだから、ロボットのような笑顔を貼り付かせたアメリアの表情筋がさらにステンレス化してしまってるじゃないか。

 そんないたたまれない“俺”の婚約者さんにこれ以上パワハラをしないためにもそそくさと廊下を歩いていく。

 

 黙っていればいいんじゃないかって?

 黙っていたら、時たま”俺”が勝手に聴くにも堪えないもっと酷い言葉を浴びせ出すんだよ。

 これでもまだマシなんだよ……。

 

 さて、たどり着いたのは鍛錬場。

 手に握っているのは、先日アズーリに何のタクティカルアドバンテージもないと笑われた、そこら辺に飾ってあった甲冑から取ってきた装飾だらけの直剣。

 

 ……よほど“俺”が気に入ってるのか、鍛錬場の倉庫にもっといろんな武器が置いてあって、それらに変えようと思っても体が動かなかったのだ。

 思い出される例のアズーリ破裂動画で倒れていた“俺”ベリアルの使っていた武器は、確か槍とか矛とかって感じの長物だったはずだったけど……。乙女の心は複雑みたいなやつかな?

 

 ゲームルールでは、武器ごとの熟練度なんてものはなく、代わりに武器種類ごとにステータスに対する攻撃倍率が設定されていた。

 攻撃手数が多いレイピアや短剣、双節棍などはギリギリ四捨五入で1倍になる程度に倍率が低く、逆に攻撃が遅く隙が大きい特大剣や大槌、青龍刀などは中には5倍になるものもあるほど、ものすごく倍率が高い。

 直剣はその倍率の基準となる武器で、1倍と固定だった。

 よく言えばバランスの取れた武器、悪く言えば平凡な武器。

 

「何で気に入ったんだ……?」

 

 よくわからん。

 刀身を見れば、色々と竜であったり鳳凰であったりペガサスであったりの装飾が刻み込まれているし、持ち手なんかは明らかに人間工学ガン無視の紋章だらけだし。

 あ。

 もしかして。

 

「かっこいいと思っちゃった……とか?」

 

 と口に出した瞬間、“俺”は直剣を投げ捨てた。

 ……え、図星だったの?

 

「いやいや、別にいいじゃん! かっこいいし!」

 

 と、俺もファンタジー感溢れるこの直剣にわずかながらのロマンを感じないわけではなかったので、拾い上げようと腰をかがめたが……。

 

「え?」

 

 拾い上げようとする腕が動かない。

 力を込めてもびくともしない。

 

 え、何? “俺”拗ねちゃったの!?

 

「気にすんなって! 人の好みはそれぞれだって言うし!」

 

 と、話せばやっと“俺”は渋々直剣を拾い上げた。

 うーん。多感な時期かな?

 

 ふむふむ、わかるぞ、ベリアル少年。

 俺も君と同じくらいの……えーと大体13歳くらい? の時期は、聖剣エクスカリバー! みたいなのに憧れてたしね。

 いや、何ならこの世界ならば、あの凄まじい光波を再現できるやも!

 

 安心したまえ、ベリアルくん! この世界には魔法がある! 最強の自分を体現できる術があるのだ!

 と言うわけで、鍛えた末にはいずれ、ベリアルくんにもあの輝きを見せてあげよう!

 

 そう決めた俺は、直剣を握る手に力を入れる。

 ゲームと同じく技能レベルが上げられることをひとまずは目指す。

 そのためには素振りでも何でもいいから直剣を使って鍛錬場で体を動かそう。ゲームルールでは、魔獣や人を相手に戦う以外にも、鍛錬場でモーションの確認や素振りをしていてもかなりの経験値をもらえるのだ。

 

 さぁ。

 想定するのは先日戦ったアズーリ。

 あの容赦のない攻撃を、問題なく対応できるまで。

 そして、最強の自分を想像する!

 

「――トレース、◯ン!」

 

 ……。

 違うね。

 集中力散ったわ。

 

 †

 

 ベリアルの婚約者として、ナイトフォール家のお屋敷に住み始めて、1週間近く過ぎました。

 

「ベリアル様の婚約者様とは……。あなたのような素敵なお嬢様が……」

 

 と、この数日間で仲良くさせていただきました、ナイトフォール家のメイドさんが嘆くように話しました。

 

「不運だと言ってしまえば、失礼なのですけどねぇ」

「……」

 

 一緒にフォカッチャの生地を捏ねながら、メイドさんが続けました。

 

「こんなに出来のいいお嬢様……、できることならうちに来て欲しいくらいですわ」

「そんな、……恐縮です」

 

 捏ね終えた生地を寝かせるために容器に入れ、その間に主菜の支度を始めます。

 さすがは伯爵家、とれたての海鮮物がたくさんあります。下処理のために井戸から汲み上げた新鮮な水で流していきます。

 

「アメリア様はここの来賓様ですから、わざわざ炊事の手伝いなどなされなくてもいいですのに」

「気になさらないでください。皆様のお世話になっているというのに、何もお返しできないのは耐えられないのです」

「あらあら、まあまあ」

 

 笑顔で返事してくれるメイドさん。

 どうもこのお屋敷でメイド長さんの次に長い期間働いていらしている方だとか。

 何でも当主であるルーカス様のルシフェル士官学院での学友で、数度同じ小隊で任務をこなした仲だとか。平民の出だったメイドさんにも貴族と分け隔てなく接してくれたルーカス様に好感を持ち、自らメイドになりたいと志願したとか。

 

「ベリアル様のことはもう、生まれたときから13年見守らせていただいたのですがねぇ」

「ええ」

「我儘な子供でも、歳を取ればおとなしくなるのが普通ですが、……横暴な性格のまま育ってしまわれたのです」

「そう、なのですね……」

 

 どうやらベリアルの傍若無人な態度は生まれつきらしいです。

 

「あの子もまだまだ子どもだから、変わらないこともないでしょうけど……。やはり、表面が変わっても、中身はなかなか難しいでしょうねぇ」

「そうですか」

「そうそう。お嬢様が何か困ったらすぐに私に言ってくださいね。あの子の食事から、肉を抜いて差し上げます」

 

 と、イタズラっぽく笑う彼女に、どう反応すればいいかわからず、とりあえず笑顔で感謝をしました。

 

 1週間も経てば、このお屋敷の様子はわかっていきます。

 午前中。

 当主であるルーカス様は、首都郊外にあるナイトフォール家の領地の管理のお仕事、例えば商家組合の方との納税などのお話、騎士たちとの治安維持についてのお話を応接室でなさり、書斎で書類をまとめなさいます。

 その間、ルーカス様のご子息であるダリウス様――ベリアルの兄様は数ヶ月後に控える士官学院の受験勉強をなされており、図書室でひたすらに集中されております。

 私にも図書室の使用が許可されているので、何度かお会いしましたが、流れるような金の髪と爽やかな笑顔が素敵なお方でした。慣れない環境にいる私のことを気遣ってくれたのか、色々とお話をしていただき、士官学院を目指したいことを話すと、全力で応援してくれると言っていただけたり、とても素敵なお方でした。

 もしもダリウス様が私の婚約者様だったら……。何度そう思ったか数え切れません。

 

 その間のベリアルといえば、部屋から出ることはほとんどないとのことです。

 ベリアルの専属のメイドであるアズーリさんが食事などを部屋に持っていくのだと他のメイドさんが話していましたが、最近ではそのような様子もなく、おそらくですが街へ遊びにでも出掛けているだろうと思いました。

 

 昼過ぎ、ルーカス様とダリウス様は数人のメイドさんとともに馬車でお出かけなされます。

 聞くところには、魔獣騒ぎの対応や領民の挨拶に出かけているとのことで、次期領主であるダリウス様はその見学と、魔獣との戦闘による鍛錬をなさっているとのこと。

 勤勉な方々です。

 

 一方、ベリアルといえば、その姿を見せるのはルーカス様たちのご帰宅ののちに、疲れ果てた様子で炊事場にやってきて、調理をしようとするアズーリさんを炊事場から追い出して、一人で食事をします。

 朝方確認する限り、炊事場が特に汚れたり乱れていることはないので、おそらく食材をそのまま食べているとメイドさんたちは推測していますが……。

 この炊事場の食材をそのまま食べるというのは、小麦粉や土のついた野菜、生の魚をそのまま飲み込んでいるということになるんですが……。彼は魔獣の一味、なのでしょうか……?

 

 その後、就寝までルーカス様とダリウス様は自室で読書などをなされているようです。魔導機関というものが発明され、魔法の使えない人たちでも魔法の恩恵を預かれるようになったこともあって、魔導灯を遅くまでつけて勉学に励むダリウス様は流石です。

 

 対してベリアルは、夕食を済ませた後もふらっとどこかに消えていきます。

 様子を見に自室前に行ったこともありますが、独り言の多いベリアルの部屋から何か聞こえることがなく、たまたま夜半に目が覚めてしまった時に、千鳥足のようにおぼつかない歩き方で自室に戻るベリアルを見たことがあります。

 13歳にして夜遊びに出かけ、あまりさえ泥酔するほどに酒を飲む姿。

 そんなベリアルの姿が、この婚約を決めた父と重なり……。底知れない嫌悪感に襲われてしまいました。

 

 と、思い出している間にあらかたの料理の下準備の手伝いは終わりました。

 

「これからの調理は私がします。もしお手持無沙汰でしたら、お嬢様は中庭に行ってみてはどうです? あそこはアズーリが育てた花園で、落ち着けますよ」

 

 と、メイドさんが言っていたので、陰鬱な気分を紛らわせるためにも中庭に行ってみようと思いました。

 

 †

 

「この花園の美しさは、君の美しさに比べたら色褪せてしまうね」

「過分なお褒めに預かり、至極光栄でございます!」

「過分なものか。君の美しさと気品は素晴らしい。どうだい、この美しい花園のなかで少しだけ、君も貴族の生活を楽しんでみないかい?」

 

 辿り着いた花園。

 そこには小さなテーブルと椅子。それこの座って、アズーリさんと談笑しているダリウス様がいらっしゃいました。

 優しげな笑顔のダリウス様は、甘く蕩けるような声でアズーリさんにアプローチをなされているご様子。

 ……どうやら私が来たのはタイミングが悪かったようです。

 この場は見なかったことにして、そそくさと退散しましょう。

 

 花園から離れながら、先ほどのダリウス様の表情を思い出しました。

 ……アズーリさんが羨ましくなるほどの素敵な表情です。

 伯爵家の御令息と、雇われのメイド。

 歳がそれほど離れていない彼女に、ダリウス様は日々のさりげない仕草に惹かれていき、……そしてアズーリさんに気持ちを伝えていたのでしょうか。

 

 私が……。

 私がアズーリさんのようにナイトフォール家でメイドをやっていたら、……。

 そう思うと、何ともいえない気分になってしまいます。

 

 自室に戻りましょう。

 よくわからないこの気持ちを落ち着かせるためにも。

 

 そう思って屋敷の中を歩き回っていると……。

 

「あれ?」

 

 見たことのない場所に来てしまいました。

 辺りを見回してみますが……。

 誰もいない。

 昼前の時間。食事の準備のために、皆さん忙しくされているのでしょうか。

 ……仕方ありません。来た道を戻って、それから自室に……。

 

 なんて思っていた時でした。

 

「はァアアアア!!!」

 

 という遠くから聞こえる叫び声。

 聞き覚えのある、ベリアルのものです。

 耳を澄ませば、叫び声とともに何か物がぶつかっているような音も。

 

 ……。

 近づけばベリアルに何をされるかわかりません。

 会った日に私の体をめちゃくちゃにしようと企んでいたり、すれ違いに挨拶しただけで罵倒したり。最近では無視したりといったことも多くなりましたが……。

 そんな人の近くになど、近付くだけ損なのですが。

 

 でも、なぜか私はその声と音がする方へと向かってしまいました。

 好奇心でしょうか。

 ……正直に言ってしまえば、ベリアルのことがよくわからなかったのです。

 口ではあんなにひどいことを平然と言う割には、自分の権力と立場でいかようにでもできる小娘である私に……、なぜか彼は指一本触れることがありませんでした。

 彼に触れたのは……、ルーカス様の前で私から彼に触れた一度のみ。

 口だけの小物だった……? と思ったこともあったのですが、……どうもメイドさんから聞いた話とも違うのです。

 

 ……曲がりなりにも決まってしまった私の婚約者。

 彼は一体何を考えているのか。

 気にならないわけにはいかなかった私は。

 

 鍛錬室と書かれていた部屋の、半分開いているドアから、近づけば近付くほど大きくなる、咆哮と轟音の主を覗き見してしまいました。

 

 †

 

 直剣振り回すの楽しい!!!

 

 袈裟斬り!

 撫で斬り!

 逆袈裟斬り!

 

 一瞬にして、仮想敵までの間合いを詰め!

 平突刺!

 その勢いのまま、飛び上がり!

 回転斬り!!

 

 素晴らしい!

 素晴らしいぞ、ベリアルくん!

 

 かれこれ一週間近くかかったけど、やっと仮想敵である彼女――アズーリにダメージになるほどの一撃を入れられた!

 ……とはいえ、この攻撃の間に数十回は殺されている計算だが。

 

 何をしているかって?

 鍛錬場を使って修行中である。

 残念ながら俺の知っているこの世界で敵になり得る存在は、あの死闘を繰り広げたアズーリだけなので、仮想敵は彼女しかいないが、それでもゆっくりと伸びていく剣筋の速さと鋭さ。

 この一週間にして、わずかだが、着実に自分が強くなったと実感できた。

 

「最低限は……クリアかな?」

 

 感覚で言えば、技量レベルは上がっていて数レベル程度だろうか。

 ゲームなら、一週間も毎日プレイすれば余裕でアズーリに追いついたであろうが、流石にそんなわけにはいかなかった。

 当然だ。

 そんなにすぐ強くなるなら、この世界は達人しかいなくなる。

 

 だとしたら、この世界にはレベル制がなく、ただ鍛えた分だけ強くなったのでは? と思うかもしれないが、そこは原作LHゲームルールを熟知したヘビープレイヤーとして否定できる。

 この世界にはレベルが確実にある。

 理由その1。

 ある一定以上の速さで武器が振るえない。

 軽い木剣と重たい鉄剣を比べたが、明らかに速く振るえるはずの木剣のスピードが鉄剣と変わらなかったのだ。

 理由その2。

 急に体力が回復する瞬間がある。

 おそらくレベルが上がった瞬間だろう。

 ヘトヘトになりながら剣を振り回していると、時たま疲れが飛ぶ。それが訪れたのは2回。……見落としがなければ、だが。

 

 まあ、以上のことから、この鍛錬は確実にこれから先、この凌辱ゲーをぶっ壊す時に役に立つ!

 そういった自信もあって、すごく楽しいのだ!

 

「はァアアアア!!!!」

 

 叫びながら、先ほどのコンボを繰り返す!

 そして回転斬りののちに――!

 

「うぉおおおおおお!!!」

 

 跳ね上がりながら横斬り!

 その勢いで――、

 兜割り――!!!

 

 ドガッ! と打ち下ろされた剣が鍛錬場の地面に突き刺さり、土塊が舞い上がる。

 

「ふふ、ふはははは!!!」

 

 思わず笑いが出る。

 ゲームでの縛りでは、コンボを4種類しか設定できなかった。

 だけど、今は自由自在だ!

 ……戦う相手も同じだけどね。

 けど、それこそが楽しいのだ!

 

 オンライン環境という箱庭。

 最強論議が最終的に結論に至り。

 結論のコンボのみばかりが採用される世界。

 そんな停滞した環境を味わうことはもうない!

 

「最強を目指す……!」

 

 結論ではない。

 至った境地などではない!

 いまや最強は――目指し続けられる!!

 ゴールはもうない。

 果てなき航海にこそ、人は夢を見る!

 

 ……って熱くなりすぎか。

 ベリアルくんの厨二病がうつってしまったかも知れない。

 

「ふぅ……」

 

 一度呼吸を整え、休憩のために座る。

 この世界、原作が開始するのはおそらく“俺”ベリアルが士官学院に入学する年。

 現在13歳のベリアルが15歳になる2年後だ。

 ……飛び級とかの可能性はないわけではないと思うが、周りの“俺”の評判を見る限り、そんな優秀だとも思えない。

 というわけで、とりあえずはルシフェル士官学院を目指すことになるが……。

 

「けど……、アメリア……だよなぁ」

 

 “俺”の婚約者、アメリア・クレイトン。

 申し訳ないが、俺が彼女にかけられる時間はあまりないだろう。……なにせ、“俺”はいま弱すぎる。

 それに、“俺”が彼女を幸せにできるとは思えない。

 そして彼女の特徴――。

 

「あの周囲からかけ離れた可愛さ」

 

 間違いなく原作LHのヒロインじゃないかと思う。……凌辱ゲーのヒロインって碌な目に合わなさそうだが。

 ただヒロインならば。

 

「士官学院には行くはず。……てか、俺のせいで行けなかったとかは絶対ダメだろうな」

 

 原作LHを知らないから、原作崩壊も何も気にしてられないけど……、凌辱ゲーのヒロインがほぼ確定している彼女を、原作開始後に俺の目が届かない場所に置くのは危険だ。

 俺は知っている。

 凌辱ゲーでは、単独任務に出たヒロインは大抵碌な目に合わないって。とある魔界の住人と対峙する忍者のゲームも言ってた。

 となると、問題は彼女の学院入学まで俺はどうすべきか。

 

「無干渉でい続けるべきか?」

 

 原作LHで“俺”はおそらく彼女に酷いことをしていたはず。

 その境遇をバネにして、彼女が頑張ったとしたら……。

 その場合だと、無干渉ではダメだ。

 だからと言って彼女に酷いことをするのはない。そういう展開を壊すために俺がいるのだから。

 

「“俺”の言葉じゃ、学院に行ってもらいたいって伝わらなさそうだしなぁ」

 

 罵倒しかしないもん。

 あ、けど。

 一応俺が言いたいことは全く伝わらないわけでもない。……いや全く伝わらないこともあるけど、最悪のニュアンスをトッピングしながらものすごく遠回しに、一応言いたいことを喋ってくれることもある。

 つまり。

 

「コツコツとちょっとずつ頑張って伝えよう」

 

 そうしよう。

 決心し、俺は再び剣を握る。

 

 バタン、とドアが閉まる音がした。

 振り返ると、鍛錬場の扉が閉まってる。

 あれ? 閉め忘れた扉が風でしまったのかな?

 

 ま、いいや。

 今日はあと12時間。

 飯の時間を抜いたら11時間しかないぞ。

 

「さあ、修行だ!」

 

 さっさとアズーリに追いつくぞ!

 そう思っていると、

 

「ベリアル!!」

 

 鍛錬場の扉が開いて、“俺”の兄のダリウスが入ってきた。

 

 †

 

 

「最強を目指す!」

 

 一心不乱に剣を振い続けるベリアルは、獰猛な笑顔でそう吐き捨てるように言いました。

 ……街で行われる剣舞でも見たことのないような綺麗な剣捌きで縦横無尽に乱舞していたベリアルは、剣を地面に突き立て握り、それに体重を乗せながら、上がった息を少しだけ吐きました。

 

 扉から盗み見をしている私の様子には気づいていないみたい。

 私が普段よく見る煌びやかな貴族服ではなく、運動のしやすいシャツを、まるで洗濯中のように汗でびっしょりと濡らしながら、休憩に入ったようです。

 

 ……部屋に引きこもっているか、それとも街に遊びに行っているかと思っていたのですが……。そうではなかったようです。

 他の人の話を鵜呑みにして勝手に判断してしまい、少し罪悪感を感じました……。

 

 ベリアルは、そのまま考え込むようにして座り込みました。

 ……なんだか先ほどの綺麗な剣舞をもう一度見たかったなと、名残惜しくも部屋から離れようとしたのですが……

 

「けど……、アメリア……だよなぁ」

 

 そんな声が聞こえて、

 

「え?」

 

 と振り返りながら声を出してしまいました。

 バレたら酷いことをされるかも知れない!

 そう思って心臓の鼓動が速まったのですが、……ベリアルは聞こえていなかったようです。

 先ほどの運動で、疲れていたのでしょう。

 

 けど、ベリアルが私の名前を出したということは……、おそらく碌なことではないのでしょう。

 彼は何をしようとしているのか。もはや想像もつきません。ですが……、いずれこの身に起こること。諦めながらも、私は盗み聞きを続けることにしました。

 

「あの周囲からかけ離れた可愛さ」

 

 ……。

 もはや彼にどんな言葉をかけられても、褒められている気分にはなりませんでした。

 ベリアルのことだから、どうせ私のことをどうやって犯し、穢すことしか考えてないでしょうから。

 ただその日がいつやって来るのか気が気ではありません。……せめて、彼が今の所その剣術の鍛錬のみに気が行くことを祈るしかないです。

 

「士官学院には行くはず。……てか、俺のせいで行けなかったとかは絶対ダメだろうな」

 

 ?

 …………。

 ???

 

 す、少し混乱。

 え? 彼は何を??

 なぜ彼から、士官学院という言葉が?

 そして、なぜ私に士官学院に行かせようとする言葉が?

 

「無干渉でい続けるべきか?」

 

 そんな大混乱している私に構わず、彼はそんな言葉を言いました。

 なぜ? なんで??

 どう考えても、ベリアルが何を考えているのか理解できません。

 彼はなぜ私を士官学院に? それも、自身の影響で私は行けなくなるかも知れないことを危惧しているのでしょうか?

 

「“俺”の言葉じゃ、学院に行ってもらいたいって伝わらなさそうだしなぁ」

 

 ベリアルは……、私が士官学院を目指してほしいと思っている……?

 ……また何か特殊な性癖によるプレイの一種……、というわけないですよね。え? 士官学院に行かせるプレイ?? そんなの私が読んだことのあるどんな官能小説にも……。

 

 いや、それは今どうでもいいとして!

 確かに、彼の言葉はどれも私を手ひどく罵倒しているだけのもので……、そんな言葉では私には何も伝わらないでしょうけど……。

 でも実際に何か行為に移すといったことはありませんでした。

 

「コツコツとちょっとずつ頑張って伝えよう」

 

 そんな言葉と共に再び立ち上がって剣を握るベリアル。

 心なしか、顔の険が少し取れたような……。

 

 ……彼は本当にベリアルですか?

 ダリウス様曰く、努力もしないし才能もないただの穀潰し。メイドさんたち曰く、強く出れる相手にだけ威張る癇癪持ちの子悪党。

 私を想像もつかないような極悪非道な手で、その欲望の赴くままに、人としての尊厳を忘れさせるような酷いことを画策していた婚約者。

 今鍛錬室にいる、あなたは……誰ですか?

 

 と、彼はもはや別人かと疑い、自分でもわかる百面相のような表情をする私だったけど、

 

 バタン!

 

 と、風に煽られて教練室の扉が閉まり、ビクッと跳ね上がってしまいました。

 

「あれ? アメリアちゃんじゃないか」

 

 と、私を呼びかける声に再びビクッとなります。

 振り返るとダリウス様がこちらにやってきており、

 

「大丈夫かい? ひどく怯えるような顔をしてるけど……」

 

 と心配そうに尋ねてきました。

 

「あ、その……! だ、大丈夫です!」

 

 と、慌てながら説明しようとしたところ、

 

「さあ、……だ」

 

 と、鍛錬室からベリアルの声がして、

 

「ちッ……! またベリアルか!」

 

 と、私がベリアルに何かをされたのかと勘違いしたでしょうか、先ほどと打って変わった、まるでベリアルのような表情のダリウス様は、ドガン! と訓練室の扉を蹴り開け、

 

「ベリアル!!」

 

 と、叫びながらベリアルの方に詰め寄り、

 

「お前には痛い目を見てもらわないといけないな!!」

 

 掴み上げられて苦しそうなベリアルを投げ飛ばし、

 

「剣を持て!」

 

 と、腰に携えた煌々と金色に輝く剣を抜き取りました。

 私は慌てて、ダリウス様に弁明をしようとしたところ、ベリアルはそんな私を燃え盛る炎のような怒りの視線で睨みつけ、思わず私が怯んでしまった隙に、

 

「かかってこい三下! どちらが上か、骨の髄まで叩き込んでやる!」

 

 と、ダリウス様に宣戦布告をしてしまいました。

 

 私は何もできず、その場で立ってしまいました。

 

 

  ☆ステータス☆

 

 【名前】ベリアル・ナイトフォール

 【基礎レベル】1

 【技量レベル】6

 【魔法属性】不明

 【魔法詳細】未習得

 

 【名前】ダリウス・ナイトフォール

 【基礎レベル】10~20程度

 【技量レベル】10~20程度

 【魔法属性】不明

 【魔法詳細】不明

ベリアルくんに難易度設定をしてあげてください!

  • イージー(爽快感溢れる無双ゲー)
  • ノーマル(王道ファンタジー)
  • ハード(1ライフで死にゲー)
  • ナイトメア(未知の領域)
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