異能力x貞操逆転x白一点   作:ヒゲクマ

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だが白狼ははじけた



13.「酔眼朦朧」

「どうしてこんなことに」

「……いや、お前が言うな」

 

 死屍累々の惨状を前に漏れ出た言葉は、誰にも届かずになんてこともなく

 突っ伏していた顔を上げ。疲れ切ったような、乗り越えたような雰囲気の篠崎さんに冷静に突っ込まれる

 本当にどうしてこうなったんだろう?時間は少し遡る

 

 

 カウンセリングや検査のたらい回しを終え、少なくない時間を宣言通り椿さんに甘え倒して過ごした後。ボクは就寝のため自室へ戻る途中だった

 そうだ。道中深見さんと綾野さんが会話をしていて、珍しくつんとアルコールが漂っていたのは覚えている

 全くではないが、ボクが接点ある範囲で飲酒する人は「飲めるけど付き合いだけ」「飲みたいと思って飲まない」とか、飲めはするが、特段好んでそうすることは無い。ということを教えてくれていた

 それが珍しく二人で酒盛りだったのだろうかと思って近づいた、のだろう。ここから記憶も雲行きも怪しくなっている

 

「今回は災難だったねぇ、異端に強姦(らんぼう)されたんだって?あ強姦わかんないかアハハいいよわかんないで、やっぱり緊急発信みたいな奴もっといた方がいいんでないかなあ。お姉さんの知らないところで()()付けられたらと思うとねえあッハッハ。笑えないよね」

「うむ、うむ……」

 

 いつもの軽い口がさらに軽くなり。笑顔なのに何処か恨み節の混じる独り言に近い言葉を、遠い目で出力し続ける綾野さんに。語彙が減り、水飲み鳥の様に一定のリズムで相槌と首の上げ下げを繰り返す深見さん

 傍らに瓶や缶が散乱しているわけではないが……ぱっと見度数の強そうなボトルが数本空いていた

 なら、ここで絡まれ飲酒を薦められたのか、と思ったが違うな。

 ぼやけた記憶の中では、漂う酒気に辟易としつつも。深見さんにボスを呼んでくれたことの感謝と、綾野さんに飲み過ぎないようにだけ伝えて。そのまま別れたはずだ

 

 ──辿って行けば霧が晴れるように思い出してくる。回想するようにぽつぽつと

 そうだ、その後は誰とも会わずに部屋に戻って、ベッドに降りたんだ

 ……しばらくして。喉の渇きと汗を吸った服の不快感、空調が切れたと思うくらい熱い身体で目が覚めた

 ボクはどうやら、漂う酒精だけで酩酊状態に陥ったらしい

 

 ひたひたと廊下を歩き、手をそえる壁や、足裏に伝わる床の心地よい冷たさを楽しみ。ボクは歩いている

 部屋にも浄水器とか、そもそもボトル入りの飲料水がストックされた冷蔵庫もあるのだから。喉を潤すなら出歩かなくていいはずなのだが、ボクは熱に浮かされて部屋を出ている

 この時何を考えていたんだっけ、結局床冷たくて気持ちいいとかしか思ってなかったかも

 

 そして時間帯はあやふやだけど、日付が変わる前ではあったはずだ

 別段、消灯時間なんてあるようなところじゃないし。普通にみんな色んな目的で施設内を歩いているのだから。当然ボクと偶然居合わす構成員もいるわけで

 普段は廊下ですれ違っても挨拶とか、世間話を切り出そうとして言葉に詰まり、連れ立った方にフォローされつつ退場する人たちが多いが、今はボクを見てフリーズ。再起動しても口をあんぐりとして、特に話しかけられなかった

 

 汗ぬれた不愉快な服を、適当に緩めたり開けて。真白い頬に朱く上気し、何が楽しいのか目尻の垂れた半目顔でうっとり笑んで歩いていた男子を目撃し、脳機能が停止していたのかもしれない。していてくれて良かった。本当に

 

 それで何人かそんな石化人間(犠牲者)を出しながら徘徊する神話の怪物になっていると、綾野さんと再会したんだった

 

「ふわぁ……おー白狼クン!……?な、なんか雰囲気とかー……の前に色々とまずくなあい?いやお姉さん的に超嬉しいけど」

「んうー?」

「うぉエッろ……じゃなくて、いやいやホントどうしたの?インキュバス(いんま)でも混ざったのかなぁ?」

「ぅん?んふふ」

 

 眠気覚ましにシャワーを浴びていたのか、普段よりもラフな格好で髪を乾かしていた綾野さんから見ても、ボクの様子は相当アレだったらしく。あられもない状態で先ず心配するほどだった

 残念ながら、ボクの方は多分この時浮かれ切った心地で。まさに夢気分だったため意に介していない

 

「やばいやばい。辛抱たまんないけどこれはヤバい。どう勘定してもこれ見られたらお姉さんのぼうけんのしょ(じんせい)が終わっちゃうよ。使いかけだけどとりあえず汗拭いて着なおそうねえ」

「むぬ、んー……んーん!!」

「あぉッ!?♡アカン逝くゥ!?マジでダメぇ!ううんダメじゃないもっと頂戴そういうのイヤ違う違う!?」

 

 汗ばんだボクを見兼ねて──格好も、確実に今見られたら悪と判断されるのは自分という打算もあるだろう──ヘアドライに使っていたタオルで顔を包まれたのだが。その時のくすぐったさや、浮かされていた熱に水を差されたみたいなものを感じたのか、ボクは愚図りそのままタオルを介し綾野さんに飛びこんだ、みたいだ。このボクは自殺行為(タイムアタック)をしているのか?

 

「んふふ。楓さんいい匂い……ぬくい」

「ヴぁおゥッッッ!?密着名前呼び!?♡これ負けたいィィ!!ほんとはダメだけど!いけないことだけどお!!匂いがもう誘いすぎで辛いのぉ!!!」

「ぅんー楓さんもっと。ぎゅって」

「あーダメダメダメ耐えろ耐えろ耐えろ耐えろ綾野楓ぁ!!これ味わったらこれ以上が手に入らないィィィ!ここでヘタれなきゃ死ぬぅ!でも死にたい(楽になりたい)いや死ねない(くるしい)!」

 

 飛びついた綾野さんの首に手を回し、そのまま首と頬の間に顔をぐりぐりと擦り付けて人肌を堪能するボクのせいで。顔色が(天国)(地獄)を往復している綾野さんが端末をとりだし

 

「ふ。フヘヘ……みんなで幸せになろうよ(死なば諸共)……!!!」

 

 ボスと幹部二人を呼びだした(地獄の釜を開いた)

 

「おいおい綾野マジで緊急連絡使う事態がきた──死んでる」

「フ、フヘ……助かった」

「生きてたわ。いや何してんだお前、白狼のラグマットになったのか?」

「ぅんんー」

「白狼もおかしいことになってるな……」

 

 最初に駆け付けた篠崎さんが目撃したのは、床で精魂尽き果て大の字で転がる綾野さんの上で、警戒心の無い飼い猫のように寛ぐボクの姿だった

 

「白狼じっとしてなー、緊急事態だから触るけど我慢してくれな」

「んんー……ふふー」

「……マジでどうしたんだ今日」

 

 篠崎さんの手で回収されても、ずっと蕩けた顔で笑うボクに当然すぎる疑問を浮かべ、篠崎さんも困惑している

 

「ね、寝る前に深見ちゃんと飲んでたところに通りがかってお話した時、アテられたっぽい」

「あー……匂いだけでなる奴もいるもんな」

「ンふふ……んぅ?」

「何上戸だこれ……」

 

 機嫌上戸かな……と今振り返るが、思い返しても酔った自分の振る舞いがひどすぎてつらい

 

「さむい」

「そんだけ脱いでりゃな、綾野にタオル貰ってんだから拭いてちゃんと着な」

「やって……」

「……マジでなんなんだこれは、ほれじっとしてな」

「んむ……んへへっふふっ……むずむずするっ」

「うわっ!?危ねえってコラ」

 

 ボクはタオルで撫でまわされている中、性懲りもなく今度は篠崎さんに飛びかかった

 汗冷えもあるのだろうが。どこかで人肌恋しい気分が溜まっていたのだろうか……敏感な肌なのと、世界の事情で自発的に触れないようにして、たまに触れるにしてもボスの控えめなスキンシップくらいだったので。知らず知らずにそうだったのかもしれない

 

「ったく……やんちゃのがいいと言ったが、普段からこれだったらウチの奴らが保たねえな」

「ぅふ、ぬくい……」

「運動してるからな」

「かちかち……」

「運動してるからな」

 

 女性相手に失礼極まりない──こっちだとどうなんだろう──ことを宣いつつ。引っ付き虫を止めないボクを何でもないように受け止めてくれている篠崎さんだが

 

「……何か余裕すぎない?」

「あ?つかやっと復活したか」

「いやいやいやいやこんな甘えん坊ショタにベタベタ絡まれておかしくない?私と同じ苦しみのために呼んだのに!」

「コイツ……っはあ、言いたかないが、全くの無反応ってわけじゃないぞ。アタシも正常な女だからな」

「………………」

「信じられん見たいに見るんじゃねえ、原因その一。アタシがツッコミ役に回されてるせいで、無駄に取り繕えるようになっちまってんだから。今でも内面バックンバックンしてんだよこれでも。けどオマエ、アタシら全員が情けないザマ見せてたら、白狼に悪ィだろうが」

「……篠崎ちゃん」

「あん?」

「いつ干上がっ(とじ)たの?」

「こいつマジでぶっ殺そうかなぁ!?」

 

 篠崎さんの耳裏を注視すれば、日焼けの上から真っ赤になっているし、そこそこに発汗していることがわかる。

 二人が突き抜けて隠さないし、篠崎さんは本当に損な役回りで気を遣わせてしまっているな……

 二人の軽口が飛び交う中。この時のボクは篠崎さんの鍛えられた肉体と代謝を楽しみ

 

「は゜ォ゛」

 

 間を入れずに来た深見さん相手に、またしてもボクは飛びつき、深見さんの精神を瞬殺していた

 

 

「ああ、うん……白狼が臭いで酩酊して、それで……見たままだ(このざま)と」

「道中立ち止まってた奴らの意味が、ここに来たら一瞬で察したわ……あっちの道はえげつないことになってるぜ姐御」

 

 手を胸の前で組み白く燃え尽きた(穏やかに眠る)綾野さんと深見さんを端に寄せ。微睡んでいるボクを張り付けた篠崎さんと、苦笑いを浮かべるボスが話している。

 

「しかしまあ、聞けば腕白な立ち振る舞いだったようだ」

「普段が澄ましすぎだと思うがな。そのせいで今回はっちゃけ過ぎたんじゃねえかって思っちまうよ」

「……白狼は優しい子だからね。賢くて、優しすぎる」

「だなあ。あとは変なところで気が抜けすぎてて身が持たないぜ、色々とお互いによ」

「ハハハ、注意はしてるのだけどなあ」

「姐御、また遠い目してるぜ……」

 

 うとうととした中、そんな会話を聞いていた気がする。

 すいませんボクが単に常識を知らないだけなんです。なんて言えるはずもなく……そもそもとして、この時のボクの状態は頭も回らないし。今思い返しても無為なのである

 

「ふぁ……つばきさん?」

「おやおはよう白狼、気分は──これはまだ」

「戻ってない、わなあ……」

「ぇへえー……?」

 

 開けた目は相変わらずとろりとし、うっとり上気した肌と合わさって。この年頃が出していいものではない類の色を艶々しく発しているボク自身は。何もわからずただ親愛する人の顔を見て嬉しくなっているだけだ

 

「んぅーつばきさん、だっこっ」

「おっと……」

「酔っぱらうと飛びかかるのかねえ白狼は」

「ふ。悪い気はしないが、直してほしい上戸だな」

「つばきさぁん……」

「はいはい。全くやんちゃなことだな」

「んうー」

「……もうこ慣れてると思ったけど、流石に姐御もこれはヤバい感じか」

「ハハハ……少しは見栄を張らせてくれ。事実だが」

 

 椿さんの胸の中で安心する匂いと温もりに包まれ。妖艶に甘えるボクは気付いていなかったが、椿さんのいつもの自信と威厳を携え、隣立つ人に力を与えてくれるような雰囲気の他に、どぎまぎとか、浮ついたものを隠せていない

 それでも。普段もっと濃いものを隠そうともしない人たちも多いので、全然気にもならないが。

 その後、抱き着いたまま椿さんに頭を撫でられ意識を底に沈め、再浮上して冒頭に至ったところである

 

「……詳しくは思い出せないですけど、これ、ボクがやったんですね」

「事故だ事故。もっとヤバいタイミングで起きなくて良かったってしとけ」

 

 未だに至福の表情で安置されている綾野さんと深見さん。そして、廊下で石化されてしまった構成員の方々も一時的に運ばれ。不謹慎だが紛争地域の犠牲者を並べている光景を想起させる現場を見れば、身の縮む思いだ

 

「とりあえずお前は水飲んで風呂入ってもっかい寝とけ、服はちゃんと着てな」

「そうします……」

「……あんまりにも違いすぎて温度差がえぐいな。はあ」

 

 頭を掻いて場を収めに行った篠崎さんの背中を眺め、肩に掛けられた椿さんの長羽織も洗って返そうとぼんやり思い、ボクも自室に戻ることにした。




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