黒薔薇団は、今更言うまでもなく悪の組織であることはご存知の通りだが。じゃあ、アニメや漫画の悪党のように一般人を襲っているのか、というと。そういうわけではない。発足当初のボスのアレはあるが。
普通に今までの所業も犯罪だが。異能者だけの世界を求めているわけではないので、無差別に一般人に被害を出してもうま味がなく、むしろ任侠のように苛烈ながらも絶対的な線引きをすることで「こっちが無事なら別に」という事なかれ主義を利用している
公約的に、政府と協力して正義の味方をしている白騎士団には。色々と世間体や思惑で動きに制限が掛かっているところも、自分たちの「知らない人から見たらチョイ悪」イメージ作り──秘密結社だけど、一応は──に組み込んでいるのも結構悪らつである、イメージ戦略ではあるが
まあ要するに。事前に察知したり、あるいはこちらの方が早く到達できる事件現場や、過激派だが木っ端で、無差別に手当たり次第に異能をぶつけたいだけの集まりみたいな奴らを叩いたりして「なんだかよくわからんが。白騎士団よりも早くて役立つ集団がいる」程度の媚び売りもするということだ。
当然一々名乗らない。精々白騎士団ではないくらいは言って、あちらのイメージをダウンさせるくらい
というわけで今回ボク、というかボク達は。綾野さん曰く「落第」な異能者が引き起こそうとした車両事故を、発生した瞬間──させずに止めないあたりは、やはり悪党らしい──に制圧するためにスタンバイしている
「うーし。んじゃ最終確認な、まずアタシが飛び出す」
「……」
「以上だ」
『はいアウトーお疲れっしたー』
「へっジョークだろが。一か所だけならともかくな……冗談は置いといて、次に止められたことに気づいた
『『『了解です!』』』
説明を無事終え、篠崎さんは通信機越しに構成員達の元気な返答が返ってくるのに満足げに頷いた
不謹慎だが、正直異能同士で人間離れした抗争をするよりも。こういう草の根活動を兼ねた若干のマッチポンプの方が性に合ってて嫌いじゃない。
ボクは争いごとに対して、本当に適性がないのはもうしつこいくらいにわからされているから
『クソッ!クッッソッ!“操作”が!どうなってんだよぉ!!最悪の事故になるはずだろ──』
『はぁいチャンネル外から失礼するよ~。ハロー落第点サン、そんな自覚したてレベルの雑魚異能で調子乗れるなんて才能あるよまあもう二度と活かせることはないけどね、起こしちゃったんだからもう仕方ないよねえいやあ私はそんなダメダメ異能じゃなくてよかったなあ恵まれてごめんねえ?』
『!?テメぇどこから』
『追跡もできないんだから、
初回に車両が揺れて、相手の計画通りならこのまま制御を操作し、車両同士を加速させて正面衝突していただろう。しかし何の危なげもなく、どこからともなく現れたフラッシュブレードに加速前に停止され。サイバークイーンが遠隔で操作できるデバイスを車両に接続して、操作権をはく奪
突然の不発に困惑しているであろう実行者を余所目に、ボクも異能を展開し、構成員を他車両の点在するステーションへ中継。同様に、事前に目星をつけていたものへデバイスを接続、滞りなく初回の操作以外は全て不発させた
自身の完全下位互換異能、発想力も応用力も無い相手に、久々に性格の悪いところを発露させながら。一方的にサイバークイーンは遮断する。到達速度なども計算に入れているだろうし、多分ドンピシャで同時に相手は公的機関に確保されているだろう。遮断しても観察は切っていないだろうし、逃げ場は万が一もあり得ない
けれど、不意の事故である以上混乱は起きる。すぐ止めたとはいえ、車両が一台おかしくなり、呼応するように異能者が現れ、どこからともなく黒スーツの集団が現れたともなれば仕方ない
「おい押すな!今は止まってるんだから──」「ちょっと足踏まないで!」
「おかあさぁん!」「利用者の皆様!係の者がおりますので指示にしたがって冷静に──」
まあ、最悪の想像をすればこうもなる。異能は理解が無ければなんでもありの反則魔法に思えるしね、止めてくれた側も異能者だし
使えないなら、説明されてもピンとこない。わからなけれ、想像を働かせる。そして。万が一を考えて人間は生きてきた種族なので。これもまあ想定内。
でも、こっちとしては別に事件を阻止すればどうでもいい。この混乱でけが人が出ても、それを含めて白騎士団側に押し付けられるから──打算だ
──っと
「うええぇえん!えええぇぇぇぇん!!」
「はい。こんにちは」
「うえぇ──ゎぷ!?」
「落ち着いて、お母さんとはぐれたんだね」
「う?う、うん……あの。ふわ…………っ」
だから、これも打算である。流石にホームで一人は危ない歳に見えたし。車両は停止しているとはいえ、落ちれば怪我をしてしまうだろう。あとはまあ……とりあえず、自己満足
あやすように幼女を抱き上げて──ボクの貧弱な身体でも、さすがにこの程度はやれる──背中をとんとん押して、安心させながら語りかける
幼女もリラックスしたように目を細めているので、間違った対応ではないだろう
「大丈夫。ボクが魔法を使ってあげる、目を閉じて。閉じたら次はおくちでいち、に、さん……って、ゆっくり数えてね。数えたら目を開けてごらん、キミは駅の前にワープしてるから」
「わあ……!ほんと?まほうつかいさんなの!?」
「ホントだよ。じゃあ、魔法使いの言う通りに出来るかな?」
「うん!……えへへ、まほうつかいさん……どきどきするにおいですき!」
「……そう?今はそれより、さあ……数えてみて」
「あっ……はーい!いーち!……にーい!…………さんっ!」
そっと影を広げ、予め繋いでいた広い駅の入り口──ど真ん中というわけでもないので、いきなり誰かとぶつかることもない──に、女の子を送る。あとは、職員に親と引き合わせてもらえばいい
しかし、匂いか──そんなにみんながみんな触れる程には、自分では嗅げない体臭があるんだろうか?
『優しいねぇ~あんなことされたらあの子もう恋愛も女性も興味なくなっちゃうんじゃない?』
「……流石に見逃せませんよ、幸い他にはいなかったのもありますが」
「いやナイスだ。大人だけならまだしもな、お前さんはスッキリしたことやったでいい。
通信越しにサイバークイーンからは茶々を、異能で見回っていたらしきフラッシュブレードからは、労いをいただいた
どうも一部始終を見られてるとちょっと年上ぶってたのが恥ずかしいなと思う
「……じゃ、ボクらも戻りましょうか」
『ほいお疲れー、待ってるよん。お兄ちゃんやってるキミもヨかったよぉ……うひひ、年下の兄もイイね!!!』
「ハァ……ははっ、まあ年上ばっかだからなうちは、アタシ的にも、アニキやってるお前さんはかっこよかったぜ、堂々としててな」
「…………どうも」
自己満足の終始だが致し方ない。むしろ一から十までそれで動けるところが、悪の組織の身軽でいいところだ、そうに違いない。悪行も善行も、やりたい方を演出できる……そう思っておこう。
「……!わああ!ほんとにワープしちゃった!あ!おかあさーん!!きいてきいて!あたしねえ!とーってもすごいまほうつかいさんにね!あのね!すっっっ……ごいいいにおいでどきどきしてねなんかおなかがきゅうぅってなんかね──」