フラグを爆速で回収し、篠崎さんがダウンした。
前回のどうしようもない覚醒回から救い出してくれた後、いつものようにそこら中を行き交っていたそうで、何とか全てを終わらせた直後その場で倒れ込んだ。
異能で距離と時間がほぼ関係ないとはいえ、篠崎さんは実際に走り回っているので。個人の体力が図抜けて高くとも、やはり限度があったということである
「つってもただの筋肉痛なんだけどなあ、これ」
本人はこう語るが、超加速をあれだけ多用して筋肉痛だけで済んでいるこの人はおかしい
瞬間移動染みた挙動も、高速移動もオートではなく自意識で発動した上で
つまり、彼女は移動中の体感時間は実際その距離を移動している。そのため、加速中の思考もそれに合わせている
「まあ、わざわざ鋭化なくても普通にそうではあるらしいんだよなこれ系、アタシはもっと確実に誤差なく感覚と同じタイミングがいいから、そっち方面に終始しただけで」
「……すごいですね」
「いやー融通利かんだけだ、アタシも大概頭でっかちだからな……んで、何かようか?」
自前の運動神経と同期するだけであの強さなのだから恐ろしい
ぐでっと医務室のベッドでだらける篠崎さんの才能に感服しつつ、ボクも訪れた目的を果たすため準備を始める
「いつもお世話になっているので、その感謝も込めてマッサージを学んできたんです」
「おお?アタシもセルフケアはするし、あんまり無理しなくていいぞ?」
「いえ、いつも危ないときは助けてもらってますから、こういう形で少しずつでも返していければなと」
本心だ。この人がいなかったら、ボクは何度取り返しのつかないことになっていたか
出来ることが少ない身でも、この恩は返していかなければならないと思うほど、助けられている
「……一応聞いとくけど、
「……お礼ならこういった労いはよろこばれるとは言われました」
「んんー……グレーだな、そりゃ、するよかされる方が楽だけどもなあ」
まあ気のすむまででいい。と付け加え、問題児からの入れ知恵を訝しんでいたものの。篠崎さんはボクの心情を汲んで許可してくれた
このために覚えたマッサージで。リラックスしてもらえれば嬉しいな
とりあえずこのオイルを伸ばして
「待て」
「……はい?」
「いきなり先行き不安になってきたんだが、何でオイルだ?」
「アロマオイルでリラックス効果が増すそうです」
動画でやっていたので間違いはない。プロが教えるマッサージで何度も予習した
そこで使っていたオイルなので、チョイスもずれていることはないだろう
「おお。何かじんわりと……はいいんだが。なんで上着脱いでるんだ?」
「ボクは力が弱いので、そういう時は肘とかを使って体重を乗せて圧を上げていくそうです」
力の弱い人でも出来る方法も、きちんと紹介してくれていた信頼できる動画だ。
アームカバーも付けて。お互い接触も安全なので安心してもらえるだろう
「ふっ……んっ……よい、しょ……どう、ですか……?うごきは、へんじゃない……んっ……ですか?」
「…………おう。指圧……肘圧か、は大分いい感じだ、ほぐれてる感じする。それはな、うん」
ボクが小柄なので、どうしても施術は体重を乗せて力まなければならず。息が切れてくるが、そこは目を瞑ってもらうしかない
プロではないし、こうやってほぐしながら加減を聞く余裕があるプロは。やはり違うのだろう
「ふ、んっ……ふっん……すみま、せん、っこ、っえが……出、ちゃうっ……ので」
「………………あー、気にすんな。集中集中。うん、集中してこう」
「ぅまっ、く!……がんっば、りっ……ます……っ、から」
「ほっ……どほどにな、マジで無理はすんなよ。マジでな」
篠崎さんの腰や足の上で自然と弾む形になるので、リズミカルに全身浮いたり沈めたり。
ボクは軽い方だと思うので、重苦しくないはずではあるが。上で跳ねられたら当然篠崎さんの返事も途切れ途切れになるのは申し訳ない
「んっ!……んっ!ふんぅんっ……!ぅぅっん!も……すこ、しっ」
「────────」
「あ、せ……はっ。洗って、もらっいますから……!いま、は気にせず……にっ、いてくださいっ」
「──────────────」
篠崎さんは眼を閉じているのに、何処か遠くを見ている様な、意識や感覚を身体から出そうとしているような感じで。うるさいボクのスパートを聞き流してくれている
ボクも全身全霊を以って臨んでいるので汗ばんできたが、オイルを洗い流してもらうためにどうせシャワーを浴びてもらわなければならない、篠崎さんに滴ってしまうが、許してほしい
何度かスパートと丹念な揉み作業を繰り返し。ボクも篠崎さんも汗だくで、ボクの身体に至っては血流が巡って湯気が出ていそうなほどの熱気と朱を帯びていた
「ん、ふぅ~……!ふうぅ~~~っ……!んんぅ~っ……!ぅ~、んっ!……はあ……はぁ~……とりあえず、ぜんぶ。できました……お疲れ様でした、篠崎さん」
「─────」
「……?篠崎さん」
「──んぉっ、ああ。終わったのか。悪い悪い気持ちよくて寝てたわ悪いな…………堪え切れたかぁ……ふぅー……」
どうやら微睡んでくれていたらしい。素人丸出しの、体力もないボクの動きで少しでもリラックスとマッサージ効果があれば幸いだ。眠気覚ましに篠崎さんは大きく息を整えている
「はぁー……気持ちは十分伝わったし、マッサージも色々練習してた甲斐があるみたいだな。張った脚がほぐれてるのは感じる。ありがとな白狼」
「いえ……最初に言った通り少しでも、普段のお返しができていればいいなと思います」
「殊勝だなあ……子供が大人に気ぃ遣いすぎだけどもよ、ほんと全然変わらんねぇ白狼は」
ホッとしてるような、呆れているような挙動の後、苦笑しつつ頭を雑に撫でてきた篠崎さん
付け焼刃の技術でも好評であったのなら、やはりあの動画は優秀な教材だったということだろう
「……良かったです。次があれば、もっと丁寧にやれるように頑張っておきますね」
「ああー……うん。次かぁ……いや、そうかい。そうだな、ムリの無い範囲でな」
「……お互い様に、ですね。大きな怪我や取り返しのつかないことが起きない、あるいは起きても適切に動けるように」
「おうそうだなまあとにかく今日の分で随分還されたしあんまし急いだり焦ったりせずにな大丈夫だ大丈夫」
何処か畳みかけるように、丸め込むように語り。ボクも休めと自室に向かわされてしまったが、特に怒ったりはしていなかったので、案外リラックスして篠崎さんも早めに就寝するつもりだったのだろうか?
これからもこの路線で磨きをかけてマッサージの腕前を伸ばせば、少しずつ還元していけるだろうか。そうであればいいな
動画は本当に参考になった。「本当にキく疲労抜きヌキ施術」……か。他の動画も参考できれば、ボクも後ろめたさなく、いられるのだろうか
「────はぁー。色々と死ぬかと思ったぜ、マジで……もっと精進しないとな」
独り医務室に残り、腰の震えを抑えていることや、偉業を遂げたように精根尽き果てたような篠崎さんの呟きは、当然ボクは知りえることがなかった
女性の上で喘ぎながら跳ねる美少年
跳ねるたびに甘ったるい香りが漂います