「いやあ来ましたなぁこの時が、あんまり堂々と私たちは入れないけれど」
「親子……まあ言っていいか。水入らずに無粋かますわけにもいかないからなあ。何かありゃすぐ行けるとこにはいるけどよ」
「当然。彼方も同様の舵取り」
「だからお姉さん達と向こうの
返答を待つまで、ボクに対する感情がかなり荒ぶった椿さんに今まで以上に可愛がられ──母親に対する呼び方を期待して、常に引き出そうとしていた──、今もボクはずっと手を握られたまま。とある豪華な……些か豪華すぎる一流ホテル──当然の用に全て貸し切りで、表向きは改修工事となっているのだから恐ろしい──内で色々な意味合いで緊張がこみあげている
「白狼、大丈夫かい?」
「……はい。少し緊張してるだけです」
「その……今更母と思って欲しいとは…………言わない、だが私は絶対に白狼を守る。何があっても。どうか頼って欲しい」
母と思って欲しいんだろうなという、長い間は置いといて。椿さんが傍にいなければ普通に緊張どころじゃなく恐慌に陥っていたので、全然今でも心から頼りにしているのだけれどね。
椿さんの手はひんやりとしていて、子供体温が煩わしい時もあるボクにとってとても心地よい、握られた手をそのまま自分の頬に当てて、強がって見せる。
「大丈夫ですよ。初めて会った時からずっと信じてますからね」
「白狼ぃ……!」
「姐御……涙もろくなったよなあ」
「あんな
「己ならば頬に触れた手を嗅ぐだけで夜明けを迎えられる」
「実質五歳児だって判明したのに、何で余計にお前らは変態性が
……五歳児どころか
そんな一幕に区切りをつけ、ホテルのイベントホールにて一堂に介する。
此方は五人、彼方は
「──本日は急遽互いの立場、関係を度外視し、この機会を得られたこと、大変喜ばしく思う。文面でも軽く述べたが、こちらの男児は……白狼は、今貴女の協力が不可欠な状況にあり、且つ、貴方の御令妹が陥っている状況に対し、解消の可能性を含む存在である」
椿さんが堅苦しく、恭しく礼で迎えた。光を絹に織り込んだ様な、溶けた金を梳いた様な神々しく肩までに整えられた御髪が、風に解されたように靡き。ボクを見据える碧眼が、晴天以上に澄み渡った透明度と輝度を放っている。
惜しげも無く
白騎士団の現在の最高戦力兼最高権力者、セラフィムライト──
……遺伝子由来じゃないからか、髪型がどこかボクに似てるかな?くらいで。椿さんと同じく、あまり似てはいないな──これを言ってしまった日には、椿さんの予定を丸一日キャンセルしなければならないが──と感じる。
「──そう、か。そして記されてはいなかったが、逢ってみると理解し、観取した。が、ここで続けることではあるまい。胸襟を開くのはこの後にしよう」
「配慮痛み入る」
「…………」
神々しさを醸し出す人物から紡がれる硬い口調とは、こうも神聖を帯びるのか。と緊張が増した
相手が事実上のもう一人の母だとしてもだ。この威厳と、放たれる重厚な圧が決してボクそのものに向いたものでなくとも、身震いをしそうになるが
だが、そうするわけにはいかない。実姉の前だからか、以前の反省があるのか未だ沈黙を保っているアレが、それでもなおボクを見ていることは、肌を差す視線で気づいている
「あー。姐御、とりあえず予定よりは早いけど、アタシらはアッチの部屋いるから、何かあったらな」
「ああ……二人の面倒を頼む」
「ハハハ……最大限はな、多分
ボクにも軽く拳を突いて、篠崎さんは他の面々を連れ、別室へ。ボク達も椿さんが先導し談話室へと向かう
……握られた手から、椿さんの強ばり、つまり
事前に伝えられていなければ、確実に思考は止まっていたであろう。この神々しい女性の
静かに閉じた扉と同時、柊……さんが口を開く前に、ボクは巨大で暖かく、柔らかい空間に包まれる
「ほぁぷ」
「ゥん~~~~~~~♡♡♡♡きゃーわ♡きゃわわ♡♡♡♡
───キッッッッッッッッ
──事前警告と、
ボクの精神衛生とは裏腹に、白狼という少年の身体は安らぎを覚えている。これで不安定さは無くなるのだろうか。いつまで掛かるかはわからないが。
「あにょ……」
「ふわぁ~~♡お声もきゃ~わいいねえ♡どちたのかなー?♡」
「楸……白狼が面食らっているし、息も危うい」
「あらごめんなさい。教えてくれてありがと、それでえ
「い、いえ……単純に挨拶もまだなのでしておかないとと。初めまして、椿さんから白狼と名付けていただいた、ええと……あなた達の異能から生まれたものです」
「“ママ”」
「え?」
「“ママ”って呼んでくれないんでちゅか?さみちいなあ~
別にアタりが強いとかじゃないが、シームレスでボクと椿さんの間で声色が変化するのは怖い
そもそも、出会ってまだ十分以内だから嫌うも何もない。ドン引きだけど敵意とかその……性欲とか向けてきてるわけでもないので。安全に今因子を貰えてるし……キッツいけど
「楸、無理強いは良くない。それに私だってまだ呼ばれてない……白狼のタイミングで、白狼の意思を尊重するべきだろう」
「むむ……いえ、そうね。そもそも私たちがあの日から──五年前から気付いてすらいなかったもの。親の顔なんておこがましいわね……でももしも呼んでくれるなら嬉しいからね♡♡」
相変わらず豊満な胸に抱かれたまま──現状は都合が良いが──声色の使い分けが無ければ、このギャップも、柔らかい笑顔だけならポジティブに働くだろうにと思いつつも、どうもこの身体も親相手には甘くなるのか、先にも述べたが精神とは裏腹にとても安心している。
「……ふふ。椿さんはひんやりしてましたけど。楸さんはぽかぽかしてますね」
「あらぁ~~~♡♡
「……私だけだったのにな。いやすまないな白狼……彼女の素はこうなんだ。説明が何というか、難しくてね。堅物の仮面は威厳のためにあって、本来可愛いモノ好きの……まあ、感性の若い人だよ」
「昔から相手を想って言葉選ぶのはいいんだけど……
忌憚のない意見だったんだけど……椿さんの呟きがどっちに向けてのものなのか……微笑んで見せたら、何というか赤子に対する感じで接されてるなあ。
五歳児だと思われててもこれは、あんまりにも……もしかしたら、五年分を取り戻そうとか思ってるのかもしれないが
あとは外向けの仮面はまあ、二人のかつての関係を聞けば、明らかにモデルは椿さんだろう……本人の神気溢れる外観に合いすぎて、まだ二十代後半とは思えない貫録がある。中身はかなり若々しいらしいが
「嘘だ」
うわ出た。いや初めからいたけど。最初に遮られて以降、ずっと伏せていた叔母──血縁関係があるかは、終ぞわからないのだが、関連性を表現するには親等表現でするしかない、決して姉ではないし──が、ゆらりと顔を上げた。隈がおかしいことになってる。
「嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だ。ギィ……お姉ちゃんじゃ、ないッのはァ!オぅヴぇ!!!!ヴぉえっ!……何とか、飲み込んでもォエ」
「
「お姉ちゃんにはわからないよねえ!!!!!……私が感じてた親近感、お姉ちゃんも元カノさんもあったのかもしれないけどさ。同じアルビノで!!年下でぇ!!……運命感じたのに!!こんなのってないよ!ねえどうして?なんでよりにもよってお姉ちゃんの子供なの……?これじゃあ……ヴグッ!」
もう滅茶苦茶だ。
親等での呼び名であって、決して年増を揶揄する意味合いではないのだが。
……それが、ネガティブな意味で使われ過ぎた弊害か。
「お願いだからこれ以上
「楸ッッっダメだ!!!」
「──あ゛?」
──空気が割れたような音とは、まさにこのことを言う。楸さんの胸の中で血の気が引くのがわかる
決してこの齢で言われたくはない、不安定な精神で何とか現実を見ようとし、更に心の均衡を欠く中、一番彼女に対して言ってはならない
「オバ↑さん↓だとォ!!?!?!?!?!?!!!ふざけんじゃないよオラァ!お姉ちゃんだろォオオォオオ!?!!!?!??!!!──ううん。違うよね。もう理解ってる、だから決めた」
魂の慟哭。一転。残響する室内で不気味に平静に戻った異端者が、油の差していない機械のように首と目をボクに向ける
「お姉ちゃんはおしまい。
「──な」
「……ひーちゃん?」
「私が
異能──否。これまでにない、これまでできなかったであろう規模の、
「異能から産まれたキミぉォ!私の異端で干渉しィ!!
「ひーちゃん……しーたんの前でこれ以上の醜態は許さないわ。教育にも悪いし、
「正気を戻す手筈が……白狼。流石に今は近づくな、我々の後ろにいなさい」
唐突なキャラ変──年齢的にまあ
楸さんの異能はわからないが、椿さんの異能と同格なのであればここにいるのは世界最強の異能者。でも、相手は明らかに暴走してるヤバい異端。
うん、これ絶対フラグだよね。というか、楸さんは引き金引いたのに無自覚なのか……流石に柊、さんに同情する
椿さん相手にズケズケ言うところを指摘してたけど、二人に出会ってわかる。似た者同士なので
「なにっ」
「うそっ」
「甘い甘い甘甘アマアマぁ!!!最強に胡坐をかいた年増は発展性が皆無!日進月歩の若さの前には無力!そして更に!今の私は
───キッッッッッッッッ
早々にフラグ回収。見てても何をしてるかわからない──闇を纏ってなにかをする椿さんと、一瞬光りなにかをする楸さんくらいしか認識できなかった──二人を相手に、異端者は周囲に浮かばせた光剣を後光のように回転させ、かき消した。扇風機みたいだが、それで無効化出来てるならとても笑えない。
相変わらずボクの意思全無視なのも笑えない
「更にィ!!視座を広げ解釈を深めた今ッッ!!
「うぉおマジかよ!!?」
「でええ!?」
壁をぶち破り駆け付けた
それでもどっちもフィジカルで食いついてるが、四対一で拮抗止まりはなんなの……
「異端も鋭化ってあんのぉ!?ヤバすぎでしょマジ……白狼クン大丈夫?お姉さんたちも実はそのー、了承の上で見てたから把握してるけどさ。まあ十代でアレはキレるわ、私でも
「いやはや。安定化を試みていた事は大変に喜ばしいことだったが……まさか
「解釈違い。時代はセバラミ」
「お?戦争かあ~~?」
残りの三人も駆け寄り、結構最低な呉越同舟が始まってしまった。
正直これもうこのまま制圧して、然るべき施設にと言いたいが。原因の十割近くボクなので逃れられない、いや逃げていいんだろうけど。相手は正気を失った被害者だから……それに。
「……全員で行って何とか、というくらい凄いことになってますね。でもそのおかげで、全員に手伝っていただければなんとかなりそうです」
「マジで!?……あ、そうか白狼クンの異能!完成したっぽいの!?ウヒョー見たい!キミ自身ともいうべき真価が見れちゃうのお!?」
「光と闇が合わさり最強に見える」
「今どきの子は知ってるのかなソレ。しかし美少人の経緯は聞いたが確かに、単体であればかき消されるだろうが一丸となれば隙も生まれるか……男女の共同作業、それも複数人で始めるとはフフフ。何という
「深見ちゃん端から見た変態って結構重たいねえ」
「ウム……策を」
そう。ボクの中でとうとう
「……その、大変おかしなことをする必要があります。それで、その」
「ほうほうほう!?」
「ふ。今以上のおかしな場面があるのかい?煽りではなくそんなものがあるならむしろ見たいのだが、鍛えられた淑女たちは狼狽えんよ」
「然り」
優し気に頷いてくれる面々。
心強いな……でも本当に申し訳ないな。この作戦、折角完成した
そして今はその、
「本当に真面目な話なんですが……ボクは柊さんと密着してその、接吻……キスをするので援護してください」
「「「オァアア脳が焼ける!!!!!!!!」」」
さっきの威勢は何だったんだ。頭を押さえて転げまわる三人──
ボクの中の残滓が笑い転げてる気がする。すぐに因子を返して消してやる……!
精神的負担のラスボス楸との邂逅
文字通りのラスボスと化した柊戦が続きます
果たして二人は幸せなキスをして終了できるのでしょうか
余談ですが別室で、どうせお互いプロフィール調べてるだろうという事で、本名バレもしています