ボクたちは現在、国のとある重要施設に潜入している。
異能者に対する締め上げを強化する法案や、それに対して多分にでっちあげの資料があるという情報を掴んだ組織が、可及的速やかに証拠を押さえるため。ボクと、もう一人の幹部で当たるべきという任務の遂行中である。
「……クリア。探知系の異能者や映像装置もないです、ファントムシャドウ。予定通りお願いします」
ボクに続き、影から這い出た女性……長い銀髪、
彼女とボクの間に、幾人かの人影が出来上がった。
これが彼女の異能「幻影」
触れたり、欺瞞であることを見抜ける異能でなければ、まず看破出来ないというほどの、精巧な幻を作り出せる。
事前にこの国に潜入していた、色んな他国組織の工作員たちの写真から作り上げたもので、これらをわざと施設の映像装置に写させることで、混乱させる手筈だ。
……余談だが。深見さんの忍者装束のように、悪の組織の幹部としての
綾野さんは、白衣の下に某対魔な方々のようなぴっちりボディスーツ。篠塚さんは陸上ユニフォームのトップスに、袴のようなズボン
…………ボクは、組織の構成員の大半が熱弁しプレゼンしてきたという、ノースリーブのフロントフリルブラウスに、膝までのスーツパンツとローファー。そして大きめのケープで……ノーコメント。
気を取り直して。深見さんが作った幻影が、縦横無尽に走り回り施設が大混乱の中。ボクたちはすぐお目当ての資料を手に入れた。
複製し、更に事前に作成していた偽書類と置き換え、何事もなく開いていない金庫からすり抜ける。
異能に対する過激派なのに、その異能に対する理解が皆無なので。対策も何もなくあまりにもあっけなく任務完了である。
「……では、脱出しましょう。ファントムシャドウ、ボクたちが脱出後も数分ほど幻影を維持する予定ですが、問題はありませんか?」
無言の相槌。基本的に深見さんはすごく無口で、任務中はそれが更に顕著になる。
意思の疎通はできるので、ボク的には対応が楽だ。
……任務中の間は、だが
影に潜り、難なく施設から脱出した後。ボクらは一度、帰還前の中継地点をいくつか巡り、欠片でも可能性のある追跡に対して警戒をする。
……最後の一つを経過後、ボクは肩に生暖かい感触を知覚する。始まった……
「スゥ──────フゥ─────スゥ─────」
「ぅ…………」
「スゥ────ぉふうぁあぁぁ…………」
くっつくかどうかのギリギリまで顔をボクのうなじに近づけ、深見さんは危ない深呼吸を始める。
うなじ、耳、頭頂までをじっくりと経由し、うっとりと余韻に浸っている。
…………これが深見さんの悪癖「白狼吸い」である。
ボクが嫌々ながらもこれを受け入れているのは、深見さんがある日土下座してきたからである。
いきなり拠点内で土下座されたものだから、あの時は本当に焦った。
当時深見さんに何かされた覚えもないので一体何事かと、ボクに対しやらかしたかと判断した少し剣呑なボスを抑えつつ聞いてみたところ。堰を破ったかのように深見さんの口から欲望の洪水が流れ出した
「もう辛抱たまらない白狼と任務を一緒にするたびに男性特有のいい匂いキメさせられて頭おかしくなる半日嗅いでないと脳が苦しい胸が痛い全身幻痛で掻きむしられる耐えられない堂々とゼロ距離でキメないと最早拳一つ分の距離ではキマらなくなってしまった責任取ってほしい慈悲を見せてほしい誠意は態度ではなく芳香薬効原液ナマ希望」
……つまりこうだ。ボクと深見さんは異能の性質上、上記の任務のような潜入や諜報での相性が抜群であるため、自然と組むことが多かった。
そしてその為、彼女はそこらの淑女の致死量を上回る
……………………その時ばかりはその場の全員が思わず「えぇ……」と異口同音だった。
まあわかるけど。とかいう呟きは聞かなかった、決して聞かなかった。聞こえたくなかった
とにかく、ボクが無防備にうなじや耳裏を露出し、危険物質を振りまいていたという。全く個人的には納得できない事実があるため。絶対に触れないこと、やっていいのは任務終了時のみを条件に「白狼吸い」を限定的に容認という流れである。
異性のフェロモンに対して、こっちの女性は常軌を逸した反応を示すのがデフォルトなのだろうか?
そもそもとして。その物質の放出を妨げないようなこの衣装も、構成員の女性たちからの熱すぎるプレゼンのごり押しが原因だし。それならと衣装をもっと厚着に変えようというボク提案は、にべもなく却下されている。
「……あの、もういいですか?」
「ァヒュ────もう少し────スシュ───」
……最初の方の、無口で冷静な仕事人というクールビューティなイメージが、ショタの体臭を血走った眼で嗅いでいる
……どさくさに紛れ自分もと、隙あらば嗅いで来ようとする構成員の方々は。篠崎さんの
深見さん……病んでさえいなければ
長いこと近くにいたせいで深見さんの尊厳は消え失せました