何だかんだ言ったけど、前回の戦いで得られた数々の異能観測データの使い道は多い。
異能も未だ原理が解明できていない事象であり。人間が用いている以上は、非人道的な手段で調べつくすことも憚られる──うちの組織も、そういった企みに慈悲は見せない──。地道に何が出来て、出来そうで、出来ないのかのノウハウや、記録を多く獲得していかなければならない。
汎用性の高い異能であれば、それに類する異能者が、自身の異能に対する自己認識を広げる一助になるし。あわよくば、そのカテゴリ内での共通の手札の増強に繋がる。
当然強力な異能ほど規模が拡がっていくため。戦いながら相手の挙動をつぶさにしていくのは容易ではなかったが、そこはボクの白影のように、応戦と離脱を併用できる異能と。綾野さんの電脳掌握による、多方面での記録媒体での精細な情報確保の合わせ技で。黒薔薇団は白騎士団よりも異能に対する理解度は高い。
似たことをやろうとする・している者たちは多いが、ボクらと似た異能であっても流石にどちら共にここまで傑出した異能力を確保できているところはないだろう。
戦闘センスがあるとは口が裂けても言えないので、こういう活躍が出来るのはボク自身とても充足感がある。
「……っ」
「全く、先日は
……こうして、白騎士団の幹部クラス相手に期待以上の結果を出せた事実に、ボクは浮かれていた。
ボク相手の
白騎士団の三名の最高位の異能使い、ブレイジングハートと、もう一人に次ぐ
コードネーム、アクアガーディアンの異能で四肢を拘束され、ボクは窮地に陥っていた。
彼女の異能は「流水一碧」。水の生成や操作を行うという、内容そのものは先の彼女と同じく、単純明快な強い異能だが、こちらは更に彼女自身の異能への応用や、才覚が図抜けている。
例えば今、ボクの手首と足首とを拘束している水の錠も、ボクは異能ですり抜けさせることができない。
限りなく透過された水で作られたそれは、ボクの身体との間にすり抜けることができる程の影を作ってくれない
ボク自身の身体能力の低さも相まって、異能的にも物理的にも脱出不可能。
──異変がある以上、救援は来るはずだけど…………
「そう凄むな、今虚勢を張っても
拘束のせいで、後ろ手に膝立ち状態のボクの顎を片手で支えながら、片膝立ちで見下す彼女は舌なめずりをしている。
直感がこの人相手には反応するわけにはいかないと訴える。彼女もこの世界の女性
そして。その直感はそれに輪をかけて、正しく眼前の女性が
「だんまりでこのままその紅玉を愛でるのもいいが……」
──!?……うっぐ!
明鏡止水を心掛けていると、頬にずるりとナメクジが這う様な感覚で、意識を引き戻されてしまう。
この身体はアルビノで皮膚が弱いのもあるが。それに加えて、感覚が人よりも過敏であるのでセクハラでなくても不用意に触れて欲しくはないのだ。
……触れるどころか、ナメクジの正体は目の前の正義の味方のてらつく舌であると気づいた時、全身に奔った悪寒と怖気で叫ばず無表情を貫けたのは奇跡と言える
「んんっ……!~~~ッいい味だ……うら若き
──明鏡止水心頭滅却無念無想晴雲秋月南無阿弥陀仏南八幡大菩薩素数偶数絶対数…………
思考を止めると発狂か気絶すると感じ。急遽とにかく表情筋を殺し、脳をフル回転させているボクには。眼前で
誰かに物理的に舐められるという、理解不能な体験に。ボクの何もかもが悲鳴を上げているような気分でそれどころではなかった。
「無知からくる茫然か、はたまた唐突なスキンシップに追いついていないのか……その
──ブレイジングハートで慢心したしっぺ返しには大きすぎる……ボスに会いたいなあ
「まあこれは序の口さ、本番はここからだとも。さあ……お姉さんと遊ぼうか」
嗜虐的な笑みを浮かべ、お子様に見せるべきではない様々な良からぬ小道具を水に運ばせたアクアガーディアンを前に、ボクはぼんやりと
「…………っ!」
「ははっ!まだだんまりなのかい?強情なのは嫌いではないが、何もしなければ終わりは来ないんだよ?」
……水音と、身体を締め付ける縄が食い込む音が辺りに響く。嗜虐的に嘲笑する目の前の女に対する嫌悪は最高潮だ。
ボクを見ているようで、その視線はしかしただ熱に浮かされて。どこまでも自己中心的な陶酔しか宿していない。
便利な道具として、自身の欲を発散させるためだけの装置としてのみの、都合のいい機械か何かと思っているのだろうか
そんな人間の思惑に乗りたくなくて、ボクは今も口を真一文字に結んでいるが。そろそろ我慢の限界を迎えようとしている。激情を抑えつけられた身体は、力んでいるせいで白磁の肌の上に赫々と朱を認めていた。
「ほら。何も難しいことではないんだよ?きみが痛みを覚えるわけではないだろう。簡単なことだ、今すぐその鞭でこの
自前の縄を、自前の異能で器用に結び。夜会服の上から全身に亀の甲羅のような結び目を広げ、これまた自身をどこからか取り出した拘束台に吊り上げながら。恐らく打ち据えられたいのであろう臀部をくねらせ。要求してくるアクアガーディアン
聞きたくもないのに昏々と語りだした内容によれば。彼女はあらゆる心理状態の血流も聞き分け、相手の心理状態をある程度把握できる。
つまり今の状況では、ボクが彼女を叩いたりするのを嫌がっていることも把握している。
そして彼女は、
……まとめると。
1.自身を縛り上げ、うら若き健児に打ち据えられる被虐の極みを味わい
2.それでいて、嫌がる相手に無理やり責めさせることで精神的な嗜虐も満たせる最高のコンボ
3.いかがでしたか?
………………。
……。………………。
「………………きらいっ」
「ア゙ァ゙ア゙ア゙ア゙ァ゙ア゙ァ゙ァ゙ア゙ア゙ー゙ー゙ー゙ー゙ー゙ー゙ー゙ー゙ー゙ー゙♡゙!゙♡゙!゙!゙♡゙!゙♡゙!゙!゙!゙!゙!゙!゙
具体的に語彙を発揮し、あらん限りの罵詈雑言を浴びせてやりたい気持ちを、どうせそれすら美味しくいただいてしまうのだからと。
しかし。何も言わずにただ相手の欲求に付き合わされる、全体的な負担を一切吐き出さない選択肢とを天秤にかけ。妥協案として、せめて外見相応の語彙で一矢報いながら響かせた鞭の音は。牝牛の絶叫と薄く脂肪の乗った臀部に吸い込まれ聞こえなかった。
その後解放され、篠崎さんに保護されたボクは時間の感覚が曖昧だったが、三日ほど塞ぎ込んでいたらしい。