唐突だが、伸び悩んでいる。
ボクの異能が影を操作する「白影」なのは既知の事実だが、どうもボクの理解度が低いのか、これ以上の応用や発展性が見出せないでいる。
現状、多用している使い方としては。操作して広げた影を、穴や扉と言った「入口」と定め。事前に認識した「出口」と繋げて、まるで影の中に入れているかのようにする。回収作業で最も多い使い方。
次いで用いるのは、影を平面的にではなく立体的……三次元的に操作し、干渉できる壁にしたり、光源と無関係に纏わせて、纏わせた部分を影とすることですり抜けるもの。
あとは、ボク自身の弱さや、経験の少なさで滅多に使わないが。上の応用で影を武器にして戦うなど。
──くらいである。
ボクの発想力が貧相なのもあるのだが、異能の種類にしては、出来ることがかなり限られている──もっとも。似た異能が今のところボスの「暗黒支配」くらいで。高望みの可能性も大きいが──せいで、伸びなくなってきているのでは、と危惧しているのだ。
光源とは無関係に自分の影を操作してすり抜ける能力で、アクアガーディアンの水の手錠を抜けられなかったのも。偏にボクの頭でっかちによるところが大きい。
異能同士のぶつかり合いで重要なのは、確信の押し付け合いであり、精神力同士の対抗という仮説が、この世界にはある
例えば、先の拘束は彼女が
「影が出来ないほどに透き通った水の拘束は、すり抜けることが出来ない」
という発想を下に行動していたと仮定しよう、その場合ボクが
「異能で影を手錠の下に纏わせてすり抜ける」想像や、発想が出来なかった。或いは「自身の異能よりも強力な異能なので効かない」と、無意識に認識してしまっていた可能性が高い。
火や水を操る異能が有名だったり、大抵強いのも、説得力に使われたりする。「火に触れれば焼ける」、「水の中で呼吸は出来ない」……言わずもがな。そういう認識を誰もが抱くからだ
「白狼はまだ“鋭化”していないのだから、それほど焦ることもないと思うがね」
「そうですかね。ボクとしては今とてももどかしいです」
「夢の無い話だが、別段鋭化しても強くなるわけではない。利便性は程度の差はあれど上がるが、結局、異能に重要なのは発想と応用だよ。自分の能力に対する自信と言い換えてもいい」
「むう……」
「半年もせずに覚えた異能を、白狼は驚くほど使いこなしているよ。あとは気持ちの問題だ」
と言っても、ボスが言ったように純粋に強化されたりだとか、規模が拡がったりするものではなく。より異能者に合わせて異能が対応するイメージに近いらしい。
解り易い異能では、ブレイジングハートの「炎神天火」は「自身からの火量の増大・燃焼対象指定や温度の操作」に鋭化しているが、似たような異能持ちでも、人によっては熱量や光度、細かく調整出来ないが、大規模な火力に鋭化している場合もあるだろう
「と言うわけだ。白狼が応用できるかもしれない異能として深見のを、確認兼対応を篠崎に」
「まあいいけどよ姐御……年経ってねえのに鋭化とはまた、白狼もせっかちだな」
「気持ちはわかるだろう?向上心もあって困るものではないからな」
「まーな。便利な異能で胡坐掛かれるよか安心だ」
「よろしくお願いします」
「うん。まあ、深見の幻影中心で見ていこう、深見は白狼の異能に似たこともできるからね」
「そうなんですか?」
それは初耳だ。深見さんの幻影も「単純な命令での自動操縦」に鋭化していることは教えて貰っていたが。
と、思っていたら。深見さんがいきなり肩に触れる。……が。ボスと篠崎さんは反応せず、触れてきた深見さんもそれ以上は何もせずに沈黙し、ただただボクは困惑するしかない。
「……?あの、深見さん?」
「白狼、触れられている感触はあるかな?」
「?あります」
「では、深見の幻影について知っていることを教えてくれるかな」
「ええと……触ろうとしたり、異能で出来た何かを識別する異能を使われなければ、見分けがつかない……くらいです」
「うん。深見、合ってるかな?」
「大凡は」
「……えっ?あれ?」
ボクの肩に触れた深見さんだったが、その声は離れた場所から聞こえた。
気付けば近くの深見さんはぼやけて霧散し、触れる前にいた場所で立ったままの深見さんがいる
「……幻影も、ボクの影みたいに干渉できるかを決められるんですか?」
「条件次第で」
「そう。深見の幻影は名前の通り実体がないから物理的に干渉すれば露見する」
「だが元々幻影の操作……つか、命令を先に作ってから出すと、触れる奴が作れるって話だ。めんどくせえから、普段ほどの量はぽこぽこ出せないらしいけどなー」
「元は救援も深見の担当だったんだよ、まあ幹部全員でだったが主に、はね」
「ただなあ、ウチの奴らを回収するのは周り全員倒してからだったし、深見も回収命令つけたやつを何体も作るだけの余力を残さなきゃならねえしで、効率悪かったなあ」
つまり、ボクの影も単純な命令を予め付与した影を作れるなら。似たことが出来るかもしれないと。
……なら、影で作るのはボクの形じゃない方がいいか。分身を作れるとしても、ボクの身体能力から変わらなければ、お荷物が増えるだけなのは目に見えてるし。そもそも、すり抜け以外の脱出方法を考えるべきだろう。
集中力もいるというのなら、影を細かく分離して……そうだ、移動イメージをするなら小動物の群れとか、ボスがくれた名前の狼──犬でもいいけど──が早いかな
「……やってみます」
目を閉じ息を整える。
練習であって別に本番じゃない。自転車の運転のように、ペダルを漕ぐ感覚を一度覚えれば次からはすぐ乗れるように、ここではどれだけ操作が遅くても、成功さえすればいい。
「────」
……影は離れても影、ボクのものであることに変わりない
影の一部が離れて、ある程度離れたらもう一度集まる映像を思い浮かべる
目を閉じ集中すれば。影が起き上ったような感覚がある。それが錯覚であっても無くても、今は重要ではない。
蝙蝠の群れが飛ぶような、鼠の大群が這いまわるような。あるいは一頭の狼が、走っていくような──離れた感覚
「……!ここ!」
「おまっバッ!!?」
「ん!??」
「ヴっ!?」
これだ!距離を取った影を起点に集合する想像!
一瞬の浮遊感、空気が変わった感覚で目を開ければ、ボクの立っている場所が違う!
「!でき「それどころじゃねえ!!!」た、あ……?」
転移じみたことが成功した高揚感を、なにやら焦ってボクを遮る篠崎さんに制されてしまった
……深見さんは仰向けに倒れ、ボスはボクの衣類を持ってボクの方へ走ってきている
……ボクの衣類???…………?
「…………?」
「バカ隠せ!きょとんとしてる場合か!」
「ハハハ、拾った時のことを思い出すなあ……うん」
「姐御しっかりしろ目が遠くなってるぞ!」
「ア……ア…………あびゃ……バ……あ゚ゐ゚」
「深見は横向け鼻血がやべえ」
「????」
「なんでお前は素っ裸で平然としてるかなあ!?」
どうやら、この命令を入れて離した影を起点にした転移は。普段の回収に用いる方とは違い命令は詳細に入れなければならないらしく。見事に
身に着ける物も同時に分離先に転移させる命令を馴染ませるのは、何度目かの
後から考えれば当然だが、新しいことが出来るようになった感動で、当時のボクは浮かれすぎていた。この年齢の男の裸とか気にする?なんて感覚で、あまりにも無防備を晒すほどに
ボスに拾われて初めての入浴後、手に持ったタオルで股を隠しただけの状態でボスに服の場所を聞きに行った時ぶりに、篠崎さんとボスから延々と恥じらいや危機感を説かれ尽くした。
「ちょっとおぉぉおおおーーー!!!見たの!?見たの!!?!??!」
「………………フ」
「ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!?!?!!ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛↑ア゛↑ア゛↑ア゛↑ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!!!」
「ぐええええええ」
……後に血涙を流した
鋭化は火を出す、水を操ると言った基本に加えて個人毎に個性的なオプションが得られるものだと思っています