生け贄と『捧げ物』を受けた英霊よ、今こそ恩に報いるとき   作:蓮太郎

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第1話 生け贄の話

 生け贄、それは捧げられる為に捕えられた哀れな生き物の事である。

 

 一つ、話をしよう。

 

 ある少年がいた。剣の才能があり、将来の英雄と称されるまでの力があった。

 

 しかし、少年は一つの未来を示されていた。

 

 『傲慢になった選ばれし者が真に選ばれし者に討たれた時、世界を救う者となる』

 

 自分は踏み台だと、ある時に世界的に信仰されている女神から予言されていた。

 

 歳を重ねて力を増す毎に擦り寄る人間は増えていく。

 

 力とおこぼれを求めて質の悪い輩が集まり、少年だった者を祭り上げ悪に染め上げていく。

 

 彼らの蛮行は青年を正義と掲げて正当化し、全ての罪が青年へ積まれていく。

 

 青年は何もしなかった。

 

 悪事を働く仲間を詐称する輩に手を下すことも、苦しむ者に手を差し伸べることも。

 

 出来ないのではない、許されないのだ。

 

 己が悪でなければ真に選ばれしものは現れない。

 

 いつか殺される事が使命となってしまった青年は、ただ乗り越えるべき壁となるしかなかった。

 

 辛かった、苦しかった、逃げ出したかった。

 

 だが自分が逃げ出せば、悪になることを辞めたら世界を救える人間が現れない。

 

 青年は責任を果たさねばならなかった。

 

「待っていた、君のような人間を」

 

 そして青年を祭り上げていた組織は壊滅した。

 

 ある少年がいた。

 

 幸せに暮らし、しかし虐げられたが信託を受け勇者になる運命を背負った少年がいた。

 

 恵まれた仲間と共に幾多の困難を乗り越え、魔と対峙する前に倒さねばならない人間を討つべく立ち上がった。

 

「もはや言葉はいらないだろう。組織は頭が消えても生え替わり、頭が残れば再び集うものだ。根切りは済んだか?」

 

 青年は己の剣を引き抜いた。

 

 少年とその仲間達もたった1人の命を奪う為に構える。

 

 そして始まる殺し合い。

 

 この時点で結末を知るのは2人だけ。

 

 青年と、その運命を決めた女神である。

 

 剣戟の応酬、その合間に飛んでくる魔法を剣一本でいなしつつ不意打ちを回避する。

 

 青年も少年とその仲間も殺意を持って戦った。

 

 そして、青年は倒れた。

 

 傷ついた身体から流れる血は命が尽きるタイムリミットを示す。

 

 少年は問う。何故こんな事をしたのか。こうなるまで放置していたのか。

 

 青年は答えた。君に殺される為だ。

 

 何故と問われた。

 

 君に道を示した女神から示された道だからだ。

 

 どれだけ苦しくても、辛くても、決して逃げることはできないと告げられて。

 

 悪逆を見逃さなければ勇者は生まれないと言われて。

 

 手を差し伸べたら救える者すら見捨てろと言われて。

 

 誰も助けるなと言われて。

 

 何も救えないと言われて。

 

 だから、だから…………

 

「俺には出来なかった、することも許されなかった、誰かを助けることを、人類を救うことを、成してくれ…………!たのむ、たの、む…………」

 

 そうして青年は息絶えた。

 

 

……

 

………

 

…………一つ、話をしよう。

 

 とある世界、とある地に一人の少年がいた。

 

 少年は善性の人間だった。困った人に手を伸ばすようなお人よしだった。

 

 環境が悪かった。

 

 悪事が当然の家に生まれ、悪でなければ人にあらずと優しい少年は虐げられ続けた。

 

 残念ながら才能があった。僅かな考え、僅かな誘導で相手を地獄に叩き落とせる才能()あった。

 

 人を幸せにするために使えない才能だ。

 

 だから最初にその才能を肉親に満遍なく使った。

 

 いくら悪であっても血を分けた人間、些細な救いを残しつつ死へ向かうよう陥れた。

 

 愚かしい家族は救いに気づかず、むしろ醜態を晒しながら死んだ。

 

 しかし罪は残った。

 

 負の遺産を背負い、裁かれる刻を待つ彼は不気味だった。

 

 あれだけの悪事を働いた一家なのだ、悪いことをしていないはずがない。

 

 事実、法に触れることはやってもまさしく悪事と言えることは一切無く、全てを背負い世直し人の手により家族の罪は暴かれても青年自身の罪はなかった。

 

 だが、責任を問われたら青年を処すしかなかった。

 

 青年は新たな時代と平和を願った。

 

「俺は、誰かを苦しめることしか許されなかった。こうして根絶される最後になるしか未来はなかった。だから、お前達はこうなるな」

 

 そうして青年は処刑された。

 

 

……

 

………

 

…………ある、話をしよう。

 

……………また同じことの繰り返し。青年はまた世界を救う機構の一部となり真の英雄に討伐された。

 

 ある話をしよう。青年は悪にならなければならず死んだ。

 

 ある話をしよう。青年は殺された。

 

 ある話をしよう。青年は死んだ。

 

 ある話をしよう。

 

 ある話をしよう。

 

 ある話をしよう。

 

 ある話をしよう。

 

 ある話をしよう。

 

 ある話をしよう。

 

 ある話をしよう。

 

 ある話をしよう。

 

 ある話をしよう。

 

 ある話をしよう。

 

 ある話をしよう。

 

 ある話をしよう。

 

 ある話をしよう。ある話をしよう。ある話をしよう。ある話をしよう。ある話をしよう。ある話をしよう。ある話をしよう。ある話をしよう。ある話をしよう。ある話をしよう。ある話をしよう。ある話をしよう。ある話をしよう。ある話をしよう。ある話をしよう。ある話をしよう。ある話をしよう。ある話をしよう。ある話をしよう。ある話をしよう。ある話をしよう。ある話をしよう。ある話をしよう。ある話をしよう。ある話をしよう。ある話をしよう。ある話をしよう。ある話をしよう。ある話をしよう。ある話をしよう。ある話をしよう。ある話をしよう。ある話をしよう。ある話をしよう。ある話をしよう。ある話をしよう。ある話をしよう。ある話をしよう。ある話をしよう。ある話をしよう。ある話をしよう。ある話をしよう。ある話をしよう。ある話をしよう。ある話をしよう。ある話をしよう。ある話をしよう。ある話をしよう。ある話をしよう。ある話をしよう。ある話をしよう。ある話をしよう。ある話をしよう。ある話をしよう。ある話をしよう。ある話をしよう。ある話をしよう。ある話をしよう。ある話をしよう。ある話をしよう。ある話をしよう。ある話をしよう。ある話をしよう。ある話をしよう。ある話をしよう。ある話をしよう。ある話をしよう。ある話をしよう。ある話をしよう。ある話をしよう。ある話をしよう。ある話をし「黙れえええええええ!!!」

 

 がしゃん、と鏡が叩き割られる音が響いた。

 

 その鏡はある男の人生を、転生したその先を視聴者の要望で常に写し続けていた。

 

 悪として強制的に人生を強いられて裁かれる無限の地獄を見せつけていた。

 

 では叩き割ったのは誰なのか?

 

「あの人は、泣きながら辛いと誰にも言えなかったあの人はまだ苦しんでるのか!神託で!運命で!縛られ続けてるのか!」

 

 最初に青年を殺した『勇者』である。

 

 怒りのあまり、疲れ知らずの身体になったにも関わらず肩で息をするようにフー、フーッと息を荒げていた。

 

 真に平和を望んでいたのが青年だったのに、神託で縛られた上にぽっと出(と思っている)自分に殺されるように仕向けた神を複雑に思っていた『勇者』だった。

 

 疑問を抱いたまま義務のように世界を救い、死後英霊として祀られ、英霊が集まる場に『勇者』は居た。

 

 たまたま誰かの過去を観れるという鏡があるという話を聞き、彼はそこに行ってみた。

 

 その鏡は人間の人生を映し出し、どのような道を歩んだのかを見ることができる紙お手製の鏡。

 

 そのプライバシー皆無な鏡だが、死後の世界かつ既に死んでいる英霊にとって戦い以外の娯楽になるのだからそこそこ人気はあった。

 

 ふと『勇者』はかつて己が殺した1人の人間を見たくなった。

 

 その結果がこれである。

 

「なんだあの地獄は…………」

 

「馬鹿な、あれは隊長!」

 

「どうして無限に残酷な人生が出てくるんだ?」

 

「もしかしたら転生してるから物語が続いてるのかも」

 

「いやしかし、全て悪役を押し付けられてるのはおかしくないのではないか?」

 

「お、親方様…………何故このような苦行を」

 

 たまたま周りにいた英霊達もドン引きしていた。

 

 既に20回以上転生しても踏み台になり続けた姿を見て引かないわけがない。

 

 まして、ほとんどが女神からの神託を受けてやらざるを得ない状況になっていた事も一因だろう。

 

「こらー!勝手に壊さないでくださーい!私に責任が行きまーす!」

 

 とてとてと天上に住まう純白の羽が生えた人間、天使が駆け寄るが『勇者』は無視して横を通る。

 

「まったく最近の英霊はやんちゃですねー!気に入らないことがあれば暴力で解決するんですからー!」

 

 人の心を知らない天使は注意しながら割れた鏡の片づけを始める。

 

 しかし、周囲に手伝う英霊は居なかった。あのような運命を歩ませている人間を放置しているどころか使いまわしていることに不信感が残ってしまったからだ。

 

 『勇者』は呆然として立つ彼らを押しのけて遠くへ離れたかった。

 

 もはや女神は信じられない、あの日から疑問を抱いていたとはいえこうして裏切られるとは思いたくなかった。

 

 今もどこかで苦しんでいるであろう彼を救いたいという心が『勇者』の中で渦巻いていた。

 

 その後ろに同じ思いを抱いた英霊がいると知らずに。

 

 

 

 

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