なんとか危機を逃れた私はまた入口を目指して歩くことにしました。
既に正午を過ぎている今これ以上休むことはできません。
夜の森は恐ろしく、また入口付近も既に安全な地帯だとは言い切れない状態になっているからです。
一歩一歩着実に進んでいきます。もう1時間もせずに3階から出ることができる。そう考えれば自然と足も軽くなるものでした。
あれからオオカミに襲われることもなく順調に進めていたため私はどこか油断していたのかもしれなかった。
考えてみればおかしいことがたくさんあったからです。
3階に既に来ているはずの警邏隊の後詰めのレイドPTと一向に遭遇しないこと、入口当たりのマイコニドしかいないはずの森になぜこんなにもオオカミがいるのか、けれど私の前を進んでいたはずの小次郎たちのPTの死体を見なかった、ただそれだけを頼りに前に余計なことなど考えないようにしていたのでした。
長く辛かった森を踏破して3階の入り口前の広場に出たとき私は絶望しました。
広場一面に広がる血の海、死体それを食い漁るオオカミの群れ……そこには期待したような助けは何一つも存在しませんでした。
なるほど、レイドPTが崩壊した転生者たちは各々入口を目指して、オオカミを連れてここまで来てしまったのでしょう。
最初の何人はもしかしたら……けどオオカミが入り口に増えるにつれここからの脱出は困難になってしまったのでしょう。
私はあんまりな結果に膝から崩れ落ちます。今まであと少し、もう少しだけ頑張ればと奮起していたから動けていたのに、もう私の体力は限界まで振り絞っており広場にまんまと出てしまいオオカミの群れのギラギラとした餓えた瞳に気圧され恐怖のあまり立っていることさえ困難になってしまいました。
「あっ……!あぁぁ」
声にならないうめき声が出ます。四方八方からオオカミがこちらに寄ってきて、私のことをどこから食べようかと舌なめずりして吟味しています。
恐怖のあまり背負っていた環を強く抱きしめてガタガタと震える私に群れの中のひときわ大きいボスのようなオオカミがこちらに来ました。
そして私と環に顔を寄せてクンクンと匂いをかぎ、私が懐に隠していたわたあめを咥えてそれを一息で丸呑みしました。
先ほど私をオオカミから助けてくれた救世主はオオカミにあっけなく飲み込まれそれを呆然と見ていた私に後ろから強い衝撃が与えられ私は顔面から地面に倒れこみました。
太もものあたりが焼けるように痛くまた息ができなくて苦しくてそれでもなぜかバランスをうまく取れずに顔を持ち上げられない私は転がって仰向けになってようやく呼吸ができるようになりました。
が、そこで顔を持ち上げ自分の下半身を見て後悔しました。オオカミに左の足を食いちぎられていた光景をまざまざと見せられたからです。私は吐き気を催したけど昨日から何も食べていないため胃液が喉まで持ち上がりえづくだけで済みました。
体はがたがたと震え歯からはがちがちと音がなるほど震えているはずの私でしたが不思議と思考は止まらず心だけは落ち着いているというか、諦念していたというべきか落ち着いていました。
さきほどわたあめを喰ったオオカミが今度は私を食べようと頭に大きくて臭い口を近づけます、生きたまま食べるとかそれは反則じゃないだろうか。
先ほどと打って変わって叫び喚き、片方しかない足で逃げようとする私をあざ笑うようにオオカミはそのまま私をかみちぎり、そして私は絶命しました。
薄れゆく意識の中私の心は後悔でいっぱいでした。
どうせ異世界に転生したんだから神様もけちけちせずもっとバリアフリーたっぷりの楽しいダンジョンを用意すればよかったのに。
ダンジョンの各階にはすぐ転移できるポータルがあって、それで各階には名物スポットもあって、そこを環や仲良くなった他の人たちと一緒にめぐったりして……、そもそも1年という期間も短すぎる、2年、3年、いやそれこそ一生ここに暮らさせてくれればよかったのに……そうすれば無駄にダンジョンの10階も目指す必要なんてなかったんだ。
環の顔を最後に思い浮かべる……死ぬまでずっと一緒だったよ……。
思考が途切れる最後の瞬間までくだらないことを考えていたら最後にわたあめが自分のことを忘れるなと非難するようにめぇ~と鳴いている気がした。