「くぅ……ふぅ、ふぅぅ〜」
『死にたくない! この、コイツゥ!!』
『俺を殺して楽しいか、化け物め!』
『来るなっ、くるなぁぁぁ!』
『なんで、俺が……う、うわぁぁぁぁっ!?』
誰かの悲鳴が耳に残る。死んでいったパイロットの呪詛が耳に残って……っ! 感応に引っ掛かるっ……!
全体に繋がりがあるニュータイプだからこそのデメリット、聞きたくない想いや残留した悪意が聞こえるようになってしまった……。
「くそっ、カミーユじゃないんだよ、私は……!」
かの作中、最高クラスのニュータイプであったカミーユ・ビダンは死者の念に身を蝕まれて自爆したようなものだ。精神的磨耗はやっぱり無視できない……だからこっちに来い、と?
「ふざけんなっ、ふっざけんなぁぁ!」
「姉さんっ、姉さん!?」
身悶える、もがく。生きてる以上、そっちに行く理由はない。私には、護らにゃいかんモノがあるんだからっ!
「姉さんっ!!」
「はっ……キラ? つぅ、頭が痛い……」
コックピットで寝てしまってたようだ。目の前にキラがいて……その奥からフラガ大尉が見てる……?
「大丈夫、姉さん……?」
「へーき、平気だよキラ……偏頭痛だから」
「嘘だ。僕に話してくれない、素質のせいだろそれ」
いつか、キラに明かしたニュータイプの素質。それが原因だと弟君はお気付きとは……リハクの目は節穴だぞー?
「嬢ちゃん。魘されてたぜ?」
「見苦しいところをお見せしました、フラガ大尉」
「あの勘ってやつ。お前さんの精神蝕んでんじゃないだろうな?」
キラが落ち着いたと言う私の言葉に納得しないまま、着替えに行ったのを見送り。フラガ大尉が私に切り込んでくるが、迎撃の言葉を持ち合わせないから……図星だしね。
「相応の負担が、やっぱ高いんだな?」
「……はい。実のところ、死者の声を聞いちゃう体質でして」
「悪意、あるいはそれに類する思念を感応で受信しちまう感じか。空間認識力に近いもんだと思ってたが……割とそれヤバくないか?」
「正直言えば生きてるのが辛いです。人の悪意って結構キツいのが多いから、この艦でも感じますし……あははっ」
「笑って誤魔化すな馬鹿野郎。どうすればそれを封じれるよ、制御できるんだろ?」
そう言われて、頷き。瞑目で気を落ち着かせて、心を鎮めるように。開いた感覚を閉じていくように……。目を開けて、フラガ大尉と目を合わせて。
「たぶん、もう大丈夫です」
「そうか、確かに大丈夫っぽいな」
難しいものを見る目で見られるのは若干不快ではあれだ、気にかけてくれるのはありがたいし嬉しいものだ。
「辛かったら言えよ? お前さんも坊主も、この艦で数少ない戦力になれる人間なんだからよ」
「大尉も酷い人ですね、ホントに」
「しょうがないだろ。俺だって自信がストップ安だそぉ〜? おまえさんたちの活躍見てたら特にな」
それを聞いて笑いそうになるのを堪える。あ、あれ? なんだか哀しみが……
「そらよっと」
「わぷっ……うぐっ……ひぐぅっ……!」
私のヘルメットをフラガ大尉は被せてくれた。まるで、女の泣き顔を見たくないなんて言わんばかりに。
「しばらく、コックピットに居たらいいさ。他の奴らには言っとくからよ……ちったぁ泣けよ。引き金を引いて、一番辛いのは……お前さんだろ?」
「ふ、フラガたいい……じぶんわ……」
「それとな、ありがとよ。嬢ちゃんと坊主が居たから、艦隊はほぼ無傷で済んだんだからな」
それを言われて、頭が真っ白になる。そうだった……守るべきものを守り切れたんだったな。
「じゃ、後で艦橋に来いよ。イリア少尉殿」
「はい、フラガ大尉……」
手ずから刈り取った命。彼らに対して安寧を祈りながら……
「身構えてる時に、死神は来ない……私はまだ死ぬわけにはいかないんだ……!」
人知れず……涙を落とした、誰のためでもない。ただ、悲しみのままに。ただ、許しを請うわけでもなく……感情のままに涙を流し、慟哭してしまった。
そんな資格を持って居ないのにもかかわらず……哭いてしまうのだった。
────
「パパ! 逢いたかったわ!」
「フレイ、良く生きててくれた……!」
涙ながらに抱き合う親子二人の様子を遠目から眺めていたイリアはこれで良かったのだろうか、と内心で自問自答を繰り返していた。本来なら、ナスカ級の主砲の攻撃が直撃して、ジョージ・アルスターは死する運命だった。ソレを覆したのは紛れもなく自分であると。
「君か、あのモビルスーツのパイロットは」
考え事をしていた時に、話しかけられて咄嗟に姿勢を正して。彼女の前にはジョージ・アルスター事務次官が立っていた。
「え……あ、はい!」
「こんな若い少女がモビルスーツに乗れるとはやはり……『コーディネイターとは本当に恐ろしいものだな』」
その反応を訝しんだイリアは内情を読みとって見せて、やはり予想通りだった。
「あの……?」
「……いや、すまない──職業的によく考え込んでしまうんだ。あの時は本当に助かったよ、ありがとう! ジンに睨まれた時は本当にもうだめかと思ったよ」
「職務ですので、お気になさらず。事務次官殿が無事である、と言うことが重要と思いましたので」
その一言に、気をよくしたジョージはこれからも頑張ってくれ給えとデジキャッシュの小切手を渡してきたのである。
「アルスター殿、コレは一体?」
「なに、優秀な者には相応の報酬が必要だろう? 額は書いていないが、いつか資金が必要になった時にでも、好きに小切手を切りなさい。期限は設けないから安心したまえ、持っておきなさい。必ず、君の助けになるだろう」
「こ、困ります! 自分はコレを活用できる身分ではありません!」
「ほう? ならば学徒動員として問題になると思うがね……艦長も副長の今後が心配だねぇ?」
「うっ……それは……」
「最初から君が[軍籍だった]ことにこっちで弄ることも出来る。その利点を考えてはどうかな?」
なるほど、コレが地球軍の代表格……器が違うと。自分にとっては天敵足りうると声にならない悲鳴を挙げたくて仕方がなかった。今ならシャアに同情してもいい、と。
「承知しました。お気持ちだけ……いえ、その時まで、デジキャッシュを預からせて貰います」
「ああ、持っておきなさい」
使ったら最期、アルスター家に利用されるに違いないだろうと内心で毒を吐きつつ、艦橋よりあたりを眺めれば太平洋連邦の艦隊は月に向けて進んでいる。また、アークエンジェルには補給と共に艦隊側への避難民の受け入れが進められており……。
「イリア少尉、君はこの後の指針はどうするのかね?」
「オーブに戻ろうかと。本国はあそこですので」
「成程。できれば引き止めたいくらいだが……君にもやりたい仕事もあるだろう、その斡旋くらいはこちらで行ってもいいが、どうかね?」
「え、遠慮させていただいてもよろしいでしょうか?」
アルスター事務次官は粘り強く交渉を持ちかけていた。計画にないライトバレルストライカーの設計を行ったのがイリアだとバレたのである。主にマードック軍曹がばらしてしまったらしい。
その開発能力とモビルスーツの機動データ等々から見て……プラントに渡った時が恐ろしい。何よりも自分の派閥に引き込んでおけば‘かの盟主’に対して強く出れるとも考えが見え見えだった。
げんなりしつつ、差し当たりのない会話で誤魔化して会話スキルが段々と上がり。無理か、とアルスター事務次官は諦めの表情を見せてようやく内心で安堵する。
「では、自分はここで失礼致します。このような若輩に時間を割いて頂き、感激の極みでした。また、時間の都合が合った時にでもお話をお聞かせいただきたく思います」
「そうかい? なら、これを渡しておこう。それは私のオフィスへの直通の番号だからね」
「何から何まで、ありがとうございました」
それで機嫌を直し、満足そうに去っていくアルスター事務次官の背を見送り。ほっと一息をついたイリア。やはり政治は嫌いだと認識しつつ踵を返してアークエンジェルの食堂に足を向けていた。
そんな時である。イリアのガジェットへラクスより通信が入ったのである。
「ん、こちらイリア。どうしたの、ラクス?」
『イリアさん、またお話をお聞かせ願えませんか? この部屋に置いてくれていたナチュラルの民学書はすべて読み終わってしまいましたの』
「あんたねぇ……私は地球軍の兵卒だってのに……はぁ、わかったわよ」
またお菓子持っていってあげるから、と一言付け加えて。嬉しさを孕んだラクスの声音が耳に入り、そこで気がついた。
「……アスランと接触できてないからラクスを返す手段がないじゃん!?」
『あら?』
「いや、その……このままだとあなたを月まで連れていくことになっちゃうなーって」
『あっ、そうですわね』
「軽いったーいっ!?」
返しがあまりに軽すぎて驚いたイリアは壁に激突してしまう。額を押さえながら、あたりを見回して。
「その辺は艦長に掛け合うわ。まだ近くにナスカ級もあるみたいだから引き渡すのは可能と思ってるよ」
『なるほど、そう言うことですか……いえ、それはやめておきましょう。貴女に害があってからでは遅いですわ』
その提案を突っぱねて、内心がわからないイリアは若干狼狽える。帰りたくないのか、と思わず尋ねると。
『だって、初めてのお友達ですもの。お別れはしたくありませんわ』
「子供かっ……まぁ、その辺は自由だけどさ。身元引受人は誰がすると思ってんのよ」
月に向かう途中で艦隊は先に月に向かう予定となっている。アークエンジェルに残されていた避難民は、フレイを含めた全ての人を、艦隊に預けたのだ。
そして、ラクス・クラインの保護はアルスター事務次官にも秘匿されていた。それはやめてほしいとイリアの懇願があり。先の戦いで大戦果を挙げた彼女の顔を立てたマリューの采配である。
『私はイリアに保証していただこうと、そう思っていましたけど?』
「図太いわね、ホントに!? 私は貴女の騎士でも親衛隊でもないでしょうに」
『ここまで砕けた間柄になるまで、親身にしていただいた身ですし……今更ではないでしょうか?』
「はぁ。あんたねぇ……まぁ、頼られたらやってあげるけど」
気の抜けた返事を返しながら満更でもない表情のイリア。実はこの時点で大きく、物語の筋書きが狂い始めていたことをイリアは知らない。否、知る由もなかった。
紅茶と茶菓子を支給してもらい。ラクスの居る部屋へと赴くと、そこには人だかりができていた。
「ん? どうかしましたか?」
「いや、あ……イリア少尉って君だよね?」
自分を知ってる補給人員の二等兵に事情を聞くと、どうやらラクスの歌声に惹かれて集まっていたらしい。休憩のローテーションを押し付け合ってここに殺到しているらしい。彼女の歌声は確かに癒されるが……。
「職務放棄してんじゃないわよ、あなた達。さっさと散りなさい! 散った散ったっ! あとで音源あげるからさっさと仕事に戻りなさい!」
実力行使はせず、とりあえず追い散らす。並の兵士では彼女に勝てないことは、新入りにも知られていた……なんせ、あのフラガ大尉でも体術でイリアに敵わなかったのだから。
その後、イリアはアークエンジェルのクルー達にこう呼ばれ始めていた。‘ラクス・クラインの懐刀’と。
「へっきしっ!」
「あら、風邪ですか?」
「誰かが私の噂でもしてるんじゃない?」
シミュレーターでキラとフラガがモビルスーツ戦で模擬戦を行っている間に、乙女2人は人知れず親睦を深め合うのだった。
to be continued .