朝日が昇り、アークエンジェルに向き合うように鎮座する陸上戦艦。レセップスと呼ばれるそれは北アフリカ駐留軍司令官がアンドリュー・バルトフェルド氏の抱える部隊の旗艦であり、彼らの帰るべき家とも呼べるそれだ。
距離にして20kmの艦砲射撃は当たっていればアークエンジェルとは言えど、甚大な被害を被っていたに違いない。
「申し訳ないな、ラミアス艦長殿。敗戦した方が勝者を待たせるとは、実によろしくないと思わないかね?」
「仕方ありません。その、彼女は普通じゃないパイロットですので……」
「その彼女をスカウトしたいんだけど、構わないかい?」
「……私でも御せないので、胃が強くない方にはお勧めできませんね」
「ご苦労様、それは僕も手を引っ込めたくなる案件だね」
上司達の話は聞かないことにして、かの戦艦が向かい合っている理由としては言わずもがな。捕虜と化した砂漠の虎殿と、その部下たちの回収のためである。
なお、双方合意の上で停戦状態になっているのでどちらも非武装状態で、日陰にするための空コンテナを設置してその日陰にテントを張り、テーブルを設置して簡易の調印場所も用意してある。
「さて、そちらからの要求としてはこちらの本拠地での物資購入の黙認と地球上での航路の確保だったね。確かに必要不可欠だろう、そう言ったものは」
砂漠の虎が抑えている本拠地である市街にて地球を征くために必要な物資やパーツの複製などに必要な鋼材等々の補給を堂々とできるならばこっちとしてはありがたく。そして何より……
「そして、姫の身柄を私に預けるのが本命かな? この件に関しては、護送の依頼を直に受けているイリア中尉殿が判断する内容ではあると思うけど、どうなのかな?」
件のラクスに関してはバルトフェルド氏が見るたびに硬直するので胃薬と共に水を差し出しておいた。この場に最もいて欲しくないだろうから、アークエンジェルに一旦帰ってもらったのである。
「こちらとしては、ラクス嬢の判断次第です。彼女がここがゴールだと決めたのであればそこまでですので。ただ……ここらは‘明けの砂漠’、そして‘
奴らのやったことはまぁ酷かった。幼少の頃、オーブの平和な街に済んでいたのだが。ブルーコスモスの息がかかったナチュラルが自爆テロを敢行、コーディネイターもナチュラルも無差別に狙うテロだった。
運悪くその現場に居合わせたおかげで、幼女だった私は大怪我するし失血性ショックで死にかけた。
コーディネイターだから生きていた……のかはわからないが。母さんに聞いた話だと、普通は死んでいてもおかしくなかったらしい。
「おお、とても辛辣で何より同意できる言い草だね。君も被害を受けたのかな?」
「オーブにいた頃、キラもまだ小さかった頃に奴らの煽動したテロに巻き込まれて死にかけた思い出がありますので、そりゃぁ、大大大っ嫌いですよ」
「……よほどな目にあった様だね。すまない、嫌なことを聞いてしまった」
「どうも、お気になさらないでください」
いかん、今ので自動的にSEEDが発現してしまった……頭が冴え渡る、透き通る感覚で……人の気配を感じる。1キロ圏内にしっかりと感じる。
「……ラミアス艦長、自分は少し冷静になる時間が必要と判断します」
「ヒェッ……イリアさん、その目は……っ」
「時間が必要と思います」
「わ、わかったわ。しばらく離れることを許可します」
SEEDの発動してしまった状態では威圧感やプレッシャーが自然と増してしまう。何より、ニュータイプ特有の‘圧’が全開になってしまうので、こう言う場で萎縮させるのも申し訳ない訳だ。
「すみません。何分、感情が昂るとこうなってしまう体質なので」
「それは……なるほど、こりゃ勝てない訳だ。ラミアス艦長、こちらから仕掛けることはもう無い。‘勝てない戦争’なんて馬鹿なことは、する必要はないからね」
「バルトフェルド殿、それは一体どう言う……」
部下を無駄死にさせるのは愚将だろう、と呟きながらラミアス艦長にSEEDの存在を明かすバルトフェルド氏達から離れながら、私は今後についてを考える。
ここで16〜19話を短縮してさっさとカガリを説き伏せてテロ活動をやめさせると同時にオーブに向かいたい。
「殺したいわけがない。なんならあの2人には幸せになってもらいたいし……」
どう言うことかと言うと、前世の私の推しカプなのである。バルトフェルド氏と恋人であるアイシャさんはこの先の運命が起こす、無慈悲な悲劇の別れをどうにかして阻止したいと思っている。
彼は報われないといけないくらいに頑張ってる人だし、ラクスにとって必要な人だし。そして、個人的にはエゴだ。私のエゴだ!
「さて、と」
今はノーマルスーツじゃないので高めの砂丘に登ってガジェットのアンテナを伸ばす。そして、レジスタンスの使っている周波数で通信を飛ばす。
Nジャマーの影響もあるけど、1キロ圏内であればかろうじて通信は届くのである。
「こんにちは、レジスタンスの皆さん。気を伺っているところ悪いですが、テロ行為をお控え頂けると幸いです。地球軍とザフト北部アフリカ駐留軍は一時停戦中です」
『……だれだ!?』
「そして、カガリ・ユラ・アスハ殿。オーブ連合首長国の姫が何やってるのかな?」
『……はぁっ!? 貴様何者だっ、どうして私の名前を……しまった……』
はい、通信先では大慌てである。スピーカーにしてたんだろうね。こちらから特大の爆弾叩き込まれて大騒ぎしてるのを尻目に、砂丘をいそいそと降りる。混乱してる分にはこっちに仕掛ける余裕なんてないでしょう。
「ただいま、戻りました」
「お帰りなさい、いったい何をしにいっていたの?」
「レジスタンスの暴挙を一手先に潰しておいただけです」
「そう、レジスタンスの……レジスタンスっ!?」
「イリア中尉、君は人間レーダーか何かなのかね?」
ド失礼なことを宣った虎に関しては無視しつつ。砂塵巻き上げてバギーがこちらに走ってくるのが見える。武装していないので慌てる両陣営を手で制しつつ、私は彼らを出迎える様に仁王立ちする。
「お待ちしていました、と言うべきかしら。カガリ様?」
「声からしてもしかしてと思っていたらお前は……あの時のっ!?」
「はい、お姉ちゃんですよ?」
「巫山戯るなっ! 私に姉妹は居ない!」
「そう言うと思って、はい」
ジャケットのポケットから写真を一枚差し出す。なんだ、といいつつ受け取る辺りは素直だなぁって感じつつ。写真を見て驚愕している様子に、私はうんうんと頷いて。
「この赤ん坊は……それにその髪……っ」
「そうね、お母様の肩によじ登ってあなた達の顔を見ようと一所懸命になってるのが、私だよ」
茶髪、金髪の赤子を愛おしそうに抱くのはお母様のヴィア・ヒビキが写っており。その写真の裏にはキラ、カガリと名前が記されている。ウズミ様もこの写真を持っているが、まだ見せていないのだろう……すまんな、ウズミ様。フライングで知らせてしまった!
「ウズミ様とも私は面識があるみたいだけど、流石に私も覚えがないのよ」
「お父様と!?」
「母はヴィア・ヒビキ、父はまぁ、知らないほうがいいと思う。私も名前を言いたくないから」
母さんからほぼ全て聞いている。キラにはまだ教えていないが……この話は墓まで持っていくほうがいいと両親と確認しあっている厄ネタである。なお……理不尽な事実であるが、私は強化コーディネイター試作一号に当たるらしく。その私のデータを元に、キラはスーパーコーディネイターとしてデザインされた。
積み重ねた屍の数は私の方が上……まぁ、その辺は仕方ない。どうしようもないのだから。
「本当に、お前は私の姉になるのか?」
「ウズミ様に聞いてみればいいよ。今、確認できないけどね?」
ここはオーブから離れた北アフリカなのだから当然なのだが。
「「そんなわけがないだろう、お前の様なトンチキな女が私の姉だとか、天と地がひっくり返ってもありえんっ!」……!?」
「姉妹だから同じことを考えつけるのよ。何度でもハモってあげようか?」
さて……こちらのやりとりを聞いていたキラもラミアス艦長、バルトフェルド氏も狼狽して右往左往。いきなり、国家元首の娘がポップして。しかも私と姉妹、キラにとっては姉か、妹か。が現れたのだから当然混乱。
明けの砂漠の面々も共に歩んでいた少女が実は大物であるとわかり、メンバー全員が土下座して許しを乞う事態に。
「これなんてカオス?」
『いや、お前が言うなぁぁぁぁぁ!!』
「あいたぁっ!?」
総ツッコミを受ける羽目になり、ナタル副長からは拳骨をもらった。とはいえ、諸々の話はついていたので、明けの砂漠の面々も倒すべき相手であるバルトフェルド氏が今日は見逃す、大人しくしておいてくれるとこちらから手を出す理由がないので頼むから抵抗しないで欲しい。
と誠心誠意込めて、改めて話し合いの場を設けると誓い。今日のところはお開きとなった。
……マジで19話の惨劇回避できるんじゃないかなこれ?
────
「……カガリ」
「なんだ、アメフド」
この地で出会った少年兵は不思議そうな顔をしながら、ハーフトラックのハンドルを握りながら先程の少女の兵士を思い出していた。
「あのイリアとか言うのは本当にお前の姉さんなんだな」
「何を言うんだいきなり。私に姉はいない!」
「そう言ってもあの女は譲らないだろ。お前とそっくりだ」
「なんだとっ!?」
お冠一歩手前、地雷を踏み抜いたかと思いきや。少年の、次の一言で急速にカガリの頭は冷えることとなる。
「それに、最初見た時の冷徹さが。お前と話している時は、とても穏やかになっていた……安堵してた様に見えたぞ。俺には」
「……本当か? 私の前ではふざけている様にしか見えなかったが」
「兄弟を安心させるために、年長は大体ふざけて見せるだろう? あれに似てる……例えば、戦争の前にキサカが突拍子もないことをするのと同じだ」
「ああ、変顔で緊張を緩めるあれか。確かに……言われてみれば」
声音も、柔らかく。自分と同じ髪の、パイロットとその隣にいた茶髪の少年を思い出す。その少年も初見の時より、どこか見覚えがある顔立ちだった。
カガリは、全てはお父様に聞こうと決意を固める。そしてオーブに帰る手段を考えたが……あの船に乗せて貰えばいいのでは? とサイーブの提案もアリではないか、と苦悶する。あの女の正体を暴くためにも、近付く必要があることも。
「カガリ、俺は。お前がどこにいっても友だと誓う」
「いきなりなんだ、アメフド。らしくないぞ」
いつもの軽口ではなく、真剣な表情でそう言う彼に面食らうカガリ。その後に続く言葉は、予想できたので。先に口止める。
「……すまない、私には帰らなくてはいけない場所がある。だから、お前の想いには答えれない」
「そうか。いや、分かってるさ。だから、ここで玉砕することにしたんだよ」
そう言って、少年は自ずの初恋が砕け散ったことを認識する。
しばらくしてのことだが、明日を自棄に生きることをやめて。彼は真っ当に生きることとなる。レジスタンスは結果的にいえば解散。ザフト駐留軍の締め付けが緩くなり、北アフリカ戦線はナチュラルとコーディネイターが手を取り合って緑化することを優先に動く様になっていった。
これは砂漠地帯が故に、仕事というものにありつけない人々を救うために。バルトフェルドが自身の知識と学を用いて仕事を生み出すという荒技に乗り出したからだとのちに語られている。
争う理由がなくなれば、戦争という内紛も鳴りを潜めるということであり。時折テロは起こるがそれは全て秩序を乱す青い秋桜の仕業である。そう言った連中を潰すべく、バルトフェルドとその恋人アイシャは奔走した後にとあるタイミングで宇宙に戻るとされていた。
そのお話はまたの機会に語ろうと思う。翌日、カガリは明けの砂漠のメンバーに見送られ、アークエンジェルに乗り込むこととなるが、それはまた語ろう。
to be continued .