ストライクを着艦させて、私が先に降りて。キラがラダーで降りてきたところへ、好奇の視線を感じる。後頭部に突き刺さる様な感覚だなぁと振り返りつつ、新顔のクルー一同に視線を向ける。
乗ってたのが正規のパイロットでないのはご存知だろう。見知らないキャラはいないという事は、どうせ戦死してるだろうなぁと期待はせず。
歩み寄ってきたのはナタル・バジルール少尉、そして。ムウ・ラ・フラガ大尉だろうか? さっきのやりとりを見ていて察したわ……ご冥福をお祈りしておこう。
「君たち、ちょっといいかな……何してるの?」
「黙祷を。亡くなられた方々へ」
「ありがとう。そういう心使いは、ありがたいよ」
キラの元にみんなが集まっており、私も弟をかばうように前に出る。さっきの戦闘だってそうだが、キラのポテンシャルはやっぱり高い。私よりも滑らかに、最適な機動を行えるのは一種の才能だろうしね。
「俺はムウ。ムウ・ラ・フラガだ」
「私はイリア・ヤマトです。弟はキラ・ヤマト」
「イリア君とキラ君だね……一つ聞いていいかな?」
「いえ、此方から明かしたほうが良いですね、その応答は」
思考。彼の疑念をすかさず言語化する……自分の中にあるこの感覚は多分、そういう事なんだろう。思考を読むのではなく、心の声を聴く。知識と擦り合わせて、結論が導かれるこの感覚。
直感的物言いとか、そういう理屈抜きでわかる人の心の機微。宇宙で過ごすうちに花開いて行ったこの感覚はまさしく感応と言うべきかな?
「と、言うと?」
「先に申し開けておくと疑念にならないですよね? フラガ大尉はお気付きとは思いますが、私とキラは‘第一世代’のコーディネイターですよ」
「っ……俺の言いたい事がわかったの? なんのトリックだ……」
フラガさんの呟きをよそに。それを聞いた他の士官たちがじゃきっとアサルトライフルの銃口を向ける……私とキラをいつでも撃てる様にと。
「不思議な事ですか? このコロニー‘ヘリオポリス’は、皆さんがお忘れでなければ中立国のコロニーですよ。戦火に巻き込まれるなんて冗談じゃないってことで、こちらで過ごしてたんですよ。まぁ、現状こうなりましたけど?」
「全員、銃を下ろしなさい。彼女の言う通り、ここは中立国のコロニー……ごめんなさい、巻き込んでしまって」
「ラミアス大尉、貴女には助けてもらった恩があります。あのまま弟共々、空いてるシェルターを探して彷徨ってたら……いつ焼死してもおかしくなかったですから。それに、貴女の機転がなかったら後輩たちもあのジグーの掃射に巻き込まれて誰かが怪我をしてたかもしれません。本当にありがとうございました」
素直に頭を下げて、礼を言う。普通のコーディネイターならこんな行動をする事はない、なんてのは偏見かもしれな……くはないか。鼻が高いしプライドが厄介なんだ、アイツらは。
なんなら、あのクルーゼが相手。着々と、こちらを追い詰める一手を取るはずだ。コロニーのシャフトは現状無事、と言えるかはわからない。正史であったはずのミサイル攻撃がないからシャフトのほとんどが無事で、ヘリオポリスが崩壊しない……と言うのは無理がある。
「市民を守るのは軍人の責務よ、気にしないでちょうだい」
「なんかすまないなぁ、俺はただ聞きたかった。ただ、それだけなんだよ」
申し訳なさそうなフラガさんに、また申し訳なくなりつつ。ナタルさんもこちらに何かと言いたいこともあろうに言葉を飲み込んでくれた。
「いえ、そちらの誠意は十二分に理解しています。ですが、せめて後輩たちをここから避難させてあげる事はできませんか? 工業区のシェルターは無理でも、他なら空きはありますよね?」
「……それはできないわ。おそらく、現状の警戒レベルは9。シェルターのロックが解除できないのよ」
「そんなっ……いえ、わかりました。みんなも理解してくれる?」
ミリアリアの落胆。トールくんと出来てるのは知ってるけどあからさまにイチャつくのはやめーや……なんて言えるわけがない。不安なのは私だって不安だ。
「元気出せって、ミリー、トール。お袋たちだってちゃんと避難できてるよ」
「カズイ……ありがとう」
「わかりました。僕たちもそれに関してはどうしようもないので……いいよな、キラ」
「うん……でも、ザフトはまた来るなら……誰が戦うんですか? 正規のパイロットはいないんですか!?」
「キラ、さっきの話の通りだと。すでに……」
「そんなの……くっ、なら。アレには僕が乗る! それなら、姉さんが乗る必要はないですよね?!」
「「「「ええっ!?」」」」
みんなが驚いてるけどなん……あれ、ナンデ!? 我が弟は狂戦士ではなかったよね!? 姉さんが乗る必要はないってどう言うコト……?
「キラ……?」
「いつも、助けられてばっかりなんだ。僕は姉さんに……だから、僕が姉さんを守るんだ!」
これ、シスコン拗らしてない? 小学校までしか一緒に入浴するとかはなかったし、そんな、ええ? いや、大事な家族だから愛情を注いで接したのは確かだけど……母さんと父さん以上に褒めたり、慰めたりしてたな……それだけでこんなに拗らすの?!
「そ、その辺はおいおいね、キラ」
「ご、ごめん」
とはいえ、ここは絶対に崩壊するのは確定路線だ。次に来るジンは所謂拠点強襲装備のはず。デカいミサイルに携行可能にした大型のビーム砲を持ち込んでくるのだから無事で済むはずがない。
どうこうはできまい……コロニーはそこまで頑丈じゃないのはよく知ってる。慣性モーメントを利用して回転させて擬似引力を発生させれる強靭性もあるけど、どうしてもそう言った物を対象に兵器は発展するから、アグニみたいにバ火力武器が作られるんだよね。
「さて、じゃあそろそろ準備した方がいいんじゃない?」
「フラガ大尉?」
「外で待ち構えてるのはクルーゼだぜ?」
アークエンジェルのクルーの皆さんは表情を強張らせる。これは畏怖、そして憎しみの感情か……やっぱりクルーゼか、と言う顔はしないでおく。
「アイツはしつこいぞ〜?」
よくご存知で。決着まで、彼らの因縁が絶えないんだけど、そこからキラとの因縁に移っていくのはよくできた描写だった。
「ザフトのエースでしたか。なるほど、悪名高いクルーゼ隊なら……納得できます」
「お、嬢ちゃんも知ってるのか?」
「ええ、ニュースで聞かない名前はないビッグネームですよ?」
「ははっ、そうかい。なら聞きたいんだけど、アイツらならどう攻めてくると思う?」
……それを私に振るのか!? まぁ、少しくらいならいいか?
「あくまでも予測の範疇ですけど、拠点強襲装備のジンで編成を組んでくると睨みます。彼らからすれば、このコロニーはすでに敵性拠点。崩壊の配慮など不要と大型兵装で攻め立てるのが筋ですね」
「ご名答、俺もそれは睨んでる。だからこそ、な」
そこまでいえば時間がないことを悟り、クルーは慌ただしく。整備のために準備を開始していく。ストライクに乗り込んだキラが一番やる気を出してるのが笑えなかった……どうしてこうなった!?
慌ただしく忙しなく、物品の積み込みが始まり。私たちは休むべきだと、居住エリアに案内されて一息つけたと思ったら。すぐに警報が艦内に鳴り響く……やっぱ来るんだね、アスラン。
──────
「キラ、約束して。必ず帰ってくるって」
ストライクに向かう弟を抱き止めて、彼女は目尻に涙を滲ませる。自らの手で戦えないと言う事実に歯噛みするその様子をマリュー・ラミアスはやるせ無い気持ちを抱えながら見守っていた。
「心配しないで、姉さん。僕が行かなきゃ、みんなが死んじゃうんだ。だから、僕は行ってくるよ」
「ごめんね、キラ……」
離れていく弟の背を見送り、後輩たちに励ましの声を送る様は年長の使命感を感じさせる。そんな善良なコーディネイターの少女にアレを任せるのか、と葛藤していた。
と言うのも、解決策ならばある。彼女のプログラミングの腕前に依存する形で申し訳ないが、もう一機の試作のモビルスーツが。この艦内に搭乗している。
「一つ、方法はあるわ」
「ラミアス艦長……?」
「イリアさん。貴女に覚悟があるなら、モビルスーツに乗ってくれる?」
「えっ……ストライクしか残ってないんですよね?」
奪取された4機に加えてストライクを運用するのがアークエンジェルの本来の用途である。しかし、その最古参の機体であるデュエルよりも前に。生産とテストを重ねた機体があるのだ。
「シルヴァと、マードック軍曹に聞いてくれれば、見せてくれるはずよ。行きなさい、‘イリア少尉’。艦長として許可します」
「……っ、拝命致します!」
アークエンジェルの艦内を走り、整備長のマードック軍曹の元に着く。事情を説明された彼は少しだけ葛藤して間を置いたが、艦長命令ならば仕方ないとしてイリアを案内する。そして彼女は格納庫の一角のハンガーに設置されていたその機体を見上げる。
「これが……シルヴァですか?」
「ああ、GAT-X101。Gの中で最初に開発がスタートした機体なんだよ。まぁ、最低限の機能しかないから棺桶だよこのままじゃな」
見上げた先にあったのはグレーに色が落ちていた機体。額にはあの象徴的な、鋭角に伸びたV字アンテナ。無骨で硬い印象を受けるその装甲のデザインはトリコロールにすれば映えそうだなぁなどと、無責任に考えていた。
彼女の知識と擦り合わせると合致する見た目のその機体。‘RX-78’シリーズで言えばセカンドロッドの系譜であるガンダム‘7号機’が脳裏をよぎった。
「フラガ大尉の機体として仕上げて欲しいとラミアス艦長から依頼がありまして……見てもいいですか?」
「そうかい……──元々こいつは廃棄するのが前提だった。地球に降ろしてそこでテストヘッドにする予定だったんだよ。好きにしな」
言われてすぐに、怪訝な顔をしながらも。縋るようにイリアは機体コックピットに向けて飛ぶと、すぐにOSの立ち上げと再構築を始めていく。
「おっとり刀で立ち行けるはずがない、こんなプログラムで歩行!? って言うかこれ、ムーバブルフレームに近い可動域持ってるなら運動性投げ捨てるんじゃないよ!」
ぶつくさと文句を言いながらも、引っ張り出した備え付けのキーボードを叩く。OS周りの問題を次々と解決していく。その手腕はまさに神業に等しい物であり、多くの整備士たちは組み上げられていくOSに驚愕を露わにしていた。
「足回り、腕周り、可動域ヨシ。武装は!? ストライクと共用可能なストライカーコネクタ持ちの機体? なにそれ、最高じゃん! だけど欲しいのはビームライフルとかよりもバズーカとかの火力の高い武器なんだよなぁ!」
補給される物品のリストを見て、ある物を目に留める。それはバズーカと、大きな重斬刀だった。
「グランドスラムにバズーカ……これなら!」
シルヴァを起動してイリアはマードックに通信を試みる。
「ハッチ開けてください! 換装は無しでお願いします! でも武器はください!」
「お前ら、聞いたな!?」
彼らの対応に感謝しながら、イリアは滑らかな挙動でカタパルトへ機体を移動させる。グランドスラムを肩のハードポイントに接続して、バズーカを携行火器に選択。そして、彼女は戦場へと駆け出していったのだった。
to be continued .