機動戦士ガンダムSEED レディ・アヴァロン   作:鳥頭

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Phase8 歌姫降臨

 あの騒ぎのあと、心を落ち着かせて私は任務に励んだ。決して罪滅ぼしじゃない……討ってしまった相手に対しては悪いが、戦争中なんだから。武器を向け合ってテーブルに付くなんて行儀の悪いことができるかってお話である。

 

「本当に……君は落とし物を拾うのが好きだな」

「あはは……弟はよく交番に落とし物を届けてましたから」

「拾うように指示したのは貴様だろうが……」

「見逃したら不味い気がしましたんで」

「根拠はお得意の勘か?」

 

 無言で頷くと、こめかみを揉むようにしてやれやれと。眉根を寄せるナタル少尉にフォローを入れつつ、キラが何を拾ったかと言うと……格納庫に設置されている、現在マードック軍曹がエアロックを解除している最中の救命ポットである。いやまぁ、今回の勘は運命だから仕方ない。

 

 なんなら、私が見つけてなくても……拾ってたよキラは。と言う確信があるがまぁ、ナタル少尉からすれば厄ネタな訳だ。アークエンジェルは第二種戦闘配備に近い状態の極秘任務を受けているようなややこしい状態だから、また避難民が増えるのはノーサンキューってわけで。

 

「ロック、解除。開けますぜ」

 

 士官たちが頷き、アサルトライフルをロックが解除された救命ポッドのハッチに向ける。何が出てきても、すぐに撃てるようにと。

 隔壁が開いて、そこから出てきたのは……ガンダムシリーズでお馴染みのアイツだった。元はバスケットボールくらいのサイズだったと言うに。

 

「ハロハロ、ラクス、ハロ」

「ありがとう、ご苦労様です」

 

 ピンク色の丸い愛玩ロボで、通称は‘ハロ’だ。私とキラがよーく知ってる奴が作った代物で、持ち主はまぁ言わずと知れた……うん、間違いない。

 純真無垢という言葉がお似合いの生粋のお嬢様にして、プラントのトップアイドル。平和の象徴と言われる歌姫の……。

 

「あら? あらあら?」

 

 誰もが絶句するくらいの美少女がいきなり出てきて誰も動かないでやんの。と思っていたが、キラがほぼ無意識に手を差し伸べる。そのまま飛んで行ったら壁に衝突していただろうね。

 とりあえずハロはこっちでキャッチしておく。あっコラ逃げんなっ! ハロハロうるさいなこれ。

 

「ありがとう。ピンクちゃんはお静かに」

「あっ、いえ……」

「あら、あらあら? これは、ザフトの船ではありませんのね?」

 

 スッと視線がキラの肩、地球軍のマークに向かい。ラクス嬢は困惑の表情を浮かべる。どっちかと言えば困った表情かな? 

 

「……失礼を承知で尋ねますけど、ラクス・クライン嬢で間違いありませんか?」

「はい、私はラクス・クライン。貴女のお名前は?」

「お会いできて光栄です、ラクス嬢……私はイリア・ヤマト少尉です」

 

 地球軍式の敬礼で返しつつ、そっと射線に身を滑り込ませて銃を向ける士官たちを一瞥して牽制する。万が一に彼女を傷つけたら……プラントと地球軍がガチ滅亡戦争を勃発させかねないからだ。

 

「皆さん、銃を降ろしてください。彼女に怪我をさせたらプラントが本気で地球を攻めかねませんから」

「まさか、‘シーゲル・クライン’のご息女……?」

「まぁ、お父様をご存じなの?」

 

 ラミアス艦長の呟きに神妙な顔で、無言で頷いて首肯する。天然を演じてる強かなお嬢様はこの場を切り抜けるべく……惚けて見せていた。

 

「艦長、彼女に事情を伺うべきではないでしょうか?」

「いつもより7割増しでシッカリしてるのはどういうことだ……?」

「ね、姉さんが緊張してる……」

 

 弟よ、口に出すな。緊張するわ、このカリスマ性に飲まれたら最期。熱狂的な信徒になっちまうんだぞ……! クライン派のやらかしてることを顧みれば、厄介この上ないんだ。フリーダムの強奪の手引きしたり……うんまぁ……戦後は隠遁してたから糾弾も意味がなかったと思うが……ちがう、今は関係ない! 

 

「え、えぇ……クライン嬢、事情を説明いただきたく。案内いたします」

「ありがとう、えーと?」

「大西洋連邦所属のマリュー・ラミアス大尉であります。この艦の艦長を務めております、以後お見知りおきを」

 

 艦長たちは彼女を連れ立ち、個室へと案内して行った。ともかく、搬入作業が終わったわけじゃないから。一旦の休憩は終わりで、再度ノーマルスーツに着替えてシルヴァに乗り込むのだった。

 

 ────

 

 大体のことは予想がつく。まぁ……彼女の天然ムーヴはそう演じて情報を少しでも集めるための定石なのだろう。やがて、搬入作業も終わって状況の整理等々も落ち着いから。ようやく私はシルヴァをハンガーに固定してもらい、コックピットから降りることができた。

 

「これで当分は水に困らなくて済みそうだな」

「手作業で洗浄するのはもう懲り懲りですよ……」

 

 作業員たちのつぶやきをよそに、着替えのために更衣室へ向かう。あのジンがラクス嬢を探しに来ていたとしても、あそこで見逃せばこっちにまた被害が出ていただろう……撃たれる前に撃っておいて良かったと言うべきか。

 

「姉さん……気負わないで」

「気にしなくていいよキラ。私の意思で引き金を引いたんだから」

 

 更衣室から出たら、キラが待ってくれていた。他愛のない会話……システム関連の改良点等々の意見交換をして……弟の気遣いが身に染みる。そんな感じで、艦内を歩いて気を紛らしていた時に。

 

「嫌よ! いやったら嫌!」

「フレイっ!」

 

 食堂から何かしらの騒ぎ、キラと顔を見合わせてそちらに向かう。

 

「どうしたの?」

「ん、キラか……あの女の子の食事だよ。ミリィがフレイに頼んだら、嫌がってるってところ」

 

 キラが問題に首を突っ込み、事の顛末をカズイくんが説明してくれる。なるほど、まぁ……

 

「アルスターのご令嬢だものね。それなら私が持って行くよ」

「いいんですか、イリア先輩」

「先輩っ! 甘やかしたらダメです!」

 

 ぱぁっ、と明るくなるフレイ。諫めるように食ってかかるミリーの構図に、苦笑を浮かべながら私は諭す。

 

「ミリー、無理強いはしたくないの。快く手伝ってくれるならまだしも、コーディネイターが怖いなら仕方がないよ」

 

 フレイから感じるそれは怯えだ。コーディネイターに対しての差別的ソレではないが、純粋な恐怖……

 

「見ず知らずの他人で、ましてやプラント本国のコーディネイター相手なら気持ちは分かるよ」

「ほら、イリア先輩もこう言ってくれてるから……」

 

 悲しいが、何があってもフレイはこの態度を改めないだろう。ブルーコスモスと言う組織に関わっている家庭出身なら大体そんなものなのだ。

 食い下がろうと言うミリーの剣幕はいまだに歪み険しい、だからこそ。私は笑って過ごす。

 

「とりあえず、役割分担ね? 何があっても私なら平気だから」

 

 そう言って、食事のトレーを届けようと振り返ったら……

 

「此処にいらしたんですね、探しました。イリアさん」

「「「「なっ!?」」」」

「……光栄の極みって言っておくべきですか?」

「ふふ、それはお任せしますわ」

 

 件のコーディネイター。ラクス嬢が艦内を歩き回っていた……無駄にハイテクなんだよね、ハロって。

 

 ────

 

「つまり、鍵は開けた。外の人にも声をかけたけど返事がなくて出たんですね」

「はい、笑わないでいただきたいんですけど。お腹も空いて、喉も乾いてしまいまして」

「避難民相手に待遇改善で訴えられたら、こちらが負ける案件ですよ? とは言え……士官が足りてない点からお察しいただきたく」

 

 ラクスを連れて、イリアは艦内を歩く。ハロが煩いが、それを無視して他愛のない話題で話を繋ぐ。

 

「ラクス嬢の志しもご立派ですね。私の弟と大して変わらないでしょうに」

 

 ラクス・クラインの信念を知ってるが故に、イリアは彼女を肯定する。そのカリスマ性にビクビクしているが、それでも邁進できる精神的な強さにはリアルタイムで眺めていた頃にも感銘を受けたほどである。

 

「歳は関係ないと思います。なすべきことをせねばいけないのは誰しもが持つ事でしょう?」

「それはその通り。だけど、その歳でそんな考え方ができるのが恐ろしいって意味でもありますよ」

「そんなものなのでしょうか?」

 

 むむむ、と眉を八の字に寄せて悩むそぶりを見せるラクスにイリアは毒気抜かれたように苦笑を浮かべる。内情は読み取ってしまっているが故に。そして、彼女の本性を知っているが故に。

 

「それはそれとして、‘無知を装う’のはその辺になさっては?」

「……やはり、気がついていたんですね」

「自然な視線の流れであちこち見回すあたり、相応に警戒と好奇が見え隠れしてるんだよね。地球軍相手だとまぁ、そうなっても仕方ないと思うけどさ」

「ふふっ、それは確かに。でも、大胆に動くべき時もありますから」

「こんなふうに艦内を練り歩くのも危険だって言うのに。まぁ、同じ存在(コーディネイター)だからこそわかることもあるけどね」

 

 道ゆく避難民たちと会話して、実情を知るように振る舞うラクスを部屋まで送り届けて。食堂での顛末が彼女の後ろ髪を引く、そのことを見抜いたイリアは自身のガジェットからサブ端末をラクスに渡す。

 

「フレイに言われたことを気にしても仕方ないわ。彼女はブルーコスモスでそこそこな地位にある‘アルスター’だから」

「わかっております……それは?」

「何か用事がある時は、これで連絡をよこして。外に出たい時とか」

 

 使い方を説明するとすぐに覚えた様子からみても、相応なコーディネイターだなと再認識しつつ。

 

「アプリとかも入れてあるから、遊んで過ごせばいいと思うわ。じゃあ、次は勝手に出歩いちゃダメよ?」

「……わかりました。お時間がある時に、また」

 

 こう言って聞いてくれるのかは怪しいが、少しだけ寂しそうな彼女の様子を見てイリアは内情を察する。しかし、形だけとは言え自分は軍事に従じている都合。敵勢力の重要人物を野放しにはできないのだから。

 

「そうね、暇な時はキラにも話を振ったらいいわ。それには通話機能もあるし……私とキラだけの秘匿回線みたいなのもね」

「……本当に貰ってよろしいのですか?」

「構わないわ。いつでも作ろうと思ったら作れるからね」

 

 そう言って、イリアはラクスの部屋を後にする。すかさず、ラクスからメッセージが送付されていたのに気がついた彼女が添付ファイルを開くと……歌が聞こえてきた。

 平和を望む、儚げであってもめげない力強い祈りが困った声音に耳を奪われる。

 

「あちゃぁ〜……‘参りました’って言うべきかな?」

 

 してやられた、‘心を奪われた’ことに苦笑しながら。イリアはフラガ大尉が格納庫で行うシルヴァの慣熟訓練に付き合うべく、急行するのでした。

 

 to be continued .

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