黄昏日記   作:イナバの書き置き

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第3話「仕事とラーメン」

○月Σ日(金)

 

 アウトローとして働く以上現場の経験も必要だろうとのことで、今日はアル社長たちに同行させて貰った。

 依頼の内容はブラックマーケットでの現金移送の護衛で、経験の無さからムツキさん、ハルカ先輩のバックアップを担当することになっていたが……後ろから見ているだけでも大丈夫、と言われた割にはまあまま良く働けた方なのではないだろうか。

 特にハルカ先輩との連携は上手く行った──彼女が突っ込んで敵を蹴散らしている間に、後ろを取りそうなヤツを俺が牽制するのは即興の作戦ながらかなり成功していたように思う。

 相変わらず人に銃を向けるのは気が引けるけれど、当たらないなら当たらないなりに弾をばら撒いて足止めをするとか瓦礫を撃って顔を引っ込めさせるとか、それだけでも先輩が次に突っ込む相手を探す時間稼ぎには一応なっていたのだから、全くの役立たずと言う訳でもあるまい。

 ハルカ先輩からは「え、援護ありがとうございます……」なんてお礼をされてしまったし、一人で大暴れしていたムツキさんにも「思ったよりはやるんじゃない?」との有難いお言葉を頂いたのでほんの少しだけ自信が付いてきたような気がする。

 まあ、一人も倒せていないのだからアウトローとして未だ未熟者以下なのには変わりない。

 もっと練習を重ねて苦手意識を消せるように頑張ろう。

 

 それにしても……ハルカ先輩もムツキさんも、何と言うか凄まじい暴れっ振りだった。

 千切っては投げしか言いようのないレベルで襲撃者たちを次々に無力化していくし、果ては突っ込んできた装甲車も容易く迎撃してしまうのだから脱帽するしかない。

 アル社長の言葉を疑っていた訳ではないが、便利屋の斬り込み役と突撃隊長と言う肩書に嘘偽りは無いと痛感させられた。

 特にハルカ先輩の……あのタフネスは何なのだろうか。

 被弾しても平気なだけならまだ分かるが(流石にこの辺の常識には慣れてきた)、狙撃も爆破もまるで堪えた様子がない──派手に吹っ飛びこそするものの、次の瞬間には立ち上がって猛然と突撃していく姿は本当に不死身なんじゃないかと思わせるほど。

 それに普段の控え目な物腰が嘘のような気迫も味方の自分が怯んでしまうほどに凄まじく、まるで難攻不落の重戦車が人の形を取ったみたいな大活躍にはただただ感服するばかりだ。

 そんな彼女の尊敬を集めるアル社長の「器」を改めて再確認させられると共に、ハルカ先輩の指導を受けられる自分自身の興奮を噛み締める1日だった。

 この経験は、銃弾飛び交うキヴォトスを生き抜く糧になるに違いない。

 

 

 

 そう言えば、の話になるが。

 依頼こそ完遂したものの、最終的に目的地である銀行も戦場になってしまったのだが……果たしてあれは大丈夫なんだろうか。

 契約書を見る限りではその辺りの損失は向こうが負担してくれるように思えるけれど、正直に言ってこの手の輩の話は信じて良いのか疑わしいものだ。

 

 

 

○月₩日(日)

 

 やりやがった。

 アイツらやりやがった。

 このツケは必ず払わせてやる。

 

 

 

○月*日(月)

 

 スッキリした。

 良い仕事をすると良い気分になるものだ。

 

 

 

○月~日(火)

 

 幾ら何でも最近日記の内容が適当過ぎたと思うので、あった出来事を纏めて書いていくことにする。

 

 先ず最初に──これは今思い出しても本当に腹立たしいのだが、一言で纏めると便利屋は謀られた。

 連中から振り込まれた依頼料は提示された金額の半分にも満たず、挙句に損壊した建物の修理費を請求してくる始末。

 これは損害の補填などについて記されたものに建造物は含まないと言う契約書の穴を利用されたこちらの落ち度だが、しかしブラックマーケットでは一般的に依頼者側がその辺りの損害を持つものらしい。

 つまり、これは互いの信頼によって成り立つビジネスを無碍にする最低最悪の愚行と言えるだろう。

 アル社長も気付いた上で敢えて見逃していたのだろうし、その寛大さに付け込んでブラックマーケットの不文律を破った連中は最早ビジネスの相手とは呼べるまい。

 しかし……自分がこんなにキレやすい性格だとは思わなかった。

 便利屋が恩人だからと言うのはあるだろうけれど、連中の不義理を聞いた途端我を忘れて突撃しそうになっていたので、首根っこを捕まえてもっと良いやり方があると落ち着かせてくれたムツキさんには感謝しかない。

 

 と言うことで、昨日は例の銀行に「お話」をしに行ってきた。

 メンバーはカヨコさん、ハルカ先輩、そして俺。

 カヨコさんが最後通牒を通告して、拒絶されたならハルカ先輩と俺で実力行使に出ると言う想定だったのだが──ヤツらは抗議に来ることを見越していたのか、何と俺たちが銀行に入るなり銃をぶっ放してきやがったのである。

 アウトローの風上どころかビジネスに携わる人間の風上にも置けない、何処までも見下げ果てた連中だ。

 しかしそこは流石のハルカ先輩、「丁寧に」「くれぐれも失礼の無いように」と言うアル社長の御言葉をしっかりと分かっていたようで、発砲と同時に予め仕掛けていた爆弾を起爆させて無駄に形だけ立派な銀行を一瞬で瓦礫の山に変えてしまった。

 後はヤツらが処分しようとしていた契約書類を俺がコソコソっと回収し、カヨコさんが手切れ金代わりの修理費が入った鞄を置いて撤収すれば「お話」は終わりだ。

 ついでに結構ヤバめな取り引き(違法薬物など)に関する書類も見付けたのでヴァルキューレに通報もしておいた。

 インフラ関連ではカイザーコーポレーションが圧倒的に幅を利かせるこのキヴォトスで新しく銀行事業に参入するなんて中々度胸のある連中だと思っていたが、こうまで大事にすれば今後ブラックマーケットに彼らが復帰することは出来ないだろう。

 

 

 

 帰ったらアル社長がびっくりしていた。

 まあ確かに社長からは「丁寧なお話」を言い渡されていた訳で、それがハルカ先輩共々煤まみれだったら驚きもするだろう。

 あれだけ派手に爆破したのに、埃一つ付けずに悠々としているカヨコさんの立ち回りの上手さは見習わなくてはならない。

 

 

 

○月>日(火)

 

 先日の働きを認められ(?)、依頼の際はハルカ先輩と組んで行動することを言い渡された。

 便利屋の社則によればアルバイトの待遇は平社員相当なので、実質的に平社員コンビ結成と言う訳だ。

 それで、結成記念として夕食はハルカ先輩と一緒にラーメン屋で食べたのだが……これがかなり美味しかった。

 スープのコクは抜群、麺のコシも程よく、自分の表現力の無さが悔やまれるほどに奥深い風味。

 にも関わらず値段は580円と、自分たちのようなやや財布事情が厳しいアウトローにもお手頃の価格に抑えられている。

 人情溢れる大将の人格やアルバイトの子の溌剌とした雰囲気もあってか、兎にも角にも居心地が良い。

 外食ばっかりだとあっという間にお金が尽きるのである程度自制は必要だと思うが、また機会があったら食べに行きたいと思う。

 

 

 

○月<日(水)

 

 先日のラーメンで少し食に目覚めたので自炊を頑張ってみているのだが、ムツキさんによればゲヘナ学園には美食研究会なる部活も存在するらしい。

 何でもキヴォトス各地の飲食店に現れては料理のレビューをしていく生徒の集団なのだが、彼女らのお眼鏡に敵わなかった店は爆破されてしまうんだとか。

 その為キヴォトスでも屈指のテロリスト集団として悪名を馳せている一方で、研究会の襲撃から無事に生き延びた料理屋はそれだけで箔が付いて客が殺到するようになるのだと言う。

 キヴォトスらしいと言うか、何と言うか……まあ何はともあれ、彼女らのレビューは信用出来る。

 SNSに公式アカウントも持っているようなので、フォローしておいて今後は参考にしてみるのもありかもしれない。

 

 

 

○月^日(木)

 

 便利屋は依頼が来なければ基本的に暇だ。

 なので事務仕事が終わってしまえば後は自由時間になってしまう。

 銃の手入れをしているアル社長に音楽鑑賞をしているカヨコさん、後はフラッと姿を消しては何時の間にか戻ってきているムツキさんがいる中で、今のところ自分にはこれと言ってしたいことがない。

 記憶喪失の弊害故、隙間時間にすることと言えばキヴォトスの地理や常識を学ぶか銃の練習くらいしかないのである。

 そういう時に何をしているんだろうと思ってハルカ先輩に訊いてみれば、何とアルバイトをしているらしい。

 短時間で始められるものから探してみるのも考えておこう。

 

追記:

 アル社長によれば、近頃はカタカタヘルメット団とか言う珍妙な名前をした不良集団がこの辺りで出没しているらしい。

 たかが不良とは言っても自分のようなへなちょこ虚弱体質には十分脅威になるので、カツアゲに遭って便利屋の看板に泥を塗らないよう注意が必要だ。

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

 

 

〔黄 昏 日 記〕

黒見セリカ

 

 

 

▲▼▲▼▲

 

 

 

 黒見セリカは九億の到底学生の手には負えない借金と砂漠化して最早何の生産性も無い土地を背負い、日々迫る利子と返済に苦心するアビドス高等学校の一年生である。

 口ではこんな学校さっさと潰れてしまえばいいとツンケンした言葉を吐きつつも、その実誰よりアビドスを愛して止まない熱いハートを秘めた彼女だが、それを表立って口にすることはない。

 ポロっとでも漏らそうものなら、うへうへと煩い先輩や、寡黙に見えて時々凄まじく突飛な行動に出る先輩にからかわれるのは目に見えていたからだ。

 そして、だからこそ皆に黙ってアルバイトの掛け持ちをしていた訳だが────

 

「いらっしゃいま、せ……?」

 

 その日、その客を一目見た瞬間。

 セリカは思わず自分の役目すら忘れてしまうほどの、強い違和感に襲われた。

 

「え、えっと……()()()このお店で一番安いのを……」

 

 二人組の片割れ、ゲヘナの制服を纏った小柄な少女……伊草ハルカの方は名前こそ知らないものの覚えがある。

 様子を窺う限りセリカと同じアルバイターであるらしく、初めて来店した時の店で一番安いメニューは何かと恐る恐る訊いてくる姿には苦学生同士心の中で密かにエールを送ったものだ。

 それからも時折姿を見せては毎度同じラーメンを注文するものだから、セリカもすっかりその丸まり気味な背格好を覚えてしまっていた。

 

「安いのが美味いんですか?」

「こ、ここのラーメンは、値段と質の両立が出来てて……キヴォトス中周っても、め、滅多にないようなとこなんです」

「成る程……じゃあ俺も同じやつお願いします」

 

 問題は、もう一人──パリッとしたシャツにスラックスと言った出立ちの少年の方だ。

 一見すると、隣に堅苦しいゲヘナの制服をきっちり着こなすハルカが並んでいるからか仲の良い兄妹のように見えなくもない。

 実際、セリカも入店したその瞬間は兄がいたのかと言う方面で驚いただけで、テーブルに案内しながら観察してもその背格好や立ち振る舞いに特段おかしな点は見当たらなかった。

 だが、彼らが座って、お冷を出して、注文を取って──そこで漸く気付く。

 

(……アビドスの、学生証?)

 

 彼が首から下げているネームホルダー。

 入店した時は光の加減か真っ黒に塗り潰されているように見えたそれが、いつの間にかその輪郭をハッキリと見せていて──それは間違いなく、アビドスの学生証だった。

 形も、刻まれたアビドスの校章も寸分の違いなくセリカ自身が胸元に着けているそれと一致している。

 記された名は、黄昏──アビドス高等学校2年生の■■黄昏と、これもまたハッキリと記されている。

 間違いなく、彼はアビドスの生徒だ。

 しかし。

 

 ──アビドスにそんな名前の生徒は存在しない

 

 現在廃校寸前のアビドス高校に在籍する生徒は、小鳥遊ホシノ、砂狼シロコ、十六夜ノノミ、奥空アヤネ、そして黒見セリカの5人のみ。

 たったこれだけしかいないのに、6人目を忘れているなんてことがある筈がない。

 いくらセリカが騙されやすく──警戒心が強い割に眉唾物の儲け話を本気にしてしまう気質であったとしても、そんな簡単なことを間違えるなんて有り得ないのだ。

 況してや所属校の偽造など、下手をすれば自治区間の正面衝突にすらなりかねない重大な犯罪だ。

 どの学校も何かにつけて勢力を拡大したり相手を出し抜くことばかり考えていたりはするが、最低限の分別は出来ている筈なのに。

 それをアビドスで、よりにもよってアビドスの生徒の前で暴露する意味は何なのか。

 誰が、一体何の為にこんなことを────

 

「あ、あの……」

「……へ?」

 

 思考の螺旋に飲み込まれていたセリカを呼び戻したのは、おずおずとしたハルカの声音だった。

 

「す、すいません……!も、もう売り切れてるとか……?」

「え、あ、えっと、あはは、ちょっとボーっとしてただけです!すぐにお持ちしますね!」

 

 頭を振って、雑念を振り払う。

 そうして愛想笑いついでに改めて少年の方を窺ってみれば、先ほどの色彩が嘘のようにネームプレートは黒く塗りつぶされた姿を取り戻している。

 それはそれで不自然だが、そういうファッションだと思えば然程違和感はない──この場で無理に追及するより、セリカの見間違いと判断する方が自然だった。

 

(……疲れてるのかな、私)

 

 思い返してみれば最近はほぼ毎日のようにアルバイトが入っていたし、場合によっては早朝の新聞配達をこなしてから通学する日だってあった。

 その上ヘルメット団の襲撃も日を追うごとに頻度を増しており、最後にゆっくりと休息を取れたのが何時なのかも思い出せない。

 それでもせめて利子の返済だけでももう少し猶予があれば、或いは昔シロコ先輩が話していた「資金繰りに強い同級生」がいてくれれば。

 そう、()()()()()()()()()()()()────

 

(……いや、まさかね)

 

 それは、有り得ない。

 確かに、セリカが入学する前にほんの数か月だけ男子生徒がアビドスに在籍していたと言う話は聞いたことがある。

 キヴォトスの外から来た彼は戦いにはまるで役に立たなかったが、その一方で資金繰りだとか株式だとか、今のセリカたちがあまり手の及んでいない方面にはかなり強く、数か月で相当な資産を築いていたとか。

 

 しかし──彼は、退学したのだ。

 

 築いた資産の全てをアビドス本校舎を買い戻すのに使い果たして、そのまま挨拶の一つも無しに外へ帰ってしまったとシロコは少し寂しそうに語っていた。

 別に仲が悪い訳でもなかったけれど、もう少しちゃんと話しておくんだった、とも。

 だから、いない。

 この場に、このアビドスに、自主退学者が戻ってくる筈がない。

 

「にしても、ハルカ先輩はいいよなーヘイロー格好良くて。俺のももうちょっとデザイン性あるやつだったら良かったのに……」

「そ、そうですか……?ヘイローの形とか、わ、私考えたことなくて……」

「マジか……でも、見て下さいよこれ。360度どっから見てもバキバキに割れた蛍光灯じゃないですか?」

 

 それに──どこかワクワクした様子でハルカと談笑する少年の頭上には、砕け散った破片を輪の形に並べたみたいなヘイローが、確かに浮いていた。

 対して、つい先日アビドスにやってきたシャーレの先生と同様、かの少年にはヘイローが無い。

 これはシロコのみならず、彼を知るホシノとノノミも同意していた純然たる事実である。

 況してや、だ。

 

 

 

 かつてアビドスに在籍していた者が、セリカの学生証に気付く素振りすら見せないなんて──そんなこと、本当にあるのだろうか。




◯陸八魔黄昏
アルの義弟兼キヴォトスセイトモドキ。
実力的にはそこら辺の不良にも負ける程度だが、恩義や尊敬もあってかアルに関する事柄での爆発はハルカとどっこいどっこいである。
例の顔を目撃すれば幾らかマシになるのだが、今のところアルへの評価は「滅茶苦茶格好良くて非の打ち所のないアウトロー」なので当面それが覆ることはない。

・学生証
特殊な塗料で塗り潰された(?)学生証。
特にICチップが埋め込まれていたりする訳でもなく、少年や便利屋は何の情報も読み取れなかった──ように見える。

◯伊草ハルカ
メインストーリーではアルたちと一緒に行った時が初来店だったが、こちらでは常連と言うほどでないにせよ時折柴関ラーメンを訪れている。





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