……僕の名前は斉木楠雄。——超能力者だ。
「……アーニャ。——アーニャもエスパーだ」
……テレパシー・サイコキネシス・透視・予知・テレポート・千里眼といった、ありとあらゆる特殊能力を備えている。僕がその気になれば、三日で世界を終わらせることもできるだろう。
「! わるいひと!?」
……とはいえ、そんなことをするつもりもないし、目立つことも嫌いだ。僕は注目されることを避けるために平凡で地味な男としてひっそりと生きていくのだ。
「ふぅ……ぜ、ぜんぜんおどろいてない!」
……いや、そのはずだったし、今でもそう思っているんだ。それなのに、世界がそれを許してくれない。
「せ、せかい……せかいせいふくをたくらむあくにん!?」
……面倒くさい事ばかりだが、それなりに充実していると思っていた学校生活。それがあと一年ちょっと続くと、ついさっきまでは信じていた。だが、その生活は突如終わりを告げて、僕の目の前には見知らぬ新しい景色が現れた。
「がっこう? アーニャべんきょーはやだ」
……今日もいつものように学校から帰宅し、自分の部屋に戻ろうとしたんだ。しかし階段を上がろうとした瞬間に急に全身が光に包まれ、テレポートする時のような感覚を覚えた。
やがて光がおさまると、そこは見知らぬ小さな部屋で、周りにはコンクリート製の壁、壁、壁。真ん中に子供向けの小さなマットレスがおいてあるのみ。
……一体どこなんだ、ここは。
「ここ、けんきゅーじょ」
……僕が今いるのは何かの施設。壁の向こうを透視してみるとよく分からない機械がたくさんある。
「とうし!? アーニャ、わくわくするっ!」
……何かの研究所なのかもしれない。
「……むぅ。アーニャもけんきゅうじょっておしえた」
……テレパシーで聞こえてくる言葉も、被検体がどうのだの、実験がどうのだのというものがほとんどだ。僕がここに飛ばされたのも、この研究所が原因ということか?
「アーニャ、おくちでおはなししてるよ」
……言い忘れたが、今の僕の目の前には、髪を頭の天辺で2つのお団子にまとめ、白い無地の服を着た、推定年齢四〜五歳の女の子がいる。僕がここに出現して、最初は目をひん剥いて驚愕していたが、急に目を輝かせて、それからは話しかけてもいないのに独り言をずっとしゃべっている。
「……あ〜、アーニャおへんじほしい〜」
(……)
現状を把握するのに精一杯だというのに、一体なんなんだこの女の子は。まるで僕のモノローグが聞こえているみたいな反応をしてくるじゃないか。
「ものろ? アーニャ、こころのこえきこえる。おまえといっしょ」
……ものろじゃない、モノローグだお嬢ちゃん。
「アーニャはアーニャ!」
……そうかアーニャちゃん。君は心の声が聞こえるんだね。僕と同じでテレパシーを使えると。
「うぃ」
そうかそうか。変な嘘はやめようねー……って、え?
「え?」
……もしかして、本当にさっきからの僕のモノローグが聞こえているのか?
「うぃ。きこえてる」
……ちょっと待て。本当に、君もテレパシーが使えるのか。
「うぃ!」
……なんということだ。まさか突然飛ばされた場所で、僕以外の超能力者に出会えるとは。
——いや、ちょっと待て。この子も同じ超能力者だとすれば、僕をここにテレポートさせたのはこの子自身かもしれないじゃないか。
「ん〜ん。アーニャ、こころのこえしかきこえない」
えっ、他の能力はないのか? テレパシーだけ?
「うぃ」
どうやら、この子が持っているのはテレパシー能力のみで、僕のように複数の能力を使えるわけではなかったようだ。となると、やはり僕がここにテレポートさせられたのは、この施設が原因なのか?
しかし、さっきからテレポートや瞬間移動を何度も試行しているのに、全く成功しない。何かに能力を封じられてたりするのか?
……とりあえず、この施設を調べてみよう。僕が来てから誰もこの部屋に来ないことを踏まえると、この施設の関係者が僕を探しているということもなさそうだし、この部屋には監視カメラも見当たらない。透明化すればバレずに調べられるはずだ。
「とうめいか! アーニャもする!」
……。目を輝かせているアーニャを無視し、僕は透明化を発動させた。
「わぁっ! きえた!」
——透明化。姿を完全に消すことができる能力だ。ただし実体はあるので、もしも透明化中に誰かに触られたら——
「えいっ!」
——あ
「ぬっ! みえるようになった!」
——誰かに触れられたら、解除されてしまう。そしてもう一度透明化するまでに十分間のインターバルが必要になる……って、説明しとくべきだったか。
次の透明化を邪魔されないように、僕はアーニャに施設を捜索するから邪魔するなと釘を刺しておくことにした。しかし、アーニャは逆に燃え上がってしまったらしい。
「アーニャもぼうけんいく!」
冒険じゃない。一緒に来ても楽しくないぞ。
「やだ! アーニャもいく! つれてってくれないと……おおごえでさけぶっ!」
……。
アーニャはとても腹の立つ卑しい表情でそう脅してきた。ここで大声を上られて、僕の存在が周知されるのはとても面倒だ……仕方ない、つれていくしかない。
——透明化する時に手で触れていたものに関しては、触れている間は自分と同じように透明化させることができる。
「わくわくっ!」
いいかアーニャ。僕の手を離すなよ。離したら透明化が解けてしまうからな。
「うぃ!」
じゃあ行くぞ。——透明化!
……それから僕とアーニャは、この施設内のあらゆる場所を冒険……いや、探索した。アーニャがいろいろ触りたがるから、抑えるのがとても大変だった。
施設内の粗方の部屋を探索し終えると、僕はアーニャと共に最初の部屋に戻ってきた。
「ほわ〜、アーニャ、楽しかった」
……そうか、そりゃよかったね。
子守でヘトヘトになった僕は、床に座り込みながら探索結果をまとめてみる。
まずこの施設は、日本ではないどこかの国にある、なんらかの実験をしている研究所で、アーニャはその研究対象らしい。これは、とある部屋に被験体007と書かれたアーニャの写真が置かれていたのを見つけて発覚した。
……まぁようするに、ほとんど何も分からなかったということだ。
ただ、僕に関する情報が何もなかったのは確かだ。多分、この施設も僕がここに飛ばされた原因に関係はしているだろうが、ここにいても本当の原因は突き止められない可能性が高いな。
……そうなると、すぐにでもこの施設から出た方がいいな。さて、どうやって脱出するか……ん?
「……」
考えに集中してて気づかなかったが、いつの間にかアーニャは座っている僕の真正面に立っていた。そしてなぜかとても目がキラキラしている。
……どうかしたか?
「……」
僕が聞くと、アーニャは僕の頭を指差した。
「……アーニャと、おなじかみのけ」
髪の毛? あぁ。確かに同じピンク色だな。
「……アーニャとおなじ、あたまにツノ」
ツノって……この制御装置のことか? 確かにツノに見えなくないが、お前のはお団子ヘアだろう。少し違うと思うぞ。
そう伝えるも、アーニャは首をブンブンと振って、言葉を続ける。
「……アーニャとおなじ、えすぱー」
それはまぁ……そうだな。
「……でも、あーにゃよりすごいちからもってる。あーにゃとほとんどおなじなのに、そこだけちがう」
いや、ほとんど同じって程でもないぞ。僕はもっと大人だ。
「……なまえは?」
……え?
「なまえ、おしえて?」
なんだよ急に。名前教えてって……まぁ別にそれくらいならいいか。
僕の名前は、クスオだ。
「クスオ……」
そう、クスオ。
「クスオ……」
アーニャは僕の名前を呼びながら、さらに目を輝かせて近寄ってくる。
「クスオとアーニャ。おなじとこいっぱい。つまりクスオは……」
……なんだ? 何を言いたいんだ?
急に目を閉じて俯いてしまうアーニャだったが、一瞬の間を開けると、これまでで最高に目を輝かせて顔を上げた。
——そして、こう言ってきたんだ。
「アーニャのあにっ!?」
……。
は? どうしてそうなる?
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