アーニャのあにっ!?    作:コーラを愛する弁当屋さん

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mission 13 なんで?

 

 パトカーに乗せられた僕は、東国オスタニアのとある施設に連れてこられた。

 

「ここに入っていろ」

(……)

 

 手錠をされたまま、机と二脚の椅子が中央にある部屋に押し込まれる。

 

「すぐに尋問を担当する少尉が来るからな」

(……尋問、か)

 

 取り調べではなく尋問という発言、そしてこの部屋に飾られたあるタペストリー。この2つで僕はここがどこなのかを理解した。

 

 ここは警察署ではない。間違いなく、国家保安局<SSS>だろう。

 

『国家保安局<SSS>』

 

 国内の治安維持を目的とした組織のことだ。スパイ狩りや市民の監視などが主な仕事で、市民達からは秘密警察と呼ばれて恐れられているらしい。

 

 この世界のことを調べている内に知った情報だが、情報通りに危ない場所のようだ。10歳の子供に対し、尋問と言ってしまうことからしても、僕は国家に仇なす存在と見られているのだろう。

 

 僕が捕まったのは、クゥースケの策略で国民的アイドルを誘拐したことにされたからだが、ここに連れてこられた以上、容疑はそれだけじゃないな。

 

(……あの変態野郎、今度会ったら絶対ぶっとば)

(あに!? あに、いるの!?)

(!)

 

 思考に耽っていると、僕に語りかけてくるような心の声が聞こえてきた。この声は……。

 

(アーニャか?)

(うい!)

 

 思った通り、アーニャの心の声だった。あいつの声が聞こえるということは、距離的にアーニャもこの局にいるということか。

 

(おいアーニャ、なんでお前はここにいる? ココミンは?)

(ココミンもいっしょ。あにとはなれたあと、ここにつれてこられた)

 

 警察が保護したはずだが、この局に連れてこられていたのか。

 

(おい、大丈夫か?)

(なんで?)

(痛いこととか、されていないか?)

 

 ここの職員は暴力を厭わないらしいからな。なんかされていてもおかしくないぞ。

 

(う〜ん。おなかがいたい)

(なっ!? 大丈夫か? お腹蹴られたのか!?)

 

 ココミンとアーニャ、10歳と5歳の子供のお腹を蹴るとは……ここの連中は見境なしか?

 

 もういっそ助けに行ったほうがいいかと思ったのだが、次のアーニャの言葉で我に帰る。

 

(おかしたべすぎた)

(……は?)

(ここ、おかしとジュースたべほうだい)

(……えっと、つまり痛いことはされてないのか?)

(うん。されてないよ?)

(……ココミンは?)

(ココミン、せいふくきたおとこにパタパタされてる。かぜがあたってきもちいいみたい)

(……そうか。お前も楽しんでるのか?)

(うい。アーニャもかいてき〜)

(うん。そうか)

 

 心配して損した。よく考えれば、アーニャとココミンは保護対象。それにクゥースケはココミンの大ファン。暴力を振るわれるはずもなかった。

 

(って、あにはなにしてるの? ゆでたて?)

(ゆでたてってなんだよ)

(ゆでをまげたりのばしたりするやつ)

(ああ、うで立てのことか。って、なんでその選択肢になるの?)

(おとこって、まけたらきんとれしないといけないんでしょ?)

(そんなルールはないよ?)

 

 それ、からかい上手な人から好かれている人限定な。

 

(でもまけたんでしょ?)

(いやいや、そもそも僕は負けていない。ゆえに筋トレする必要はない)

 

 それに、現時点で片手で地球を割れると思うぞ。

 

(うそ! くるまにのってるとき、きこえた!)

(何が?)

(クゥースケにまけた、ってあにがいってるところ)

(……覚えてないな)

(いってたよ)

(記憶にございません)

(いってた! ぼ、ぼくは……ひっぐ……ぐ、ぐゥーずケに、み、みゃけましたぁぁぁぁ〜、って!)

(そんな言い方は絶対にしていない。そして記憶にございません)

(ぜんわをみなおせ!)

(メタいこと言うな)

 

 いろいろとケイドゥの影響を受けすぎだな。

 

 ここだけの話、確かに僕はクゥースケの策に負けたと言った。

 言いはしたが、負けてはいないのだ。

 

(あに、へりくつ)

(今は僕の語りの時間だ。静かにしなさい)

 

 最後には僕が勝つ。

 それが斉木家の兄弟喧嘩のテンプレなのだ。

 

 厳密にはクゥースケは兄弟じゃないが、兄にそっくりなドMだしいいだろ。

 

 自己完結しているところに、廊下から声が響いてくる。

 

「ブライア少尉、お疲れ様です!」

「お疲れ様です。容疑者は中に?」

「はい! 待機させております!」

 

 む、どうやら僕の尋問が始まるらしいな。

 

(じんもん!? わくわく!)

(ワクワクすんな)

 

 兄の……おっと兄(仮)が尋問されるのに喜んでいるんじゃない。罰として、尋問中はサイダーマンのテーマをテレパシーで強制的にエンドレスリピートの刑だ。尋問中の僕や尋問官の心の声が聞こえないほどの大音量でな。

 

(むっ!? なんかサイダーマンのおうたがきこえてくる!)

(よかったな。しばらくそれを聞いて大人しく)

(ぷっしゅ〜! とべ! とべとべ、さいっだ〜♪  わお!)

 

 ……うるさい。選曲をミスった。しかし時間もないから、我慢するしかないか。

 

 

 ψ  ψ  ψ

 

 

 ——ガチャリ。

 

「……」

(……)

 

 尋問室のドアが開き、制服の男が中に入ってくる。

 

 まだ若い警官のようだ。まだ20歳そこそこじゃないか?

 この若さで尋問を任せられるとは……いや、僕が子供だから若い男を担当にした線もあるな。

 

「……」

(……)

 

 男は何も口にせず、椅子に座った僕の周りを一周する。不気味なのは、顔に満面の笑みを浮かべているところだ。心の底から笑ってるわけもない、完全に貼り付けただけの作り笑顔。

 

(ん? 待てよ。どうして僕はこいつの考えが読めたんだ?)

 

 現場に来た奴ら同様、局内にいる警官達もネンディ チェンジャーを帽子に付けている。もちろんこの男もだ。

 

 だからこの男の考えは読めないはずなのだが……。

 

(……こんな子供一人に誘拐なんてできるはずもない。だがボスがこの子を捕らえたということは、この子があの件に何かしらの関係があると睨んでいるのかもしれない)

 

 やはり、完全に心の声が聞こえている。なぜだ?

 

 そんな僕の疑問は、このあとすぐに解消された。

 

(まぁいい、今日はこの後久しぶりに姉さんと食事なんだ。さっさと仕事を終わらせて退勤しなくては!)

 

 おい、早く終わらせたいからって、適当な罪で投獄するとかはやめてくれよ。

 

 男は何周か僕の周りを歩くと、僕の正面の席へと座った。

 だが、まだ口は開かない。

 

(あ〜、でも本当は姉さんの手料理が食べたかったなぁ。もう何年も姉さんの手料理なんて食べてないんだよなぁ)

 

 ひとりごとが多いなこいつ。さっさと尋問しろよ。

 

(なんてったって姉さんの手料理は最高だからなぁ、世界一の料理人は姉さんだよ、うん)

 

 そうか。お前の姉さんが料理がうまいのはわかった。だからさっさと尋問を始めてくれ。

 

(あの、舌の上に乗せた途端に込み上げる胃液と血がたまらないんだよな)

 

 どういう物体だよ。それ多分料理じゃないよ?

 

(死んでしまいそうなほどの愛を感じるんだよ)

 

 ……なるほど、こいつも変態だったのか。そして思考が読めた理由もなんとなくわかったぞ。

 

(姉さん姉さん姉さん姉さん姉さん姉さん姉さん姉さん姉さん姉さん姉さん姉さん姉さん)

 

 ……こいつは病的なほどのシスコンらしい。多分、姉さんへの想いが強すぎてネンディ チェンジャーでも抑えきれていないのだ。

 

「……こほん」

 

 着席してしばらくすると、男はようやく口を開いた。

 

「こんにちは、君はクスオ・レブスキー君であっているかな?」

(はい)

「僕はユーリ・ブライア。階級は少尉、よろしくね」

 

 導入はかなり優しめに入るようだ。

 

「さて、君がここにいる理由。それはわかっているかい?」

(ココミン・テルシーさんを誘拐したと疑われてるからです)

「うん、その通りだ。でも君はその容疑を否認しているね?」

(そうです。僕は無実です)

 

 素直に答えていると、男の質問がまずい方向へと向かっていく。

 

「君は誘拐現場にいたよね。それはどう説明する?」

(……ココミンを助けに行ったんです。真犯人が彼女を誘拐する現場を目撃したので)

「ほうほう、助けに行ったんだ。……でも、調べたところ、君の自宅から現場までは数十キロは離れている。10歳の君に追いかけられる距離じゃない」

(……)

 

 痛いところを突かれた。そりゃそうだと言わざるを得ない。しかし空を飛んで追跡しましたなどと言えるわけもない。一番辻褄が合いそうな言い訳を考えなければ。

 

(……隙を見て、誘拐犯の車に乗り込んだんです)

「隙を見て? そんなことができたのかい?」

(運がよかったのでしょうね)

「君が捕まった時。君は女の子二人を連れて出てきた。あれは逃げきれないと思って投降するつもりだったの?」

(違います。二人を助けたので、帰ろうと思ったんです)

「君一人で助け出したと? それに、帰りはどうやって帰るつもりだったんだい?」

(……街まで行って警察を呼んで、送ってもらおうかと)

 

 我ながら苦しい言い訳だ。しかし、これが言い訳としては一番それっぽいだろう。

 

「君が言う誘拐犯が別にいたとして、数名の大人の……それもプロの犯罪者達の隙を突いて車に乗り込み、女の子達を助け出しただなんて……君はまるで、〝スパイ〟、だね」

(!)

 

 そう言いながら、男の視線が鋭くなる。先ほどまでの貼り付けた笑顔は剥がされて、男の素顔が現れたのだ。

 

 なるほど。この男は最初から僕がただの子供だとは思っていなかった。どこかのスパイではないかと疑っていたのだ。

 

(スパイ、ですか。なってみたいとは思いますが、僕は普通の子供です)

「普通の子供は、誘拐犯について行って助けようなんて思わない。いや、思っていたとしても、無事でいられるはずはないよ。なのに君は怪我もしてないし服が汚れてもいない。これはどう考えてもおかしい」

 

 ……確かにな。いくら運が良かったとして、あの古い建物に入って全く服が汚れていないと言うのも変だ。さて、どう言い訳をしたものか。

 

 僕がどう答えようかと考えていると、男は違う話を切り出してきた。

 

「君は、黄昏という男を知っているかい?」

(!)

 

 黄昏。この国について調べている時に知った名前だが、西国ウェスタリスの凄腕のスパイだ。千の顔を持つ男と呼ばれているらしい。

 

「奴の組織には様々なスパイが存在しているらしいけど……子供に扮したスパイ、もしくは赤子の頃から英才教育を受けたスパイがいてもおかしくはないだろう?」

 

 僕が黄昏と同じ組織のスパイ、ね。確かに状況証拠的には僕はただの子供には見えるわけはない。

 

 しかし僕はスパイではないし、無実の罪を着されるわけにもいかない。僕が抵抗せずにここに連行されてきたのは、僕のことを例の機関に悟られないようにするためなのだ。

 

「……正直に話す気はないのかい?」

 

 僕は正直に話している。僕は誘拐犯でもないし、スパイでもない。だが、ここを言葉だけで乗り越えられる方法は思いつかない。

 

 一体どうすれば……。

 

 ——コンコン。

 

「! なんでしょうか?」

 

 その時、突然ノック音が聞こえてきた。男が返事をすると、ドアを開けて一人の警官が顔を出した。

 

 

「ブライア少尉、その者に面会人が」

「面会? まだ尋問が終わっていないのですが」

「未成年には収容前に保護者の面会が認められていますので。それに、収容前の尋問はちょっとまずいです」

「……わかりました」

 

 あからさまに嫌そうな顔をしながら頷いた男。くるりと顔を戻すと、男の顔は最初のような貼り付けた笑顔に戻っていた。

 

「仕方がない。尋問の続きは、君が正式に収容された後に取っておこう。親との会話できるのもこれが最後になるだろうから、後悔のないようにね」

(……)

 

 最後ににっこりと笑った男は、部屋から出て行った。その後、部屋の中に両親……いや、レブスキー夫妻が入ってきた。二人の表情は暗く、テレパシーがなくとも何を考えているかは明らかだった。

 

 

 —— アーニャside ——

 

「……あに、おそい」

 

 このたてものにつれてこられて、いっぱいじかんがすぎました。

 

 あにのこえがきこえなくなってからすぐ、ココミンもどこかにいっちゃって、いまはアーニャひとりです。

 

「ひま……アーニャたんけんしたい」

 

 ひまなので、このたてものないをちょうさしようと、アーニャがたちあがると。

 

 ——ガチャ。

 

「!」

 

 おへやのどあがひらき、なかにおとながふたりはいってきます。

 

 ……あ、ははとちちだ!

 

「はは、ちち」

「待たせてごめんね、アーニャ」

「さぁ、おうちへかえろう」

「え、アーニャこれからたんけんする」

「警察の方達の迷惑になるからだめだよ。さぁ、帰ろう」

「う、うい」

 

 ちちとははに手を引かれ、アーニャはたてものからだっしゅつしました。

 ちなみにいっておくが、あーにゃひとりでもだっしゅつできたます。

 

 そのままちちのくるまにのせられ、ちちとははもまえのせきにのりました。

 

「よし、じゃあ出るぞ」

「ええ」

「うい! ……あれ?」

 

 ちちはエンジンをかけましたが、アーニャのとなりのせきにはあにがのっていませんでした。

 

「ちち! あにがいないよ!」

「……ああ、クスオはいない」

「じゃあまたないと! あに、おいてぼけりになっちゃう」

「……おいてけぼりよ、アーニャ」

 

 あにがいないといっても、くるまからおりようとしないちちとはは。

 

 するとちちが、アーニャにかおをむけてこういいました。

 

「……アーニャ。クスオとはここでお別れだ」

「え?」

 

 あにと、おわかれ?

 

「……なんで?」

 

 




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