アーニャのあにっ!?    作:コーラを愛する弁当屋さん

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mission⑤ ちゅうにびょうだいさくせん!②

「ぐ〜、すぴぃ〜」

「……」

(……)

「……これ、寝てる?」

(寝て、いるな)

 

 

 アーニャは横になっている僕の体にくっ付いて、寝息を立てて眠りこけていた。

 

 やめてくれよ、体制的に僕もこんな状況で寝ている図太い奴みたいに見えるだろ。

 

「ず、随分と図太い兄妹のようだな」

 

 ほらみなさい。僕まで含まれちゃっただろ。

 

「……で、どうするんだ? こいつらを起こすか?」

(うむ、まずはこいつらを安全な場所まで移動させる)

 

 僕が自分とアーニャの体を移動させようとしたその時だった。

 

——ドタドタドタ!

 

「侵入者だ! あの兄妹を狙っているぞ!」

「捕まえろ〜!」

 

 警備の応援がやってきたらしい、階段を降りる足音が聞こえてくる。

 

(ちっ、応援か)

「ふっ、玄色の寒天よ。ここは俺に任せろ!」

(あ、おい!)

 

 止める間も無く、ケイドゥは廊下に飛び出て行ってしまった。

 

 調子に乗って、一人で警備員を相手にするつもりなのだろうか。

 ……まぁいい。とりあえずアーニャをここから離れさせる方が先だ。あいつを助けるのはその後だ。

 

 僕は自分の体に入り込み、体のコントロールを取り戻した。すぐにアーニャを起こしにかかる。

 

(おい、起きろアーニャ)

「う、うう? あれ、あにぃもどってきた?」

(ああ。戻ってきたぞ。とりあえずここから脱出する。僕に掴まれ)

「う、うい」

 

 アーニャに僕の背中にしがみつかせ、瞬間移動で近くの安全そうなところに転移した。

 

 ——シュン。

 

「おそとにでた!」

(アーニャ、しばらくここでじっとしていろ。僕はケイドゥを助けに行ってくる)

「ぬ! じゅんぱくのうもう? アーニャもいく!」

(だめだ。大人しく待っていろよ。いいな?)

 

 ——シュン。

 

「あ、まてあに……いっちゃった」

 

 

 

 ψ  ψ  ψ

 

 

 僕はアーニャを置いて、ケイドゥの助けに向かった。

 

(ケイドゥ、大丈夫か! ……ん?)

 

 ケイドゥは数名の警備員と向かい合っているところだった。

 

「ホワイトウォーター!  ……あれ? ホ、ホワイトスイーツぅ! ……あれ? あれ?」

『……』

(……)

 

 危ない状況だと思っていたが、そうでもなかった。自分達に向けて手をかざし、変な呪文を叫ぶケイドゥに、警備員達は怒りもせず、むしろ可哀想な人を見るような目を向けていた。

 

「ホ、ホワイトウォーター! ホ、いや、ジャッジメント・ナイツ・オブ・サンダーぁぁぁっ!」

 

 いや、それオリジナルの方の技な。

 お前じゃ出せないよ、オリジナルも出せないけど。

 

「お、おい。わかったから。な?」

「落ち着こうぜ? な?」

「ぼうや、おうちはどこかな?」

 

 ついに警備員の方達が優しい言葉をかけ始めたぞ。

 すごいなケイドゥ。これがお前の白魔法マジカルパワーか。

 

「こ、子供扱いするなぁ! 俺は十歳だぁ!」

 

 うん。子供だね。

 

「う、うわぁぁぁ!」

「あ、おい待て!」

 

 子供扱いが効いたのか、ケイドゥは警備員を振り切って階段を駆け上がっていく。一体どこに行くと言うのか。

 

(やれやれ)

 

 仕方ないので、僕は透明化してケイドゥの後を追うことにした。

 

 

 

 

 

 

 ——そのころ。一人ぼっちになったアーニャは、屋敷をぼ〜っと眺めていた。

 

「……アーニャ、ひま。——お?」

 

 ふいにアーニャの視界に、屋敷の中を駆け回る者の姿が窓越しに映る。

 

 みたことある奴だとアーニャは思った。

 

「あれ……じゅんぱくのうもうだ!」

 

 よく見ると、ケイドゥだった。警備員を連れて屋敷内を駆けずり回っているところのようだ。

 

「……おお」

 

 一生懸命に屋敷を駆け回るケイドゥの姿に、アーニャはこう思った。

 

「これ、スパイのアニメでみたことある!」

 

 アーニャの好きなアニメ、スパイウォーズには、主人公のボンドマンが任務でとある屋敷を駆け回り、最後は屋上から脱出するという話がある。アーニャには見えたケイドゥの姿とその話の主人公が重なって見えたのだろう。

 

(おくじょうからだいだっしゅつ……アーニャもしたいっ!)

 

 やりたいと思ったら止められない。子供のサガである。アーニャも例に漏れず、大人しくしていろと言われたにもかかわらず、もうすでに屋敷に向かって駆け出していた。

 

 

 

 ψ  ψ  ψ

 

 

 

「お、おおきいあな!」

 

 屋敷に戻ってきたアーニャは、楠雄が先ほど開けた壁の穴を見つけた。

 

「ふっ……これではやりがいがないわ!」

 

 穴のおかげで、アーニャはまんまと進入に成功する。

 

 ちなみにその頃。ケイドゥと楠雄はアーニャとは真反対の位置にいた。無駄に広い屋敷なだけに、アーニャと楠雄の距離は500mは離れていたので、楠雄にアーニャの心の声は届かなかった。

 

 警備員も全員ケイドゥに惹きつけられているので、アーニャの近くには敵は誰もいない。

 

「……ふっ。キメラちょうかん。こちら〝ももいろのらっかせい〟。てきのあじとへのしんにゅ—にせいこうした」

 

 アーニャは腕を口に近づけながらそう呟いた。どうやらスパイウォッチでキメラ長官と通信しているつもりらしい。

 

「このままおくじょーにさきまわり? りょうかいしたっ! ……ぴっ!」

 

 通信終了のSEを自分の口で鳴らし、アーニャこと、スパイ〝ももいろのらっかせい〟はミッションを開始した。

 

「まずはいっかい……てきはいない。くりあっ!」

 

 壁際から覗き込み、一階に敵がいないことを確認し、アーニャは二階へと上がるための階段にとてとてと駆けていく。そして二階へと上がった。

 

 同じように物陰から二階の様子を伺う……これまた誰もいない。

 

「にかいもてきはいない。……くりあっ!」

 

 これまた同じようにアーニャは三階へと上がる階段へと駆けていく。

 

(ミッションたのしい! ワクワクっ!)

 

 ケイドゥがいい感じにアーニャとは離れた位置を駆け回っているおかげで、スパイ〝ももいろのらっかせい〟のミッションは順調だった。

 

 三階に上がると、今度は上階に上がる階段は無かった。しかし、屋根裏へと上がる梯子が廊下の中央に設置されている。

 

「あにめとおなじやつ! ……キメラちょうかん、わたしはいまからやねうらへとあがる!」

 

 アニメと同じところがたくさんあってテンションの上がったアーニャは、三階の安全を確認すると中央の梯子まで真っ直ぐに駆けていく。

 

「んしょ、んしょ!」

 

 アーニャはなんとか梯子を登り、屋根裏への進入に成功した。

 

「あれ、すっかすか! おたからもない」

 

 屋根裏には何もない。ただ、その中央にまた梯子が下されていた。

 どうやら屋根の上に上がるための梯子のようだが……。

 

「あった! やねのうえにのぼるやつ!」

 

 これもアニメと同じだったのだろう。アーニャは目を輝かせながら梯子に飛びついた。

 

「んしょ、んしょ」

 

 こうして、アーニャはついに屋根の上へと到達したのである。

 

 

 

 

  ψ  ψ  ψ

 

 

 

「待て、待ちなさいっ!」

「う、うええええん!」

 

 半分泣き叫びながら屋敷内を駆け回るケイドゥは、行くとこがもうないと思ったのか今は屋根裏へと向かっている。

 屋根裏からは屋根の上に上がれたはずだ。そこに向かっているのか?

 

「その先は屋根の上だぞ! 危ないぞ!」

「びえええええんっ!」

 

 もう完全に泣き叫びながら、ケイドゥは屋根裏に上がり、そのまま屋根に上がる梯子を登っていく。

 

 警備員達に続いて僕も梯子を登る。

 

 

 ——体が全て外に出た時、目の前には信じられない光景が広がっていた!

 

 

 

「び、びえええん!」

「なんでないてる? たかいところこわいの?」

「こ、こわいいい〜」

「じゅんぱくのうもう、よわむし?」

「びえぇぇえん!」

「なきやめよ。ピーナツあげます」

「……」

(……)

 

 なぜかアーニャがいた。そして、号泣するケイドゥをアーニャが慰めていた。

 

 ……。

 

 何この状況。え? 夢?

 

 え、いつのまに? 移動中にアーニャの心の声は聞こえなかったんだが……うまいこと受信範囲外を進まれたのか?

いや、アーニャにそんな方法はまだ思いつかないだろ。偶然に偶然が重なったとしか思えん。

 

 ……待て、そんなことよりこの状況をどうにかしないといけないな。

 

「え? なんで警護対象が侵入者を慰めてんの?」

「何この状況。え? 夢?」

 

 ほら、警備員の方々が精神錯乱しかけている。二人目なんて僕と完全にセリフが被っている。

 

 追跡中に分かったのだが、この警備員達は、僕達を保護施設に移送中の孤児だと思っているらしい。加えて何者かに命を狙われているので、移送が終わるまでの警護を、という依頼を彼らの所属する警備会社が引き受けたらしい。つまり警備員の方々は悪人ではない。単に巻き込まれた可哀想な方々である。

 

「と、とにかく落ち着け。な?」

「びっ!」

 

 警備員の一人がゆっくりとケイドゥに近づく。そしてそのことに気づいたケイドゥは……なぜかアーニャを抱え上げた。

 

「びええええん! く、来るなぁあ! 来たらこの子を俺の妹にするぞぉぉぉ!」

 

 いや意味わかんねぇよ。なんだよそれ。もしかして僕を脅してる?

 

「……アーニャ、こんなあにやだ」

「びっ、びええええええん!」

 

 なぜかアーニャから拒絶され、さらにむせび泣くケイドゥ。

 さっきまでのイキリっぷりはどこにいったんだよ。

 

「君、落ち着け、な?」

「そうそう。おじさん達、君が心配なだけなんだ」

「とりあえず、屋敷の中に降りてお話をしよう?」

「びえっ、ぼ、ぼぐはぎみじゃないぃぃぃ〜。じ、じっごぐのづばざだもぉおん! びぇぇぇ!」

 

 だからそれはオリジナルの方な。

 お前は純白の羽毛だよ?

 

「びえええっ! ぼぐおうちがえるぅぅうぅ〜!」

「あ、待って!」

 

 警備員が静止するも虚しく、ケイドゥは自分の家があるであろう方向に走り出す。

 

……そして。

 

(つるっ)

 

「え?」

「お?」

 

 屋根の端の近くまで来た時、ケイドゥは足を滑らせた。

 

 ……この後どうなるか。分かるよな?

 

 そう、滑り落ちるのである。

 

 

「びええぇえぇぇっ!」

「うおぉぉぉ〜!」

 

 両極端な叫び声を上げながら、アーニャとケイドゥの体は空中に投げ出された——。

 

 落下スピードをどんどんと上げながら、二人の体はどんどんと地面に迫っている。 

 

「びええええっ! たすけてママあぁぁぁ!」

「たすけてあにぃ〜〜〜」

 

 ……全く、仕方ないな。

 

 ——ぽすっ。

 

「あにい〜〜〜〜〜〜……ん?」

 

 さすがに怖かったのか目を瞑っていたアーニャ。急に落下する感覚が消えたので恐る恐る目を開ける。

 

「あ、あに?」

(そうだぞ)

 

 アーニャが目を開けると、すぐそこに僕の顔があった。そりゃそうだ。僕は二人が落下してすぐ、落下予測地点に瞬間移動して、そのまま衝撃を殺すようにしてアーニャを抱きとめたのだから。

 

 僕の顔を見た途端、アーニャの目に涙が溢れる。

 

「う、ううう〜。あにぃ〜、こわかった〜」

(はいはい、怖かったな。これに懲りたら勝手な行動をするなよ?)

「そ、それはやくそくできぬ〜」

(おい)

 

 全く、全然懲りていないじゃないか。

 

 

 

 ψ  ψ  ψ

 

 

 

 

「うう……ひっく」

(落ち着いたか?)

 

 しばらくして泣き止むと、アーニャは周囲をキョロキョロし始めた。

 

「あれ、じゅんぱくのうもうは?」

(心配するな、サイコキネシスの応用で空中で受け止めた。怖すぎたのか失神してしまっているがな)

 

 そう行って僕が指差した方向には、空中に浮いたまま微動だにしないケイドゥの姿があった。

 

「……ただのしかばねのようだ」

(おい、勝手に殺すな。そしてどこで覚えた?)

 

 空中で放置はさすがに良心が痛むので、僕はケイドゥの体を地面に下ろした。

 

(アーニャ、そろそろお前も降りるか)

「……まだいやっ」

(そうか……っ!)

 

 ——ドタドタドタっ!

 

 その時、どたどたという足音が二方向から近づいてくるのを感じた。

 

 ……やれやれ、面倒なことになってしまった。

 

「君達! 大丈夫か!」

「何の騒ぎなの!?」

「おい、あいつら逃げ出してんじゃねぇか!」

 

 足音と共にやってきたのは、先ほどまで追いかけっこをしていた警備員達と、悪人のウィリアムズ夫妻だ。警備員達は安否確認に来たのだろう、夫妻は騒ぎに気づいて慌てて様子を見に来たようだな。

 

「お前ら! 高い金払うんだからしっかり警備しろよ!」

「そうよそうよ!」

「す、すみません。しかし、この子達は何者なのですか?」

「そうです! 実は私達、兄の方が屋根の上から地面に瞬間移動したり、不思議な力を使うところを見ました!」

「な、なにぃ!? それは本当か!?」

「ほ、ほら! だから言ったでしょ!?」

 

 瞬間移動した時からこうなると分かってたとはいえ、最悪な展開だな。この場にいる全ての大人に、僕が超能力を使うところを目撃されてしまった。このままでは、夫婦から研究所に報告されてしまう。

 

 ——止むを得ない。こうなったらあの手を使うしかないな。

 

(アーニャ。しばらく目を瞑っていろ)

「へ? なんで?」

(いいから。今は言うことを聞いてくれ)

「う、うい」

 

 アーニャが目を瞑ったのを確認し、僕は懐からとあるものを取り出す。こんなこともあろうかと、念のために持ってきておいてよかった。

 

 何をかって? ……バールのようなものだよ。

 

 勘の良い人なら僕が何をしようとしているのかもうお分かりだろう。

 

 ——そう、記憶消去である。

 

【記憶消去】

 バールのようなもので頭を殴り、特定のキーワードに関する記憶を1分間程度消すことができる。詳しい方法は複雑なので省略させていただく。そして消えた分の記憶は勝手に消された本人によって補完されてしまう上に、どのような記憶になるかはわからない。

 

 安心してくれ。バールのようなものとは言っても、ケイドゥの部屋にあったピコピコハンマーだ。そんなにグロテスクな展開にはならない。

 

 つまりはこの能力を使って、僕がアーニャとケイドゥを超能力で助けた記憶だけ消去してしまおうということである。

 

 (さぁ、速いとこ済ませてしまおう)

 

 

 

 

 ψ  ψ  ψ

 

 

 月明かりに照らされたウィリアムズ邸に、数台のパトカーが停車している。僕が虫の知らせを使って警察を呼んでいたのだが、思ってたよりも早く着いたな。記憶消去が終わってから一分もしない内に来たのには少し焦った。

 

「離せぇ! 俺達は無実だぁ!」

「そうよ! 可哀想な孤児達を引き取っていただけよ!」

「はいはい。話は署で聞くから、大人しく乗って!」

 

 警察が到着すると、ウィリアムズ夫妻は身柄を拘束されて、パトカーに連行されていった。これで奴らから研究所に僕達の情報がいくことはないだろう。

 

 

 

「……君達、大丈夫かい?」

 

 去っていくパトカーを見ていると、警備員の一人が話しかけてきた。

 

 

(大丈夫です)

「そうか……しかし運がよかったなぁ。落ちていく二人の落下地点に偶然トランポリンが設置されていたなんて」

 

 この人の補完された記憶はだいぶ無理やり感があるな。今トランポリンがないことに疑問を持たないのが不思議だ。

 

「警察の人がね、君達は前にいた孤児院に戻すしかないって言ってるんだけど……二人はそれでも大丈夫かい?」

(はい。僕達も戻りたいと思っていました。な?)

「うい、あにとあーにゃのおうち、かえりたい」

「分かった。じゃあ警察の人と話してくるから、もう少し待っててね」

 

 警備員の人は、警察官の元に走っていく。

 

(ふう。これで一件落着だな)

「あに、アーニャたちおうちにかえれる?」

(ああ。あの孤児院にな)

「……うわぁぁっ!?」

「ぴぎゃっ!?」

(……起きたか)

 

 急に叫び声が上がったと思えば、どうやら気絶していたケイドゥが目を覚ましたようだ。

 

「っ!? っ!?」

 

 ケイドゥは周囲を何度も見廻し、安堵したように息を吐いた。

 

「はぁ〜。……ク、ククク。ど、どうやら夢じゃ無かったみたいだなっ」

 

 右手で目を覆い、クククと怪しい笑い声を上げるケイドゥ。どうやら厨二モードが復活したらしい。念のためにケイドゥも記憶消去を施したが、一体どんな記憶が保管されたんだ?

 

(ふっ、まさか屋根の上から落下した瞬間に俺に翼が生えてきて、カッコよく飛行しながらアーニャという女の子を空中でキャッチして抱き抱え、そのまま地面に舞い降りるとは……やはり俺の才能は本物だな。……しかし困ったな。あまりにカッコよく助けすぎたせいでアーニャに一目惚れされちまうとは。しかも兄のクスオには「ジ、ジョン! あ、あのっ、僕はクスオって言いましゅ! お願いだ、僕の親友になってくれ! そして妹を幸せにしてくれぇぇ!」……と、懇願される始末。……全くモテる男はつらいぜっ!)

 

 ……長いよジョン。

 

 保管された記憶が厨二に寄るのは仕方ないけど、後半の二つは意味わからんしムカつく。もう一回記憶消去してやろうか悩むな。

 

「……!」

(!?)

 

 盛大な自画自賛をしたケイドゥは、僕を見つけると、立ち上がって走り寄ってきた。

 

「ふっ。クスオ、悪いが俺はまだ恋人を作る気はないんだ。親友のお前からの頼みだが、今は保留にさせてくれ」

 

 いや、僕は何も頼んでないぞ。そして親友でもない。全てお前の妄想だ。

 

「アーニャもすまない。俺が世界に真の平和を導くまで……待っててくれ、な?」

「う、うい」

 

 やめろ。それも妄想だぞ。

 

 やっぱりもう一回記憶を消そうと決めたその時、警察官が走り寄ってきた。

 

「お〜い君達。待たせてごめんね。これから前にいた孤児院に送ってあげる。車に乗って」

(! はい、お願いします)

「ぱとかーでどらいぶ、ワクワクっ!」

 

 パトカーに向かって歩き出す警察官に付いていこうとすると、後ろから寂しそうな視線を感じた。振り返ると、ケイドゥが寂しそうな顔をしてこっちを見ている。

 

「……」

(……ジョン。じゃあな)

「じゅんぱくのうもう、さよなら」

「っ! ……おう。じゃあな」

 

 軽く挨拶だけ済ませ、僕達は再び歩き始めた。

 

 そしてまさにパトカーに乗ろうとしたその瞬間。

 

「——クスオっ!」

「!」

 

 ケイドゥに大声で呼び止められた。

 

 仕方がないので振り返ると、ケイドゥは胸の前で両手の指を歪な形に折り曲げていた。

 

「……これが盟友のサインだ。忘れるなよ?」

 

 大丈夫だ、覚える気もない。

 

 ……そういえばこのやり取り、オリジナルともやったな。

 

(……こくり)

「! じゃあな親友っ! そして未来の妻よ!」

 

 意味不明なことを言っているケイドゥから視線を外し、僕とアーニャはパトカーに乗りこんだ。

 

 さらばケイドゥ。もう会うことはないだろう。

 

「じゃ、今から孤児院に送ってあげるからね」

「ういっ!」

(よろしくお願いします)

 

 そしてパトカーは僕達を乗せて、あの孤児院へと移動を始めたのだった。

 

 

 

 

 

 —— その後、アーニャside ——

 

 

 

「……」

(……すー。すー)

 

 ぱとかーがはしりだしてすぐ、あにはつかれたのかねむってしまいました。

 

(……あに、すごいかっこよかった)

 

 わたしをキャッチしてくれたときのあには、ボンドマンよりも。じゅんぱくのうもうよりも。……ううん、せかいでいちばんかっこよかったです。

 

 ——だからアーニャ、きめましたっ。

 

 アーニャはおおきくなったら、あにみたいなすごいエスパーになるますっ!

 

 いまはまだ、あににはおよばないけれど、いつかあにとおなじくらいすごいエスパーになって。

 

 こんどはわたしが、あにをおたすけするますっ!

 

「……」

(……すー。すー)

 

 ……でも、いまはまだ。

 

「あに。あまえても、いい?」

(……)

「……きこえないか。おやすみ、あに」

 

 そういって、わたしもねようとしたときでした。

 

(……好きにしろ)

「!」

 

 あにがちいさいこえで、なにかをいいました。

 

(……)

「……」

(……すー。すー)

「……ういっ♪」

 

 わたしはあにのからだによりかかり、めをとじます。

 

 めをとじたらくらいけれど、アーニャはこわくありません。

 あにがよこにいれば、アーニャはだいじょうぶ。

 

(……あに、ねたふりしてる)

(……してない。さっきからずっと僕は寝ている)

(……あにはうそつき)

(……そろそろ嫌いになっただろ)

(ん〜ん。あにのうそは、やさしいうそ。だからすき)

(……ふん。そうか)

(ういっ)

 

 あにはうそつきで、はずかしがりやさん。

 

 ——だけど、せかいでいちばんかっこいいですっ♪

 




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