「……戻ってきやがったか」
(警察の人も言ってましたけど、里親が逮捕されたのでここしか帰る場所がありません)
「う、うい」
ウィリアムズ邸から孤児院に戻ってきた僕達。SHOおじさんは最初拒絶しようとしたが、警察官が丸め込んでくれた。
「……ちっ。部屋は前と同じ物置しか空いてねぇぞ」
(ありがとうございます。充分です)
「ありがとござます」
SHOおじさんにお礼を言い、僕達は他の孤児達に挨拶をしながら物置へと向かった。
「ただまー!」
(ただいま、な?)
アーニャが物置の扉を開ける。昨日の夜に片付けたので、当然僕達の物は何もない。
「あに、おへやからっぽだよ」
(そりゃあ出ていく前に片付けたからな。ただ心配するな。幸運なことにここを片付けてからまだ二十時間くらいしか経っていない)
「? どういうこと?」
(つまり、僕ならばこの部屋を昨日の状態に戻せるということさ)
【復元能力】
一日前に時間を巻き戻して壊れた物を直す能力。周辺にある物の時間も一緒に巻き戻り、人間に使うと一日前の体に戻る。同じ対象には一日一度しか使えないため、一日より前の状態には戻せない。
この能力を使って、この部屋を一日前の状態に戻してしまえばいいのだ。もちろんこの孤児院ごと一日前の状態に戻るが、気づかれるほどの変化はないだろう。孤児達の心の声を聞いてもそのような文言はなかったと思う。
(ではいくぞ。……復元!)
僕が物置の壁を触り、復元能力を発動する。するとみるみる部屋の様子が変わり、すぐに昨日までの僕達の部屋に早変わりだ。
「おお! あにすごい! おへやもどった!」
(ふぅ。しかし、これから毎日この能力を行使しなきゃならんのは面倒だな)
まぁ以前はテレビに対して毎日やっていたんだ。このくらいの労働は許容範囲である。
「むふ〜。あーにゃのべっど〜」
現れた愛用のマットレスにアーニャが飛び込む。
(こら、屋敷での騒動で僕達は汚れてるんだ。まずは風呂に入ってこい)
「は〜い。いくぞきめらちょうかん。にゅうよくのじかんだ」
(キメラ長官は留守番だぞ)
アーニャからキメラ長官を取り上げ、一人で風呂場に向かわせる。ちょうど今から女子の入浴の時間だ。
一人になった僕は、床に座って今後の動きについて思案することにした。
(あの様子だと、SHOおじさんはすぐにでも僕達の新しい里親を探そうする可能性が高い。……まぁそんな簡単には見つからないだろうが、なるべく早くあのスパイの男……エージェント黄昏についての情報を集めたいところだな……ふぁぁ)
さすがの僕も疲れてしまったのか、床に座ったまま僕の意識は落ちて行った——。
ψ ψ ψ
「……きて! あに、おきてっ!」
(ん……なんだよアーニャ)
「あにおきてっ! きのうアーニャがおふろいってから、ずっとねてるよ!」
(え?)
しまった。寝落ちしたまま朝を迎えた様だ。道理で少し体が痛い……おい、ちょっと待て。
「ん? どうしたあに?」
(……おいアーニャ。僕の上着のお腹のところに、水が染みた様な跡があるんだが、何か知らないか?)
「えっ!? あ、アーニャしらないよぉ〜。(あにのおなかにあたまのせてねたら、よだれででた。……あっ、なんてうそだよ〜)
うん。現実の声でも心の声でも嘘が下手な奴だな。
(……ふんっ!)
「あいたぁ!?」
おしおきとして、アーニャの頭にキメラ長官ダイレクトアタック。
「あにひどいっ!」
(バカ言うな。お前の頭とキメラ長官の体が無事ということは、僕の優しさがきちんと現れているということだ)
「いみわかんないっ!」
プンプンと頬を膨らませて怒るアーニャ。これはしつけだからな、僕は謝らんぞ。
「きめらちょうかんもおこだよ!」
(いや、キメラ長官は僕の味方だ。残念だったな)
「む〜! アーニャのみかただもん!」
「……あの〜、クスオおにいちゃんとアーニャちゃん?」
(ん?)
アーニャと遊んでいると、この孤児院で僕の次に年齢の高い女の子が声をかけてきた。
「あの、院長が呼んでるよ」
(SHOが……何の用か言っていたか?)
「え〜っと、さとおやがどうとかって」
(え?)
「ふえっ?」
ψ ψ ψ
「この子達がおすすめだ。2人とも賢くていい子だよ」
(誰だよお前)
そう言いたくなるほど、今までに見たこのない営業スマイルのSHOおじさん。それは、今僕達の目の前にいるご夫婦に向けられたものだ。
「ほう、とても可愛らしい兄妹ですね」
「可愛いわぁ。ねぇあなた、この子達にしましょうよ」
「え、即決? ……でも、確かに見た瞬間にびびっと来たね。この子達にしようか」
「ええ!」
「はい、契約成立です。ありがとうございますぅ」
展開早すぎない? 僕達昨日里親に出されて、昨日戻ってきたばかりなんだけど。
「クスオくん。アーニャちゃん。今日から私達は家族になったの。私達のことはパパとママって呼んでねっ」
「う、ういっ!」
アーニャはまたも嬉しそうだ。まぁせっかくできた家族が一日も保たなかったんだ。そうなってもおかしくはないか。
……しかし、この人達は普通の良さげな夫婦だ。昨日の様な犯罪者夫婦と違い、この家族ならアーニャを一人で家で留守番させても大丈夫かもしれない。
——そう思ってた時期が、僕にはありました。
ψ ψ ψ
今回の里親であるレブスキー夫妻は、都会の街中で夫婦で喫茶店を営んでいるそうだ。残念ながら二人とも子供に恵まれることのできない体だった様で、それなら養子を取ろう、という経緯があったらしい。
経営している喫茶店も人気らしく、店と同じビルの上階に家を持っていた。
家には僕達用の子供部屋まで用意してくれていたらしく、アーニャは自分の専用ベッドがあるとわかると飛び跳ねて喜んだ。
うん。ここまで何も言うことのない。最高の里親に拾ってもらえたと言ってもいいだろう。
——しかし、大問題が近所に潜んでいたのだ。
「を? を?」
(……)
「……を?」
(やめなさい)
その大問題とは、今僕達の目の前で「を?」と連呼しているこいつだ。
こいつのことは、近所に僕と同い年の子供がいるということで母(里親)に紹介されたのだが、こいつはやばすぎる。
僕と同じ……つまり十歳にしては大きい体格。
緑色の髪をトップだけ残した刈り上げ坊主に、謎の剃り込み。
そして、信じられないくらいケツアゴ。
……感のいい人なら気づいただろう。そう。あいつにそっくりなのである。
——燃堂力。僕が唯一思考の読めない、頭のおかしいバカである。
(海藤に続いて、二人目のそっくりさん登場かよ)
「を? を? なんだおめー、珍しい頭してんな」
お前が言うな。
どうでもいいけど、「を」って、言いにくくないのか?
「この子達は今日から私の子供になったの」
「を! おばちゃんのこどもか!?」
「そうなのっ! 十歳と五歳の兄妹なんだけど、名前は兄がクスオで、妹がアーニャよ。仲良くしてあげてね」
「わかったぜおばちゃん。えっと妹がアーニャで、兄がクスオ……言いにきぃからお前はマイメンだな」
おい。なんだマイメンって。やめてくれよ。
「おうマイメン。ペペロンチーノ食いにいくか! を?」
行かねぇよ。オリジナルはラーメンでお前はペペロンチーノかよ。
そしてその距離感の詰め方、やはりお前は燃堂の亜種だな。
「ぺぺろんちーの? おいしーの?」
「おう! 宇宙一の食いもんだぜ! アーニャも食うか?」
「くうくう!」
食うな。絶対についていくなよ。つれてもいくなよ。
「あ、そういえば名前まだ言ってなかったな。オイラっちはリッキー。リッキー・ネンディーだ」
オイラっちってなんだ。そこはオレっちでいいだろ。名前はほぼそのままだし。
ふん。どうせこいつのケイドゥと一緒で他の所もほとんど同じなんだろうな。
「リッキー君は名門イーデン校の初等部の五年生なのよね」
「を! そうだぜ!」
(イーデン?)
「あに、それじゅんぱくのうもうもいってたよ」
ふむ、アーニャの言う通りだな。ということは、ケイドゥとネンディーは同じ学校の同級生だと言うことか。……名門とか言ってるが嘘なんじゃないか?
こいつもオリジナルと一緒で運動能力だけに全振りしたステータスだろうし、名門でやっていける地頭などあるわけがない。
「しかもね。リッキー君は入学してからずっと成績が学年一位なのよ。すごいわよねぇ」
!? な、なんだと!?
燃堂が学年一の成績だと? それはどんな馬鹿の集まる学校なんだ!?
思考を読んでも何も考えていないこいつが、頭がいいなんてありえないだろ。
……た、確かめてみるか?
(……なぁ、円周率って知ってる?)
「を?」
ふっ、ほらな? この男が答えられるはずが——。
「3.141592653589793238462643383279」
(!?)
「502884197169399375105820974944592307816406286208998628034825342117067」
(も、もういい! わかったから!)
「を? そうか?」
な、なんなんだこいつは!
問題を出した途端頭の中に数式や計算の羅列が滝のように流れ始めたぞ!
まさかこいつ、問題に答える時だけに脳が最高のハイパフォーマンスを発揮するのか?
どんな脳みそだよ。だが、これなら成績が名門で学年一位と言われても納得はできる。
「ね? すごい頭脳でしょ?」
「ま、オイラっちは天才だかんな!」
……確かに勉強はできるらしい。だが、頭がいいのと勉強ができるは全くの別物だ。こいつがバカで危ないやつだと言うことに変わりはないんだ。
今はアーニャをネンディーから遠ざけることが第一だ。教育によろしくないからな。
(……ま、時間があったら遊んでくれ。僕達は今からやることが)
「あ! そうだ! そういえば今人気のライブチケットを三枚もらったんだわ! うちの家族だと一枚足りないし、売ろうかと思ってたんだけど……せっかくだから三人で行ってきなさいよ。ちょうど今日の夕方にあるから」
「を? ライブ?」
待ってくれ母さん、急にどうした。
僕はこいつとライブなんて行かないぞ。
「だれのライブだ?」
「うふふ、今話題のココミンちゃんよ」
「を!? ココミンのライブか!?」
「ええ。リッキー君好きだったわよねぇ」
「おう!」
ココミン? ……嫌な予感しかしない。僕は絶対に行かないぞ。
「おうマイメン! アーニャ! 一緒にココミンのライブ行こーぜ!」
「ここみん?」
「なんだ知らねーのか? 今人気絶頂のアイドル、ココミン・テルシーちゃんだ!」
そう言うと、ネンディーはどこから取り出したのか一枚のCDを手渡してきた。
……そのCDのジャケットに写っていたのは、今の僕と同い年くらいで、確かに整った容姿の女の子。
真っ赤なロングヘアーが印象的だが、僕からしたら彼女にしか見えなかった。
——おっふ。照橋さんもいるのかよ。
読んでいただきありがとうございます♪
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