「おでけけ、おでけけ〜♪」
(おでかけな?)
僕達は今、母さん(里親)の運転する車に乗り、とあるライブハウスへと向かっている。横にはしっかりネンディーも乗っている。
ネンディー曰く、今大人気の小学生アイドル。ココミン・テルシーさんのワンマンライブを見に行くところだ。
……結局母さんに押し通されて、僕とアーニャとネンディーの3人でライブを観に行くことになってしまった。
「を? おで毛毛? アーニャ、でこに毛ぇ生えてんのか?」
ちがう。おでけけだ。なぜに漢字にした?
「アーニャのでこ、ツルツルだよ?」
「を? なんだ、でこに毛ぇ生えてねぇのか」
「リッキーのでこもツルツル!」
「へへっ、毎日母ちゃんの剃刀で剃ってるからな〜」
どんな会話だよ。なんで誇らしげなんだよ。
「マイメンも母ちゃんの剃刀借りて、でこ剃ってるだろ? を?」
剃るわけねぇだろ。
せめて父ちゃんのを借りろ、母ちゃん可哀想だろ。
「あ、ちなみにな? 体の一部分に一本だけ生えてくる毛は福毛って言うんだぜ。だから厳密にはおで毛毛なんてもんはねぇんだ」
「へぇ〜」
やめろ。バカっぽい会話内容なのに、博識に見える発言をするな。
頭がこんがらがるだろうが。
「リッキー、『あにのふくげをさきにみつけたほうがかちげーむ』しよ」
「を? なんだそれ、おもしろそうだな! やるか!」
「やろやろ! よ〜い、どんっ!」
「を? を? ねぇな……を?」
「ない。ここにもない……を?」
すぐにやめろ。二人して僕の体をじろじろと観察するな。
あとアーニャはネンディーの真似もやめろ。
「ふふふっ。すっかり仲良しさんねぇ〜」
どこがだよ。
おい母さん、行き先を眼科に変えないか?
「あ、そろそろ着くわよ〜」
「を!? 着いたかっ!」
(おい、気をつけないと、落ちるぞ)
ネンディーが車の窓を開き、身を乗り出す。その視線の先には、ココミンという美少女のドデカポスターがデカデカと掲示された建物があった。
(あれがライブハウスか)
ψ ψ ψ
母さんの車から降り、僕達はライブハウスへ入場した。
係員の誘導の元、僕達は自分達の席へと向かう。すごい観客の数だが、ちょうど客席の真ん中だ。ファン的には当たりの席に当たるのかもしれない。
「アーニャ、アドドル見るのはじめてっ! ワクワクっ!」
(アイドルだ。舌噛むなよ)
「はやくでてこねーかなぁ、ココミン。待ちきれねぇなぁ。な、マイメン」
(悪いな、僕はアイドルには興味ないんだ)
「を? じゃあペペロンチーノ食いに行くか?」
(なぜその選択肢? ライブ楽しみにしてたんじゃないの?)
そんな会話を繰り広げていると、急に会場の照明が落とされた。そして、ステージに一本のスポットライトが当てられる。
『みんなおまたせ〜! 今から、ココミンライブが始まるよ〜っ♪』
『うおおおおおっ!』
スピーカーから女の子の声が響き渡る。その瞬間、会場内のボルテージは一気にマックスに上がった。
——ぷしゅうー。
白いスモークがステージから噴射する。噴射されたスモークが薄まってくると、その向こうに女の子のシルエットが浮かんでいた。
そして、そのシルエットを見た途端、ライブ参加者たちが雄叫びを上げ始める。
「うお〜っぷ!」
「うお〜っぷ!」
「うおっぷ〜!」
うおっぷ? おっふじゃなくて?
やがてシルエットは実像に変わり、アイドルがステージに降臨なされた。
「は〜い! みんなやっほ〜! ココミンで〜す♪」
『ここみーん!』
『ここみん〜!』
「……」
なるほど。確かに大人気のようだ。
しかし、本物を見ても思ったんだが、ココミンは照橋さんにそっくりな容姿をしている。違うのは髪色くらいだろうか。本当にそれ以外はほとんど同じだった。
(うわぁ。いくら私がかわいいからって、こんなに気持ち悪い歓声をあげるなんて。ま、仕方ないよね。だって私は美少女、いやプリティガールだからっ)
——このように心の声も同じである。
『ここみん、僕を見て〜!』
……いや、照橋さんとは真逆な点も一つあった。それは……。
「え? なんで世界一プリティガールなココミンにそっちからお願いしてくるの? そっちが一方的に私の願い事を叶えろよボケが♡」
「うおっぷぅ〜!」
心の声をそのまま口にしちゃうところである。
つまり、自分が可愛いことを自覚していると公言できちゃうタイプのようだ。
『も〜。相変わらずみんな気持ち悪いなぁ♪』
「もっと言って〜!』
『黙れ♡』
「うおっぷぅ〜!」
「ココミン、ウインクして〜!」
『え? 私のウインクをあなたごときがもらえると思っているの? 今すぐトイレで鏡をみてこいよクズが♡』
「うおっぷでございまーす!」
え、なんなのこのライブ。
推しに罵倒されるタイプのライブなの?
女王様系アイドルってこと?
十歳なのに?
「うお〜! 生ココミンすげーなぁ! よ〜し、オイラっちも行くぜ……ココミーん! 一緒にペペロンチーノ食いに行こーぜ!」
ネンディーも生で見るココミンに大興奮のようだ。
「行かねーよ♪ そのあごにパスタが挟まってるとこ見たら、笑い死にしちゃうでしょ♡」
「え……っ」
いや、お前は落ち込むのかよ。
「マカロニより細いパスタは、挟まらずにすり抜けるのに……」
どこ気にしてんだよ。
もしかして試したことあるの?
「を……を……」
「あに、リッキーすわっちゃったよ?」
(……そっとしといてやれ)
その人、ついに自分のあごのファニーさを自覚しちゃったみたいだから。
ψ ψ ψ
『さて、そろそろコーレスにも飽きてきたし、お歌をきいてもらっちゃおうかな』
「うおっぷ〜!」
『それでは聞いて下さい! ココミンで、『エンジェルオーダー』です♪』
——テテテン、テテテン。
軽快な前奏が会場内に響き渡る。そして、音楽に合わせてココミンが踊りだすと、他の乗客たちは狂ったようにいわゆるオタ芸をやり始めた。
「雨のように降り注ぐ視線がリフレクト。
私は気付いていない振りをし続けているわ。
あなたにだけ聞かせてあげる
秘密のスウィートオーダー♪
地上に舞い降りたエンジェルにも
音痴という弱点あるかも?
まさか……なんて思っていない?
だ・け・ど♪
——残念!
めちゃ、うまいの〜♪
なぜなら私は完璧な、プリーティーガールー♪
完全! 好きなったでしょ〜♪
いいのよ 身の程知らずな恋をしても
その代わり この後グッズで財布の中身を使い果たせよ? 」
「うおーっぷ!」
「ココミン最強ー!」
……オリジナルよりも歌詞が最低だな。
グッズで財布の中身使い果たせって、どんな歌詞だよ。
「ココミーん!」
(お。戻ったか)
いつの間にかネンディーも復活していた。
「ペペロンチーノはすり抜けるぜー!」
まだそこ気にしてたの?
「お〜!」
(……)
アーニャは目を輝かせてココミンを見つめていた。
「あに、あいどるかっこいいね!」
(……そうか)
アーニャの年頃ならアイドルに憧れてもおかしくはない。が、あの人に憧れるのだけはやめさせたい。
「あに、かたぐるまして」
(だめだ。後ろの人達が見えなくなるだろ)
「を? じゃあオイラっちがしてやんよ」
(あ、おいバカ)
僕が静止するまもなく、ネンディーはアーニャを肩車してしまう。
……すると案の定。
「おい! 肩車なんてされたらココミンが見えねぇだろ!」
「を?」
後ろの席からクレームが入ってしまう。
(仕方ない、ここは僕が謝ろう。あの、妹がご迷惑を——あれ?)
「ん? っ! お、お前は! 盟友のクスオっ!?」
(あ、人違いです)
なんと、後ろにいたのは海藤のそっくりさん、純白の羽毛ことジョン・ケイドゥだった。
しまった。今日は心の声が厨二モードじゃなかったからか、ほとんどの観客が同じことを考えていたせいか、こいつがいると気がつくことができなかったようだ。
「何を照れているのだ。俺だ、ジョンだよ」
「あ! じゅんぱくのうもうだ!」
「アーニャ……まさか、未来の妻までここにいたとは」
(……なぜここにいるんだ)
「えっ? そ、それはだなっ……このライブにダークリユニオンが出没するという噂を聞きつけたのだ!(ほ、本当は頑張ってライブチケットをゲットしたなんて言えないよぉ)」
うん、そうか。お前は純粋にココミンファンなんだな。
「を!? お前オイラっちと同じクラスのチビじゃねぇか」
「えっ!? な、ななななんでネンディーがここにっ!?」
おや、やはりこいつらは同級生だったらしいな。
「マイメンの母ちゃんがチケットくれたんだよ」
「マイメン!? く、クスオっ! お前はネンディーとどんな関係なんだ!?」
「オイラっちとマイメンはズッ友よぉ! な、マイメン!」
違います。家が近所ってだけです。
「ば、馬鹿なことを言うな! クスオは俺の盟友だ。お前などとズッ友などになるはずがない!」
違います、そしてお前とも盟友じゃねぇ。
「ちがうます! あにはアーニャのあにます!」
なんで張り合ってんだよ。
そして違う。正解はアーニャの兄(仮)です。
なんか知らんが、いつのまにか三つ巴の戦いが始まっていた。
「クスオはこれから、俺と一緒にダークリユニオン探しの旅に出るんだ!」
——出ない。
「はぁ? マイメンは俺と一緒にペペロンチーノを食いに行くんだよ!」
——行かない。
「あにはアーニャとすぱいごっこしてあそぶの!」
……家に帰ったらな。
「旅!」
「ペペロンチーノ!」
「すばいごっこ!」
……はぁ、何この状況。
ψ ψ ψ
—— ココミンside ——
え、何あいつら。この私のライブ中に、意味不明な会話に夢中になってる?
しかもその内の二人は私にベタ惚れで、イーデン校では同じクラスのケイドゥ君とネンディ君じゃない。いつもなら私にメロメロのはずなのに、私を差し置いて別の誰かに夢中になってるというの?
だ、誰なのよ! そんなことできる奴なんているわけないのに!
あの二人の間にいるのは……え。なにあの変なアクセサリーつけたピンク髪の男。しかもあいつ、このライブ中一回もうおっぷって言ってなかったはず!
私の姿を見たら「一うおっぷ・二歩後退り・三うおっぷ」がマナーなのに知らないわけ?
え? 私今あんなヘンテコなやつに負けているの?
え? この私が?
……ダメよ。そんなのダメ。
私のライブで、私以外が主役になるなんてありえない!
そんなの私のプライドが許さない!
怒りがマックスに膨れ上がった私は、今がライブ中だということも忘れて、その男に向かってビシッと指を指していた。
「そこのあなた!」
(? え、僕?)
「そうよあなたよ! あなたに特別サービスをしてあげるわ。……今度私とデートしなさいっ!」
——ガヤガヤ。
私がデートという発言をしたことで、会場がざわついている。
仕方ないことよ、だって普通ならデート一分につき10ダルクかかるのだから。
「二人きりの空間で教えてあげるわ。本当の人気者がどういうものなのかを!」
そして、必ずあなたにうおっぷと言わせてみせるわ!
(……あの、遠慮しておきます)
読んでいただきありがとうございます♪
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