魔法少女リリカルなのは ――呪いの魔法少女と祈りの魔女―― 作:fukayu
結界内に入る。入ってしまった。さっき自分で言っていたではないか、別法則の敵は手強いと―――
ここにいるのは死神の敵である虚では無く、魔法少女の成れの果てである恐ろしい魔女だ。
――――ああ、もうどうにでもなれ!
俺はあまり得意ではない瞬歩で結界内を突き進む。少なくとも普通に進むよりも早いはずだ。
魔女の結界は想像よりも短く、目標の人物たちは早くも見つかった。
発見したと言った方がいいか。
そこには新品だったと思われるバリアジャケットが無残に引き裂かれ、もはや原型を残していないかつて人だったものが転がっていた。
あの転生者だ。でも、あまりに呆気なさ過ぎる………俺より少し先に入ったものの瞬歩で追いかけた以上殆どタイムラグは無かった筈だ。
――――そうだ、もう一人。あの茶髪の少女はどこだ?
ここにある死体は飛び散っているが一人分…………コイツに連れられていた少女の分が無い。
周囲を探し、すぐに少女と何故転生者の少年がこれほど早く死亡したのかその理由を見つけた。
「クソ、そういうことか!」
少女の他に見つけたのはこの結界の主である魔女と、一人の魔法少女。
「あら、まだ他にいたの?」
魔法少女と目が合う。焼き焦げそうなほど紅い瞳に一瞬目を奪われるが、そんな暇はない。
彼女は俺を味方などとは思っていない。あくまで魔法少女の目的は魔女を倒し、その卵を――グリーフシードを奪うこと。グリーフシードは彼女たちにとって魔法を使って濁ったソウルジェムを浄化する唯一の方法であり、その確保は最優先である。そこに彼女(かは知らないが)にいい所を見せようとした馬鹿が現れたら横取りされると思うのが自然だろう。何も知らない――真実を知らない魔法少女なら共闘という線があるかもしれないが、もし、真実を――ソウルジェムを浄化しないとどうなるかを知っている魔法少女が相手ならそんな甘さは存在しない。
「待て!俺は言ってわかるかわからんが死神だ!」
「死神?ああ、私を地獄から迎えに来たの?殊勝なことね」
「違う!ほら、これ斬魄刀!」
「ああ、なるほど……」
通じた!つまり、あの魔法少女は転生者だ。
黒髪紅眼、黒いボロ布みたいなマントを羽織り白い仮面を祭りの屋台のお面のように斜め掛けしたその魔法少女は黒い短剣を握りながら一応こちらの話を聞く気になったらしい。
「俺にはお前さんの邪魔をする気はない。必要なら共闘もする。だから、攻撃はやめてくれ――――」
「フフ―――」
魔法少女が笑ったかと思うと俺の視界から消える。
そして数秒後俺の頬に鋭い痛みが走る。
「は――――?」
「ダメじゃない油断しちゃ」
魔法少女がすぐ目の前にいた。
血の気が引く。嘘だろ?気配を感じなかったぞ……この距離で姿だけでなく気配すら見失うなんて―――――
「!――――波動の三十三、
混乱する気をを沈め詠唱破棄で発動した鬼道で蒼い炎を発射する。
それが短剣で容易く切り払われるのを見てから反射的に斬魄刀を抜く。
「へぇ―――」
「っく!」
間一髪。あと少し、脳の判断を待ってから行動していたら俺の今世は終了していた。魔法少女は蒼炎を切り払うと同時に迷うことなくまっすぐ俺に突撃してきた。一撃一撃が急所を狙うような鋭さを持つ太刀筋は得物の小ささを感じさせないほどにこちらに威圧感を与えてくる。
「でも、」
刀と短剣のリーチの差を活かす事など出来ないままその猛攻に斬魄刀ごと後ろに退けづらされる。
そのままガラ空きの懐に膝蹴りを決められて俺の身体は地面へと叩き落とされる。
「接近戦はダメダメみたいね」
「雷鳴の馬車 糸車の間隙 光もて此(これ)を六(むつ)に別つ。縛道の六十一、
「!?」
彼女の軽口に対応する気も起きないまま、完全詠唱によって縛道を発動する。
直ぐ様縛道の二十一、赤煙遁で煙幕を張りその場を離れる。
(アレはマズイ!魔女があっちの方に行ってくれればいいが、多分それでも時間稼ぎにしかならんぞ……)
体が縮んでいるとはいえ、これでも前世では隊長クラスとは言わないまでもそこそこ修羅場はくぐり抜けた自信がある。それでも一体一、それも接近戦じゃ勝機どころか活路すら見い出せない。元々斬魄刀を使った戦闘は才能がなかったが相手が悪すぎる。
早くあの少女を連れてこの結界から出ないければ――――
その思いだけが先行し、その姿を見つけた瞬間声すら掛けずに抱え上げて全速力で瞬歩を使って移動する。
「全く、やってくれるわね」
死神と名乗る少年の拘束を抜け出した魔法少女は一人残された結界で魔女と対面する。
死神の少年が予測した通りならば魔法少女の本来の目的は魔女が持つグリーフシードであり、邪魔者でしかなかった彼らがいなくなった今魔女との戦闘に集中するはずだった。
「折角、この街の争いの種を少し取り除いてあげようと思ったのに――――」
しかし、少女は魔女には目も呉れずに懐から取り出した一枚のタロットカードに似たものをその短剣で切り裂く。
先程まで黒衣の暗殺者という風貌だった少女はいつの間にかバイザーによって目隠しをした姿に変わり、その力によって天魔を召喚し、無傷の魔女を残したまま一人結界から消え去る。
「歯車は意図せずとも動き出す――か」
「はあ、はあ………」
流石に人一人抱えての瞬歩はキツイ。相手は少女といえども今は俺も同じくらいの姿だ。前世なら兎も角、今はこの身体が齎す一つ一つのハンデが身を染みる。
少女はよほど目の前であの少年を失ったことが堪えたようで運ばれている間も心ここに在らずといったといったところだ。始め見たときに髪を両サイドに縛っていた髪留めは戦闘の余波で落としてしまったのか今は見当たらず肩までかかる髪が顔を覆っている。
「………あなたは、?」
「俺が見えるのか?」
ようやく開いた口から出た言葉に驚く。元から素質があったのか身に迫る死の危険によって覚醒したのか、彼女には死神である俺の姿が見えているようだ。
(時間がないな………)
いつからか戦闘音が聞こえなくなっていた。魔女か魔法少女のどちらが消えたのかはわからないが相打ちという希望は抱かない方がいいだろう。どちらが勝ったにせよ、このままじゃ俺たちが生き残る術はない。
このまま逃げ続けるという選択肢は選べない。あの魔法少女想像以上にやるようだ。こちらのガードを崩すためだと思っていたが、その時に受けた小さな傷が塞がらない。死神には霊子を使ってある程度自己治癒ができる。それ以外にも何度か治療用の鬼道を試したが全く効力がない時点であの短剣に何らかの治癒阻害効果がついていたというのがわかった。
それだけならまだ数箇所しかダメージを受けていないのでよかったのだが、実際動いてみるとその傷の箇所がことごとく響く。まるで獲物をじわじわ弱らせて確実に殺そうとする狩人や暗殺者みたいなやつだな、本当に魔法少女か?
「ま、でもこいつは幸いか」
それでもまだまともに霊力の移動ができる事とこの少女に才能があるとわかったことは幸運だ。
二人で逃げられないでも一人なら逃げられる。
(原作で朽木ルキアが黒崎一護にやった方法だが、果たして俺にも出来るかな?)
死神の力も譲渡は重罪だ。バレれば重罰に処されても文句は言えない。だがあいにくこの世界に尸魂界は無い。俺が知らないだけで本当はあるのかもしれないが、関係ない。ヒト一人救えるならその後どうなろうと生きていれば甘んじて受けてやる。きっと朽木ルキアもあの時同じ気持ちだったのだろう。結局前世では転生した時期が逸れてて会えなかったけど気持ちはわかる。
(いやー、会いたかったな。神様も人が悪い。いくら死神が長生きでも元柳斎の爺さんの髪が黒く生い茂ってる時期に生まれたら会う気無くなっちゃうよ………ファンだったのに―――)
生前の目標である原作キャラにサインを貰うという夢が結局説教を喰らいながらも貰えた一枚だけという事実に嘆きながらも覚悟を決める。
「さっき聞こえたかもしれないけど俺は死神だ」
「……死神?」
「ああ、だけど安心してくれ。俺の仕事は生きてる人間をあの世に連れて行くことじゃない。死んだ人間はたまに送るけどな。………今、君と俺はさっきの化物か化物より強い女に殺されそうになってる」
「ユウくんは私を庇って……」
「ユウ………それがあいつの名前か。そうか、庇ったのか」
初めての転生者には自分の事しか考えていない奴が多い。自分が特別だとか他の人間を物語の登場人物だとか言って見下すことがあるのだ。長生きするか何回か死ぬとわかるが他の人間がゲームのNPCみたいだったり自分が特別なんて事実は無い。転生者はその世界で生きていく以外に選択肢は無く、世界に生かされているのだ。自分世界で生きていける人間なんてそうそういないように本当に世界で特別な人間になりたいなら他人を自分と同じだと受け入れ前に進まなければいけない。
そのユウって奴はその事実に気づいていたってことだ。何故この少女をこんな危険な場所に連れ出したのかはわからないが、庇ってでも生かそうとしたその思いだけは無駄にはしないぞ。
「でも、ひとつだけ生き残る方法がある」
「え、」
絶望的な状況に差し出された一筋の蜘蛛の糸に彼女は顔を上げる。涙でグチャグチャになっているが、整った顔立ちだ。そして、きっとその涙は恐怖よりも目の前で誰かが死んだという悲しみと悔しさによるものだ。絶望に歪みながらも真っ直ぐとこちらを見つめるその瞳が教えてくれる。
「だが、ひとつだけ約束してくれ。決して憎しみで、復讐のために力を使わないと―――仇討ちされても誰も喜ばないからな。これ、死神である俺からのお墨付き。死んだ人間はそんなこと望んでない。弔うなら墓作って念じてやるだけでいい。――約束できるか?」
「………わかった」
短く、決意の篭った返事に今度こそ未練がなくなる。多分、今回の俺の人生はここまでだ。死神の力の譲渡をすれば暫くの間戦闘は困難だ。原作では黒崎一護の霊力が予想以上に強くて朽木ルキアは殆ど搾り取られていたが、あれは特別であり例外だ。この少女もかなり才能はありそうだが、例え全て持っていかれなくても残った霊力を使って全力で逃がすつもりだから結果は変わらない。
「なら、俺のこの刀を君の中心に貫いてくれ。恐れないで、な」
言ってて思うが斬魄刀ってどっからどう見ても良く切れる日本刀って感じだからこの譲渡の方法見ようによっては俺がこの少女を刺殺してる現場になるかもしれない。多分自分から刺しても渡せるがここは彼女の積極性に任せよう。
「………っ」
少女は迷わなかった。捉えようによっては自殺しろと言っているような言葉を信じ斬魄刀を自身へと突き刺す。斬魄刀を通じ、予想以上に急激に吸い取られる霊力に耐える。
「そ、そういえばまだ名前言ってなかったな。俺は
一応、最後に自分が助けようとした相手の名前は知っておきたいしな。俺も知っていてもらいたい。
「私は……」
あちらも相当キツいのか彼女は強がるように笑ってみせる。最初に見た時から思っていたが俺はこの少女を知っている気がする。優しい心を持ちながら、折れない不屈の心を持ち合わせている。
そう、俺は知っていたのだ。
自分と同じ転生者に気を取られ、最初に見たとき気付かなかった。
いつも付けている筈のピンク色の髪留めが外れて髪が降りていたからわからなかった。
そもそも、一番最初の人生の記憶など殆ど覚えていなかった。
「「高町なのは」」
同時に彼女と―――高町とその名を告げる。
そして次に言葉を発してのは俺でも先に名前を言われて動揺している高町でもなく、俺の持っていた巾着袋からだった。
『Stand by Ready, set up. 』
魔女。
魔法少女の成れの果てであり、呪いそのものであるその怪物は自身の結界に迷い込んだ獲物を殺す。捕食の為かはたまた魔女となった自分の境遇を呪ってか時に無慈悲に時に使い魔とともに弄びながら殺す。
今宵迷い込んだ獲物は4体。一体は殺し、一体には逃げられた。残る二体を探し結界内を彷徨っていた魔女は自身の結界内の壁に横たわる獲物の片割れを発見する。
「よう、遅かったじゃねえか」
最早まともに動くこともままならないのか、獲物は魔女の姿を認識しながらも荒い息を吐くだけで逃げようとはしない。
魔女は目の前の獲物に手を伸ばし――
「おかげで全章
獲物が空へ二本指を伸ばす。
「破道の九十、
直後、魔女の巨大な体を覆い尽くさんばかりの黒い長方体が出現し超重力が魔女を襲う。
一瞬にして体をペチャンコに押しつぶされた魔女が最後に見たのは力尽き意識を失う獲物の少年とその上空で白い衣装を着た結界に迷い込んできた獲物の中で最もか弱かった筈の少女から発せられた桃色の光だった。
「後は、任せたぜ高町――」
「ディバイィィーン、バスタァァーーーーーー!!!!!」