魔法少女リリカルなのは ――呪いの魔法少女と祈りの魔女――   作:fukayu

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世界の支配者

「さて、まず我が『鳴海探偵事務所』についてだが、」

 

 俺と高町の二人を椅子に座らせた所長は保険会社あるいは携帯ショップの店員の如くスラスラと高町がサインした契約に不備がないか説明していく。

 聞いてて思ったことだが、怖い!とにかく一瞬でも聞き逃すと確実に不利になりそうな条件が大量に出てくる。

 まず初めにこの契約の期限が無制限になっていた。期限が設定していないから俺は高町のことをいつでも、どこでも、いつまでも守らなければいけない。その報酬があの莫大な契約金なのだそうだ。まあ、こちらとしても頼まれればまた助けるし高町が所長に報告してその働きに応じて給料という形で支払われるらしいので特に文句といる文句はないが。

 

「でもそれだと俺、他の依頼受けられないぜ」

 

「おや、最初の仕事を見事なまでに失敗しておいてまだ君に仕事が回ってくると思っているのかね?」

 

「そ、それは―――」

 

「当分は君はその仕事に従事していたまえ。人手については―――君は私を舐めているのかね?」

 

 鋭い視線に「滅相もございません」としか返す言葉がない。

 この事務所には不定期の職員が数人いるが、基本は所長一人で回している。事務員替わりだった俺の仕事も先日所長が仕事で数日いなくなった時の留守番くらいのものだ。

 

 他の内容も一部無視できない言葉こそあったが聞いていれば特に問題ないものばかりだと安心しきっていたが、

 

「最後に、我々は転生者だ。問題はないね?」

 

「ちょ、おい!」

 

 最後の最後にとんでもない爆弾を投下しやがったこの変人は。俺たち転生者同士の間ならいいが、高町は原作キャラ――それも主要人物というか、主役だぞ?どうやって誤魔化すのかはたまた一切触れないのか気にはなっていたが、こうもド直球で来るとは―――一体何を考えているんだ?

 

「何か問題でも?探偵業に最も必要なのは依頼主との信頼関係だ。私はそれを書類等形で表すが、それ以外にも依頼に関わる範囲で情報を開示しあるのは当然の行為だ」

 

「で、でもよう………」

 

「第一、君が堂々と死神と名乗っている時点で誤魔化すのは不可能なのだ。どこの魔法少女の世界に刀を持って探偵などをやっている死神なんかが出てくる?存在自体がありえない」

 

 白い契約マンをやっている死神マスコットが出てくる作品は知ってると、言いそうになったが高町が所長の話にウンウンと頷いているのを見てやめる。

 『死神探偵』――結構いいと思ったんだけどな。

 

「よし、では続けるぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 5月△日(その2)

 

 結局その日は所長の転生者談義で終わった。

 

 俺たちは既に一回以上死んでいることを説明すると何故か俺は「知ってた」という顔をされ、高町のリアクションは血行も良く健康そのものの所長に向けられた。

 何故だろう?

 

 所長の話の中にはまだ俺の知らないモノもあり、この世界では死んだ転生者の存在はいつの間にか本当にこの世界に最初から存在しなかったことになるらしい。

 じゃあ、なぜ所長が知っているという話だが、過去の書類を整理している中書類の番号が合わなかったり不自然な空白があったから気づけたらしい。流石探偵と言わざるを得ない。

 

 その事実に俺も、そして目の前で知らなかったとはいえ転生者を失った高町も少なからずショックを受ける。前の世界がどうだったのか、死んだ後そのままこの世界に転生した俺には分からないが、俺という生きた証が消えてしまうのが少し悲しく思うと同時に他人にこんな思いをさせなくて済むという安堵があった。

 

 取り敢えず、まだ俺たちの中に死んだ『ユウ』という転生者の記憶があるのは確かだ。もし、彼の例にあったら死神としてこの世界にあるかどうかはわからないが尸魂界に送ってやるのが俺に出来るせめてもの彼に対する敬意だろう。

 

 所長の話は日が暮れる前に終わり、俺は依頼を受けた身として依頼主である高町を家まで送っていくことになった。基本俺の姿は一般人には見えないが、高町みたいな例外や他の転生者には普通に見えるので怪しまれないよう守護霊として見えるように振舞おう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふう、行ったか」

 

 二人の少年少女側が事務所が出て行ったのを見届け、私は少し温くなってしまったシュークリームと淹れたてのコーヒーで胃を満たす。

 

「ご機嫌ね」

 

「ご依頼の場合は正面から――と、入口に書いたつもりだが?」

 

「あら、ノックはしたわよ?」

 

 書類に目を通すほど……それだけの刹那に満たない時間の間に私の目の前にはひとりの少女が現れていた。

 黒髪紅眼のその少女は非常に整った顔付きで先程までいた高町なのはとそう変わらない年でありながら、かの少女が可愛いと評すなら美しいと言えるものだった。特に艷やかな髪と見たものの視線を釘付けにする真紅の瞳は芸術品といっても差し支えない。

 

「……流石に気配遮断を使われれば気づかんさ」

 

「それにしては驚いた様子は無いけど?」

 

「何、そろそろ来る頃だろうと思っていた。それだけだよ」

 

 私と対等に否、それ以上に話す彼女もまたこの世界に紛れ込んだ異物だ。それも知る限りは特上の――

 

「大したマッチポンプだったな。些か強引すぎるくらいに……」

 

「あら、私は良かれと思ってやったつもりよ。転生者の中には原作介入等という下らない目的の為に平気で犯罪に手を染める輩もいる。今回もそう。どうやら彼はこの世界の異常性に気づいて『高町なのは』をイチ早く覚醒させるキッカケを作りたくてあんなムチャをしたみたいだけど」

 

「それを知っていながら君は――」

 

「ええ、殺した。最も止めを刺したのは魔女で私は彼の戦う力を根こそぎ剃り落として『高町なのは』を救って死ぬかただ死ぬかの選択肢を与えてあげたに過ぎないわ。結果彼は前者を取った。いい事じゃない。結局彼の願いは彼以外の手で本来そこにあるハズもない王道のチカラで叶えられることになるけど。これが原作の修正力というやつなのかしら」

 

 そう言いながら彼女は堪えきれない邪悪な笑みを手で口元で隠しながら浮かべる。それでいてその美しさが消えないのは素直に賞賛する。恐らく最早それも含めて彼女だと許容できるレベルまで私は彼女との付き合いが長くなってしまったのだろう。

 

「何はともあれ今日は依頼の報酬を支払いに来たわ」

 

「君の『ミッドチルダ側からレイジングハートを奪取する』という依頼は失敗したそれを受け取るわけにはいかないな」

 

「あら、ちゃんとあなたは成し遂げてくれたじゃない。わざわざ別の次元世界まで行ってくれた御足労に対する見返りは払うつもりよ。それにあなたも言ったじゃない”マッチポンプ”と。私の手に渡らなかったことは残念だけどあれは不慮な事故よ結果的に命の危機に貧していた『高町なのは』も救うこともできたし、ね」

 

 全て織り込み済みというわけか。探偵として危険に見合った代価は頂く。そう私が言おうとすることさえ見越してこの少女は用意していた実際の報酬額の半分を私に渡す。

 それは『S』と書かれた白いメモリで私にとっては大金よりも価値が有るものだった。

 

「もうひとつの方はいま技術部に開発させているわ。最も今のあなたの実力なら当分必要ないでしょうけどね、『一人で一つの仮面ライダー』さん?」

 

「君も人が悪いな。ミス・カレイドライナー」

 

「フフ、いい拾い物をしたようね。彼私の事をソウルジェム製だと勘違いしていたけど、純粋に『高町なのは』を救うために命をかけようとしていたわよ」

 

 万華鏡の異名を持つ彼女はこの街でも最強クラスの転生者だ。強さにおいても影響力においても彼女は海鳴市の顔と呼べる存在だ。まだ来たばかりの蒼月白やこの世界で普通に生活している高町なのはが知るはずもないが、私がこの世界に来た時を考えればこの街が魔女や虚の脅威こそあるが平和そのもので今日という日を迎えられたのは奇跡に等しい。

 昔はもっと自らの欲望に素直な転生者が無数にいた。それこそ世界をその手に掴もうとする輩やまだ赤ん坊だった高町なのは達を人形のように手に入れたがるもので溢れかえっていた。私も探偵としての行持により力無き依頼主の声を聞きそのようなものたちと戦いはしたが、所詮は個人にできる限界だった。

 

 しかし、この少女は違う。幾人かの転生者を纏め上げ一つの企業を創り、元いたこの世界の住人を同じ自分たちと同レベルの存在と認識した上で躊躇なく蹂躙した。転生者ではなく、それ以外の都市や国家を相手にである。

 悪しき考えを持つ転生者の相手を(自称するつもりはないが)私を含めた正義の転生者に任せ、自分達は政治、武力、宗教――あらゆる面からこの海鳴市を通じて世界中に攻勢を仕掛けた。

 娯楽品から生活必需品果ては兵器までを転生者が持つ異世界の技術で自分達が作ったものでコスト・性能の面で圧倒してそれを世界中に売り捌き、既存の水道や電気などのインフラを人知れず制圧し、有力者を暗殺・洗脳・取り込みによって手の内に加え、極めつけには従来の兵器とは比べ物にならない誰も想像だにしなかった超兵器によって人知れず行われた最終戦争に勝ち、この世界を手中に収めた。

 

 誠に恐ろしいことはこの海鳴市を中心に行っていたのに当の海鳴市に住む人間は転生者を含め、対岸の火事を見るかのように人ごとだったことだ。

 いつの間にか食べ物が、食器が、電子機器が同じ会社のものに統一されていく。しかし、それが従来のものより遥かに便利なため殆どの者は気付かないし、文句も言わない。自分たちの生活のために働く職人たちですら、気前のいいスポンサーがつき生活が楽になったことで次々とその企業の参加に入ろうとする。当時私のところに舞い込んでいた依頼もあの企業に自分たちを売り込んでくれだとか、他のところより早く契約がしたいと言ったものばかりだった。

 そして、調べる内にその企業の本社がこの街にあったこととその代表がまだ年端もいかない少女だったことに気づき、私はようやく彼女達のやろうとしていることに気づいた。この海鳴市がそうだったのだ。その他の国では恐らくもっと悲惨なことになっていただろう。どこから来るのかわからない軍隊と戦い、その圧倒的な力の前に敗れ去る。その力の出処が島国の小さな街であるなど誰が想像するだろうか。

 

 そして、多くの転生者が事の重大さに気づく頃には既に詰んでいた。

 如何に強大な力を持つ転生者と言えども水や食べ物といった食事、地位や立場といったものは生きていく上で必要だ。

 ある日食べていたものが自分達にだけ効く、前世では猛毒だったものに変えられる。

 原作キャラと同じ年に生まれ同じ学校に通っていたものはある日突然親の転勤によって転校を余儀なくされる。

 突如警察によって捕まり能力で逃げ出そうと思って連行された先が次元の狭間だった。

 

 極めつけは存在の消失だ。

 『灼眼のシャナ』の技術によって新たにこの世界に取り入れられたこの性質は死亡した転生者の『存在の力』そのものをこの世界から消してしまう。

 死したあとも彼らが一定時間トーチとしてこの世界に留まり続けるのもタチが悪い。

 昨日まで味方だったものがある日急に自分にとってどうでもいい存在に変わり消えていく。それによってコンビならば勝てた相手に知らぬうちに一人で戦いを挑み惨敗する。

 起死回生という名の特攻を仕掛けたつもりが、破壊したはずの街や殺したはずの人間ををすべて元通りに戻される。勿論支払うのは自分の『存在の力』だ。

 

 そうやって、自分たちが馬鹿にしてきた世界によって排除された彼らはこの世界に生きた証を残すという唯一の権利すら剥奪されて敗北した。

 当の彼女たちはどんな転生者の攻撃にも耐える『窓のないビル』を街の中心に建て、その中で悠々と過ごしたのだそうだ。

 

「君のやってきたことは本当に正しかったのか?」

 

「結果的に被害は最小限に抑えられた。世界を救う、あるいは守るために嘗てあなたに宣言したとおり、私たちは世界制服をさせてもらった。それをあなたは、悪だと断罪するの?」

 

「いや、私は探偵だ。正義の味方ではない。残念ながらね。そして、君は私にとって上客だ。人は生きる上で金銭や食料といった対価をを必要とする。だから、君は私の敵ではない」

 

「そして、味方でもないわ。ありがとう、いい仕事だったわ」

 

 彼女は悪といえる存在だ。今回も一歩彼女が求めた答えと違えば蒼月白をそして、高町なのはでさえも躊躇なく手にかけただろう。

 しかし、同時に行き過ぎた正義だとも言える。今回私に課した依頼という試練もレイジングハートという物語の鍵とも言えるアイテムをよからぬ者に使わせないための処置だろう。

あのデバイスを使えば最悪高町なのはを思いのままに利用できる上にそれ自体が一種のロスト・ロギアのようなものな為、自身で利用してもさすがに原作の高町なのはほどでは無いだろうが圧倒的な力を得られる。

 きっとこの少女は何事もなく自分の手に渡った時点で砕くか封印するつもりだったのだろう。どちらにせよ高町なのはの手には渡らないが、悪用されるよりはずっとマシだと。そう考えたはずだ。

 

「ああ、それともう一つの報酬よ」

 

「もう一つ?先ほど受け取ったもののもう半分は後日という話になっていたはずだが………」

 

「ああ、そっちじゃないわ。この海鳴市で発生していた『ポルターガイスト』の方よ」

 

「ああ、あれは君だったのか。解決法はこちらで決めたがあれでよかったのかな?」

 

「ええ、上出来」

 

 ひと月ほど前届いた差出人不明の依頼。まさか招待が彼女だったとは………彼女にとってはどうにでも出来る案件だと思うが、まあいい。受け取れるものはお中元だろうと人手だろうと受け取っておく、それが私のポリシーだ。

 

「近々管理局の方で大きな動きがあるわ。どうやら無理矢理ジュエルシードをばら撒こうとしているみたいよ」

 

「それは、また」

 

 大した情報網だ。まさか次元の壁を越えた向こう側のことまで把握できているとは。いや、そうでなければ私にレイジングハートの奪取などという依頼も出せはしないか。

 

「止められないのか?」

 

「難しいわね。管理局側の協力者に確認したところ、あちらの転生者はこちらを完全に舐めていてこの世界のことも原作と同じ未開の管理外世界にしているそうよ。下手に仕掛けて管理局が介入する口実を作るのも得策ではないし、あちらでこちらと同じことをやるのも面倒」

 

「面倒、か」

 

 出来ないと言わないのが彼女らしい。

 しかし、ジュエルシードを落としたとなるとこの世界に新たな火種が降ることになる。以前よりも落ち着いているとはいえ、今の状況は魔女や魔法少女の存在から嘗てよりも遥かに悪いといってもいい。

 

「依頼、と受け取ってもいいのか?」

 

「ええ……報酬は活躍に応じて変えさせてもらうわ」

 

「なら、一つ頼みがある」

 

「あなたが私に依頼とは珍しいわね」

 

「これは依頼ではない!報酬の前払いと言ってもらおう。断じて依頼では――」

 

 いかん、少々熱くなってしまった。私の行持に関わることだとつい、な。

 

「………あなた相変わらず変人ね。これは?」

 

「おそらく必要になるものだ」

 

 先程より些か距離の開いた魔法少女との距離を詰めて情報媒体を手渡す。中には以前より考えていたあるものの情報が入っている。彼女の組織ならば作成も可能なはずだ。

 彼女はそれを何の電子機器にも通さずその眼で見ることで中身を理解したように笑い、次の瞬間には消える。

 

「『ジャジメント』、天災か。さて、どうなるものか」

 

 思わぬ形で動き出した物語は最早誰の手にも止められない。人々に出来るのはその時どう対応するかであり、私の場合は誰の依頼で動くかだけだった。

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