「そろそろ新曲作らない?」
いつもの様に教室で駄弁っているとさっつーが嫌な事を言い出した。
「えー…」
「何で嫌な顔するの⁉︎前の曲、評判良かったじゃん!」
確かに評判は良かった。あの後も動画の再生数は伸び続けミリオンを突破したし、オンラインストアでも数週間に渡ってランキングに残り続けた。
「だから嫌なんだけど…」
今更期待に応えるのが怖い、なんてやわな事を言うつもりはない。HIPHOPの人だ!と言われるのが嫌なのだ。
「でもそのお金で新しいギター買ったんでしょ?」
そう先日、折半した売り上げで取り置きして貰っていたGibsonを遂にお迎えした。
「……しょうがないわね」
「よしっ!」
「これで最後だからね?」
私はそう釘を刺しながらも、これからもズルズルと曲を作る羽目になる。そんな予感がしていた。
「それで、
「
と言っても本当に表現したい事がない。最近の悩みなんて、ちょっと遅くまで起きて練習していると親から早く寝なさいと注意される事ぐらいだ。
「うーん、もうそれで行きましょう」
夜更かしをしたい。そんな些細な主張をどれだけ広げて表現出来るかが作曲者としての腕の見せ所だろう。私は早速ノートに
学校が終わり速攻で家に帰宅した。
「ただいま!」
玄関で靴を脱ぎ洗面台へ向かい、手を洗いながら考える。
(明日の休み、何をしようかしら)
いつもの連休は何も予定が無ければ土曜日の午前中にピアノのレッスン、午後は配信をしている。
リスナーの前で演奏するのも良い練習にはなるが、やはり生身の人間の前で演奏をしないと勘が鈍ってしまうような気がする。
「ピアノ教室の後に路上ライブ、やりましょう」
結束バンドでも路上ライブは度々行った。しかしそれは知名度が上がりメジャーデビューするまでの話なので、実に10年振りの路上ライブになる。
音楽に溢れているこの時代、知名度の無いミュージシャンが人々の足を止めさせるというのは並大抵の事ではない。普通から一歩逸脱した〝何か〟が求められる。だからこそとても良い練習になると思う。
「よしっ…」
夕飯まで練習をしよう。浮ついたこの気持ちを抑えるには練習するしか無い事を私はよく知っていた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「おはようございます!」
「おはよう…あら?」
いつものように元気に挨拶をする彼女に視線を向けると見慣れない大きな物を背負っていた。
「それは…ギターかしら?」
「そうなんですよ〜。この後路上ライブでもしてみようかと…」
喋りながらギターを置き、教科書を取り出す。
「…郁代ちゃんは人前で弾いたことはあるの?」
「(今世では)無いですね〜」
驚いた様子でマジマジと顔を見てくる先生に首を傾げながらもピアノの前に座る。目を瞑り息を吐きながら一つ、気合を入れた。
「お願いします!」
「郁代ちゃんはこの後すぐに路上ライブを?」
レッスンが終わり教科書を片付け帰ろうとする彼女に声を掛ける。
「良ければ見に行っても良いかしら?」
「えっ、先生お仕事は…?」
「今日はもう予約がなくて上がりなのよ」
「そういう事でしたら是非来て下さい!」
先生の好きな曲弾きたいです!と笑う彼女に癒されながら教室を出る。だがその数十分後、私は彼女の才能を過小評価していたと強く実感させられる事になる。
オタクの街秋葉原、そう呼ばれていたのは遥か昔の事。時代の流れと共にアキバ文化は廃れ、大衆向けの観光街と化した。
だがオタクが全くいなくなった訳ではない。
ネット購入に対抗すべくアニメショップが編み出した対策の一つに店舗特典というものがある。
店舗ごとに種類の違う限定品を付属する事でネット購入との差を生み出す事に成功した。そんな企業努力もありオタク達は今もアニメショップへと足を運ぶ。
背中を丸め袋を抱えている少女、後藤ひとりもその中の1人であった。
「へへ…」
物心ついた頃から極度の人見知りであった彼女は、生まれて13年間1人の友達も出来たことがない。当然休日も遊ぶ予定など無く部屋でゴロゴロと過ごし、学校ではひたすら寝たフリをして凌いでいる。
そんな〝ひたすらに熱中出来る何か〟が無い彼女がサブカルチャー文化にハマるのは必然の流れであった。
【クラスの日陰者の俺の隠していた実力がバレてしまい爆乳陽キャ達に告白されて困っている件〜おいおい俺は1人しかいないぜお嬢ちゃん達〜ver2】
最近ハマっているネット小説が書籍化され、数量限定の特別包装版がショップで販売される事を知った後藤ひとりは少ない勇気を振り絞り店舗に足を向けた。
無事購入出来たその帰り道、駅へ向かう道中に何やら人集りが出来ているのが目に入る。避ける脇道も無い為、なるべく視線を合わせないよう下を向きながら通り過ぎようとした彼女の耳に妙に心地のいい音が入り込んだ。
思わず立ち止まり目を向けると音は人集りの方から聞こえてくる。
音量としては控えめであるが耳から離れないその音をもっと近くで感じたい。それだけを考えながら引き寄せられるように人混みに入り込んだ。
隙間を縫って前へ進むとブロックの上に座る一人の少女が目に入る。その姿を見た瞬間、全身に鳥肌が走った。
自分とそう変わらない歳の女の子が周りを囲む大勢の群衆に臆する事なく音楽を奏で、場を支配しているその姿が後藤ひとりの目には輝いて見えた。
(生の演奏ってこんなに凄いんだ…!)
いつもテレビ越しに見ている音楽とは違う、路上ライブ独特の雰囲気に呑まれ後藤ひとりは呆然と立ち竦む。苦手な人混みの中にいることすら忘れ、ただ音を感じる事に身を委ねた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
(これ、どうしようかしら…)
先生のリクエストする曲を弾き語りしていると1人、また1人とギャラリーが増え続け、気付けば多くの人が周りを囲っていた。
余り人が増えすぎると迷惑が掛かるし、何よりギャラリーの目が血走っていて少し怖い。
「これが最後の曲になります!」
周りから上がる落胆の声に頭を下げながらギターを構える。その瞬間周囲を静寂が包んだ。
一音も聞き逃さないという周りからの期待と熱気を肌に感じる。そう。今日はこの感覚を求めてここまで来たのだ。
気負っている自分を落ち着かせる為に一つ息を吐き周りを見回す。すると視界の端に見覚えのあるピンクジャージを見つけた。
「!?!?!?」
あのダサすぎるピンクジャージを白昼堂々着る人物など私は1人しか知らない。まさかの遭遇に驚く意識とは別に、私の手は演奏を見せ付けるように無意識に動き始めた。
「ちょっと良いかしら?」
大熱狂の末終わった路上ライブ。散っていく人を掻き分け、呆けたように立ち尽くすひとりちゃんに声を掛けた。
「えっ、あっはい。…はい?」
声を掛けられたのが意外だったのか慌てる彼女の眼前にギターを差し出す。
「これ、貴女にあげる」
「え?ど、どういう…」
突然の事に理解が追いついていない様子の彼女に構わず強引にギターを押し付けた。
「やっぱりこれは貴女の元にあるべきものだと思うから」
「こんな大切なもの受け取れません…」
私はそう呟くひとりちゃんの顔を見て笑い掛ける。
「じゃあギター私より上手くなったら返して!いいわね?」
「えっ?」
混乱するひとりちゃんを残し、人混みを掻き分け走り去る。やはりギターヒーローがいない世界など考えられない。ひとりちゃんの義理堅い性格は私も良く知っている。これがギターを始める切っ掛けになるだろう。
「まぁ、そう簡単に返させる気は無いけどね」
残された後藤ひとりは走り去る少女の背中を呆然と見送っていたが、暫くして周囲の視線が自分に集中している事に気付き慌ててその場を離れた。
遅れてすいません!モチベが少し下がってまして…この話を書いてる途中に「後藤ひとりが出てこないぼっちざろっくなんてありえない!低評価!」って事がありまして…今書いてるやん…って感じになってテンション下がってました。ぼちぼち続けていきます
参考までに。喜多ちゃんは結束バンドに
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入ると思う
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入らないと思う