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路上ライブで演奏した後だが最早ギターの練習は日課になっているため「今日はやめよう」となる事はない。
家に帰宅した私は最近予備になりつつあったギターを取り出す。
ようやくGibsonが手に馴染んできたと感じ始めていたので残念ではあるが、あそこで出会ったのが運命だったのだろう。そう自分を納得させながら練習を終えその日は就寝した。
そして次の日の朝、動画サイトのコメントをチェックしようとチャンネルを開くと再生数が異様に伸びている事に気付く。
「…?」
理由を探ろうとコメント欄に目を通した次の瞬間、さっと血の気が引いた。
「路上ライブの動画見ました!」
「これ本人?https://gyakkokita.org/」
「めっちゃ可愛い」
「特定班まだ?」
「本当に中学生だったんだ」
そこには身バレを匂わせるコメントが数多く並んでいた。
貼られていた同サイト内のURLを慌てて開くとスマートフォンで撮られたであろう路上ライブの動画を確認することが出来た。
自分の迂闊さに思わず天を仰いたが、まずは両親に事情を説明しなくてはならない。私は慌てて階段を駆け降りた。
「お父さんお母さん…少し話があるの」
台所に立ち料理を作っている母と、椅子に座り新聞を読んでいる父に声を掛ける。
父と母は不思議そうな顔をしていたが私の表情を見ると椅子に座るように促した。
「それで話って?」
「実は…」
路上でライブをした事により撮影されてしまい身元がバレてしまった事、それにより周囲に迷惑を掛けてしまうかもしれない事などを説明した。
そんな私の話を黙って聞いていた父が口を開いた。
「事情は分かったよ」
「それで…郁代はどうしたいんだい?」
「え?」
「音楽を辞めたいの?」
その言葉を受け、私は顔を上げ父と目を合わせる。
「絶対に辞めない」
「……なら別に良いんじゃないかな。別に悪い事をしている訳じゃないんだろう?」
頷く私に父は笑った。
「それにミュージシャンとして生きていくなら避けられない事だったと思うよ。郁代はそれが少し早かっただけさ」
「お父さん…」
「それはそれとして不注意である事に間違いはないんだから…これからは気を付けるのよ?」
そんな父の言葉に感動していた私であったが、その後しっかりと母に釘を刺される事になるのだった。
そして月曜日
「おはよ〜」
教室に入った瞬間クラス中の視線が私に集まる。
その後席に座った私の周りにクラスの女子達がわらわらと集まってきた。
「喜多ちゃん動画見たよ〜!」
「めちゃくちゃ歌上手いじゃん!」
「ねぇ、今日って空いてる?カラオケ行こーよ!」
私の席を囲み、話し掛けてくるクラスメイトからは好意もあるがそれに加えて仄かな嫉妬が感じ取れた。
経験則で知っている。これを放置すると私はクラスの中でいずれ孤立するだろう。
「………今日はレッスンも無かったと思うし大丈夫」
「本当!?やったぁ!」
練習の時間が削られるのはかなり嫌だが、断りすぎても気取っていると思われて角が立つ。そろそろ断り続けるのも限界だと思っていた所だったのでちょうど良い機会だと思う事にした。
カラオケで求められる事は上手く歌うことではなく場を盛り上げることだ。むしろ上手く歌いすぎると周りを萎縮させ水を差す事もある。
そんな理由もあり私は歌う事を最小限に留め、盛り上げ役に徹していた。
「ちょっと飲み物取ってくる!」
皆に声を掛け席を立った私は部屋を出た瞬間大きくため息をついた。
(昔は何も考えず楽しめたのに…)
精神年齢が離れているせいだろうか、どうにもノリが合わない。楽しくない訳ではないのだが、どこか物足りなさを感じていた。
廊下を歩きドリンクバーに向かう。その途中ふと通りかかった部屋の中を見ると、見知った顔が歌っているのを発見した。
「えっ、大槻さん?」
思わず足を止め室内を覗き見る。
最後に会った時には既にお互い三十路に差し掛かっていた。
記憶にある彼女よりも若い姿に感心していると歌っている彼女とバッチリ目が合った。
「「……」」
私は目が合った事に気付かないフリをしてその場から立ち去り、ドリンクバーへ足を向けた。
ドリンクバーに着いた私はコップに氷を入れジュースを注ぐ。注ぎながらふと隣を見るとコーヒーマシーンが置いてあるのを発見した。
次はホットココアを飲もう。そう考えながらジュースを持ち、来た道を戻ろうと後ろを振り返るとすぐ目の前に大槻ヨヨコが立っていた。
「ッ!!」
「違うから」
驚きで飲み物を溢しそうになる私に構わず、彼女は顔を赤くして捲し立てる。
「歌の練習に付き合わせるのが申し訳ないからヒトカラしてるだけで友達ぐらい普通にいるからッ‼︎」
ちなみに私は本人から中学の頃はクラスで浮いていて友達がいなかった事を聞いている。
そのため微笑ましい嘘である事は分かっているが現在進行形で孤立している彼女にとっては重要な事なのだろう。そっとしておいてあげる事にした。
「そっ、そうなんですね〜」
「「………」」
「じゃあ私はこれで…」
「ちょっと待って‼︎絶対信じてないでしょ⁉︎」
肩を掴み前後に揺すってくる彼女を宥めながらとりあえず連絡先の交換をしていずれ一緒に歌う事を約束した。
「絶対誘いなさいよ!」
彼女の声に手を振り返しながらクラスメイトがいる部屋に戻る。
「あ!喜多ちゃんやっと来た!」
「待たせちゃった?」
椅子に座りテーブルに置かれたお菓子に手を伸ばし、次に歌う曲を探す。
思わぬところでカラオケ仲間を見つけた私は、部屋を出る前とは打って変わってとても上機嫌であった。
プロを目指し音楽に生きるヨヨコさん相手なら遠慮する必要はない。彼女ならレベルの差を感じてもそれすらバネにして壁を乗り越える筈だ。
「またね〜!」
今日はこの場で解散という流れになり、クラスメイト達に手を振り返した私は踵を返し駅までの道を歩く。
その道中、見覚えのある楽器屋の前を通りかかった。
「この店…前に結束バンドの4人で来た…」
前世で私がベースとギターを間違えて購入してしまった店でもある。
品揃えがとても豊富でプロになってからも度々お世話になった。
「ちょっとだけ覗いてみようかしら」
もしかしたらひとりちゃんに渡したGibsonに代わる掘り出し物があるかもしれない。私は期待に胸を弾ませながら入店した。
「「いらっしゃいませ〜」」
店員さんに軽く会釈をしながらレジの前を通り抜ける。
(まずはギターを…)
そんな事を考えながら売り場に目を向けると、見覚えのあるペルハムブルーが目に飛び込んできた。
「Les Paul Junior」
忘れる筈もない。嘗ての私の半身とも言える相棒がそこにいた。
評価に必要な文字数を5→10文字に増やしました。よろしくお願いします
参考までに。喜多ちゃんは結束バンドに
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入ると思う
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入らないと思う