嘗ての相棒を見つけた私はショーケースに歩み寄り顔が当たりそうなほど顔を近付ける。対面した瞬間、前世で私が使っていたギターと同じ個体だと直感的に確信していた。
リョウさんは恐らくこの店でレアカラーのレスポールを購入しコレクションに加えたのだ。
つまりこのまま放置していると2、3年の内には買われてしまう。それを避ける為には先に購入するしかないのだが…
「84万円…」
当時、後からその価値を知ってリョウさんはよく貸し出してくれたなと驚いた覚えがある。
相場を考えれば妥当な値段ではあるが今の手持ちからするととても手が出せる額ではない。早急に新たな収入源を確保する必要がある。
「仕方ないわね…」
――こんにちは〜。今日は20分で盛れる毎日メイクを紹介します!
――とにかく時短で可愛くなれるメイクを紹介しますね!
aa✓ 登録済み aa |
い高評価❘う | へ共有 | きオフライン | ほクリップ |
もっと見る
その数週間後、美容業界に超新星が現れた。そのアカウントはまるで未来を見て来たかのように流行を先取りした商品の紹介と中学生とは思えないほどコスメへの深い造詣を持っていた。
中高生を中心として爆発的な人気を得たそのチャンネルは瞬く間に登録者100万人を達成する事になる。
顔バレを利用したサブチャンネル開設であったが、想像以上に大バズりしクラスメイトから熱視線を集める毎日であるが私のルーティーンは変わらない。ギターと歌の練習をしながら作詞と作曲を書き進め息抜きとしてピアノ教室に通う。
そんなある日ピアノのレッスンが終わり帰る準備をしていると講師の先生から声を掛けられた。
「コンクール…ですか?」
「前に撮って貰った動画が予選を通過したらしくて…本選はホールで開催されるのよね」
「喜多さんがそういうのに興味がないのは知っているけれど滅多に出来ない体験だし…どうかしら?」
寝耳に水な話ではあるが私の心は話を聞いた瞬間に決まっていた。
「やります!」
人前で演奏する事には慣れているがコンクールではまた一味違った緊張感を味わえるだろう。予選を通過出来るとは思っていなかったので少し驚いたがミュージシャンとしての引き出しを増やす為にも体験出来るチャンスは逃さない方がいい。
コンクール当日。車から降りた私は会場を見上げた。想像よりも大きい規模の大会であった事に驚いたが、前世のドームライブに比べたら大した事はないと心を落ち着かせる。
何故か私より緊張している母に連れられて受付に向かう。母が手続きをしている間、周囲を見回し周囲の子供達を観察してみるが皆可哀想なほどに緊張していた。
(無理もないか)
誰かの期待を背負い公衆の面前で演奏をする。ミス一つで全てが崩れる状況は精神が成熟していない中学生には堪えるだろう。
しかも緊張というのは伝染する。私のように緊張との付き合い方を心得ている者でなければ呑まれてしまうのも仕方ない。
そんな出場者を横目に控え室に向かい椅子に座りながら楽譜を開く。
「演奏番号⚪︎⚪︎番」
独特の雰囲気を感じながら周囲を観察しているとあっという間に自分の番号が呼ばれてしまった。
(さて)
本格的な練習はしていなかったとはいえピアノに触れていた期間はこの会場の誰よりも長い。応援してくれている母が見守っている以上〝元プロ〟として無様な演奏をするわけにはいかないだろう。
自分の中のスイッチを切り替えながら壇上を歩き、ピアノの前まで辿り着くと椅子に腰掛け目を瞑る。
懐かしいライトによる熱を感じるのに近くに仲間がいないというその不思議な感覚に思わず笑みを浮かべた。
全てが自己責任であり頼れる者はいない。どこまでも孤独なこの感覚を味わう為に私は今日ここに来たのだ。
鍵盤の上に指を添える。目を開けた私の視界には鍵盤しか映っていなかった。
「⚪︎×コンクール優勝。喜多郁代殿」
その数日後、私は全校生徒の前で表彰されていた。
興奮しながら次のコンクールへの出場を提案してくる講師の先生にしばらく大会には出場しない事を伝え、翌日に担任の先生にコンクールに優勝した事を報告すると全校集会で表彰される運びになった。
「喜多ちゃんピアノやってたんだ」
「私は聞いた事ないけど…」
友達が囁いているのを横目に賞状を受け取る。今後も是非大会に出て活躍して欲しいと言う校長に私は「頑張ります」と曖昧な笑みを返した。
・友達もかなり上手いな。本当に中学生なのか?
・やっぱ上手い奴の周りには上手い奴が集まるんやな
・何歳からギター始めたんですか?
・次ボカロ曲歌って下さい!
・友達顔出ししてるけどいいの?
・顔面偏差値が高すぎる
・なーんか最近また一段と上手くなってきてません?
・化粧水何使ってますか?
aa✓ 登録済み aa |
い高評価❘う | へ共有 | きオフライン | ほクリップ |
もっと見る
大槻さんとはあの出会いから連絡を毎日取り合い、今では配信の誘いに乗ってくれる程に打ち解けた。配信では大槻さんがギターを弾き私はベースかキーボードを演奏する形を取っている。
大槻さんは最初私が他の楽器に触れる事に難色を示していたが音楽の幅を広げるためだと説明するとやがて納得してくれた。その後も「一緒にバンドをやりたい」という雰囲気を醸し出す大槻さんを努めてスルーしながらも友達として関係を続けている。
そうしてリスナーから貰ったリクエスト曲を消化する日々を過ごしていたがある日、配信後ファミレスで駄弁っていると大槻さんがポツリと呟いた。
「やっぱり何か曲作らない?」
「う〜ん…私は別に良いけど…2人で作るの?」
「それなのよねぇ…」
2人で考え込んでいたその時、私の脳裏に廣井さんの顔が浮かんだ。作詞作曲をこちらで担当するという形を取れば大きな負担にはならないだろう。これからのSICKHACKはメンバーの入れ替えなどで忙しくなるかもしれないが良い息抜きになると思ってくれるかもしれない。
「ダメ元で聞いてみようかしら…?」
「当てがあるの!?」
大声を出し立ち上がった大槻さんは集まる視線に顔を赤くした後静かに座り直し顔を近付けてきた。
「腕は確かなんでしょうね?」
「プロだからそこは大丈夫だけど忙しい人だから…」
「プロ!?」
(変に小心者な所はこの時期から変わらないのねぇ…)
私は途端に慌て出す大槻さんを眺めながら目の前にあるポテトに手を伸ばした。
4:05 ここ凄く良いわね!
↪︎ありがとうございます。
↪︎え?本物?
↪︎本物のKITAちゃん!
「うへへ…」
貰ったコメントを何度も読み返す。アカウントを開設して最初にコメントをくれた相手だという事もあるが、そうでなくても彼女はギターを始める切っ掛けをくれた恩人である。
ギターを貰ったあの日、酷く動揺した様子の父に高価なものだから今すぐ返してきなさいと言われ何度か現場に戻ってみたが結局会う事は叶わなかった。
その後奇跡的に動画サイトでアカウントを発見し、コメントを送った所
「返すのは後々で良いので練習風景を見せて欲しい」と返信を貰った。それから毎日練習風景を投稿しているがほぼ全ての動画にコメントを付けてくれている。
人との関わりに飢えていた私は彼女とのやり取りに一喜一憂する毎日を送っていた。だからこそ
「一緒に練習しませんか?」
そんな文面を見た瞬間、情報を処理しきれず胞子となって部屋中に弾けた。
本当にお久しぶりです。活動報告に書いてある通り自分で書いていても何が面白いのか分からなくなっていて書いては消しての繰り返しでした。なので是非口調の違和感、文法、展開などについてアドバイスありましたらコメントください。
参考までに。喜多ちゃんは結束バンドに
-
入ると思う
-
入らないと思う