1ヶ月程度なら誤差の範囲内であると納得できた。だが半年となると何かが起こっているとしか思えない。自身が過去に戻った事による何かしらの影響でパソコンを使えなかったか、最悪の場合ギターすら始めていない可能性がある。
その事に気付いた私は居ても立ってもいられず、財布を握りしめ金沢に向かって走り出した。
電車に揺られる事2時間。金沢に着いた私は駅前で呆然と佇んでいた。
「勢いのまま来たのは良いけれど…」
面識も何もない自分が来たところで一体何が出来るというのか?
「あなたの娘さんはギターの練習をしていますか?」
こんな事を言ったところで気味悪がられて終わりだろう。
薄暗くなり始めた周囲と鳴り止まない母からの電話、そして明日も学校があるという諸々の事実から目を逸らし、ここまで来たら引き下がれないと覚悟を決めた。
「迷子のフリをしましょう」
成人女性が夜に訪ねてきたらのなら多少警戒するだろうが、私はピチピチのJCである。心配はされても邪険にされる事はないだろう。
後藤家までの道のりは何回も訪れた事がある為、薄暗くなり始めていても間違える事はなかった。目印も両隣の家も生前と何一つ変わっていない。ただ、本来ある筈の後藤家の住宅がそこには無く土地販売の看板が立てられた空き地となっていた。
「えっ…」
これはいよいよ不味くなってきたかもしれない。
今まではいざとなれば会えるだろうと考えていたからこそ余裕を持っていたが、これでは面識を持つ事すら難しい。最悪、後藤ひとりが存在していない可能性すら考えられる。
そこからはどう帰ったのかは記憶に無い。気付けば家の玄関に立っており、飛び出してきた母に抱きしめられていた。両親は私を問い詰める様子もなく黙って迎え入れてくれた。
ご飯を食べる前にと母に促され、湯船に浸かりながら頭の整理をする。ギターヒーローのアカウントが開設されていない理由についてはおおよその察しはつく。
ひとりちゃんが毎日6時間以上も練習出来ていたのは音が伝わりにくい一軒家であったのが大きい。例えばこれがアパートなどであったらすぐさま騒音トラブルになっていただろう。
弾けない以上不要になったギターなども処分されてしまっているかもしれない。そうなればひとりちゃんがギターを始める事もないだろう。
悪い方向にばかり行く想像を一旦止めてお風呂から上がった。
心配する両親には金沢にいる友達にどうしても会いたくなってしまったと伝えた。遠出をする際には必ず許可を取る事を約束し部屋へと戻った。ベッドの上で仰向けになりながらため息をつく。
頭の中はぐちゃぐちゃになっているが、自分が行動を起こさなければ〝後藤ひとりの音楽〟が消えてしまう可能性が高い。それだけはハッキリと分かっていた。
「私が代わりにアカウントを作れば…」
今この世界で後藤ひとりの音楽を表現出来るのは私しかいない。使命感の様なものを胸に抱きながらパソコン使用の許可を取りに父の部屋に足を向けた。
『guitar hero apprentice』
数週間後に開設されたそのアカウントは界隈で瞬く間にその名を広める事になった。
高評価、感想ありがとうございます!
参考までに。喜多ちゃんは結束バンドに
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入ると思う
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入らないと思う