微睡む意識の中で良い匂いとカビの臭いを感じた。私はカビの臭いから逃げ、良い匂いの方へ顔を埋める。しばらくそのままでいたが身体の節々が痛む事に気付き目を覚ました。
「ん…」
目を擦りながら起き上がる。周りを見回すと見知らぬ和室に居る事に気付いた。
(そういえば昨日は打ち上げに参加して…)
また廣井がファン連れ込んでる…という同情の目線を向けられながら参加したが、思ったよりも会話が弾み時間を忘れて楽しんだ結果…終電が無くなってしまったのである。
本来ブレーキ役を果たす筈の志麻さんはきくりさんの禁酒宣言が余程嬉しかったらしく、勢い良く飲み続けて早々に潰れていた。
そう。きくりさんは昨日の打ち上げで一滴もお酒を飲んでいないのである。次のライブまで禁酒すると宣言し、烏龍茶を飲むきくりさんの姿に皆が感動し酔い潰れるまで飲み続けた。
そんな訳で唯一素面に近かったきくりさんの家に泊まる事になったのだが、事故物件特有の謎の呻き声やラップ現象に二人で震えている内にいつの間にか眠っていた。
一つ背伸びをし、布団から出て時計を確認すると7時を少し過ぎていた。この時間ならカフェのモーニングも空いているだろう。
「廣井さん、朝ですよ」
声を掛けながら体を揺らし続けるとやがてゆっくりと起き上がった。
「うーん…」
「カフェのモーニング、行きません?」
「行く…」
ノソノソと立ち上がり財布を取りに行くきくりさんを横目に部屋を見回す。
ぐしゃぐしゃに丸められた大量の紙、原稿用紙にはミミズがのたくったような字で何かが書かれている。相当行き詰まって悩んでいるのだろう。
怪奇現象が起こるボロアパートで孤独に作曲し、行き詰まったらカビ臭く硬い煎餅布団で寝る。酒に逃げたい欲望を必死に抑え、ギリギリの精神で音楽に向き合っている事が伝わってきた。
部屋を見回す私を不思議そうな顔で見ているきくりさんに視線を合わせる。
「良い曲が出来そうですねっ!」
そう言いながら笑う私をきくりさんは呆然と見詰めていたが、呆れたように溜息をつくと玄関に向かって歩き出した。
「あっ、待ってください!鍵は⁉︎」
私に構わず外に出るきくりさんが何か言っていたような気がしたが、慌てていた私には何を言っているのか聞き取れなかった。
「…鬼畜だね〜」
カフェで朝食を済ませた私達はついでに朝風呂にでも入ろうと銭湯を訪れていた。
全身を洗い、湯船に浸かって体を伸ばしていると隣にきくりさんが入ってきた。しばらく無言で入っていたがきくりさんがポツポツと話し始める。
「久しぶりだったんだよね。こんなにぐっすり眠れたのは」
そう言うきくりさんに私は笑った。
「また泊まりに来ますよ」
きくりさんはそう言う私の頭に手を伸ばし、わしゃわしゃと乱暴に撫でた。
「生意気な後輩め〜!」
もっと優しく撫でて欲しいという私の抗議は無視され、しばらく好き放題髪を弄られた。
銭湯から出て、きくりさんと別れる。その背中を見送っているときくりさんは思い出したかのように振り返り声を上げた。
「私、一回頑張ってお酒に頼らずライブしてみる!」
「夏だし浴衣でやってみるか!あっ!お面も買わないとー」
「急にですか⁉︎徐々に減らしていった方が…」
言い切ったきくりさんは私の返答を聞かずに走り去っていった。…何やら不吉な事を言っていたが大丈夫だろうか?
見えなくなるまで背中を見届けた後、駅に向かって歩き始める。
収入も入ったし銀行に寄ってお金を下ろした後、取り置きして貰っていたギターを買おう。
そんな行動計画を立てていたが母に伝えたのは夕飯を食べる事だけで、泊まりになる事までは言っていなかった事を思い出し慌てて家に帰った。
その後、案の定心配していた母にこっ酷く叱られたのは言うまでもない。
キリが良いのでここまでにしましたけど、短いですね…すいません。なんかそんなつもりは無かったんですけど百合っぽくなったような気が…まぁ気のせいか…
というかランキング入っててビビりました。何故急に伸びた…
参考までに。喜多ちゃんは結束バンドに
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入ると思う
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入らないと思う