逆行喜多ちゃん   作:絶対読み専

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喜多ちゃん、意外な才能が芽生える

 

 

 

 

 

 

 

 

本格的に作曲を始めるにあたり私は一つだけ習い事を始めた。そう、ピアノ教室である。

 

前世でもキーボードが流行り始めた頃に齧った事があったが、リョウ先輩に「郁代はまずギターじゃない?」と指摘を受けブームは無事終息した。

 

その後もバンド活動を続けながら細々と練習していたが、自分で作曲をするようになったこの機会に本格的にピアノを学んでみようと思い至った。

DTMでの打ち込みをする上でピアノは少しでも弾けた方が良いし、音楽理論への理解力を深める為にも鍵盤で考える癖を付けることはかなり重要であるとリョウ先輩も言っていた。

 

とりあえず週に一回、中学校を卒業するまで続けていこうかなと思っている。

 

 

 

 

そして訪れた記念すべき第一回ピアノ教室。顔合わせも兼ねて母と体験レッスンに訪れていた。

 

 

「娘さんにはどうしてピアノを?」

 

 

ピアノ講師のお姉さんが母に尋ねるが、母は困った様に頬に手を当て私の方を見た。

 

 

「それが私じゃなく娘が通ってみたいと言い出して…」

 

「そうなんですか⁉︎素晴らしいです!親御さんに言われたから通っているって子が多いんですが…」

 

「郁代ちゃんはどうしてピアノを始めたいと思ったのかな?」

 

そう言いながら振り返った講師のお姉さんは少し屈みながら私に視線を合わせた。

 

「今、作曲をしているんですけどピアノが弾けた方が便利だと思ったので…なので楽しみながらピアノを勉強したいです」

 

「作曲⁉︎今時の中学生は凄いわね…」

 

何かをボソボソ言っていたお姉さんはひとつ咳払いをすると右手を差し出してきた。

 

「よろしくね」

 

「よろしくお願いします!」

 

 

 

そうして私の生活ルーティンにピアノ教室が加わった。週に一回60分のみのレッスンだが、時間が限られているからこそ集中して質の高い練習をする事が出来る。

クラスメイトに言っていた習い事があるというのもこれで嘘では無くなったし、やればやるほど上達するピアノは私にとってギターや作曲の良い()()()になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【とある女講師の記録】

 

×月⚪︎日

 

最近新しい生徒を受け持つ事になった。どうやら作曲の為にピアノを習いたいらしい。

 

親御さんに連れられて嫌々受ける子も多い中で、最初からモチベーションが高い生徒はとてもありがたい。ピアノが難しくてつまらないと思われない様に慎重に指導しなくては。

 

しかし幼稚園もしくは小学校低学年からピアノを始め、中学校入学時に辞める子が多い中で中学校入学後から始めるのはかなり遅い部類に入る。

彼女も別にピアニストを目指している訳ではないらしいので、ピアノを演奏する楽しさを知って貰えるように頑張らなくては。

 

 

 

 

 

×月⚪︎日

 

ピアノの授業で1番大変なのは、飽きさせずに集中力を維持させる事なのだが、彼女の集中力は凄まじい。

アドバイスには真摯に向き合うし、分からない事を積極的に質問してくる。上達したいという意志をヒシヒシと感じる為、とても教え甲斐がある。

 

楽譜が初めから読めたというのも大きく、私が数年掛けて登った階段を数段飛ばしで駆け上がっているような上達速度は嫉妬を通り越して恐怖すら覚えた。

だが真剣にピアノを学びながらも心から音楽を楽しんでいる彼女を見ると、講師になって良かったと心から思えた。

 

 

 

 

×月⚪︎日

 

彼女を指導していると生徒と話しているのではなく、1人のアーティストと話している感覚になる事がある。

まず自分の演奏に一切妥協をしない。弾けないフレーズがあると嫌な顔もせず淡々と改善し続けている。ギターにも手を出しているらしいので、そこから培われたメンタルなのかもしれない。

普通は終わりのない壁に飽き飽きするものなのだが彼女にはそれが無い。その忍耐力はとても中学1年生のものだとは思えなかった。

 

 

 

×月⚪︎日

 

彼女は間違いなく天才だ。

最初のレッスンから半年しか経っていないのに中級レベルはおろか上級の課題曲に手をつけ始めている。このまま成長していけばいずれはプロのピアニストになれるかもしれない。音大を卒業しプロの道を目指したが、夢半ばで諦めた私の夢を託せる子を見つけたのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「郁代ちゃん、コンクールに出てみない?良い腕試しになると思うんだけど」

 

「どの大会が良いとかは親御さんと相談して決めて貰って良いから」

 

 

いつもの様に教室を訪れた彼女に早速コンクールのパンフレットを差し出す。おすすめの大会を言おうとしたところで彼女が申し訳なさそうに口を開いた。

 

 

「コンクールですか?うーん…ちょっと今は忙しいのでやめておきます」

 

 

彼女はアッサリと断られて固まる私に構わずカバンから教本を出しピアノの前に座った。

 

 

「今日もよろしくお願いします」

 

「ちょ、ちょっと待って!」

 

「…?」

 

 

怪訝な顔で見つめてくる彼女に言葉が詰まりながらも説得の為に口を開く。

 

 

「アナタには才能がある。このままその熱意を持ち続けていれば、いずれはプロのピアニストになれるかもしれない」

 

「コンクールの受賞歴はプロを目指す時に必ずアナタの力になると思う。だから受けてみない?」

 

「最初にもお伝えした通り、プロのピアニストになりたい訳ではないので…」

 

「…え?」

 

「?」

 

 

そこまで言われて価値観の違いがある事に気付いた。誰もがピアニストになりたいと思う訳ではないのだ。なる事が可能ならなりたい、そう思う筈だと無意識に思い込んでいた。

 

 

 

「今はオンラインコンクールっていうのがあって、動画でも審査してくれるからレッスンのついでに撮ってみない?入賞すれば賞金も出るし、お試しだと思って…ね?」

 

 

そう分かっているが私の口は止まらなかった。自分が欲しかったピアノの才能を全て持っている彼女がピアノを選ばなければ、私の人生がそのものが否定されてしまう気がした。

 

 

「時間が取られないなら、まぁ…」

 

「本当⁉︎じゃあ今日からはコンクールの課題曲を中心に練習していきましょう!」

 

 

(担当の生徒をコンクールに出場させるノルマとかがあるのかしら?)

 

 

私はやけに嬉しそうにしているピアノの先生に首を傾げながらも課題曲の練習に取り掛かった。

 

いくら前世で練習していたとはいえ、物心ついた頃からずっとピアノに打ち込んできた人達に通用する程とは思えない。

しかしせっかくピアノ教室に通っているのだから、一度くらい記念に受けてみるのも良い経験になるだろう。

 

そんな気軽な気持ちでコンクールに参加した私は3ヶ月後、予選を通過した事を知らされて困惑する事になるが、この時点ではその事を知る由もなかった。

 

 

 

 

 




自分で書いてて、これ面白いか?ってなってます。後、別作品と並行してやっているので更新遅くなってしまいました。すいません。

参考までに。喜多ちゃんは結束バンドに

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