【完結】ナチスドイツに転生しちゃった件   作:タサオカ/@tasaoka1

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ある人でなしの遺書

我が共犯者、サウルへ。

 

これを君が読んでいる頃には、俺はどうなってるんだろうな。    

俺自身にもわかっていないまま、出頭前にこの部分を書いている。

きっと俺は最期の役目を果たそうと努力している頃だろうか。

それとも虫の居所の悪かった兵士に撃たれて、地面に転がっているか。

三文小説にありがちな陳腐な書き出しだが、いざ自分で書くとしたらこれしか思いつかん。

だが怒らずに、どうか最後まで、これを読んでほしい。

 

 

 

 

 

 

明日、この戦争は終わる。いよいよ、この時が来た。

ペンを握る手にも、力が入って仕方がない。

第二次大戦は終わらないが、ドイツの、我々の戦いは終わる。

長きに渡った君たちへの圧政の時代が、ついに変わる。

 

また大国の意思に翻弄される事になるかもしれない。

何処かへと押し込まれて苦しむのかもしれない。

ただナチスという存在は壊滅し、押さえつけていた手は取り除かれるだろう。

この思想は形を替えて未来まで生き残り続けるだろうが、それは人類の性だ。

でも、きっと、それらを克服できる日が人類には来る事を、俺は祈る。

 

それに君たちが一時とはいえ自由になれたこの日を、共に嬉しく思う。

 

だが、サウル。

申し訳ないが俺から君に頼みたいことが山ほどある。

 

獄中か、あるいは死んでいるかもしれない俺の願い事だ。

この段階で全部見なかったことにしてくれても良い。

手紙を破り捨て燃やしたって良い。それでも読んでほしい、聞いてほしい。

これが本心で君に掛けられる、最後の言葉たちであるからだ。

 

まず俺はどうしたって裁かれるべき存在だ。

自らの手、判断、サインした書類、口約束、全てが極刑に値する。

偽りなく全ての証言が、俺を絞首台に導いてくれる。

それだけの事をしたという自覚がある、俺はこれでいい。

助命されようなど考えもしない、ただ終わる事を望んですらいる。

それでも死ぬ事は、俺にとっても恐ろしいことだ。

恐ろしいからこそ罰になる。

それに君や君たちの味わった苦境を思えば、こんなものは指先の火傷に過ぎない。

そうだろ? 発生するであろう悪名は、俺ができるだけあの世へと持っていく。

これが最期の仕事であると認識している。

 

ナチス親衛隊将校が人びとを匿っていた。

俺は、そんなありふれた美談の一つにはなるべきではない。

俺は俺の命令によって多くの人を見殺しにさせたし、自らの手でないにしろ人を殺す決定を下した。

犬に食い殺される人も、バイオリンの音色が流れる広場で追い立てられ悲鳴を上げる人も居た。

全員を見殺しにしたんだ。

憎悪も煽って、自らの工場に誘導した。子供を人質に、子供たちからは親を、奪った。

ナチ党の幹部に媚を売った、権限を広げるために。

そんな奴に庇われた人びとを、唯でさえ戦後の苦しい時期に見てしまったのなら。

どうか皆に口を噤ませてくれ。

俺は、ただでさえ傷ついた君たちに少しでも不幸が襲いかかる事が恐ろしくて仕方がないんだよ。

 

だからこそ、サウル。

君が、人びとの潔白な救済者となってくれ。

 

これは後述の願いの布石にもなる。多大な名誉に違いないはずだ。

君は様々なコミュニティや社会から、大いに信頼を獲得できる。

その手腕も、物語も、全ては君が然るべき地位につけるための力になるはずだ。

君の献身が報われるべき瞬間が来たと、俺は思っている。

苦労をかける事になるのもわかるが、君にはそれだけの器がある。

俺なんかよりも、立派に会社を回していけるはずだ。

 

内部の根回しは、すでに済んでいる。

そのための書類や写真も用意してある。

俺が撮った各地の収容所の写真や資料も合わせて提出しろ。

俺が趣味で持っておいたことにしていい、ユダヤ嫌いのナチ豚で名が通ってるからな。

後世に正確な記録は必要だ、死んでいった人びとのためにも。

イデオロギーによって変動する犠牲者数など、死者への冒涜に等しいから。

 

地下の運営は、俺の隠し財産や会社からチョロまかしたことにしろ。

後から理由を聞かれたら、天啓が下っただの言っておけ。

君は有能で、俺は悪で間抜けなナチス親衛隊将校という物語を世間はすんなり嚥下できるはずだ。

俺よりも俺の企業を知り尽くしている、お前になら造作もないことだ。

子供たちも、労働者たちも、社員たちのことも、できるなら頼みたい。

地下実行委員会の医師、教師、職員たちがこれに協力してくれるはずだ。

特に戦後の治安は悪いからこそ、武力が役立ってしまうかもしれない。

いざという時はボーマンやヴィルム、ハインツたちを頼れ、信頼できる男たちを。

 

それと知りうる限りの歴史、知識、商売のやり方を書いて、隠し金庫に入れてある。

あの花の冠が描かれた分厚い束が目についたのならば、それだ。

賢い君だ、きっとうまく扱えるだろう。

スイスの口座には、まだ使いきれてない財産を分散しておいてある。

戦後にならなければ意味を持たない財産もあるからとっておくんだ。

これで困窮する者や、親を失った子供たちの生活を見てやってほしい。

別紙の計画についても目を通してくれ、きっとそれらのために財産は役立つはずだ。

 

ここまで読んだ時、普段は落ち着いている君のことだ。

机にパンチの一発でも入れているかもしれない。

激昂して壁にグラスを叩きつけているかもしれない。

君に対して、殴られるぐらいの事を言っていると自覚している。

とんだ”人でなし”だと詰ってくれても良い。

だが、それは紛れもない事実だ。

二重の裏切り者で、正真正銘の人でなしであるから。

 

俺は、以前ヒトラーを殺しそこねたんだ。

 

いつかの酒場でアイツを見かけた時に一発、銃弾をその頭に叩き込んでいれば。

この様な世界にならなかったのかもしれないと、ずっと後悔し続けてきた。

俺は恐れたんだ、人びとを救う道を探しているふりをして。

世界大戦というこの巨大な機械の歯車をどうやっても止めることができない。

仕方ないことだと諦めてしまっていた。

それが、きっと今日に至るまでに数千万人の人びとを死に至らしめた。

ユダヤ人だけじゃない、もっと色々な人びとを俺は救えたのかもしれないのに。

それをしなかった、そして、それが齎した結果を思い知った。

ドレスデンを見ただろう、現場では精一杯のことをやったつもりでいたが。

それでも、俺は、結果的にドイツ人すら殺したんだ。

ドイツの人びとを恨まないでくれとは口が裂けても言えん。

君たちは紛れもない被害者であるからだ。

だが私にもドイツ人としての意識があったんだ。

同じ志のもとで勉学を学んだ友たちは、皆死んでいた。

誰も彼もが幸福を願って、人を殺す世界に作り上げてしまった。

 

両親の名誉にも泥を塗り、祖国を、第二の祖国であるドイツを裏切ってしまった。

きっとこの知識を使えば、戦争を早期に終わらせられたかもしれなかったのに。

君たちを助けることで目を逸らしていたんだ、俺は最低のクソ野郎なんだよ。

 

重ねて、書く。

この臆病者に幻滅しただろうか、君はこの手紙を燃やしても良い。

財産を好きにする権利は君にある。

一番苦労をかけた、謂れのない差別を受けたこともあるだろう。

危険な仕事にも付き合わせた、危ない橋を渡らせた。

いくらだって罵倒していい、ただ約束してくれ。

地下の人びとを、子供たちだけでも救ってほしい。

 

それでも許してくれるのなら最後まで読んでくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

君を、俺の『宿業』に付き合わせてしまって悪かったと思っている。

 

それでも君と交友を持てたことは、俺にとってどれだけ恵まれていたか。

気兼ねなく、対等に付き合える友達が、俺は産まれる前から欲しかったんだ。

まぁ喧嘩の腕は、俺のほうがきっと強かったが。

俺はこんな人生を送っても、君のような友達が傍に居てくれて良かったと思う。

思い出にどれだけ助けられたことか、とてもこの紙ペラだけじゃ書ききれない。

友情の終わりをこの様な形で告げることを、役割を押し付けることも。

だからこそ、苦々しく思う。

きっと、これも罰の一つなんだろう。

 

 

 

頼もしき仕事仲間、共犯者にして我らが地下の家族、サウル

俺の最初の友達、どうか、元気で。

 

さようなら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

親衛隊の服に袖を通すのもこれで最後だな。

巷では親衛隊閉店につき大安売りセールのこの服とは長い付き合いだ。

何しろ着ていただけで戦犯確定だからな。

 

「サウルは拘束してあるな?」

「はい、社長」

 

念には念を入れてだ。奴には生き抜いてもらわなきゃ困る。

俺が居なくなった後でも地下を回せるのはアイツぐらいしか居ない。

こんな時まで、俺は人でなしだな。自暴自棄になっているのか、笑みが浮かぶ。

覚悟が鈍らない内に、出発しよう。

 

「では行ってくる」

「お供しますぜ」

 

ボーマンは当然のように先行してきた。

俺は静かに首を振った、地下の方を指して言う。

 

「最後の業務命令だ、ブルーノの面倒を貴様に任せる」

「社長、それはッ」

「馬鹿にするな、運転ぐらい一人でできる!」

 

俺は走って、社用車のフォルクスワーゲンに飛び乗った。

エンジンが唸り、加速する。

ボーマンが、この苦しい整備状況で仕事を怠らなかったわけだ。

そういう仕事から手を抜かない姿勢も好きだった。

窓から手をヒラヒラと振る。

 

「君のような仲間がいて、俺は幸せだった!」

「社長!」

 

バックミラーの中で、何事かを叫ぶボーマンの姿がどんどん小さくなっていく。

目元を拭って、俺は車を加速させる。

二度と、心と体があの場所へ戻ってしまわないように。




誤字脱字報告ありがとうございます。
次回、暫定最終話
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