ようこそ褐色イケメン長身娘が行く実力至上主義の教室へ   作:褐色すこすこすこ太郎

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1,入学

 揺れるバスの車内。あまりバスに乗らないオレは、少し新鮮な感覚を身に感じていながらその景色を楽しんでいた。

 

 4月、今日からオレは高校生になる。強がっているように見えるかもしれないが、不安や緊張、心配のような感情は一切ない。寧ろ、これから向かう学校でどんな人がいるのかと期待してしまっている程だ。

 そんな中、バスでとある声が上がった。

 

「席を譲ってあげようって思わないの?」

 

 窓を覗いていた視界を少し移し、車内をチラリと見る。するとOLのような恰好をした女性が、若い金髪の男に注意をしているようだった。

 

「そこの君、お婆さんが困っているのが見えないの?」

 

 バスのアイドリング音や、車内アナウンスのみが響く車内で発せられたその声はよく通る。そのために周囲の人間は自然とそちらに目を配る。

 

「実にクレイジーな質問だね、レディー。何故この私が、老婆に席を譲らなければならないんだい? どこにも理由はないが」

「君が座っている席は優先席よ。お年寄りに譲るのは当然でしょう?」

 

 一般論、つまりはマナー的な意味で言えばこの女性が正しい。それは周囲の人間のおよそ全てが同意するだろう。だが、オレにはこの若い男が折れると思えなかった。

 

「理解できないねぇ。優先席は優先席であって、法的な義務はどこにも存在しない。この場をどう動くかどうか、それは今現在この席を保有している私が判断することなのだよ。若者だから席を譲る? ははは、実にナンセンスな考え方だ」

 

 案の定、若い男は自分の意思―――我儘を貫いた。自己の解釈で社会的に共通しているマナーを守らない。これを我儘と言わずして何を我儘と言うか。

 オレはこの若い男にいい印象を持たなかった。それはこの光景を目撃したほとんどの人間がそうなるだろう。だが、若い男の言い分にも一理あると理解はした。

 

 オレたちは人間。つまり思考する脳があり、人格があり、意思がある。身体が成長していくと共に価値観が形成され、自己を確立していく。この若い男がどんな環境に身を置き、価値観を持っているのか。

 だが、オレははっきり言ってこの男に全くと言っていいほど気が惹かれない。寧ろ忌避感すら覚えてしまっている。同族嫌悪、と言うものなのだろうか。

 

「おい、婆さん。この席座りな」

 

 反骨精神からか、オレはそう呟いて席を立つ。別にこの男も立つこと自体は何も苦ではないのだろう。だが『老婆のせいで立たされている』という状況が気に食わない、もしくはポリシーに反すると言ったところなのだろう。

 

「いいのかい? ありがとうねぇ…」

 

 お礼の言葉を貰い、若い男の方を向いて見る。するとイヤホンをつけ、大音量で音漏れさせながら音楽を聴き始めていた。その様子に半ば呆れながら、バスの車内で揺られ続ける。

 

 すると程なくして、目的地―――東京都高度育成高等学校に着いた。校門を抜け、クラス表のある場所まで歩いている途中、肩を数回叩かれた。

 

「さっきは席をお婆さんに譲ってくれてありがとう。後少し時間が掛かっていたら、声を掛けようと思ってたんだ」

「ああ、さっきの車内に居たのか。ま、立つことは別に苦じゃねぇからな。どうだ、一緒にクラス表でも見に行くか?」

 

 声をかけてきたのは、可愛い容姿をした茶髪の女だった。オレの言葉を聞き、笑顔で了承してきた。

 

「私の名前は櫛田桔梗。この学校の全員と仲良くなることが目標ですっ! 君は?」

「オレは長曾我部(ちょうそかべ) 凛音(りおん)。大した目標はないが、色んな奴と仲良くってのはしてみてぇな」

 

 そんな風に自己紹介し合うと、桔梗は続けてこう話し出した。

 

「凛音ちゃん、か。よろしくね! それにしても、凛音ちゃんって凄く背が高いよね。何か秘訣とかあるの?」

「ガキの頃から高かったからなぁ…。秘訣っていう秘訣はねぇな」

 

 ちゃん付けなんて、いつ以来だろうか。小学校低学年…いや、その頃には既に身長が160後半に差し掛かっていた…。保育園くらいか。なかなか面白い奴と出会ったのかもしれねぇな。

 

「桔梗。オレ達は同じDクラスだとよ」

「やった、一緒だね! バスから一緒だなんて、運命みたい」

 

 クラス表を確認すると、恥ずかし気もなく運命だなんだと話し出す桔梗。恥ずかし気がないのはその仮面のせいか?

 

 面白れぇ。ミステリアスな女のほうが喰いたくなるもんだ。だがオレはその衝動を抑え、教室へと向かった。

 

▽ ▽ ▽

 

 教室に着くと、およそ席の半分くらいの生徒が既に登校しており、一部は楽しそうに談笑している。

 

「わぁ、綺麗な教室だね凛音ちゃん」

「流石は国が運営する進学校様だな」

 

 ご丁寧に監視カメラまでついてやがる。俺はその言葉を発さず、一先ず様子見をする。

 桔梗は周囲の人間と話しまくり、交友関係を深めて自身の目標である校内全員との親交に一歩近づいていた。

 

 オレは席に座り、前後左右の席の人を確認する。後ろの席の生徒は陰の薄い、無口そうな男子生徒だった。

 

 そこから数分後。始業を教えるチャイムが響き、スーツを着た女性が教室に入ってきた。

 

「えー新入生諸君。私はDクラスを担当することになった茶柱佐枝だ。普段は日本史を担当している。この学校には学年ごとのクラス替えは存在しない。卒業までの3年間、私が担当としてお前たち全員と学ぶことになると思う。よろしく。今から1時間後に入学式が体育館で行われるが、その前にこの学校の特殊なルールについて書かれた資料を配らせてもらう。以前入学案内と一緒に配布はしてあるがな」

 

 この学校にしかない特別なルール。それは、学校に通う生徒全員に敷地内にある寮での学校生活を義務付けると共に、在学中は特例を除き外部との連絡を一切禁じている事だ。

 だがこの学校敷地内にはありとあらゆる物や設備が整っており、もはや小さな町と化している。

 

「今から配る学生証カード。それを使い、敷地内にあるすべての施設を利用したり、売店などで商品を購入することができるようになっている。クレジットカードのようなものだな。ただし、ポイントを消費することになるので注意が必要だ。学校内においてこのポイントで買えないものはない。学校の敷地内にあるものなら、何でも購入可能だ」

 

 流行しているキャッシュレス決済。それを取り入れたのは正解だと言えると思う。学生間でのお金のやり取りが、現物で行われてしまえば足が付きにくい。そのためデータとして記録に残るデジタル端末であれば、カツアゲや強盗、その他犯罪行為を検挙することができる。

 

「施設では機械にこの学生証を通すか、提示することで使用可能だ。使い方はシンプルだから迷うことはないだろう。それからポイントは毎月1日に自動的に振り込まれることになっている。お前たち全員、平等に10万ポイントが既に支給されているはずだ。なお、1ポイントにつき1円の価値がある。それ以上の説明は不要だろう」

 

 それ以上の説明…。その言葉が含んでいる言葉は、後の学校生活において欠かせないものになるとオレは断言する。後で職員室にでも確認しにいくのが安牌だろう。

 

「ポイントの支給額が多いことに驚いたか? この学校は実力で生徒を測る。入学を果たしたお前たちには、それだけの価値と可能性がある。そのことに対する評価みたいなものだ。遠慮することなく使え。ただし、このポイントは卒業後には全て学校側が回収することになっている。現金化したりなんてことは出来ないから、ポイントを貯めても得はないぞ。振り込まれた後、ポイントをどう使おうがお前たちの自由だ。好きに使ってくれ。仮にポイントを使う必要がないと思ったものは誰かに譲渡しても構わない。だが、無理やりカツアゲするような真似だけはするなよ? 学校はいじめ問題にだけは敏感だからな」

 

 戸惑いだけが残る教室内で、オレは先の断言が確信に変わった。実力で生徒を測る、入学を果たした生徒たちの価値と可能性に対する評価、ポイントを使わせようとする教師の言葉。そしてなにより――

 

 ――毎月10万ポイント貰えるとは、一言も言っていない。

 

「質問はないようだな。では良い学生ライフを送ってくれたまえ」

 

 そう言って茶柱という教師は教室を後にした。

 

「皆、少し話を聞いてもらってもいいかな?」

 

 そう声をあげるのは、好青年といった雰囲気の男子生徒。クラス中の生徒が彼に視線を向けて、話を聞く姿勢になる。

 

「僕らは今日から同じクラスで過ごすことになる。だから今から自発的に自己紹介を行って、一日でも早く皆が友達になれたらと思うんだ。入学式まで時間もあるし、どうかな?」

 

 男子生徒が続けて言ったそんな声に、クラス中から賛成の声が上がる。

 

「僕の名前は平田洋介。中学では普通に洋介って呼ばれることが多かったから、気軽に下の名前で呼んで欲しい。趣味はスポーツ全般だけど、特にサッカーが好きで、この学校でもサッカーをするつもりなんだ。よろしく」

 

 お手本のような自己紹介をする平田という男子生徒。容姿はそこそこ良いためクラス中の女からは好印象に映っているようだ。逆に男連中からはあまりいい顔をされていない。

 

「もし良ければ、端から自己紹介を始めてもらいたいんだけど…いいかな?」

 

 そう平田が言うと、端の女子生徒は覚悟を決めたような様子で立ち上がり、話し出した。

 

「わ、私は、井の頭、こ、こ――――っ」

 

 勢いよく話し出したのはいいものの、どもってしまって表情が青ざめていく。

 

「がんばれ~」

「慌てなくても大丈夫だよ~」

 

 クラスから優しい声がでてくる。お手本のような自己紹介の後であれば、緊張してしまうのも仕方ないのかも知れない。

 

 その後も自己紹介は進み、笑いを取る者や、人気を獲得する者に、自己紹介を放棄する者。そしてバスで一緒だった若い金髪の男の番がやってくる。

 

「あの、自己紹介をお願いできるかな―――?」

「フッ。いいだろう」

 

 そう言いながら、その男は足を机の上に置き、偉そうに自己紹介を始めた。

 

「私の名前は高円寺六助。高円寺コンツェルンの一人息子にして、いずれはこの日本社会を背負って立つ人間となる男だ。以後お見知りおきを、小さなレディーたち」

 

 小さな、ねぇ。オレに至っては高円寺よりもでかいんだが、それはオレを含めねぇってことか。

 

「それから私が不愉快と感じる行為を行った者には、容赦なく制裁を加えていくことになるだろう。その点には十分配慮したまえ」

「えぇっと、高円寺くん。不愉快と感じる行為、って?」

 

 確かに、不愉快というのはかなり曖昧な表現になっている。その点を疑問視した平田は高円寺に聞き返す。

 

「言葉通りの意味だよ。しかし1つ例を出すなら―――私は醜いものが嫌いだ。そのようなものを目にしたら、果たしてどうなってしまうやら」

 

 やはり、オレはこいつと同類だ。だからこそ、嫌悪感がある。

 

「じゃあ、次はそこの君にお願いするよ」

 

 ついにオレの番が来た。

 

「オレは長曾我部 凛音。呼び方は好きに呼んでもらって構わねぇよ。…特に話すこともねぇからなんか質問あるか?」

 

 オレが席を立って話し出すと、ポカーンとする生徒が大半。

 

「はいはい! 凛音ちゃんって身長幾つなの?」

 

 気を遣ってか、桔梗が質問をしてくる。その様子を見てハッとした生徒が多いようだ。

 

「えーっと、中学3年の秋の時に測ったのは…189だったな。そっから半年たってるからもう少しでけぇと思うぞ」

 

 オレがそう話すと、驚くような声が上がる。まぁ自分自身人よりでけぇのはわかってるから、今更驚かれることは慣れてるけどな。

 

「でっけぇ! デカ女だ!」

 

 さっき自己紹介していた、山内…だったか。山内が指を指しながらそう言ってくる。別に昔から言われていることだし、呆れてため息しか出てこない。

 その山内と言う奴は女子に大ブーイングを喰らっていた。

 

 その後も自己紹介は続き、好きな食べ物、好きなことなんかを聞かれて次の人へと移った。

 

「えーっと、次の人―――そこの君、お願いできるかな?」

「え?」

 

 次はオレの後ろの、影の薄い男子生徒だった。そいつは勢いよく立ち上がり、自己紹介を始める。

 

「えー………えっと、綾小路清隆です。その、えー……得意なことは特にありませんが、皆と仲良くなれるよう頑張りますので、えー、よろしくお願いします」

 

 …なんだこいつ。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 長曾我部(ちょうそかべ) 凛音(りおん)

 

 身長192cm、Mカップ、灰髪の超絶イケメン。そして褐色肌でギザ歯の筋肉娘*1

 

 性格面は荒々しく、面倒事を嫌うが欲望に忠実な一面もある。*2問題があるとすれば素行や女性関係が酷く、ドのつくレズ。

 

 

 評価

 

 学力 B+

 知性 A-

 判断力 B

 身体能力 - 測定不能

 協調性 C-

 

 

 面接官からのコメント

 

 中学時代の酷い女性関係、および飲酒、喫煙等の素行不良からDクラスとするも、それらを鑑みても余りある優秀さ。狂暴そうに見えるが実は冷静であることが多い。Dクラス担任の茶柱先生は彼女に口説き落とされないように。

 

 

 担任メモ

 

 素行矯正に期待します。そして私は同性愛者ではないので心配はご無用です。

*1
ただし出るところは出ているものとする

*2
まぁほぼ呪術のパパ黒みたいな性格だと思ってください




次回、一名喰われます。速いね。
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