ようこそ褐色イケメン長身娘が行く実力至上主義の教室へ 作:褐色すこすこすこ太郎
なずなを抱いた次の日は真澄を抱いて、さらに次の日はなずな、と交互に遊んでいると、気が付けば4月末。これといった変化もなく、何かあるとすれば5月1日だろう、そう考えていた矢先の出来事だった。
「ちょっと静かにしろ。今日はちょっとだけ真面目に授業を受けて貰うぞ」
3時間目の社会。その担当である茶柱の授業で、いつもよりも少しピリつかせた雰囲気を纏っていた。
「どういうことっすかー。佐枝ちゃんセンセー」
「月末だからな。小テストを行うことになった。後ろに配ってくれ」
前の生徒から順に、後ろへとプリントが渡っていく。そのプリントには主要五科目の問題が乗ってあり、シンプルでどこにでもある小テストだった。
「えぇ~聞いてないよ~。ずる~い」
「そう言うな。今回のテストはあくまでも今後の参考用だ。成績表には反映されることはない。ノーリスクだから安心しろ。但しカンニングは当然厳禁だぞ」
成績表には、という言い方に少し違和感を覚える。やはりSシステムには関わってくるということなのだろう。
その後すぐテストは始まり、サクサクと解き進めていく。オレ自身、そこまで頭が良いわけではない。精々クラスで5位以内に入る程度であり、とても満点を取れるような頭脳はしていない。だが、そんなオレでも余裕で解けてしまうほどにこの小テストは簡単だった。
「……ほんと、何がしてぇんだか…」
ラストの三問、それは凡そ高校一年生に解かせるような問題ではなく、明らかに何かの意図が含まれている。だが現段階でその意図を読み取るには情報が足りず、オレはラスト三問の内、解けそうなものがあったので2/3だけ記入して後の時間を睡眠に費やした。
「ね、凛音。あんたのクラスでも小テストやった?」
「あぁ。難易度調整のおかしい小テストならやった」
その日の帰り道。オレが少しふざけながらそう言うと、真澄はふふっと笑いながら「じゃあ同じ」なんて言っていた。
「んで、例の悪魔みてぇな姫様からのお達しはあるか?」
悪魔みたいな姫様。それは真澄と同じAクラスに所属している、坂柳有栖という生徒のことだ。アイツはオレと真澄が初めて会った日、真澄が商品を手に取ってオレとコンビニを出るところをスマホに収めていたらしく、真澄を手駒にしている。実際に会ったことはないが、話を聞いている以上悪魔に等しい。
そして先日、オレと真澄の関係がバレた。それまでは坂柳に仲のいい友人と捉えられていたものの、寝惚けたまま登校した真澄がうっかり喋ってしまったらしい。そしてオレと真澄の関係がAクラス的にまずいかどうかを聞くように真澄に言っておいたのだ。もちろん、坂柳はSシステムについて理解しており、その部下である真澄も知っている。
「"私は人そのものが欲しいわけではないのです。使いたい場面で使える状態であるか否か。それだけですよ。"だって」
「粗方想像通りの返答だな。完全に道具として見られてんじゃねぇか」
「ムカつくけどその通り。あと凛音、今日私ストレス溜まってるから寝かす気ないよ」
「毎回ヘロヘロになって喘ぎながら"もう許して~"って言ってくるお前が? ハハッ、笑かすなよ」
オレのそんな挑発に真澄は乗り、部屋に入った瞬間服を脱がせ合って速攻ヤった。
ちなみにベッドの上の勝負ではオレの勝ち。真澄の弱点を何度も執拗に弄り、絶頂を迎えそうな時に寸止めをしまくることで完全に理性を破壊してやった。恥ずかし気もなく自分から尻を広げて"オネダリ"してきやがったので後は想像通り、熱い夜を過ごした。
▽ ▽ ▽
来たる5月1日。今日も相変わらず騒がしい教室だが、今日はいつもとまた違った騒がしさになっている。その理由は、全員が所有している学生証端末を見れば一目瞭然だろう。
「なぁ…ポイント振り込まれてなくね?」
「不具合かなぁ…やめて欲しいよね」
そう、ポイントが振り込まれていないのだ。状況はそのまま変わらず、始業を告げるチャイムだけが響いた。そしてその後すぐに茶柱が入ってくるも、いつもより何度も険しい表情をしていた。
「せんせー、ひょっとして生理でも止まりましたー?」
クラスの男子が発言したこの一言は女子全員をドン引きさせた。そんな生徒を無視して、茶柱は話し出した。
「これより朝のホームルームを始める。が、その前に何か質問はあるか? 気になることがあるなら今聞いておいた方がいいぞ?」
水泳の授業でこれから泳ぐことを確信していた教師同様、質問があることを確信しながら話す茶柱。
「あの、今朝確認したらポイントが振り込まれてないんですけど、毎月1日に支給されるんじゃなかったんですか?今朝ジュース買えなくて焦りましたよ」
「本堂、前に説明しただろ、その通りだ。ポイントは毎月1日に振り込まれる。今月も問題なく振り込まれたことは確認されている」
「え、でも……。振り込まれてなかったよな?」
本堂、そう呼ばれた生徒は近くの男子生徒と顔を見合わせる。はぁ、バカだな。貰えるポイントが少ないのは覚悟していたが、まさか0とはな…。
「……お前らは本当に愚かな生徒たちだな」
茶柱の声に不気味な雰囲気が伴う。生徒たちもその様子を感じ取り、少しピリピリとした空気が流れる。
「愚か? っすか?」
「座れ、本堂。二度は言わん」
「さ、佐枝ちゃん先生?」
空気が読めていない生徒もやっとこの空気感に気が付いたのか、周りを見てハッとしている。
「ポイントは振り込まれた。これは間違いない。このクラスだけ忘れられた、などという幻想、可能性もない。わかったか?」
「いや、分かったかって言われても、なぁ? 実際に振り込まれてないわけだし………」
少し戸惑い、不安そうにしながらも不満を露わにする男子生徒。そこでまさかのやつが声を上げる。
「ははは、なるほど、そういうことだねティーチャー。理解出来たよ、この謎解きがね」
話し方でわかるだろうが、それは高円寺だ。いつもクラスのことには興味なさげにしている癖に、こういう時は偉そうに話し出す。正直言ってうぜぇ。
「簡単なことさ、私たちDクラスには1ポイントも支給されなかった、ということだよ」
「はあ? なんでだよ。毎月10万ポイント振り込まれるって……」
「私はそう聞いた覚えはないね。そうだろう?」
堂々とした、偉そうな態度で茶柱に指を向けながら聞いた。
「態度には問題ありだが、高円寺の言う通りだ。全く、これだけヒントをやって自分で気が付いたのが数人とはな。長曾我部なんて、初日に気づいて職員室に確認しに来たくらいだぞ?」
茶柱がまさかの告白をする。おい、クラスのやつら全員こっち見てんじゃねぇか。
「なんだよそれ! 分かってたなら教えろよ!」
「いや、長曾我部には職員室に来た初日の段階で口外しないよう契約を結んである。恨むなら契約を守った長曾我部ではなく、ヒントから答えを得られなかった自分を恨むんだな」
茶柱がフォローを入れることで周囲の敵意のような目線はなくなった。だが原因は茶柱。酷いマッチポンプだな。
「先生、腑に落ちないことがあります。振り込まれなかった理由を教えてください。でなければ僕たちは納得出来ません。」
「遅刻欠席合わせて98回、授業中の居眠りや私語、携帯を触った回数391回、ひと月で随分やらかしたもんだ。この学校では、クラスの成績がポイントに反映される。その結果お前たちは振り込まれるはずだった10万ポイント全て吐き出した。入学式の日に直接説明したはずだ。この学校は実力で生徒を測ると。そして今回、お前たちは0という評価を受けた。それだけにすぎない」
真っ当な意見だ。実際真面目に授業を受けていた生徒は僅かしかおらず、それ以外の生徒は遊び惚けていた、と言っても過言ではない。
「先生、このような話、説明を受けた覚えはありません」
「なんだお前は、説明がなければ出来ないのか?」
「当たり前です。説明さえしてもらえていれば皆遅刻や私語などしなかったはずです」
平田は負けじと茶柱に抗議するも、圧倒的正論を話しているのは茶柱だ。言えばやる、ではなく言わなくてもやる、というのを教師は求めていた。ただそれだけだろう。
「それは不思議な話だな平田。確かにポイントの増減については説明した覚えはない。しかし、お前たちは遅刻するな、私語を慎めなど義務教育9年間の中で学ばなかったのか?」
「それは…」
「どうやら無駄話が過ぎたようだ。大体理解出来ただろ。そろそろ本題に移ろう」
茶柱が手にしていた筒から白い紙を取り出し、黒板に張り付けた。それを生徒たちはぼーっと見ている。
「クラス毎の成績表か。分かり易くて助かるな」
Dクラスはもちろん0。次にCクラスが490。そしてBクラスが650。最後にAクラスが940。やはり思っていた通りに、Aクラスから優秀になるように生徒が分配されている。それがクラス毎のポイントに顕著に出ているだろう。
「何故……ここまでクラスのポイントに差があるんですか」
「段々理解してきたか? お前たちが、何故Dクラスに選ばれたのか」
「俺たちがDクラスに選ばれた理由? そんなの適当なんじゃねぇの?」
「え? 普通、クラス分けってそんなもんだよね?」
クラスメイトたちは顔を見合わせて首を傾げている。そんな余りの阿呆さ加減にため息が出る。
「はぁ……。全く、困った生徒を持ったな茶柱」
「その言い方だと、分かっているようだな。まだ分かっていない不良品連中にはお前から説明してやれ」
面倒くさいが、内申点稼ぎとでも思っておこう。それに茶柱はいつか堕とす予定だから、好感度も稼いでおかないとな。
「クラス毎のポイントってあんだろ? 上から順に、940、650、490、0。さすがに綺麗に並びすぎてるとは思わねぇのか?」
「…た、確かに…」
「つまり0ポイントをもらったオレ達Dクラスは最底辺のゴミ屑ってことだ。これでいいか? 茶柱」
「あぁ、完璧だ」
オレがDクラスの理由は、なんとなく理解できる。女関係だとか、飲酒喫煙だとか、無免許運転だとか。どこまで情報がいってるかわからんが、とにかく思い当たる節が多すぎる。
「しかし1か月ですべてのポイントを吐き出したのは過去のDクラスでもお前たちが初めてだ。よくここまで盛大にやったもんだと、逆に感心した。立派立派」
煽るような拍手をする茶柱。それに反応して悔しそうな顔をするクラスメイト数名。
「だがこのポイントはただ単に毎月振り込まれる金と連動しているだけではない。このポイントの数値がそのままクラスのランクに反映される…つまりお前たちが500ポイントを有していれば、この瞬間からお前たちがCクラスになっていた」
クラス単位で査定する以上、こう言ったシステムがあるのはある程度予想できていたのでそこまで驚きはない。だが茶柱は続けて話し出す。
「さて、もう一つお前たちに伝えなければならない残念な知らせがある」
さらに黒板に貼られるもう一枚の紙。そこにはクラスメイト全員の名前と、数字が記載されていた。
「この数字が何か、馬鹿が多いこのクラスの生徒でも理解できるだろう―――先日やった小テストの結果だ。揃いも揃って粒ぞろいで、先生は嬉しいぞ。中学で一体何を勉強してきたんだ? お前らは」
オレの順位を確認すると、調子が良かったようで同率首位に位置していた。いつも通り可もなく不可もない点数が取れればよかったのだが、まぁツイてるとでも思っておく。
「良かったな、これが本番だったら7人は入学早々退学になっていたところだ」
「た、退学? どういうことですか?」
「なんだ、説明していなかったか? この学校では中間テスト、期末テストで1科目でも赤点を取ったら退学になることが決まっている。今回のテストで言えば、32点未満の生徒は全員対象と言うことになる。本当に愚かだな、お前たちは」
赤点を取れば即退学。その事実を伝えられ、声を上げるのは赤点を下回った7名。
「ふっざけんなよ佐枝ちゃん先生! 退学とか冗談じゃねぇよ!」
「私に言われても困る。学校のルールだ、腹をくくれ」
「ティーチャーが言うように、このクラスには愚か者が多いようだねぇ」
文句を言う生徒に、厭味ったらしくそう呟く高円寺。
「何だと高円寺! どうせお前だって赤点組だろ!」
「フッ。何処に目が付いているのかねボーイ。よく見たまえ」
「あ、あれ? ねぇぞ、高円寺の名前が……あれ?」
下から順に、上へ、上へと視線を向け、たどり着いたのはオレと同じ同率首位。もう一人の同率首位は堀北鈴音というツンケンしてる黒髪ロングの女だった。
「絶対須藤とおんなじバカキャラだと思ってたのに……!」
高円寺は実際かなりできるやつだろう。それは一目見てわかる。だがあの態度のせいで、そう思われてしまうのも仕方ない。
「それからもう一つ付け加えておこう。国の管理下にあるこの学校は高い進学率と就職率を誇っている。それは周知の事実だ。恐らくこのクラスの殆どの者も、目標とする進学先、就職先を持っていることだろう」
そして少し間を置き、茶柱は続けて話す。
「が……世の中そんな上手い話はない。お前らのような低レベルな人間がどこにでも進学、就職できるほど世の中は甘くできているわけがないだろう」
「つまり希望の就職、進学先が叶う恩恵を受けるためには、Cクラス以上に上がる必要がある……ということですね?」
「それも違うな平田。この学校に将来の望みを叶えてもらいたければ、Aクラスに上がるしか方法はない。それ以外の生徒には、この学校は何一つ保証することはないだろう」
「そ、そんな……聞いてないですよそんな話! 滅茶苦茶だ!」
どうやら話はこれで終わりらしく、茶柱は質問がないことを確認すると教室を出た。教室に残されたクラスメイトが不安そうに、自身らのこれからについて話し出していた。
平田や櫛田が中心になって話し合いが始まる中、オレは一人教室を出た。そしてその時廊下の窓から空を見上げれば、五月雲が空を覆いつくさんとしており、これから降る雨を予感させていた。