未来へ響け! 北宇治高校吹奏楽部   作:大好きのハグ

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6話 つながらないメロディ

「でも、奏ちゃん達も上手くやったんじゃないかな」

「そうでしょうか」

「67人もいて、そんな環境で誰もやめなかったんでしょ。私はすごいと思うけど」

「それは、私たちのおかげというかせいというか、逆に団結したみたいで……」

 

 珍しいことに奏ちゃんが言い淀んで、顔を赤らめている。

 言葉を促すわけでもしばらく待っていると、分かりやすくため息をこぼしてから言葉を紡いだ。

 

「同じ楽器を共有して使ったせいかは分かりませんけど、私が把握できただけで同学年部内カップルが5組確認できました」

「え」

「そうなるとピンク脳ですよ。だからといって久美子先輩は部内恋愛を禁止できますか? できませんよね、久美子先輩は特に」

「……そこはノーコメントで」

 

 私と秀一はずっと付き合っていたわけじゃないけど、現役時代に付き合っていた期間があったのは事実だ。自分たちが付き合っといて他人に禁止とか言えるわけがなかった。

 

「ホルンだけで2組です。ラブホルンって陰で言われていましたから」

「ラブワゴンじゃないんだから」

「それも途中で一度どちらも別れて、パートナーが入れ替わったんですよ」

「ラブワゴンでもそこまでひどくないんじゃないかな」

 

 小さい頃にお姉ちゃんが見てたのをなんとなく隣で見てた程度で、ハマれなかったから自信を持って言えないけど、そこまでドロドロしてなかったはず。

 ラブホルン、恐ろしい子。

 

「本来なら最初から楽器を手にできた人とそれ以外とで仲たがいとか起きてもおかしくなかったんですが、私達から押し付けられた事情ですから学年内では強く団結したんです。そのせいで矛先が他の学年に向かったというのが前三年生の話です。久美子先輩のおかげで、私達と一つ下の代が団結していたのもあるかもしれません」

「うーん、やっぱり誰が悪いってわけでもないのが……」

「でも、その歪みが現三年生にも向かったみたいで、ここから先は私の口から聞くよりは当事者に聞いてみてください」

 

 今の三年生は、マイ楽器所持者以外は体力づくりしかできなかったという話は聞いたけど、どうやらそれだけではないらしい。

 今の三年生と奏ちゃんは在学が被っていたわけではない。

 卒業した後の話で、直接知っているわけじゃないから詳しく話すのを控えたみたいだ。

 

 私がいた頃は、部員が大勢入ったのを喜ぶだけで良かったのに、増えたら増えたでこんな問題が起きるなんて、なんとも悩ましい話だった。

 

「私達は、指導しきれなかったことは反省してます」

「奏ちゃん」

「言い訳になりますけど、余裕がなかったんです。久美子先輩達に続いて全国大会で金賞をとるのが目標でした。高坂先輩を筆頭に優れた演奏者だった先輩方の穴を埋めるには、私達自身がもっと上手くならなければならず、楽器を共有して使っているような後輩の指導までは手が回りませんでした」

「そこは回して欲しかったな」

「それだけプレッシャーですよ。久美子先輩たちが居たから金賞が取れた。優れた代が居なくなったら北宇治は弱くなったって言われるのは、久美子先輩が作り上げてくれた北宇治を壊してしまうような気がして」

「…………」

「それで結局、後輩の育成を放棄してどうしようもなくしてしまったんですから、未熟もいいところですけどね」

 

 楽器が足りなかったという事情があったにしても、放置し過ぎたことを奏ちゃんは悔やんでいるみたいだ。奏ちゃんにしては珍しくまっすぐに気持ちを話してくれた。いつもこうだと可愛いのに、と思ってしまうのは余計なお世話だろうか。

 

「ありがとう」

「え」

「奏ちゃんは奏ちゃんなりに北宇治のために頑張ろうとしてくれたんだよね」

「久美子先輩」

「後輩のために今日来てくれた。それで十分なんじゃないかな」

 

 今の北宇治がこうなってしまったのは、誰かの責任というわけでもなくいろいろなものが絡んでしまった結果で、奏ちゃんだけが背負う必要はない。

 もちろん今日一緒に来てくれた部長だった梨々花ちゃんも。

 北宇治が結果が出せていないことを気にしつつも、深入りしなかった私も他人事とはいえない。

 私に何ができるのかが分からないけど、どうにかしたい。

 私の胸の奥から熱い何かが呼びかけてくるような、そんな懐かしい感触。現役時代には持っていて、今は失ったもの。

 

「とりあえず、黄前相談所復活かな」

「……先輩は本当に自分から苦労を背負い込みますね」

「そんな先輩が好きなんでしょ」

「はい」

 

 奏ちゃんが抱き着いてきたのを優しく受け止める。

 動き出さなければ始まらない。北宇治をどうにかするべく、私は動き出した。

 

 

「藤原さん少しいいかな」

「はい」

 

 午後、ユーフォの二年生の指導を奏ちゃんに任せて、藤原さんを呼び出した。

 事情を知ったからといって今さら私に何かができるわけじゃないけど、中途半端なままではなく、しっかりと把握しておきたかった。

 

「三年生が11人しかいないのは何か理由があるんだよね。よければ話して欲しいんだけど」

「……別に隠しているわけじゃないんですが、あまり先輩方を批判するようなことは言いたくありません」

「今の北宇治のことを把握しておかないと、北宇治は前に進めないと思う。絶対に無理なら諦めるけど、できれば藤原さん達からはどう見えていたのかを教えてくれると嬉しいかな」

 

 ずるい言い方をさせてもらった。

 部長時代に培ったテクニックだ。言いたくない事柄でも、()()()言いたくないとまではいかないことの方が多い。無理なら諦めると言いつつ譲歩する気はなかった。

 

「……分かりました」

 

 どうにか藤原さんから聞き出すことに成功した。

 

 藤原さん達の代も、入学当初は30人を超えていて少なくはなかったらしい。

 そのうちマイ楽器を持っていたのが藤原さん含めて9人で、問題なく部活動をはじめることができた。

 問題となったのが、残りの21人。

 奏ちゃんから聞いた情報通り、彼女たちはしばらくの間は楽器を触れず体力づくりを課せられることになってしまった。

 その時点で半数近くが去り、残りが12人。

 数ヵ月もの間、楽器に触れないという何のために吹奏楽部に入ったのか分からない苦難を乗り越えて、関西大会が終了して三年生が引退した。

 ようやく楽器に空きができ、彼女たちは楽器を手にすることができた。

 

 これで上手く着地できれば、これまでよく耐えて頑張ったね、おめでとうで済んだわけだけど、そうはならなかった。残念ながらここからが彼女たちにとっての本当の試練だった。

 驚くことに経験者が全員希望する楽器から外されてしまった。

 

「北宇治は実力制で滝先生がオーディションでコンクールメンバーを決めます。先輩だからといって優遇されることはありません。これは黄前先生の頃から変わっていないと思います」

「…………」

「でも、抜け穴があった。そういうことです」

 

 自分たちを脅かすかもしれない後輩は、不慣れな楽器にしてしまえばいい。

 三年生が引退し、既に部の実権は二年生に移っていたため、二年生の決めた方針には逆らえなかった。

 マイ楽器を所持していない限り、希望する楽器からは外されることがある。

 秀一も中学時代は、希望していた楽器を外されてホルンをやっていた。だからこそ、高校ではトロンボーンを勝ちとれてうれしそうな顔をしてたっけ。私は流されてユーフォだったけど。

 

 希望者が多い場合はどうするのか。

 最悪じゃんけんで決めることもあるけど、先輩が担当楽器を選考したりすることが多い。私がいた頃もずっとそうして選んできた。

 吹奏楽部なら珍しいことではなく、同じ楽器希望者で見込みのある子から優先されるのが通常の選考方法だ。希望する楽器から外れる子には申し訳ないけど、楽器数に限りがある以上、大会に向けた選考は、担当楽器選びから始まっているからだ。

 それを恣意的に上手い人を外して選ぶとか、聞いたことがない。

 奏ちゃんから同期の絆が強いとは聞いていたけど、同期を優先させるためにそこまでやるのかという驚きの方が悲しさを上回っていた。

 

 後輩が自分たちから席を奪うことは許さない。

 これは徹底されており、上級生から後輩に演奏の指導が行われることもほとんどなかった。

 

 三年生がいた頃は、体力作りで楽器に触れず、二年生に主力が移った後は、慣れない楽器を強制させられて、かつ、指導らしい指導を先輩から受けることもできない。

 これが藤原さん達、現三年生が過ごした一年時の環境だ。

 本来なら引退した三年生が顔を出して指導を手伝ったりとかしてくれるはずだけど、残念ながら三年生が引退した時点で楽器を手放してしまっている。

 楽器が無くても指導はできるけど、音楽室に足を運ぶモチベーションには影響が大きい。

 それに、どうやら二年生が歓迎していないことを察して、顔を出す三年生は減っていたようだ。

 サリーちゃんは、最後までどうにかしようとしてくれていたらしいけど、孤軍奮闘では厳しかったみたいだ。

 

 そういえば、サリーちゃんの代って吹奏楽が好きっていうより、友達と一緒に何かをするのが好きって感じの子が多かったっけ。吹奏楽は、仲の良い子達と一緒に活動するための手段であって目的ではない。

 後輩の指導に積極的にならなくても、仕方ないのかもしれない。

 

 数ヵ月間、体力作りで我慢を強いられたうえでの恣意的な楽器選びに心が折れて、経験者はほとんどやめてしまった。

 それだけではない。マイ楽器を所持していて問題なく参加していた人たちからも、この上級生にはついていけないと判断して何人かやめてしまった。

 残ったのが藤原さん含めて11人となった。これが今の三年生が少ない理由だ。

 

 そして、これは翌年まで尾を引くことになる。

 今の二年生が入ってきたときも、恣意的な担当楽器選びが行われてしまい、16人しか残らなかった。

 現二年生の方が多く残ったのは、藤原さん達の代が少なかった分だけ楽器には余裕ができており、体力づくりをさせられることなく最初から楽器に触ることができたからだ。

 とはいっても焼け石に水で、北宇治高校吹奏楽部が崩壊することは避けられなかった。

 

 去年から目標は、全国大会で金を掲げることなく京都府金賞と後退して、今年にいたっては、コンクール出場というあってないようなものになっている。

 

「できればA編成で出場したいとは思っているんですが、今のままだと」

 

 A編成は最大55人で今の北宇治は56人しかいない。

 初心者含めて56人だ。初心者を外してフルではない人数で挑むのか、初心者を抱えてフル編成で挑むのか。

 それとも、A編成ではなく小規模なB編成を選ぶのか。

 幹部の間でも意見が割れているらしい。

 

 藤原さんは困り顔で教えてくれたけど、私はどう返していいのかが分からなかった。

 全国大会で金賞を取った私たちに憧れて北宇治に来てくれたのに、全国大会のないB編成での出場で終わるかもしれない。

 彼女の心境を思えば、私は何も言えなくなってしまっていた。

 

 そして次の曲がはじまるのです。

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