眼下の死屍が 来るべき姿とは思いもよらぬ
まもなく 金の刃は降り 薙いでいく
眩き陽を背に 射手は姿を現す
一矢報い 一命をつなぎとめようとて
竜は より速く 児戯を楽しむかのように
より高くから
新たな金色の墓標を築く
――――
運命は残酷だ。幸福なのは時だけであって、その生に宿ることは決してない。
「イヤだ! イヤだァ……」
自分に向けられる掌が、純粋な悪意と好奇心で満ちたその悪の手が私に触れる。一つ、また一つと私という器の中に異物が増えていく。
対して、この男は愉快に笑い声を漏らしている。伝説とまで言われるヴィランが、何故私にこうしてるのかわからない。
「誰か助けて!」
助けの呼び声なんて、誰にも届きやしない。地面には二つの屍、助けてくれる人はもう死んだ。簡単なことで、脆くも柔いだけの肉に成り代わった。忌まわしき悪逆非道な目の前の男の仕業で。
流される膨大な情報に脳が悲鳴を上げる。肉体はその形を不規則に捏ねくり回され、暴れる痛みに激しく痙攣を繰り返す。
「助けてよ!」
私の危機にやって来るヒーローは、どうやら居ないようであった。
――――
人口の8割が有する“個性”と呼ばれる超常能力は、現在社会的に規制され、秩序を守っている。しかし、それでも個性を利用して悪事を働く者もいる。人々は彼らをヴィランと呼び、日常を崩される恐怖に怯えていた。悪意があれば、善意もある。人々に害をなすヴィランに、勇気ある英雄は立ち上がった。ヴィランを倒し、人々を助ける存在、人は彼らを
ヒーローと呼んだ。
「頑張るぞぉ」
私は今日、ある学校の入試試験に来ている。説明を受けて敷地内をバスで移動した後、眼前には巨大も巨大、施設なんてもんじゃない壁と扉があった。敷地の広大さもそうだが、やっぱり金を使ってるんだなと感じる。
「来てしまった……この日が!」
「あんた、凄いやる気だね。緊張してなそうだし、羨ましいよ。ウチは緊張しっぱなし」
ギュッと手をにぎにぎして緊張を和らげていると、横から声をかけられる。切り揃えられた前髪に三白眼、クールな雰囲気を持ちながら随所に可愛らしさを感じる。耳たぶから伸びているのはイヤホンジャック。緊張していると口にしていても彼女は落ち着きを持っているように見える。
「緊張はしてるさ。でも、それ以上に期待してるんだよ」
「何に?」
「自分自身に」
「なにそれ」
自信満々に言うと彼女はクシャりと破顔した。緊張がほぐれてくれたらいいな。蹴落としあう者同士だとしても、ヒーローは笑顔を生み出すものだからね!
「ウチは耳郎響香。お互い頑張ろ」
「うん! 私は『ハイ、スタート!』」
「うわ!?」
開始の合図と同時にしまっていた金鱗の翼を広げて飛ぶ。名乗る前に飛んでしまって彼女には悪いが、真剣勝負なんでね。“個性”も全開でいく!
「う、鱗?」
「え?! ちょっ!! なんで捕まってんの?!」
「ちがっ、反射的に!」
なんてこったい耳郎ちゃんを引っ付けて飛んでしまった。ゆっくりと下ろしてあげたいけど、もう標的は目の前。強襲するつもりで加速したから衝突は免れない。耳郎ちゃんが衝撃で落ちないよう抱きしめ、敵を仕留めるべく脚を突き出す。
「ちょっと我慢して!」
「なにし……」
―CRAAAAAASH!!!
仮想敵の頭部に脚が深々と突き刺さり、接続部が耐えきれずバラバラになる。想像よりずっと脆かったな。これなら威力を重視しなくてよさそうだ。
しっかり破壊されているのを確認しながら地面をゴリゴリと削りながら翼を制御して着地する。耳郎ちゃんは大丈夫そうだ。舌を噛んでなきゃいいんだけど。
「ごめん! 大丈夫?」
「いや、すっご……」
「時間も無いし、お互い頑張ろーね!」
よし、舌も無事なようだな。本当に心苦しいが、私は合格しなくてはならないんだ。さり気なく耳郎ちゃんの肩を触って、何か言いたげな響香ちゃんを置いて再び空に翔け上がった。
「始めようか。ヒーローへの第一歩を!」
――――
1人につき個性は1つ、それが世間一般の常識らしい。でも、私の“個性”は
ある日、目が覚めた私は記憶喪失だった。記憶喪失になった私は、勿論自分の親の顔も知らない。
でも、そんなことどうでもいい。私はヒーローに
「これで粗方片付いたかな」
ビルの屋上で会場全体を見渡しても、仮想敵の残党は見当たらない。欲を言えばもっと倒したかったけど、他の受験生の救難に行ってたから致し方あるまい。残り時間も少ないし、下に降りて怪我人の応急処置でもしようかと思っていた時、軽い地震が起こった。
地面が割れて現れた巨大な仮想敵ロボ。恐らくあれが説明の時言っていたステージギミックの0Pか。街一つくらいなら引き潰せそうな仮想敵の襲来に受験生は軽いパニックに陥っている。
「終盤で出てくるってことは、多分ならしで詰めてくるんだろな」
刃鱗を震わせて斬れ味を戻す。私の個性“千刃竜”はかなり強い個性だと自覚してる。刃鱗と呼ばれる鱗を生成したり飛ばしたり、翼や尻尾生やしたり脚力が上がったり。攻撃力と機動力が高水準で汎用性はクソ高い。いやーほんと、
翼を広げ、宙に舞う。逃げ惑う他の受験生の様子を確認しながら、図体だけのボンクラの関節向けて刃鱗を放つ。刃鱗は命中すると破裂し、裂傷を与えて動きを封じる。
こいつを広範囲にぶちまけるのはよくない。市街地を想定されている会場から余計に。でも、周囲に被害は出せないなら!
「威力重視! 全身全霊!」
0Pの真上で旋回、無数の鋭い刃鱗を出し、刃鱗と共に急降下する。頑丈な脚だからできる特攻攻撃。今私が出せる最大火力。
「シューティングスター!!」
金色の流星群が降り注ぎ、0Pの仮想敵はあえなく爆散。幸いにもこいつによる怪我人はいなさそうだ。
「こんだけ暴れりゃ合格っしょ」
終了の合図を聞きながら、確かな手応えを感じて私は入試試験を終えた。
――――
「大体の生徒については話終えたよね。じゃあ次は彼なのさ」
「敵ポイント、救助ポイントどちらも高成績。2位の彼が敵ポイントのみを稼いでいるにも関わらず敵ポイントは僅かに上回っている」
「首席として申し分ない」
「しかもアレを完全にぶっ壊しやがった。マジもんの金の卵だなこりゃ」
「しかし……」
試験を終えた後、学校側は総評として会議を行っていた。その殆どは可能性を秘めた金なる卵の審査だが、
「“個性”が2つ……」
今年度から雄英の教師となるNo.1ヒーロー、オールマイトは眉をこれでもかと寄せていた。オールマイトの脳裏によぎるのはかつて対峙した悪の王。
「記憶喪失、経歴不明、親族も無し、わかってることは強力な2つの個性持ちってことだけ……」
「完全に独立した別物の個性を2つか」
「見た感じ普通の少年に見えたけど」
「彼が保護された時は個性が暴走していたとの情報がある。今は安定しているとはいえ、また暴走しないとも限らない」
教師陣は揃って頭を抱えた。優秀なのは間違いない有精卵。しかし、あまりにも怪しすぎる。
「……個性の暴走がネックなら、俺が見ます」
「君がそんなこと言うなんて珍しいね」
「ここでいくら怪しんでも彼が優秀であることは変わりません」
「なら、君に任せるよ」
「相澤先生」
結構な見切り発車です。
感想 評価 良ければしてってください。