自己犠牲こそヒーローの意義なんだって!   作:アールワイ

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職場体験はヒーローの授業なんだって!

 

 

 

「悪いな、付き合ってもらって」

「全然。むしろ有難いよ」

 

 放課後、私は猿尾と訓練場を借りて模擬戦をしていた。障害物のない開けた訓練場での純粋な格闘訓練は授業でしないから新鮮だ。

 

「それで、調子はどう?」

「いい感じだよ。職場体験までにものに出来ると思う」

 

 今日は相澤先生に特別に許可を貰って、改良したコスチュームを着用している。フルプレートの甲冑鎧だったのが機械仕掛けのパワードスーツへとデザイン変更。大元のデザインを崩しすぎず、かつよりフィットしたシルエットになった。強化外骨格としてよりアクティブな可動が可能となり、刃鱗や翼、尻尾とも干渉しないよう部分可変も付けてもらった。何より大きな変化は、戦闘用特殊義足。

 

「脚の制御、相澤先生監修の元で鍛えたかいがあった」

 

 脚の欠損で元々脚部分を変えようと思ってたけど、サポート科の工房に行った時。

 

――――

 

「ここか、すみませ―」

 

―BOOOOOOMB!

 

 扉に手をかけると同時に熱烈な爆発に歓迎される。飛ばされてきた誰かに押し倒され、柔らかい体が私に乗っかかる。こ、この胸板に感じる幸せな感触は……! 

 

「イテテテ……」

「大丈夫ですか?」

「おや、あなたは……見たことある顔ですね! 誰ですか?」

「英護 千刃だ。そういう君は発目ちゃんだね」

「そうですか、では!」

 

 私を押し倒したのはサポート科1年、発目 明。体育祭では出久の騎馬をしてたり、飯田をサポートアイテムの広告にしてた子だ。彼女はなんというか……発明っ子だね。私の名前も覚えていなかったし、私には微塵も興味無いみたいだ。言うだけ言って奥に行ってしまった。

 

「すまないね。イレイザーヘッドから話は聞いてる。コスチューム改良の件だろ?」

 

 爆煙を払いながらパワーローダーが部屋から出てくる。プロのヒーローでありながらコスチューム開発のライセンスを持つ天才肌の開発ヒーロー。私がここに来たのは、相澤先生にコスチュームの件を話したら彼を紹介されたからだ。

 

「コスチューム改良!? 興味あります!」

「脚を欠損したので、その話をしに来ました」

「……ふむ、ここに来たからには脚を失ったのを後悔させない。任せろ」

「説明書はこれです」

「話が早くて助かるよ」

 

―ぺたぺたぺたぺたぺたぺた。

「見た目よりがっしり……いや引き締まってますねえ。ここまで完成された肉体は初めて触りました!」

 

 発目ちゃんに凄い触られてる。まさぐられてる。幸せが……豊かなたわわな実りが……私の身体に潰されて接地面積が拡大してる!

 

「ではこのベイビーはどうでしょう!」

「これは?」

「全方向対応高速ブースターです」

「いや義足が欲し―」

「スイッチオン!」

 

 腰に着けられたブースターが全噴射し高速で回転させられる。私はコマじゃないんだが! 三半規管ガガガ。

 

「パワーローダー、どう改良しますか?」

「冷静だね君?! 君の体育祭での活躍を見させてもらったが、今のままだと動きづらいだろう。全体の軽量化、関節部と可動域の大きな改良が必要だ。あと脚の件だが……生やすんだろう?」

「はい。必ずその場面が来るはずです」

「なら収納可能な義足だな。職場体験までには間に合わせる。こちらに任せとけ」

「お願いします」

 

 発目ちゃんに次から次へとサポートアイテムを着けられては振り回されながらパワーローダー先生との話はまとまった。思っていたより大掛かりな変更になりそうだ。

 

「次はこのベイビーを!」

 

 この日、私は発目ちゃんの全てのベイビーの犠牲になった。……疲れた。

 

――――

 

 

 パワーローダーに任せた結果、コスチュームは大幅改良。問題だった義足は分解収納機能が付けられた。コスチュームの装甲には私の鱗が素材として使われてるから、ある程度の操作が可能。個性で義足を分解し、腰あたりに装着させることで生やした脚を阻害しないようになっている。ちなみに、腰に装着されたパーツはマントに変形する。

 

「俺のコスチュームと比べるとほんと凄いな」

「私の場合近接戦闘がメインだから。脚技が軸の格闘術だったし、サポート機能は多めにしてもらったよ」

「前から思ってたんだけどさ。英護って体術凄いよな」

「猿尾だけだよそんなこと言ってくれるの。私自身としては個性使うより体術の方が制圧早かったりするし」

「最初の授業あったじゃん? ヒーロー基礎学の。あの時も上鳴と耳郎を一瞬で拘束してたしさ。実は俺、結構英護のこと参考にしてるんだ」

 

 猿尾はクラスで唯一とも言える武闘ヒーロー。訓練なんかの話は一番気が合う。本人は普通なことに悩んでいるが、堅実なことは決して悪いことじゃないと思う。人は持ってないものを求めるから仕方ないだろうけど、自信は無くさないでほしい。

 

「私は個性のコントロールよりそっち方面を叩き込まれたからなー」

「英護ってさ……施設育ちなんだろ?」

「そうだよ。生まれた時からなのかは忘れちゃったけどね」

「誰が鍛えてくれたんだ?」

「公安の人が誰かしら呼んで鍛えてくれたよ。相手の人の名前はもう覚えてない」

 

 大きな声では言えないが、この学校に入ったのも公安からの勧めだった。きっとあの人らは私をイレイザーヘッドに監視させたかったんだと思う。ヒーローを目指したかった私にとってはなんでもない話だったが、公安が私に何をさせたいのかはまだ掴めずにいる。職場体験だって間接か直接か関わってるはずだ。

 

「そろそろ終わるか」

「もういい時間だしね。帰りどっか寄ってく?」

「猿尾のオススメの店で」

 

 準備は万端。私にとって波乱万丈の職場体験が……今、始まる。

 

 

――――

 

 

 職場体験当日、私達1年A組は自分たちのコスチュームを持って駅に集合していた。

 

「全員コスチューム持ったな。本来なら公共の場じゃ着用禁止の身だ。落としたりするなよ」

「はーい!」

「伸ばすな、はいだ芦戸」

「はい……」

「くれぐれも体験先のヒーローに失礼のないように。じゃあ行け」

 

「「「「はい!!」」」」

 

 各々が自身の体験先へと向かう中、1人異質な空気を纏う者がいた。

 

「天哉。曖昧な気持ちで手を出すな。やるなら確実にやれ」

「!? 英護くん……君は」

 

 インゲニウムのことは残念だと思う。それで復讐に走るのもわかる。だから、進み方は寂しくならないでほしい。

 

「私達はヒーローだ。そういうのには巻き込まれてなんぼ。……助けに来たヒーローは絶対に拒絶するんじゃないぞ」

「……」

「じゃ、もう行くよ。気を付けてな」

 

 

 出久で駄目なら私でも駄目だ。目を光らせておく必要があるな。本当に助けが必要な時、私が行く為に。

 

 

――――

 

 

「おーきたきた。待ってたぜ」

 

 数時間後、指定された駅に到着した私を出迎えたのは、私服姿のミルコだった。フワリと柔らかな長い白髪は歩くと周囲に色香を振り撒き、長い睫毛とキレのある目は美しさと力強さを同時に主張する。足と腹を出すホットパンツとクロップドTシャツに革ジャン。変装用なのか帽子も被ってる。トップヒーローの貴重な姿に数秒見蕩れ、姿勢を正す。

 

「雄英から来ました。英護 千刃です。よろしくお願いします!」

「おう! よろしく。じゃあ早速移動するぞ」

 

 そのスタイルと美貌で周囲の視線を奪いながら駅を歩いていくミルコの後ろについて行く。指定場所が駅なのは何か訳があるのか? 普通は事務所まで学生に来させるものだと思ってたんだが。私服姿なのも気になる。

 

「すみません。何処に向かってるんですか?」

「ホテルだ。そこでコスチュームに着替えて、諸々の説明をしてやる。最初は私ん家に連れ込もうと思ってたんだがなー。学校側からキツく言われちまって仕方なくホテルとったんだよ」

「連れ込もうとしてたんですか!?」

 

 それは惜しいことをしたと悔やむべきなのか……。

 

「そんなことはお前が私の元に来てくれたからどーでもいい。お前はホークスか私を選ぶだろうとは思ってたからな」

 

 ミルコの言う通り、私は行くならホークスかミルコの所だと思っていた。ホークスには翼等の個性の拡張、ミルコには実戦的な格闘術の取得が私の願望だった。しかし、私はそんな贅沢な悩みを抱えてなかった。膨大な数の指名に、ホークスの名前がなかったから。

 

「ホークスからの指名はなかったので」

「……なに? まあどうでもいいけどよ」

「ミルコは、何故私を指名したんですか?」

「たまたま体育祭を見てな。初めだったぜ。一目見て()()()と思った奴は。機動力、判断力、そして攻撃力、まだまだ粗いってもんじゃないが潜在能力の高さは一目でヤバいと思ったね」

 

 随分と過大評価を受けたものだ。しかし、表彰式でもオールマイトは私の潜在部分について触れていた。自覚がないだけで、私にはかなり伸び代があるのかな?

 

「知ってるだろうが、私は事務所もサイドキックも持たない。この身一つで活動してる」

「性にあわなかったとかですか?」

「そうだな。寄せ集めみてぇに集まって活動するなんざごめんだ。だが、お前は別だ。卒業したら私の所に来い。サイドキックとして雇ってやる」

 

 あのトップヒーローミルコからの直々の勧誘とは。あの孤高を愛するラビットヒーローの勧誘……めちゃめちゃ嬉しい。

 

「私はまだまだ未熟な一年坊です。私が自身をヒーローと名乗れる日がいつか来たら……私からお願いさせて下さい」

「ハッハッハ! わかった。待ってるからな1年坊主」

「ていうか、まだ職場体験始まってないですし」

「もう着く。コスチュームに着替えたらロビーに来い」

 

 

――――

 

 

 コスチュームに着替えた私とミルコは、ヒーロー活動について軽く説明を受けた後、仮免試験の会場にも使われる競技場に来ていた。

 

 

「……模擬戦ですか」

「察しが良くて助かる。どっからでもかかってこい」

 

 コスチュームと義足の動作確認をしてから翼を広げる。

 ヒーローのランキングは事件解決数、社会貢献度、国民支持率などを集計して発表される。プロヒーローのほとんどがサイドキックを雇い、組織化されたヒーロー活動なのに対してミルコは単独活動でランキングのトップに位置する。わかりやすく言おう、例外のオールマイトを除き、ミルコはプロヒーローの中で群を抜いた戦闘力を有する。

 

「ハッ!」

 

 接近と共に刃鱗を足下と顔目掛けて投擲。揺れるように避けられ、地面すれすれに懐に入られた。ガラ空きな胴に蹴りを放たれるが、尻尾で防ぐ。反動で浮かされるが力の流れを逃がさず飛行。制空権を得て刃鱗による攻撃を続ける。

 

「オラッ!」

「っ!」

 

 軽快なステップで避けられながら一蹴りで接近を許し、強烈な蹴りを両腕をクロスして受ける。地面に叩きつけられる前に受け身をとって空中から追い討ちをかけてくるミルコにカウンターを合わせる。

 

「やるねぇ。だが!」

 

 追い討ちを中断してカウンターは入らなかったが、仕切り直すことには成功。息を整える暇もくれずにミルコは不規則な動きで翻弄してくる。

 ミルコの個性は“兎”。脚力と跳躍力と聴力が異常に発達する。実際に対面したから分かる。彼女は草食の小動物なんて可愛らしいなんてもんじゃない。相手を喰らい尽くすまで噛み付く猛き猛獣だ。状況を判断してから行動を決めるまでが早すぎる。経験もあるだろうが、彼女は私の個性を分析しながら戦ってる。その証拠に、私は脚まで生やしたのに一撃も入れられてない。

 

「いいねぇ。やっぱ私好みだ」

「ここだっ!」

 

 僅かだか見つけた隙にフェイント混じりの蹴りを放つ。最後の隠し玉である刃鱗操作で背後からも奇襲。どちらかを対処すれば片方の攻撃を受ける。そこから切り崩して仕留め……

 

踵月輪(ルナリング)!」

「グハッ……」

 

 頭にモロに喰らい私は意識を失った。やっぱりプロヒーローは強い。いい線いったとは思ったんだけどなぁ。

 

「体育祭の時より動きにキレがある。安心しろ、この1週間、私が付きっきりで鍛えてやる」

 

 

 薄れゆく意識の最中で、ミルコが何か言った気がしたが……私には届かなかった。

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