職場体験初日はミルコにボコボコに気絶させられて終わった。1週間という短い期間で全てを叩き込まんとするミルコについて行くだけで精一杯だ。私でも使えそうな技の伝授を終えた職場体験は次のフェーズへ。実際に街をパトロールして事件を解決する。
「ミルコ」
「どうした?」
「“ヒーロー殺し”は追わないんですか?」
県内一周のパトロールに付き合わされて疲労困憊にされた夜、夕食をミルコと一緒にしていると、ふと思い出した。各地でヒーローを襲って回る“ヒーロー殺し”。フットワークの軽いミルコならば探し出して蹴り飛ばしても不思議じゃない。
「“ヒーロー殺し”は今エンデヴァーが追ってる。獲物を横からかっ攫うなんてことはしねえよ。何かあんのか?」
「実は……」
私は天哉とインゲニウムのこと、そしてこれから起こりうるだろうことを話した。話を聞いたミルコはウンウン唸りながら耳をヒクヒクさせて、カッと目を開いた。
「じゃあ見に行ってみるか!」
「いいんですか?」
「元々、お前の職場体験はお前に合わせる予定だった。今日見て速さと対応の正確さは大丈夫だと判断した。お前が“ヒーロー殺し”を見たいなら連れて行く。準備しとけよ!」
――――
保須市へは公共交通機関を使わず、自分達の足で向かうことに。困ってる人を助ける寄り道をしながら保須市内に入る。
私が保須で目にしたのは、暗い夜を哀しく照らす赤い炎だった。ヒーローによる避難誘導は進んでいるが、火の元から伝わる振動が鳴り止まない。
「残念だが、お前の予測は当たってるみたいだぞレギオン!」
「当たってほしくなかったです!」
明らかな緊急事態に全速力で駆け抜ける。ミルコから個性の使用は許可されてるから翼を全開にして急ぐ中、スマホが震えた。画面を見て、すぐにその意図を思い付く。
「ミルコ! “ヒーロー殺し”が出現しました!」
「そうか! 私が許可する。お前が行けレギオン!」
「ミルコは?」
「私はあのバケモンを蹴っ飛ばしてくる!」
そう言って私を置き去りに跳ぶミルコ。眼を使って見れば確かに化け物が居た。忘れもしない、USJで私を嬲った脳無と呼ばれた
「了解! お気を付けて!」
「お前もな、レギオン!」
出久から送られた位置情報を頼りに路地裏に入る。包帯状のマスク、赤のマフラーとバンダナ。無数の刃物を装備したヴィラン。情報通り、奴が“ヒーロー殺し”!
氷と炎を俊敏に避けるそのヴィランに、私は宙から奇襲する。ミルコから伝授された、私の新たな戦闘技。脚だけではなく全身を使って急降下エネルギーの威力を叩き込む。
「
完全な意識外からの強襲はヒーロー殺しの背中に突き刺さり、衝撃で地面を粉々にする。
「千刃?!」
「英護くん!」
状況は着いた瞬間に把握した。ヒーローと天哉を庇って出久と焦凍がヒーロー殺しと交戦、重傷多数。ヒーロー殺しはかなり手練、じゃなきゃ出久達がやられる訳ない。下手な増援は被害を拡大させるだけだ。
「奇襲……。お前は本物か?」
意識があると判断した瞬間竜脚で両腕を拘束し、すかさず刃鱗で肩の腱を斬る。
「……本物になる為にヒーローを目指している」
「そいつと話すな千刃!」
「偽物はヒーローを歪ませる社会の癌だ。誰かが正さねばならないんだ」
「……偽物が本物になろうとしてはいけないのか?」
「人間の本質はそう易々と変わらない。お前は本物のようだな」
「目ぇ腐ってんじゃねえのか。私は……「離れて!」ッ!」
出久の警告で拘束を解く。私の脚があった所をナイフが鋭く通り、銀の一閃が弧を描く。肩の腱を斬ったはずだが、こいつはまだ刃物を振るう。私が来る前から戦闘は始まっていた、ダメージは蓄積されているはずなのに一層動きが機敏になる。
「私が足を止める。2人は倒れてる人担いで逃げろ!」
「英護くん……俺は……」
「復讐するなら諦めろ天哉! ヒーローなるなら立ち上がれ、インゲニウム!!」
「ッ!!!」
「逃がさん」
刃鱗と脚技でヒーロー殺しの刃物を潰していく。強い……戦い方の根本がミルコに似ている。ミルコの強さの土台となっているのは野生だ。人が失いつつある野生をミルコは個性で引き出し、従えてる。
『お前もいつかは本能を上手く使えるようになれ。ヒーローになるなら、己の枷を解き放たねえと勝てねえ場面が来る』
火事場の馬鹿力は人間が無意識に自分を守ろうとつけたリミッターを外した状態。馬鹿力と呼ばれるそれは、人間が放てる本来の力と言える。目の前のヒーロー殺しが良い例だ。初撃で私は意識を刈り取るつもりだった。そこから腱を斬られ、焦凍の氷と炎を食らってもなお動き続けている。
「お前は本物だ。誰が何と言おうと!」
「くっ!」
スピードとパワーは勝っていても、戦闘経験の差が埋められない。振るわれた刀は吸い込まれるように私の肩口から腰へと……
「フルカウル!」
「レシプロエクステンド!」
出久の拳と天哉の脚が左右からヒーロー殺しを攻撃する。動きが止まった、今がチャンス!
「お前を倒そう! 今度は犯罪者として! ヒーローとして!」
「畳み掛けろ!」
天哉の追撃、焦凍の炎、私の殴打を受けたヒーロー殺しは行動停止。警戒は解かなかったが、一向に動く気配がない。制圧完了だ。
「なんだ……立てるじゃないか。……ヒーロー」
――――
「拘束具くらい常備しとけよな、お前ら」
「千刃、そこにロープあったが使うか?」
「拘束具あるって言ってるんだが??」
気絶したヒーロー殺しを拘束。復帰したプロヒーローネイティブは出久をおぶった。ヒーロー殺しを連行するのはまだ軽傷な私と焦凍、煩い天哉は黙らせた。
「正直、千刃が来なきゃやばかった。3対1からの奇襲でようやくイーブン」
「強すぎたね……」
「とにかく、早くこいつを警察に届けないと」
「な、何故お前がここに!? 新幹線で座ってろって言ったろ」
小さい黄色の爺さんが出久の顔面に蹴りをぶち込んだ。プンスカと怒りをあらわにしている。
「誰?」
「僕の職場体験の担当ヒーローグラントリノ。でも、なんで?」
「いきなりここに行けと言われてな。まあよう分からんが、とりあえず無事なら良かった」
「グラントリノ……ごめんなさい」
「出久……デク。無許可に飛び出したのか」
「え、えへへ」
「悪い癖だな。意識はしとけよ」
「ご、ごめんなさい……」
ここにヒーローを要請したのはエンデヴァーらしく、手の空いたヒーローが次々と来た。イマイチ状況を飲み込めない彼らにヒーロー殺しを見せると驚愕しながらもしっかりと対応してくれた。
「2人とも。僕のせいで傷を負わせた。本当にすまなかった。……怒りで何も……見えなく……なってしまっていた……。英護くんにも……あれだけ言われていたのに……」
「僕もごめんね。君があそこまで思い詰めてたのに、全然見えてなかったんだ。友達なのに……」
「しっかりしてくれよ。委員長だろ」
涙を流す天哉は、清く健やかな顔ではないが、前の委員長として皆を導く飯田天哉に戻っていた。ヒーロー殺しの禍根は消え去り、一件落着……
「っ! 伏せろ!」
「ヴィラン!?」
飛行型の脳無に出久が連れ去られる。翼で追おうとして、ヒーロー殺しの殺気に気を取られた。
「偽物が蔓延るこの社会も……悪戯に力を振り撒く犯罪者も……粛清対象だ」
1人、ただ1人、ヒーロー殺しだけが動いて脳無を殺して出久を取り戻した。
「レギオン! そっちはどうだぁ?」
「あの男はまさかの……ヒーロー殺し」
ミルコとエンデヴァーも合流し、こちらの戦力は最大。だが、“ヒーロー殺し”ステインの殺気はこの場に伝播する。
「偽物ぉ……正さねば……誰かが……血に染まらねば……ヒーローを…取り戻さねば……」
あのエンデヴァーも、ミルコも、グラントリノもネイティブも、ヒーローは彼の殺意に恐怖した。その気迫に気圧された。
「俺を殺していいのは……本物のヒーロー…オールマイトだけだァ!!!!」
感情の高まりに伴って圧は増す。
彼の本物はオールマイト。殺されるならオールマイト。……じゃあ私は? 何故お前は私を本物と呼んだ?
既にヒーロー殺しは……気を失っていた。
――――
ヒーロー殺しステインの件は、雄英生徒の事件関与を公表しない流れとなった。無許可の個性使用により、監督不行き届きでエンデヴァー、マニュアル、グラントリノは責任を取らなければならないが、私達雄英生徒の守られた。ミルコに責任はって? ミルコは戦闘直前、しっかり許可を出している。証拠はミルコの活動証明レコーダーがあった。なので、怪我を負った3人は入院。無傷の私は職場体験継続となった。
「“ヒーロー殺し”ステイン……か」
彼は本当に
「私は本物? 偽物?」
私の中身は空っぽだ。思い出せないオリジン。欠けた人間性。こんな私にヒーローの何が残ってるのか。
「……“自己犠牲”?」
ヒーローとは、これから訪れる崩壊に、社会はその答えを求められる。