「ふー……」
「どうした? 車酔いか?」
「いや、酔いじゃないけど、閉鎖空間に長時間居るとなんか……あれだ、恐怖症じゃないけど……」
「なんにせよ、無理はするなよ。1度倒れたの忘れてないんだからな」
「ありがとう目蔵」
期末試験が終わり、夏本番。私達は今、林間合宿行きのバスに乗っている。赤点取ったら補習地獄と言われた期末試験で赤点を取ったのは電気と三奈だけだったが、合理的虚偽だったらしくクラス全員での林間合宿。1週間もの合同生活を経て、私達は次なるステージへ登る。
「お前ら、1時間後に1回バスを停車させる。その後しばらく……」
―ガヤガヤガヤガヤ。
「うむぅ……」
「ホントに大丈夫か?!」
――――
「ほら、英護、休憩だぞ」
「これ車酔いなのかな……?」
「ようやく休憩かぁ」
「おしっこおしっこー!」
「つか、何ここ? パーキングじゃなくね?」
「あれ? B組は?」
1時間後に停車したのは道路の横の開けた場所。パーキングエリアの影もない。ついでにB組も居ない。
「何の目的もなくでは意味が薄いからな」
「よう、イレイザー!」
「ご無沙汰してます」
止まっていた黒い車から降りてきたのはコスチュームを着用した2人の女性ヒーロー。
「煌めく眼でロックオン!!」
「キュートにキャットにスティンガー!!」
「「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!!」」
「今回お世話になるプロヒーロー、プッシーキャッツの皆さんだ」
可愛らしいポーズを決めるプッシーキャッツ。なるほど、プロヒーローならキャッチーさも求められるということか。確か……
「連名事務所を構える4名1チームのヒーロー集団! 山岳救助等を得意とするベテランチームだよ! キャリアは今年で12年にもなるぶぇ!」
「心は18!! ……心は?」
「18……」
((((必死かよ……))))
出久の暴走にピクシーボブも暴走、出久が猫の手でアイアンクローを決められることに。そんなに焦ることかな? 凄くお綺麗なのに……。
「お前ら、挨拶しろ」
「「「「よろしくお願いします!!!」」」」
「ここら一帯は私らの所有地なんだけどね。あんたらの宿泊施設はあの山の麓ね」
「「「「遠っ!」」」」
………………流れ変わったな。
「じゃあなんでこんな半端な所に?」
「これってもしかして……」
「バス、戻ろうか……な? 早く」
「そうだな、そうすっか」
「今午前9時30分。早ければ……12時前後かしら?」
これ不味いやつー。皆バスに必死に戻ろうと走るも、ピクシーボブに防がれる。これは……雄英名物のあれですかね?
制服の上を脱いで、翼を出しておく。
「12時半までかかったキティはお昼抜きねー」
「悪いな諸君、合宿はもう……始まってる」
ピクシーボブの個性は“土流”。山岳地帯では無類の強さを誇る個性。セメントス先生の土バージョンだ。個性で盛り上がった土に全員呑まれ、崖下まで落とされる。あーあ、全員泥だらけだ。
私は相澤先生に個性消されたの気付いて即刻退避したから巻き込まれなかった。
「おーい、私有地につき、個性の使用は自由だよ。今から3時間、自分の足で施設までおいでませ。この魔獣の森を抜けて!」
「英護、お前も早く行ってこい」
「え、個性消されたのに頑張って避けたんですが」
「咄嗟の判断としてはよく避けた。だが、ヒーローが仲間を見捨てるのか?」
「……バス乗っちゃ駄目ですか?」
「駄目だ。もう合宿は始まってる。さっさと行ってこい」
「アレを避けるなんて、君なかなかやるね! 頑張ってね!」
「頑張ります」
美人のエールは万病に効く。これは私調べで確定的に明らかな事実。ピクシーボブに褒められて気を良くしない男はいない。
翼を広げて、みんなの元へ降りる。丁度みんな魔獣と戦闘中だ。土でできた見てくれだけの人形、シルエットや骨格はかなり多様でサイズも大きい。なるほど、魔獣と呼ぶのも頷ける。
「千刃どこ行ってたのさ?!」
「普通に土避けて上居た」
「はぁ?」
「ごちゃごちゃ言ってねーで早く手伝えや英護!」
戦況は少数連携で襲い来る魔獣を返り討ちにしてる状態。これじゃあ12時半には間に合わない。お昼抜きは確定だ。もっと合理的に行こう。
「天哉、全員を集合させて」
「英護くん、何をする気だい?」
「効率が悪い! お昼抜きは嫌だろ?」
「考えがあるんだな? よしっ、1年A組集合!!」
「百、全体の指揮をお願いできる? 倒すより移動を優先したい。フォーメーションとかは百の采配にお願いできるかな?」
「は、はい。任せてください。英護さんは?」
「私と勝己は魔獣の相手をする」
魔獣の中には翼持ちのやつもいる。全員に指揮が渡るまで空は私、地上は勝己が魔獣の相手をして皆が陣形を整える時間稼ぎ。魔獣は素材が土なだけあってかなり脆い。電気の放電もダメージがあることから個性による影響を受けやすい性質なのかもしれない。
「勝己、いけるか?」
「舐めてんのかクソが。足引っ張んじゃねぇぞ!」
雄英に入って1番一緒に訓練してるから勝己との連携はスムーズだ。勝己は獲物の横取りは許さない。だから、獲物以外を勝己に向かわせないようにしたり、逆に獲物を差し出したりする。弱らせた魔獣をわざわざ寄越すとキレるから差し出すのは手持ち無沙汰になりそうな時だけ、基本自分で仕留める。
「英護さん! 施設までの凡その距離と方角と、空にいる魔獣の相手を!」
「了解」
無限に湧き続ける魔獣、慣れない森という環境、そして現在の進むスピードに私はお昼抜きが確定しそうで、遠い目をした。
――――
PM5:00
「あ、やーっと来たニャー」
「何が3時間ですか!?」
「それ、私ならって意味。悪いね」
「…………………………」
「おい英護、死ぬな! 死ぬなー!!」
鋭児郎の肩を借りてやっと立てる……。義足はボロボロ、刃鱗はニョチニョチとしか生えてこない、翼は疲弊して鱗1枚動かせない。正直、ミルコとの県内1周パトロールよりキツかった。
「でも正直もっとかかると思ってた。私の土魔獣が思ったより簡単に攻略されちゃった。特にそこ5人! 躊躇の無さは経験によるものかしら?」
ピクシーボブが私、出久、天哉、焦凍、勝己を指差す。あ、指差されてないからって離さないで鋭児郎。ホントに動けないんだって、あ。
「3年後が楽しみ! ツバつけとこー!」
「……マンダレイ、あの人あんなでしたっけ?」
「彼女焦ってるの。適齢期的なあれで」
地面に倒れ伏した私にも容赦なくツバつけてくるピクシーボブ。あなたなら良い男の1人や2人すぐ捕まえられるでしょう?
「あ、適齢期といえばっ!」
「適齢期といえば~?」
もう見た。2度目の光景を下から眺めている。……誰か肩貸してくれない?
フガフガしながら出久が聞いたのはマンダレイの隣に居る子供のこと。プッシーキャッツのお子さんではなく、マンダレイのいとこの子供らしい。洸汰くんというらしい。
「僕、雄英高校ヒーロー科の緑谷。よろしくね」
「ふんっ!」
―キーン。
これは腰の入った良いストレート。狙いは寸分違わず出久の陰嚢へ! 非力な子供でも急所を狙えば大の大人にだって勝てるかもしれない。改めてそれを実感しました。
「ヒーローになりたいなんて連中とつるむ気はねえよ」
「マセガキ」
「お前に似てねえか?」
「アァ?! 似てねえよ!」
「え?」
「え、じゃねえ!! ぶっ殺すぞ!」
「だって……な? 焦凍」
「テメェら……」
「茶番はいい。バスから荷物を下ろせ。部屋に荷物を運んだら食堂にて夕食、その後入浴で就寝だ。本格的なスタートは明日からだ。さあ、早くしろ」
早くしろと言われましても、マジで動けないんですよねぇ。
「えー、目蔵。おんぶ!」
「仕方ないな」
――――
「「「「いただきまーす!」」」」
食堂でマンダレイとピクシーボブの作った夕食を堪能する。山盛りご飯に味噌汁、様々なおかず。ビュッフェもびっくりのバリエーション!
「美味い!」
「英護くん、これも美味しいよ!」
「ありがとう透。美味い!」
一粒一粒が際立つ米! 確かな噛みごたえに口に広がる甘み! そしてこの食感は炊飯器とかじゃあない、土鍋だ! じっくりと火で炊いた土鍋の米! これには農家も大喜びの出来栄え! おかずも味が濃いものを中心に副菜もバッチリ。米が進む!
「おかわり!」
「はいはーい」
「それで何回目?」
「美味い!」
「聞いちゃいないし」
「魔獣の森で英護くんが1番頑張ってたもんね!」
「1人で何体倒したんだっけ?」
「数える余裕なんてなかった。セメントス先生とは訳が違かったね。倒せば倒すほど数と質が上がるってなんだよホント。襲ってくるから皆守らなきゃ遅くなるし」
無心でご飯をかき込む。酷使した肉体の隅々までエネルギーが行き渡る。やはり美味いご飯は素晴らしい。生きてる感覚がする。
「おかわり!」
「英護ペース早ぇ!」
「うおー負けてたまるかー!」
「ばかばっか……」
――――
そして入浴。疲れた日にはこれに限る。湯船に浸かれば血管が温まり、筋肉がほぐれて老廃物の除去が進む。日本人に風呂嫌いはいない。風呂が嫌いな奴は風呂に入ったことがないやつだけだ。肩まで浸かれるなんて幸せが過ぎる。
「おい英護、峰田止めろ!」
「うへぇ〜?」
すまないが、私は今完全にスイッチオフなんだ。峰田の覗きを止める元気なんて欠片もない。
「駄目だ! こいつ極限までリラックスしてやがる!」
「風呂入るとアホ面になるのかコイツ!」
「なんか溶けてる!」
「おい! 風呂で寝るな!」
布団に入った瞬間、私は気絶するように眠りについた。
――――
AM5:20
「おはよう英護くん」
「おはよう透。まだ眠そうだね」
「そりゃ昨日の今日だからねー」
「他のみんなは?」
「もうちょっとで来るよ」
また早く起きてしまったけど、今日は元々朝が早かったから助かった。
「……隈、取れてないね」
「ッ!!!!」
透の不意打ちに慌てて顔を隠す。嘘だ、メイクだって前より上手くなったんだぞ。至近距離で見られない限り……。
「私、英護くんのこと近くで見てるからさ。気付いちゃった」
揶揄う感じではなく、何処か悲しそうに透は言う。……気付いたのか?
「ねえ、英護くん……」
心臓が高鳴る。次に出てくる言葉に全神経が集中して耳を傾ける。
「き「あ、千刃おはよ。もうみんな集まってるよ」……もう時間だね。行こうか」
「……そうだね」
「おはよう諸君。本日から本格的に強化合宿を始める。今合宿の目的は、全員の強個、及びそれによる仮免の取得。具体的になりつつある敵意に立ち向かう為の準備だ。心して臨むように。というわけで爆豪」
相澤先生が勝己に体力テストで使った測定ボールを渡す。入学初日の更新だな。
「入学直後の記録は705.2m。どんだけ伸びてるかな」
「んじゃあ、……よっこらくたばれぇ!」
盛大な爆破でボールは遠くまで飛んだ。……記録の伸びは悪そうだ。あの日とボールの軌道が大差ない。
「709.6m。入学からおよそ3ヶ月。様々な経験を経て確かに君らは成長している。だがそれはあくまでも精神面や技術面、あと多少の体力的成長がメインで“個性”そのものは今見た通りでそこまで成長していない。だから今日から君らの“個性”を伸ばす。死ぬほどキツいがくれぐれも、死なないように」
……死人が出るの?!
――――
「があああああああああぁぁぁ!!!」
私の特訓は魔獣をボッコボコにすること。刃鱗を常に高速で出し続け、翼の高速機動を止めずに尻尾と拳を刃鱗で強固にして殴り続ける。飛ばした無数の刃鱗の操作も一つ一つ複雑にする。流石に鱗だからホークスみたいに感知はできないけど、私の刃鱗は火に強い。
「相澤先生、私だけやること複雑じゃないですか?」
「まだ余裕そうだな。なら土魔獣をもう5体増やしてもらえそうだな」
「あのあのあのあのあのあの」
「昨日もそれくらいしたんだろ?」
「流石に同時はキツいですって!」
「無理じゃないのか。よく言った、それでこそ俺の生徒だ」
「あのあのあのあのあのあのあのあのあのあの」
魔獣6体相手に一日中戦うのはまさに死闘としか言い表せなかった。よく死ななかった私、立派。
――――
「さ、昨日言ったね。世話焼くのは今日だけって!」
「己で食う飯くらい己で作れ!」
「カレー!」
2日目の訓練が終わって夕食の時間。A組B組全員が体ブッチブチになっている。天哉が仕切ってくれなければ多分寝落ちしてた。
それぞれが下準備してる時、焦凍が炭に火をつけていたのを発見した。それに体育祭前とは似ても似つかない笑顔を浮かべていた。
「優しい炎だな」
「そうか」
「今、楽しいか?」
「ああ」
体育祭から焦凍は変わった。自分の炎と向き合い、乗り越えた。きっかけは出久、羨ましい奴だ本当に。
「おい勝己、爆破で火つけれなかったからって拗ねんな!」
「拗ねてねえわ!」
皆で作ったカレーはとても美味しかったです。まる!