自己犠牲こそヒーローの意義なんだって!   作:アールワイ

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夢はヒーローの記憶なんだって!

 

 

 合宿2日目の夜。眠れない私は夜風に当たっていた。男子連中は皆寝てしまって、施設内の証明も消えている。灯は月明かりのみの今宵、私は今1度逡巡を巡らせる。

 

「英護くん」

「……寝ないのか?」

 

 明日も早いのに、起きてたのは私だけじゃなかったみたいだ。振り返れば、寝巻き姿の透がいた。

 

「朝の話、途中だったから」

「……」

「ねえ、もしかして……記憶戻ってきてるの?」

 

 どうして彼女はそこまで核心に迫れたんだろう。そんな素振り見せなかったはずなのに。一度の不調でそこまで踏み込めるものなのか。

 

「どうしてそう思うの?」

「一緒に訓練してる時から少しづつ変になってるのは感じてた。それに、英護くんが倒れたあの日、呟いてた」

 

 

「父さん、母さん、って。両親のこと……もう思い出したんだよね?」

 

 ……これで2()()()。ここで下手に誤魔化すより、話してしまった方がいい。透明で見えない彼女の眼を見て、覚悟を決める。

 

「夢を見るんだ」

 

 

 

 あるところに、ヒーローを夢みた少年がいました。

 不自由なく育った少年は両親に大切に育てられ、優しい少年に育った。

 困ってる人を見過ごせない少年は、積極的に人助けをした。

 少年が人助けをする度、父と母が喜んだ。私たちの誇りだと褒めてくれた。

 少年は嬉しかった、父と母の笑顔が見たくて、より沢山の人に手を伸ばした。

 

 ある日、少年は道に迷っていた大男を見つけた。その大男は探し物が見つからなかったらしい。

『■■って人を知っているかい?』

 大男の探し物は少年の両親だった。両親の知り合いだと名乗った大男を少年は家へ招き、両親に大男を紹介した。少年は両親がいつもみたいに褒めてくれると思っていた。人助けは当然のことで、両親は自分を褒めてくれると……

 

 

 

 

 

 

「……それで、どうなったの?」

「…………さあ? 夢はいつもそこで途切れる。そもそもこの夢が過去の私なのか、()()()()()()()()()()()()は分からない。でも、透が言ったように私は記憶を思い出しつつある。体調不良は記憶が戻ってきたストレスによるものだよ」

 

 

 「そっか」と納得した透に安堵する。これ以上のことは私にもどうなるか分からない。私はみんなが思うより危険な存在なのかもしれない。

 ただ、予感はあった。

 

 

「そうだ。英護くんは気付いてないかもしれないけど、目が変わってきてるよ」

「目?」

「英護くんの瞳って綺麗な金色だったよね? 今は、少し銀色が混じってるよ」

「……っ!」

 

 銀……? 自分でも気付かなかった。嗚呼なるほど、確かに銀色になるかもしれない。()()()()()()()()()()()()()

 

「……いつか、透の顔を見てみたいな」

「え?!」

「だって、目を合わせられないじゃん。大体の輪郭は予測できても、君の瞳に私がどう映るのか、とても気になる」

「そ、そう……?」

 

 時間を確認すれば、すっかり夜更けになっていた。これ以上は透の明日に響くと思い、ここで解散する。

 

「おやすみ、透」

「お……おやすみ、英護くん」

 

 

 この後見た夢は、いつもより少しだけ優しかった。

 

 

――――

 

 

 合宿3日目、特訓は変わらず地獄だった。今日の夜はちょっとしたイベント、クラス対抗肝試しを開催するらしい。補習組は相澤先生の捕縛布に巻かれて連れて、残った人達で開催された。

 

「ウチ、怖いの無理なんだよねー」

「へー、意外……じゃないのか?」

「千刃のウチのイメージってどんなの?」

「カッコイイ乙女なイメージ」

「………………そう」

 

 

 肝試しはB組が先攻で脅かす側、A組は2人1組で回ることに。クジ引きで私のペアは百、4組目に決まった。

 

「百はこういうの怖い?」

「あまり経験がありませんからなんとも言えませんわ。英護さんは?」

「びっくりしたら反射で反撃してしまいそうだから頑張って耐える」

「趣旨が変わってませんこと?」

 

 

 3分おきに出発していくA組。いよいよ次は私の組の番になった。タイムを測ってくれていたピクシーボブが合図をくれる。

 

「じゃあ、4組目。英護キティ、八百万キティ、ゴー!」

 

 

―EEEEK!

 

「響香と透、凄い叫んでるな」

「それほど怖いのかしら……」

 

 今日は天気が良く、ライトを持たずとも道がわかるほど月明かりが明るい。先が見えない怖さがないからお化け屋敷よりかは怖くない。

 

―ニョキっ。

「キャッ!」

 

 地面から綺麗な顔が生えてきた。闇の中の美人は怖いと聞くけど、今回は綺麗が勝った。いつ見てもやっぱり唯は美人だ。顔だけひょこっと生えてるの可愛い。

 百は驚いたようで、咄嗟に私に近寄ってきた。信用してくれるのは嬉しいが、距離が近い。甘い香りが鼻をくすぐる。

 

「こんな感じか」

「んん……」

「まだ後ろに人居るから。頑張れ、唯」

「ん!」

 

 私が驚かないのに不満顔をする唯。一言二言交わして次に進む。中間地点にはプッシーキャッツのラグドールが居るはずだ。そこで証明札を貰って広場に戻れば終わりだ。

 静かな森を2人で歩いていると、ふと木が焦げる臭いがした。夜間の山火事、本能が警鐘を最大限に鳴らす。服を脱ぐ間もなく、突き破りながら翼を出して警戒を高める。

 

「……何か変じゃないか?」

「変、とは?」

「火事だ」

「!!?」

「警戒しろ! 自然現象だとしてもそうでなくても、最悪の場合がある。私たちは今、孤立している!」

 

 背中合わせで周囲を警戒していると、桃色の煙が辺りに充満していく。普通の煙じゃない……有害だ。

 

「百!」

「わかってます。これを!」

 

 百が創造したガスマスクを着ける。これで少しは動けるはずだ。状況はヴィランの襲来で確定。合宿の情報は秘匿されていたはず、何処で漏れた? 何が目的だ? USJの再現? でもオールマイトはいない。なら目的は……

 

「英護さん、耳郎さんと葉隠さんが!」

「なっ!?」

 

 1つ前に居た響香と透が倒れている。急いで傍に駆け寄って状態を確認する。手首に指を当てる、脈はある。口前に手をかざして胸の上下を見る、呼吸は正常。命に別状はないが、意識は戻りそうにない。

 

「えい……ご、くん?」

「透……? 透、大丈夫か!?」

「耳郎ちゃんが……」

「ああ、大丈夫。安心してくれ。プロヒーローの保護下まで早く戻るぞ」

「英護さん、B組の方々は!」

「私たちは彼らの居場所を知らない。自力で脱出してもらうしか―」

 

「英護と八百万か!」

「泡瀬くん!」

 

 B組の泡瀬くんが茂みから現れる。彼ならB組の人の居場所を知っているかもしれない。泡瀬くんにガスマスクを創造できる百を案内させて、私は2人を安全に送り届けるのがベスト。泡瀬くんに百を任せて、私は2人を抱える。

 

「百に傷一つ付けるんじゃないぞ泡瀬くん」

「任せろ!」

「英護さんもお気を付けて!」

 

 最後に百の手を握って“自己犠牲”を発動させ、私は飛び立つ。施設なら確実に相澤先生が居る。1番近いプロヒーローはラグドール、、状況を知らせるならテレパシーの個性を持つマンダレイだが、あちらが何も起こっていないとは考えづらい。私がヴィランならプッシーキャッツは最優先で潰す。合宿場所を把握しているヴィランだ、何か対策してるはず。

 施設へ一直線に飛んでいると、飛来した針が翼に刺さる。私を狙ったヴィランの攻撃だが、威力はない。構わず突っ切ろうとした瞬間、森が一瞬光った。

 

「があぁぁぁぁ!!」

 

 空気を走る電流に回避を諦め、2人を突き放して電撃から遠ざける。翼に刺さった針から体内まで痺れる電流。身体中が麻痺して墜落する。

 

「英護くん!」

 

 地面に落ちた2人は“自己犠牲”で怪我は無いけど衝撃はある。意識が少し戻った透が起きようとするのを制して、2人を守るように電流か飛んできた方向を睨む。

 

『みんな! ヴィラン2名襲来。他にも複数いる可能性あり。動けるものはただちに施設へ。会敵しても決して交戦せず撤退を!』

 

 マンダレイのテレパシー?! やはりプロヒーローの動きを阻害しにきた。茂みから大きな影が出てくる。背中からコイルが生えた、脳が露出した黒い化け物……脳無だ。保須市の奴じゃない、USJの時のクラスの奴だ。

 

「……動けるか透?」

「ごめん……無理かも」

「なら動かないで」

 

 さっきの電撃で片翼がイカれた。麻痺もまだ残ってる。よりによって相性最悪の電気系の個性持ち。全員助かるには私がヴィランを遠ざけて逃げるしかない。

 脳無が吼えて背中のコイルから放電が始まる。さっきの指向性の放電じゃない。電気みたいな無差別放電!

 

「クソっ!」

「英護くん!」

 

 2人を翼で覆って庇う。肉が焼けて焦げ臭いが、まだ私の意識は残ってる。まだ戦える。

 脳無の巨大な拳が私の鳩尾に突き刺さる。呼吸が出来なくなるが、まだ戦える。

 

「近付いたな?」

 

 刃鱗操作で全身の腱を切り刻んで、竜爪で首の筋を掻き切る。どんな化け物でも人の形をした生物ならこれで動けないはず。早く2人を安全な所に……

 

「今のうちに早く……」

「英護くん後ろ!」

「!? 2体目!」

 

 2体目の黒い脳無に義足を壊される。気配が感じられなかった、隠密の個性持ちか。地面に倒れる私を見下ろす脳無。この間にも電撃脳無は再生していく。竜脚は……駄目だ麻痺のせいで出せない。

 

「すまん透。逃げれるか?」

「そんな、英護くんを置いていけないよ!」

「置いていけ! こいつらの狙いは私だ!」

 

 電撃脳無が地面に転がる私の肩と手に針を刺して電流を流してくる。常に麻痺状態にされて動けない。

 何故すぐ殺さない? 生徒の命が狙いなら今すぐにでも私を殺せるのに、どうして拘束する?

 

 

 

 動けない響香と透に脳無が迫る。隠密脳無の腕が刀に変形し、振り下ろす。

 

「ヒッ!」

 

 刀は体を貫き、激痛と共に大量の血を撒き散らす。しかし、それは透ではなく、私からだった。

 

「…………え?」

 

―グサッ

―グサッ

―グサッ

―グサッ

 

 胴体を4度、骨や内臓ごと貫いたはずの刀に血は一滴も付いておらず、まるで手品のように透の体をすり抜ける。

 脳無はこの状況を楽しんでいるのか、身動き出来ない私を透に晒して、透の代わりに傷が増える私を見せつけている。

 

「や、やめてよ……。お願い……もうこれ以上……英護くんを傷つけないで……」

 

 きっと怖いだろうに、恐怖に怯えるより私の心配をしてくれる。彼女ならきっと優しいヒーローになれる。

 大袈裟に振り下ろされた刀はまた透を斬る。透明な彼女だから、何処を斬られたか見てるだけではわからない。

 

(目、か……)

 

 視界の右半分が突如として暗くなり、額から顎までパックリと開き、血が出てきた。

 

(泣かないで……)

 

 透の素顔が見れなくなりそうで残念だ、なんて場違いにも思ってしまった。

 

 

「いや……いやああああああああああああぁぁぁ!!!」

 

 

 出血多量で意識を手放す寸前、意識が無いはずの響香と目が合った気がした。




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