桜が綺麗な春。花の便りに身を任せたくなるこの頃。私はこの度、国立雄英高校ヒーロー科へと入学を果たす。
届けられた通知端末では『君は首席合格だ!』なんてオールマイトに褒められてから今日まで気分が良い。あの人にヒーローの何たるかを教えてもらうなんて、私は最高に恵まれているとしみじみ思う。
道が、空が、校舎がこんなにもキラキラと見えるのは多分錯覚じゃないと思う。煌びやかな学校が私を待ち望んでいる。素晴らしい日々が私の目の前に広がっているから。
「ここだな」
校舎の広さに多少迷いながらも1年A組の教室に辿り着き、ドデカい扉を前に一息入れる。最初が肝心、最初が肝心……。
―ガラガラ。
扉を開けると、教室内の目線が私に集中する。友好、警戒、期待、様々な目が私を見定める。人の印象は最初の言動で8割は決まるのは個人の感想だ。ここにいるのはこれから苦楽を共にする仲間だ、是非とも仲良くしたいね。
「私は
さあさあ、ここから始まるのだ、私がヒーローになる日常。私のヒーローライフが「おい、さっさと中に入れ」ア、ハイ。
無慈悲にも挨拶は中断されてしまった、悲しい。どうやら迷っていたうちにもう時間らしい。生徒も私以外は全員揃ってるようだ。大人の男性の声がしたな、と後方を見る。
「寝袋……?」
でかい芋虫……じゃなかった、黄色の寝袋だ。しかも中身はくたびれた人。一瞬不審者だと身構える。
教師の方かな? 担任かな……プロヒーローにこんな人いたっけ?
「担任の相澤 消太だ、よろしく。とりあえずこれに着替えてグラウンド集合な」
流石は雄英、先生まで色濃い個性を持っている。相澤先生は寝袋から体操服を取り出し……え? それに人数分入ってるんですか? どうやって? ……秘密?
結局、私はクラスメイトの名前を誰一人として知らずに最初の授業を始めることになった。まだ初日、焦ることはない……と思う。
――――
「「「「個性把握テスト!?」」」」
初日からみんな仲良し!
相澤先生が言うには、見込みがないやつは除籍なんだと。なんたる鬼畜、くたびれ鬼畜教師だ。これが国内最高峰のヒーロー科! これがPlus ultra!!
「ねえ、あんた」
「ん? 君はイヤホンジャックの……」
「やっぱり、入試以来じゃん。二人とも無事入学できたね」
「よかった。呼び方は響香でいい?」
「全然いいよ。じゃあウチも千刃って呼ぶし。先生もいきなりだよね。なんか除籍かかってるらしいし」
試験では仮想敵の殆どを奪ったからもしかしたら彼女が合格する分のポイントが足りないかな、なんて考えてたり。
「まあ、せっかくの受難だ。乗り越えよ」
「あの時と違ってなんか雰囲気緩くない?」
「いやまあ……」
〈50m走〉
記録:3.2秒
「翼カッケェ!」
「加速速え!」
〈握力〉
記録:600kg
「その細腕のどこにそんな力が……」
「くっ……自信あったんだがな」
〈立ち幅跳び〉
記録:∞m
「面倒だからもう戻ってこい」
「無限とかマジかよ!?」
―etc、etc…………
「千刃エグいね。本当に人間?」
「いや知らね」
身体能力には自信があったけど、こうして計測すると私ってやべぇ存在なんじゃって思ってくる。ドクターはそんなこと一言も言ってなかったのに。
“千刃竜”は異形型の個性だ。千刃竜が何なのか、その本来の姿がどのような生物なのか。私は稀に夢で見る。靄がかかっても包みきれてない存在の格。幻想の書物に記された“竜”。強靭な肉体、強固な鱗、空を支配する翼を持ち、獲物を仕留める牙と爪を持つ。体育テストで記録をとるのは難しくない。
「私って……何なんだろな?」
「哲学的な話?」
「次、緑谷」
ソフトボール投げの番が緑のモサモサヘアの子に回る。
「あの子……」
「このままじゃ除籍だね」
パッとしない見た目と同じで、彼の記録も未だパッとしない。このままいくと最下位で除籍になるのは必至だろう。入学初日で除籍とは可哀想に。恨むなら雄英の自由な校風を恨むんだな。ナムダラナムダラ。
緑谷くんが構え、投げる瞬間、私に電流が走る。背筋が冷え、本能が彼を仕留めろと囁いてくる。
「千刃、鱗鱗!」
「え?」
響香に言われて自分が刃鱗を出していたのに気付く。鳥肌ならぬ竜肌ってやつかな。緑谷くんが投げようとした瞬間に感じた猛烈な殺害衝動。何故だ? 今までこんなことなかったのになあ……。
その緑谷くんといえば、なんか普通の記録になっていた。
「ごめん。無意識だった」
「いやいいけど……びっくりした」
緑谷くんの2投目が始まる。意識してれば個性は抑えられる。ビリビリと、緑谷の持つ何かが私の何かを呼び覚ます。
「スマアアアァッシュ!!!」
1投目とは明らかに違う。超パワーの爆発的エネルギーでボールは遠くへと飛んでいく。彼にとって初めての非凡な記録。
私は猛烈に感動した! 何よりも燃ゆる彼の輝く魂の光に、ヒーローとしての素質に!
「どういうことだ……。訳を言えデクてめえ!」
爆発の子が飛び出したのを背後から押さえつける。危ないヤツもいたもんだ。緑谷くんとは顔見知りみたいだが、些か暴力的に過ぎるんじゃないか? 爆発少年は叫びながら暴れているが私の手を振り解けない。
「先生の前だぞ。除籍したいのか?」
「…………チッ」
「英護、もういいから離せ。さっさと次いくぞ」
先生の言われて拘束を解くと凄い睨んできた。怖、柄悪すぎ。子どもだったら普通に泣いてたね。
――――
他のテストはつつがなく終わり。結局除籍の話は合理的虚偽だった。それに安堵する者もいれば、虚偽だと見抜いていた者、見抜いてなかった者、己の過信に気付き始めた者、私達のヒーローライフはもう始まっていた。
私達1年A組は、入学式もガイダンスも無く放課後の時間になった。
「緑谷くん」
「あっ、き、君は……」
「君と話をしたくてね。改めて英護 千刃だ。これからよろしく」
「う、うん! 僕は緑谷 出久。こちらこそよろしく」
彼を近くで見て気付く、平和の象徴オールマイトの気配を感じる。私の個性の無意識発動と何か関係あるのか。その理由を私は知りたい。彼を知ること、私の何かを取り戻せる鍵が見つかるかもしれない。そんな気がする。
「君のこと、よく知りたいな」
「え?!」
「君と同じクラスでよかった。運命に感謝しなきゃね」
「そんなに?!」
緑の髪は天パみたい。そばかすがあどけなさを演出して、弱気な瞳の奥に確固たる意思がある。一目で実感した、彼が私達の星。最高のヒーローに成り得る原石。何よりなんか問題事を引き付けそうなオーラを感じる。仲良くなったら絶対暇しないヒーローライフを送れそう。
「出久って呼んでいい?」
「う、うん。英護くんってちょっと変わってるね」
「どこが?」
「そ、その……距離の詰め方と言いますか……なんというか……」
距離の……詰め方……? おかしいだろうか?
「どう思う響香? 私の距離感って変かな?」
「うぇっ?! ……まあちょっとね」
「ちょっと……変……」
「ああいや! 別にそんな気落ちするほどじゃないから!」
それは変であるのは認めてることにならないか? いや、別に気にしてないよ。迷惑じゃなけりゃ別に。……つまり私って変な人……ってコト?! まあなんにせよ。
「君と送るヒーローライフが楽しみだよ! 出久くん」
そして、行き着く先は……