今日は初めてのヒーロー基礎学の授業。ヒーロー基礎学とは、その名の通りヒーローになるための基礎を学ぶことにある。この授業が受けれるのがヒーロー科の特権、ヒーロー科志望はヒーロー基礎学を学ぶ為にヒーロー科を目指す。
ヒーロー飽和社会なんて言われるこの社会ではプロ資格を得る条件が厳しくなっている。しかし、先人が作ってきたヒーローとしての基盤、基礎は私達後進を育てるのに大いに役立つ。それをあのオールマイトが直々に教鞭を取ってくださっている。皆のボルテージはMAXだ。
かく言う私も、素晴らしいヒーローライフに感動しながらグラウンドに足を踏み入れた。
「千刃のコスチュームかっこいいじゃん」
「ありがとう。響香のコスチュームもらしさが出てて凄い素敵だよ。ロックでクールだね」
「ありがと」
雄英が用意してくれたコスチュームは、入学前に出した個性届や要望を元に企業に作ってもらった、本物のヒーローコスチューム。私の場合、提供した個性の鱗で作られた金の甲冑。フルプレートの鎧に腰マント、背中は翼を出す用の穴がある。
見た目から想像するより何倍も軽いから驚いた。素材の鱗も決して軽くはないのに。私専用に作られたコスチュームはまるで肌に吸い付くようによく馴染む。形から入るのが大事と言うが……流石に興奮する。
「さあ、戦闘訓練の時間だ!」
本物のオールマイトが……教師として私の前に……。嗚呼、運命に感謝します。感激で鱗が全部逆立ってしまう。マヂムリ脱鱗しよ。あの筋繊維一つ一つに超パワーの因子が眠ってると思うと高鳴ってくる。
戦闘訓練は2人1組で2対2の屋内戦形式。設定は核兵器を有したヴィランのアジトにヒーローが潜入する。ヒーローの勝利条件は捕縛または核兵器の回収、ヴィランの勝利条件は同じく捕縛か時間まで核兵器を守ること。コンビと対戦相手はクジ引きで決定される。
「私のコンビは……八百万ちゃんか。よろしく」
「よろしくお願いしますわ。英護さん」
「百って呼んでいい?」
「ええ、かまいませんわ」
初めての対人戦だ。気を引き締めていこう。
――――
「ヒーロー側は響香と……上鳴か」
私達の対戦相手、ヒーローは響香と上鳴 電気となった。相手の個性が詳しくわかんないから、慎重に考えて行動したい。
「私は罠か強襲が有効だと思うんだけど、どうかな?」
「そうですわね……」
百は他の人の戦闘訓練で反省点や解決策を出せるほど博識。案があるなら指揮を彼女に任せたい。客観に今ある情報からの予測するんだったら私より柔軟な思考ができると思う。そもそも、私はそんな器じゃないんでね。
「相手の出方がわからない以上、迂闊に核兵器から離れるのは危険ですわ。ここは……英護さんの機動力を頼ります」
「……オーライ。任せろ」
――――
「核兵器の場所は4階の中央。2人もそこにいる」
イヤホンジャックを壁に突き刺して、施設の様子を聞き取る。相手はあの千刃と推薦組の八百万。個性把握テストの1位と2位。絶対に分け方ミスだと思う。でも、そんなこと言ってられない。
「よっしゃ。俺が先行するから索敵頼む」
ウチは実技試験で同じ会場だったからわかる。千刃に近接戦じゃ絶対勝てない。上鳴の個性も聞いたけど、正直勝てるビジョンが浮かばない。
「ここだ」
核兵器がある部屋の前で相手の位置を確認する。二人とも最初の位置から動いてない。何か仕掛けてくる様子はない。不気味だ、静かすぎる。
「行くぞ、耳郎」
上鳴は放電する都合上、核兵器の近くでは戦えない。上鳴が引き付けて痺れさせた間にウチが回収できればウチらの勝ち。
「うおっ!」
上鳴が飛び出した瞬間、天井から何か落ちてきた。あれは、手榴弾!?
身構えて足を止めると、手榴弾から煙が溢れる。反応するより早く、一瞬のうちに視界を塞がれる。やられた! スモークグレネードか!
「煙幕! 来るよ上鳴!」
「残念。遅いぞヒーロー」
「ぐっ!」
煙から現れた千刃にイヤホンジャックで応戦するも、1秒ももたずに確保テープで手足を縛られる。やっぱり速い! 手も足も出なかった。
「上鳴は?!」
「相方は既に捕らえた。残念だったなヒーロー」
「すまん耳郎」
千刃の翼が煙を晴らす。一瞬の隙に距離を詰めた機動力、二人のヒーローを瞬時に拘束した手際、どれも一線級のものだった。こんな奴が同い年とか笑えない。個性の強さとか戦闘センスとかの話じゃない。次元が違う。
『ヴィランチーム―WIN!!』
こんなに……こんなにも差があるのか。1位って……こんなにも強いのか。
「こんなもんじゃないだろ? ヒーロー?」
見下ろしてくる瞳の奥にある何かに、心臓を掴まれるような恐怖を覚える。
あなたは一体……何者なの?
――――
「上手くいったな」
「え、ええ……」
戦闘訓練は何事もなく終わり、皆の所に撤収する。我ながら良く動けたと思う。拘束する際、上鳴くんの個性が電気系だったのには少し驚いたが、ちょっとピリピリしただけだった。私の弱点は雷、次に氷。部位は背中が弱い。
私の戦闘スタイルはテクニカルな空中機動で敵を翻弄するスタイル。乱戦と一騎討ちなら……多分乱戦の方が得意かも。弱点を隠して強みで押し潰す、それが私の対人スタイル。上鳴くんの周囲に巻き込む対象が無い場合、私は大規模放電でやられていた可能性がある。
「今回は作戦勝ちだった。ありがとう百」
「いえ、今回の戦闘訓練、私は何もしておりません。正直、英護さん1人でよかったと思いますわ」
「雷は私の弱点だ。百のサポート無しだったらワンチャンやられてた。百が万全を期し、策を弄したからこその結果だよ。戦闘は私だけで済んだけど、気を抜いてた訳じゃないんだろ?」
「そうですが……」
おいおいおい、私程度に劣等感なんて抱くんじゃないよ。君の方が立派にヒーローなんだから。
「動揺しない冷静さ、状況判断力、どれも得難いものだと思う。まだ付き合いは浅いけど、百は凄いと思う」
私なんかより全然、ヒーローらしいもんね。
――――
それから、オールマイトの総評をもらい。この日の授業は終わった。重度の自傷を負った出久以外は大きな怪我もなかったが、肝心の出久はその後の授業も姿を見せなかった。
「うおー! 緑谷来たー!」
切島くんの声にクラスの全員の視線が入室してきた出久に集まる。爆豪との死闘の末、強引な勝利を掴んだ彼は良くも悪くも注目の的。あの出久の姿には皆が焚き付けられた。破滅的なヒーローの、力強い眼に。
「出久」
「英護くん、あの……」
「爆豪くんは帰ったよ。走ればまだ間に合うと思う」
「っ! ありがとう!」
廊下を走る後ろ姿を見届ける。彼の本質はやっぱり、とことんヒーローなんだ。
「何の話?」
「出久の目が、ね」
「目?」
「言わなきゃって。出久は凄いよ」
爆豪くんと出久。彼らの関係はまだ知らない。でも、私は彼らに期待している。いずれ来る日に、その力が発揮されますように、と。
「響香、帰りどっか寄ろ」
「……う、うん」
運命的で素晴らしい学校生活が始まっていくのを、私は静かに噛み締めていた。