「おはよう」
「うおー英護ー!」
「生きてたー!」
復帰登校日、私は義足を着けて登校した。制服の長ズボンで隠れてるけど気付いてる人は気付いてそうだ。クラスの大半は心配してくれたが、
「おはよう響香」
「……」
響香だけは一言も喋ってくれなかった。勝己でさえ話しかければ返事してくれるのに。
「勝己、授業どこまで進んだ?」
「うるせぇ殺すぞ!」
「教科書のここまでかな?」
「俺に聞くんじゃねぇ!」
「授業……ちゃんと出てたの?」
「うるせぇ! ここまでやったわ!!」
「ありがとう勝己」
勝己は向上心の塊だ。自尊心と口の悪さは矯正しなくてはならないが。勝己のスパルタさは尊敬に値する。
「おい翼野郎! 体育祭、お前も出るだろ?」
雄英体育祭、かつてのスポーツの祭典であるオリンピックは規模と人口も縮小し形骸化、それに代わる日本のビッグイベントがここ雄英で開催される体育祭だ。まさに現代のオリンピック、放送局も押し寄せて日本全国を熱狂させる。スカウト目的のプロヒーローも多く、将来の道を切り拓くチャンスでもある。
「英護出れるのか? その……」
「その脚でって?」
鋭児郎の懸念は最もだ。事実、今の私は満足に動くことすらできない。失われた両脚は存外、私の足を引っ張ってる。引っ張られる脚はないんだけどね。
「本当はリハビリで義足に慣れないといけないんだけど、私は個性使って脚動かしてるから」
そう言ってズボンを捲れば、私の機械式の義足を覆うように刃鱗が生えている。クラスにいる全員の視線が集まって固まった。
「まだ粗いけど私の刃鱗は操れる。いずれ拘束や救助でも使えるようなると思う」
「そ、そうか……」
「……千刃出るの?」
「響香……」
「ねえ、体育祭出るの?」
響香は私の脚を見ながら言う。響香だけじゃない、クラスの皆も同じことを思ってるみたい。いや、違うな……。
「私はヒーローになる」
相澤先生が言ってた。大きな怪我でヒーローを諦める人は多くいるらしい。人はそれを挫折と言うらしいが、不思議と私に諦めるなんて発想はなかった。皆は私がヒーローを諦めるかも……なんて思ってるんだろう。そんなことないのに。
あれから考えて、私は私の人生が仕組まれたものだと感じた。あくまで感覚的な話でなんの確証もない。でも、私は進むことにした。何となくではなく、私を知るために私はヒーローになる。
「だから体育祭も出る。手心は要らない、全力でかかってこい」
「見下してんじゃねぇ。お前がかかってくんだよ」
「……そうだね。全力で勝己を倒すよ」
「ハァ?! 俺が勝つわ!!」
……やっぱり勝己のこと好きかもな。こういう歯に衣着せぬ言い方には助けられる。でも、君が少し不安気に私の脚チラ見したの見逃してないからな。
「……そっか」
「あ……響香」
「お前ら、席に着け」
結局、午前中は響香とまともに話せなかった。
――――
昼休み
「……人付き合いって難しい」
お昼ご飯一緒に食べようと誘おうとしたら足早に女子陣連れて教室出て行っちゃったし、明らかに響香に避けられてる。私だって午前に何も無かった訳じゃない。接触の機会を虎視眈々と伺ってたけど、あの近付くなオーラっていうか……話しかけんな感が凄い。
『英護、お前耳郎に謝っとけよ。あの日から様子おかしくなっちまっててな。心配かけさせたんだから、筋通しとけよ』
鋭児郎は響香が私を心配していたと言っていた。鈍くなったつもりはない。病室で胸倉掴まれた時から何となく気付いていた。しっかし……
「あんなに拒絶するもんかね」
一応作ってきた弁当を持って中庭へ行く。誰も誘えなかったから孤独飯だ。良さげなベンチに腰を下ろして包みを開ける。
「隣、いい?」
「どうぞ」
「ん」
ベンチの隣に女子生徒が座る。綺麗な人だな……。つぶらな瞳、艶やかな髪、キリッとした顔立ち、同年代……だよな?
「あなた、A組の……」
「あ、英護 千刃だ。よろしく」
「私はB組の小大 唯。それ、自分で作ったの?」
「うん。一人で食べるのはちょっと寂しかったしさ、一緒に食べてくれるとありがたいよ」
まさかの向こうから話しかけてくれた。基本無口な彼女との会話は盛り上がりは無いけど、妙な安心感があった。弁当を食べ進めてると、唯が私の弁当をジッと見ていた。
「何がいい?」
「ん」
「トマトね」
トマトのごま酢和えを1つ箸でつまんで唯に差し出す。それを一口で頬張った唯は目元を弛める。お気に召したらしい。
「トマト好きなの?」
「んん」
「ならよかった」
なんだか、久しぶりこんな学生らしいことをした気がする。弁当を食べ終え、ゆったりと陽射しと風に身心地を任せる。この季節は好きだ。よく眠れて素敵な夢が見れるから。
「ん」
「……義足だよ。大丈夫、体育祭は出る」
「ん?」
「無理してない?」か。……いや普通に受け入れたけど、だんだん「ん」だけで会話するようになったな。伝わるから別にいいんだけど。
「ヴィランを前にして、私の頭は真っ白になった。助けなきゃ、助けなきゃって動いてるうちこんな風になってしまった」
「ん?」
「後悔はないよ。でも、こんな私を心配してくれた人が居たのには……少し驚いた」
「ん」
「みんな心配する……か。救える人が居た時、ヒーローは己の身を顧みる暇があるだろうか?」
「……ん」
「本物のヒーローは自分も含めて全てを助ける……ね。そうか……そうだね」
「ん」
「わかった。頑張ってみるよ。ありがとう唯」
最初は孤独飯じゃなくなって喜んでたけど、最後には相談に乗ってもらってしまった。B組の人とは交流が無かったけど良い人だったな。昼休みが終わる前に授業の準備しなきゃ。
「じゃあ私は教室に帰るよ。またね、唯」
「ん」
「………………なにそれ」
――――
放課後
「響香!」
「……なに?」
早々に帰宅しようとした響香を呼び止めれた。凄い睨んでくるけど、私が至らないばかり故の怒りは尤もだと思う。
「心配かけてごめん。あれから色々考えて、私は君の気持ちを蔑ろにしてたのに気付いた。心配させたのに、あの言い方はなかった。本当にごめんなさい」
「…………くせに」
これで許してもらえるとは考えてない。それでも、鋭児郎に言われた通り筋は通さなくちゃいけない。
「他の女とイチャイチャと逢瀬に勤しんでたくせに!」
「……は?」
流れ変わったな? え? 逢…瀬? 私が……いつ?
「おい英護てめぇコラ何やってんだよお前!」
「待て、逸るな実、誤解だ!」
「昼休み他の女と一緒にベンチで弁当食べてたくせに!」
「見てたのか?! いや別に逢瀬じゃ―」
「英護お前詳しく聞かせろやー!」
「電気まで乗っかかってくんなややこしくなる!」
「あーんとかもしてたくせに!!!」
「「英護お前ー!!」」
マズイぞ、何故響香が怒ってるのかわからん。ヴィラン関係じゃないのか?! 実と電気も騒ぎ立て場は混沌としてる。女子陣は気まずそうに引いてる。誰か助けて!
「独りで食べようとしたらたまたま隣になっただけだ!」
「あーんは事実なんだな?」
「弁当を少しあげただけだ!」
「英護お前有罪が過ぎるぞ!」
「ふんっ!」
ああもうめちゃくちゃだよ。こんな誤解いち早く解かないと唯にも迷惑がかかってしまう。相談に乗ってくれたのに恩を仇で返す訳にはいかない。
「お2人とも、それまでですわ」
「百!」
「本人が否定してるのですから、逢瀬ではなかったということでしょう。英護さんが困ってます」
「「くっ……」」
これは意外な助っ人。暴走状態の2人を簡単に制圧してしまった。流石は副委員長。
「ありがとう、助かった!」
「いえ。耳郎さんも、こうして謝罪してるのですから……」
「……わかってるよ」
一波乱あったが、響香は謝罪を受け入れてくれて、B組に知り合いができて、一段落ついた。体育祭まで悠長にしてられない。皆に言ったように私は全力で獲りにいく。学生時代の思い出としても、万全を期して臨みたい。
「……わかってたよ」
次の日から響香の視線が更に強くなった気がする。